《仏舎利塔と青い手毬花》第四話 邂逅
鈴は、マホが自分を恨んでいると思った。だから手紙を唯に渡して、屆けさせたのだと考えたのだ。
「鈴!鈴!いいか、手紙が、本當にマホが書いたなら、お前や進や唯を恨む容ではない。大丈夫だ。マホがお前たちを恨むはずがない。鈴やなつみを恨んでいるのなら、同窓會のときに対応していたはずだ。だから、鈴。大丈夫だ」
克己が鈴を見てはっきりと宣言する。進も同調する。
「・・・。進さん。・・・」
年齢で言うと、鈴だけ年下になる。それでも、一児の母親だ。自分の子供に被害が及ぶかも知れないと思って恐怖をじていたが、手紙を開かないでは、終わらない。読まないという選択肢はないのだ。解っているのだ。でも、無に怖いのだ。
「和さん。桜さん。克己さん。手紙を・・・。読みます」
3人がうなずく。
震える手で、鈴は手紙を開く。
変わった折り方だが、小學生の時によく開いていた。同じ折り方だ。鈴は懐かしく思いながら恐怖をじている。
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(なつみなら名前を書く。それに、なつみは不用だから、この折り方を知っていても真似できない)
手紙が開かれる。
鈴には、見ただけでマホの字だとわかった。
(マホ・・・)
鈴は、一筋の涙を流していた。
自分が泣いているのも気が付かないで手紙を読み進めた。
手紙を読み終えて大きく息を吸い込んだ。
しばらく、自分の中で手紙の容を整理するかのように目をつぶった。手紙は、大切な子を抱きしめるように自分の元で抱きしめている。
一文字、一文字からマホの思いが、悔しさが、鈴に伝わってくる。
4人は、鈴が口を開くまで待った。
どのくらいの時間が流れたかわからない。1分も経過していないかも知れない、1時間が経過したかも知れない。時間が止まった世界の様な靜けさの中に居た。
「進さん」
鈴が泣き聲で夫を呼ぶ。
「鈴」
「進さん。マホを、マホは、マホに、マホが・・・」
「鈴。落ち著け。ゆっくりでいい。俺は・・・。俺たちが居る。大丈夫だ」
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進も何が大丈夫なのかわからないが、鈴が取りしているわけではなく、考えがまとまらないだけだと思った。鈴の肩を抱きしめる。すでに震えは止まっている。自分のがわからないのだろう。
複雑な想いなのだ。
マホが自分やなつみを恨んでいなかった。謝さえもしてくれている。マホが、居なくなった理由が解った。事実だとしたら、怒りや悲しみのが湧き上がってくる。そして、マホからの”見つけてほしい”という言葉。どうしていいのかわからない。
「進さん。ありがとう。もう大丈夫」
「鈴」
進は、鈴の肩を抱きしめていた腕の力を緩める。
「和さん。桜さん。克己さん。やはり、マホからの手紙でした」
進が何か言いかけるのを、桜が手で制する。
和や克己も、桜に任せるようだ。和は立ち上がって、すっかり冷めてしまった紅茶をれ替えるようだ。
和が立ち上がったので、鈴は落ち著くためだろうか、冷めきった紅茶でを潤す。
紅茶をれている間、鈴は黙って手紙を読み直す。一文字、一文字を噛みしめるように読む。
和が人數分の紅茶を持ってきた。
先程とは違う和が好きな銘柄だ。ミルクがよく合う紅茶だ。溫められたミルクも一緒に持ってきた。
皆に紅茶が行き渡ったのを確認して、桜が鈴に確認するために質問する。
「鈴。マホと言ったが、須賀谷真帆で間違いないのか?」
「うん。絶対かと言われるとわからないけど、私が覚えているマホの字で間違いない。癖も同じ」
「容を教えてもらってもいいか?」
「うん。読んで・・・。貰ったほうがいいと思う。お兄さんの友達だった桜さんや克己さんなら、マホも怒らないと思うし、和さんや進さんでも怒らないと思う」
「わかった。まずは、俺が読んで、和や進が読んでも大丈夫だと思ったら読ませるでもいいか?」
「桜さんに任せる」
鈴は、桜に手紙を渡す。
桜は、鈴から手紙をけ取ると、立ち上がって、家族で食事を摂る時に使っているテーブルに移した。和が桜の行を理解して、紙とペンを桜に渡した。椅子に腰掛けて、背もたれにをあずけるようにして手紙を読み始める。
一枚だけの手紙だが、子供の字なので読みにくい。
それでも桜は、すぐに手紙を読み終えた。
「克己」
「あぁ」
桜が克己を呼ぶ。
克己も読んだほうがいいと判斷したのだろう。克己は、桜の正面に座った。手紙をテーブルの上をらすように克己に渡して、桜は紙に何かを書き始める。
「どう思う?」
「そうだな。確認しなければならないけど、本だろうな」
「そうだよな・・・。鈴。ちょっと來てくれ」
「何?」
克己が桜の橫に移する。克己が座っていた場所に鈴を座らせる。
「鈴。俺と桜は部外者だ」
「はい」
「でも、桜は警察関係者だ」
「わかっています」
「だから、今からは俺と鈴で話をする」
「え?」
鈴が桜を見る。手紙の容から、桜がけないと判斷した。克己は、自分が主となってく覚悟をしたのだ。
「いいな。ここには、桜も和も居ない。俺と進と鈴だけだ。進もいいな」
「わかった」「はい」
和も克己の宣言で事を聞かないほうがいいと判斷したが、桜が部屋に殘っているので、自分も殘っても大丈夫だと判斷した。
「鈴。正直に答えてほしい。大事なことだ」
「はい。大丈夫です」
「それから、わからない事や知らない事も正直に”わからない”や”知らない”と答えてくれ」
「はい」
鈴の宣言を聞いて、克己はうなずく。
桜は自分が書いたメモの一部に”バツ”をつける。鈴かなつみの自作自演という項目だ。
「この手紙は、唯がけ取って、”鈴に渡してきた”で、間違っていないか?」
「はい」
「タクミもユウキも知らないと思うか?」
「わからない」
「手紙の中に、はっきりと解る名前は、須賀谷家の人間を除くと3人だけだ。鈴となつみと唯だ。間違っていないか?」
「はい」
「マホが書いたと思うか?」
「わからない」
「書かれている容で上から聞いていくけどいいか?」
「はい」
「”私を見つけてください”に心當たりはあるか?」
「ないです」
「”男子が、傘を破った”は、知っていたか?」
「知らない。マホが大事にしていた傘・・・。おばあちゃんが買ってくれた傘なのは知っている」
「傘を探した?」
「うん。マホが泣いて、傘がなくなったと言っていてから、なつみと探した。覚えています」
「傘は見つかった?」
「見つからなかったと思う。よく覚えていない」
「”すずとなつみを毆った”とあるけど、誰に毆られたか覚えている?」
「・・・」
「鈴」
「西沢と日野・・・」
桜が紙に名前を書く。
「肝試しを怖がったのは誰なのか解るか?」
「わからない。想像で良ければ・・・」
「想像でもいい。誰だ?」
「立花だと思う。彼、威張っていたけど、ビビリだったから・・・。それに、西沢や日野が立花と一緒によく居たから・・・」
「ありがとう。もうひとり名前らしきが有るけど、わかるか?」
「ごめんなさい。わからない」
「想像でもいいぞ?」
「わからない。あの班は、3人だけだったはず・・・」
「そうか、班わけか・・・」
「鈴となつみが探しに行ったとあるが本當か?」
「よく覚えていない。マホが居なくなったと言われて、みんなで探しに行ったのは覚えているけど、明るくなってからだったと思う」
「おかしくないか?」
「でも、肝試しの後でマホと話をした記憶がある。マホが帰ってきて、私となつみで話をして一緒に寢た・・・。あれ?でも、マホが居なくなったってどうして思ったの?」
鈴が昔の記憶を呼び戻そうと必死になっているが、記憶がおかしいのか呼び起こせない。
「鈴。肝試しの話は置いておこう。最後だ。鈴は、マホを探しに行きたいのか?」
克己の問いかけに、鈴は顔を上げて、涙が出ていた目を拭って、自分の考えをまとめるように目を閉じた。
2-3秒だけ考えてから、大きく目を広げて、克己を見る。
「はい。マホが私に”見つけてほしい”と言っています。見つけて、帰ってきてしいです」
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