《仏舎利塔と青い手毬花》第二話 同窓會
そこは、ビルの3階にある結婚式の二次會で使われることが多い広いスペースを持つ飲食店だ。
同い年の男が200名ほど集まっている。俗に言う”同窓會”が執り行われている。
通常の同窓會では、會費をり口で徴収するなどのことが行われるが、この同窓會では、付に名簿があるだけで誰かが立っているわけではない。
心配した數名が、會場の設営をしてくれた者たちに確認をしたら、すでに代金の支払いが終わっていることや、進行や設営の指示は貰っているということだ。
『同窓會にお越しの皆様』
アナウンスが始まった。
席が決められている様子だ。皆が、付に置いてあった紙を手にとって、自分の名前が書かれている席に座る。
異常な狀態に気がついたのは數名だけのようだ。
「スズ」
「なに?菜摘?だよね?」
名前を呼ばれたのは、九條くじょう鈴すず。舊姓では、宮前みやまえ鈴というだ。
名前を読んだのは、太田おおた菜摘なつみ。舊姓、吉村よしむら菜摘だ。
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「うん。久しぶりだね。スズは変わらないわね」
「そうだね。葬儀には行っていたけど、子供がまだ小さいから・・・。私、変わったわよ。年をとったし、結婚して、名字も九條に変わったわよ。菜摘こそ変わらないわよ」
「ありがとう。でも、小學校から考えると、重では10キロも増えているし、子供も産んだし、名字も大田に変わったわよ」
二人とも。小學校のときのあどけなさはなくなっているが、あまり変わらない容姿を保っている、名前を言えば殆どの人間が解ることだろう。
「ねぇスズ。おかしいと思わない?」
「そうね。確か、幹事に名前が出ている、大島くんが死んだのは、2ヶ月近く前よね?」
「うん。それだけじゃなくてね。この席順・・・何かじない?」
「え?」
鈴は、そう言われて、自分たちのテーブルを見たが、自分のテーブルには菜摘の名札以外は存在しない。
他のテーブルには、4-5人が座っているテーブルがある。テーブルは全部で、28卓ある。
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「菜摘。これって・・・小學校のときの?」
鈴にはそれしか答えが見つからない。
小學校4年生に行われたキャンプの時にグループ分けに似ていると考えているのだが、事実グループ分けと殆ど同じなのだ。違うのは一點だけだった。
「でも、スズ。それなら・・・」
「そうね。真帆まほの・・ううん。なんでもない」
二人は解っている。
須賀谷真帆が自分たちのグループだったのだが、西沢と日野に連れて行かれたことを・・・。そして、そのまま行方不明になったことを・・・。
西沢と日野に真帆を連れて行くのを辭めさせなかった事を二人は今でも悔やんでいる。忘れたくても忘れることができない。特に、鈴は真帆の親友だと思っていた。
大人になってからも、鈴は旦那の進すすむを連れて、キャンプ場に訪れている。まだどこかに真帆が居るように思えてならないのだ。
 
真帆が行方不明になったときに、他の者たちは立花や西沢や日野が怖くて、先生には言わなかった。
しかし、二人だけは、擔任だった杉本に、真帆を西沢と日野が肝試しのときに連れて行ったと正直に言った。その結果、二人はいじめをけることになったのだが、3つ年上の後の旦那になる九條くじょう進や九條の友達だった真辺まなべや森下もりしたや篠崎しのざきらが対処することで”いじめ”は収束した。
しかし、その為に鈴や菜摘の住んでいる町では、舊住民と新住民との間にできていたが深まったのも事実だ。
「誰だ!こんな手の込んだいたずらをしたのは!」
立花が大聲を上げながらテーブルを叩く。
立花たちが座っているテーブルには座席が7つ用意されていた。
立花/山崎/三好/西沢/日野/金子が同じ班グループだったのだが、7人ではない。
その7人目の椅子の名札が、”須賀谷真帆”と書かれていたのだ。
「そうよ!誰?こんなことをしたのは?宮前さん?それとも、吉村さん!」
急に名前を上がった二人に皆の視線が集中する。
「え?」
「なんのこと?」
”バチィン”
會場の電気が消えた。
耳障りな音が鳴っている。
音がどこから聞こえたのか判斷できる者は居ない。
の悲鳴が聞こえてくるなか、音がしても気がつく者は居ない。
悲鳴がしずつおさまっていく、別に火事が発生したり、自が発生したりしたわけではない。突然電燈が消えて、耳障りな音がしただけだ。よく周りを見回してみれば、非常燈や案燈は點燈している。
「電話がつながらないぞ!」
「出口も開かない!」
”お靜かに願います。主催からの依頼が有りました演出です。席にお戻りください。席にお戻りください”
會場に、機械音と考えられるメッセージが流れる。
パニックになりかけた同級生たちが一斉に靜まり返る。辺りは、非常燈だけが頼りだ。數名は持っていたスマホを明かり代わりにし始めている。
テーブルの上にあった、蝋燭に火が燈ったのはそんなときだ。
電燈の明かりではなく、火のゆらぎは人の神を安定させる効果があるのだろう。
喧騒がおさまっていく。
皆が火のゆらぎを見つめている。集団催眠にでもかかった狀態だ。
”今、皆様は昔の班分けで座っていらっしゃいます”
「(やっぱり)」
鈴と菜摘は、お互いの顔を見る。
”殘念なことに、數名の方はご出席していただけなかったのですが、197名と5名の先生方にはご出席していただけました”
「(ねぇ菜摘。しおかしくない?)」
鈴は、今の放送に違和を覚えた。
「(え?なにが?)」
「(だって、この同窓會は、任意だよね?それに、主催は・・・)」
「(うん?)」
「(ねぇ菜摘。招待狀が屆いたのはいつ?)」
「(3ヶ月位前だと思うよ?川島くんの事故の前だったから・・・)」
川島という同級生が、この同窓會を主催したことになっている。
「(そうだよね?參加の返事は?)」
「(え?あ・・・そう言えば、不參加にして返信したけど、なんかわからないけど、予定が空いちゃって、參加することにした・・・けど?あれ?私・・・誰に連絡したのだろう?)」
「(それに、川島くん以外のメンバーも他界しているよね?)」
主催は、川島の名前だが、連盟で実行委員會が作られていて、數名の同級生の名前が書かれていた。
しかし、不思議な事に主催の川島だけではなく、実行委員會に名前が書かれていた全員が死亡してしまっているのだ。
「(あっうん)」
「(じゃぁなんで、今日出席しているのが、197名と5名の先生だって解るの?)」
「(・・・。それは、主催に頼まれた人が、數を確認したからじゃないの?)」
「(そうだといいのだけど・・・)」
「(え?なに?気になるよ?)」
二人は、顔を寄せ合って小聲で話している。
他のテーブルでも同じように現狀確認をしているのだろうか、話している容はわからないが、何かを話している聲が聞こえている。
「(ねぇスズ?)」
「(なに?)」
「(今ね。數を數えたのだけど・・・)」
「(うん?)」
「(先生は、6名で、同級生は210人だよ?)」
「(え?間違いない?)」
「(うーん。絶対とは言わないけど、200名は越えているよ?)」
菜摘の指摘の通りなのだが、鈴としては數が違ったからと言って、現狀が何か変わることではない。
會場に流れる聲は、説明を続けているのだが何も頭にってこない。
飲みに関する注意事項や食べに関する注意事項が話されていることは解るが、なぜそんな話をするのかわからない狀況だ。
鈴は、會場にる時に、何かのネタに使えるのではないかとボイスレコーダーで會場の雰囲気を録音している。なので、後で聞き返せばいい程度に考えていたのだ。會場に流れる聲だけではなく、雰囲気が異様な狀況になっているのを軽く無視したのだ。
”・・・。長々と説明いたしましたが、注意事項は是非お守りください。それでは、25年後の再會を記念して乾杯したいと思います”
”どうぞ、目の前のグラスをお持ちください”
「(え?)」「(なんで?)」
鈴と菜摘だけではない。
目を離したわけではない。暗闇に蝋燭の炎だけの明るさだったが、目の前のテーブルにグラスはなかった。
グラスだけではない。食事も用意されている。いつの間に用意されたのか?
グラスには、が満たされている。
鈴も菜摘も匂いを嗅いでみるが不快ではない。むしろ味しそうな匂いさえもしている。
皆が蝋燭の燈りの中でグラスを手に持っている。
”それでは、乾杯プロージット!”
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