《仏舎利塔と青い手毬花》第六話 最後の1人
警察の取調室。一人の男が警察と対峙していた。ドアは閉められている。取り調べの前に、警察がしっかりと宣誓している。取り調べの様子が録畫される事や、記憶として殘される事、弁護士を呼ぶのなら先に呼んでしいという事だ。
男は、杉本という名前だ。
元小學校の教師だ。元というのは、10日前に依願退職しているからだ。依願退職となっているが、スポンサー親戚の山崎からの圧力があり、辭めるしかなかった。本人は辭めるつもりはなかった。來年には、校長が見えていたのだ。校長になってから、無難に6年過ごして、スポンサー親戚の山崎のツテで地方議員になる予定だったのだ。それが全部崩れてしまった。
杉本は、警察の質問に黙を貫いている。
証拠が何もないのは解っている。それも、25年も前のことなのだ
「杉本さん。この時計がなんで、須賀谷真帆さんのと一緒に見つかったのか説明してください」
「・・・」
警察は、同じ質問を繰り返すだけだ。杉本が答えないのも解っている。時間が來るまで拘束して帰す。警察が見張りに著いて數日後にまた呼び出す。繰り返されている。帰しているのには理由がある。
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杉本は、須賀谷真帆殺害の犯人と目されている。同時に、大量殺人事件の次のターゲットだと考えられている。大量殺人の犯人が、杉本を狙うと考えているのだ。そのために、自由にさせる時間を作ったのだ。
しかし、杉本を狙う者は現れない。警察は、杉本が逃げ出さないかと期待していた。別件になるが、逃げ出した先で警察の制止を振り切れば、逮捕出來る。逮捕してしまえば、落とせると考えているのだ。
証拠はないが狀況証拠は真っ黒なのだ。當時の記録を査しても、須賀谷真帆を殺した犯人は立花祐介/日野香菜/西沢円花/杉本保都たもつだと思える。當時の様子を覚えている者はなかったが、當時の様子が書かれた手記が見つかったのだ。當時の校長が書いたメモで、校長はすでに鬼門をくぐっていたが、族が大事に保管していた。警察は、4人+3人の犯行で間違いないと斷定したのだが、すでに6人は死んでしまっている。そのために、殘された杉本を守る名目で監視しているのだ。
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杉本は荒れていた。
忠誠を盡くしてきた(と思っている)山崎家や立花家や日野家から見捨てられた。自分は、こんな場所で一生を終わるはずではなかった。立花祐介たちがいじめていた事実を山崎家や立花家から言われて隠蔽した。事故が発生したのはしょうがない。しかし、その事故もうまく矛先を変えることが出來た。それが今になって責任をとれと言われても、両家が余計なことを言い出さなければもっとうまく出來ていた。
と、考えている。
山崎家、立花家、日野家は、杉本をかばえる狀況ではないのだ。
特に、日野家は沒落への坂道を転げ落ち始めている。誰が流出させたのかわからないが、マスコミが詳細な報を手していた。別荘で行われていた、パーティーの様子や反社會的勢力との繋がりを示唆する資料も出てきた。一番問題になったのは、獻金ではない金の流れがあった事だ。
帳簿データまで出てきてしまって、日野は大臣を辭め、議員辭職に追いやられた。それだけで追求は止まらなかった。贈収賄での立件を視野に捜査が進められた。日野の私設書が”自分がやりました”的なメモを殘して自殺をしたが、自殺にも不自然な部分が多く、追求が日野元議員にまでおよんだ。議員は、わざとらしくTVカメラが來ている前で倒れて、院した。演技だと炎上した。すぐに、院した病院が特定され、何も書かれていないカルテまで流出した。
不可解な事は、それらすべてが部資料なのだが、なぜか手できた者たちが居た。手経路が不明だが、正式な書類なのだ。
「くそ!なんで俺だけ・・・」
杉本は、外に飲みに行くことも出來ない。マスコミがすぐに集まってくるからだ。
家にある日本酒を煽る日々を過ごしている。
何度目かわからない呼び出しがかかった。
杉本は、警察車両に乗せられて、警察に向かった。
「刑事さん。いい加減にしてください。俺は、何もしていませんよ?」
「そうですか?それなら、知っていることを話してください」
「話していますよ」
「そうですか?それなら、腕時計をどこで無くしたか思い出しましたか?そう言えば、新しい証拠が出てきましたよ」
「え?証拠?」
杉本は、証拠がないと思っていた。
実際に、今まで何も見つかっていない。大丈夫だと思っているのだ。
取調室に通された杉本は、若い刑事が座っているのが気になった。どこかで見た記憶があるが思い出せない。
「杉本さん。この寫真に見覚えはありませんか?」
提示された寫真をひと目見て、杉本は顔が変わる。あるはずがない寫真だったのだ。
杉本と立花と山崎と三好と西沢と日野と金子が、須賀谷真帆を紐で縛って連れて歩いている寫真だ。杉本の左腕に、しっかりと時計が寫っている。
「杉本さん。この寫真は、とある人が見つけてきてくれたでしてね。容は、今はいいでしょう。この部分を拡大したがこれです」
刑事が杉本の腕を指差している。腕時計が拡大されているのが解る。
「最近のデジタル技はすごいですね。こんな小さな畫像からでも、腕時計の文字盤に描かれている模様がはっきりと見えるのですよ。ほら、これ・・・。須賀谷真帆さんと一緒に見つかった時計と同じですよね?」
時計の文字盤には、大きく校章が描かれているのが解る。
「あっそうだ。同じ、校章が描かれているは、杉本さんが持っているはずの時計以外はすべて所在が解っていますよ。そして、次はこれです」
「・・・。え?」
「そうです。須賀谷真帆さんが行方不明になった翌日です。集合寫真は見つかりませんでしたが、下山する杉本さんが寫っています。時計をしていませんよね?どうしてですか?そして、最後の寫真です」
「なんで・・・」
「そう思いますよね。この寫真は、肝試しが終わって、須賀谷真帆さんを先生方が探しに行くときの様子ですね。ほら、ここ、杉本さんですよね?」
「・・・」
「拡大したのが、これです」
刑事が新しく寫真を出してくる。
「ほら、これ。杉本さんですよね?それに、腕時計をしていません。どこで無くしたのですか?思い出しては頂けませんか?」
「知らん。合でもして作られた寫真じゃないのか?」
「そう來ますか・・・。いいですよ。今日は、時間もありますからゆっくりお話を聞きますよ。思い出したら、話しかけてください」
刑事は、そう言って目を閉じた。
杉本は、寫真を食いるように見る。あの時に、こんな寫真を撮った記憶はない。もちろん、寫真を撮られた記憶もない。ならば合なのか?でも、立花や山崎たちがまさにあのときの服裝なのだ。須賀谷真帆も覚えている限り、間違いなく同じ姿だ。
杉本は、寫真から目を離して二人の刑事を見る。自分を見ていない。しかし、視線をじて後ろを振り向く。壁しかないのは解っている。事実、杉本の目には壁しか映らない。刑事を見るが同じ格好だ。
「ひっ」
寫真の須賀谷真帆が、杉本を見た気がした。自分の悲鳴で刑事が反応したのかと見たが、先程と同じ様な姿をしている。
もう一度寫真を見るが、寫真の中の須賀谷真帆は同じ格好だ。
「え?ち・・・がう?」
「杉本さん。思い出しましたか?」
「寫真がうご・・・いた!」
「杉本さん。思い出しましたか?」
ゲームの中に居るNPCの様に同じセリフを繰り返す。杉本が必死になって、寫真の中の須賀谷真帆がいたと説明しても、目の前に座る刑事は同じ言葉を繰り返すだけだ。
「なんだよ!!!バカにしているのか!」
「杉本さん。思い出しましたか?」
「いい加減にしろ!寫真がいていると言っている!なんだよ!俺が何をした!何もしていない!知らない!ふざけるな!」
杉本は、立ち上がろうとしたが立ち上がれない。目の前に座る刑事が、いつの間にか杉本の後ろに回って、肩に手をおいて立てなくしている。
「おい!何をする!暴力か!訴えてやる!絶対に後悔させてやる!」
記録を付けていた刑事が杉本の前に座る。
「なんだ!俺が何をした!」
「何をした?先生。私の顔を毆ったよね?毆った時に、時計が壊れて、弁償しろと言ったよね?先生。まだ思い出さない?先生。土の中は冷たかったよ。寂しかったよ。苦しかったよ。先生。まだ思い出さない?」
「え?誰だ!」
「先生。まだわからない?私だよ?」
杉本が最後に見たのは、にっこり笑った。
須賀谷真帆の顔だった。
---
「桜。本當なのか?」
「本當だ。杉本が、取調べ中に死んだ」
「どうやって?自然死か?」
「いや・・・。不審死だ」
「不審死?」
「それ以外に言いようがない。多分、病死と発表されるだろうな」
「どういうことだよ?」
「杉本は、取調べ中はいつものように目をつぶって何も見たいし何も答えない狀況だった」
「あぁ前に聞いたな」
「突然、喋りだした。『俺が何をした』とか『寫真がいている』とかだな」
「え?」
「事実だ。他に言いようがないしばらく、喚き散らして、急に立ち上がったら、死んだ」
「は?」
「だから、事実だ。何か、頬を毆られた様には思えた。傷も出來ていた。その後、頭蓋事が陥沒して死んだ」
「・・・。桜。それは・・・」
「真帆と同じだ」
「そうか・・・。それで、不審死か・・・」
「あぁそうだ」
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