《スターティング・ブルー〜蒼を宿す青年〜》一章 ─ き出す運命 ─
あの時、SS級反逆者であるラグナ=ザ=ブラッドエッジと共闘した日。この俺、桐生悠人は確かに見た。ラグナがνニューと共に窯へ落ちる所を。助けようにも戦闘の影響と謎の力による後癥でけなかった。そうこうしているに二人は混ざり合い、黒いに変貌を遂げ、そこからの記憶は無い。唯一つ言える事はその時の事は"無かった事にされて時間が巻き戻った"という事だろう。ありえないとは思うが、実際に起きた事なのだから認めざるをえない。
「……どーすっかな。コレは」
その時の記憶を持ったまま統制機構カグツチ支部の前で佇んでいた俺はとりあえずその場から離れた。なんとなく、離れないと駄目な気がしたからだ。巻き戻ったとはいえ、能力の後癥はしっかりと殘っている。立っているのもやっとなくらいだった。そして、見事に倒れた。
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上からの命令により上司よりし遅れてカグツチに到著した私、ノエル=ヴァーミリオンは到著早々人が倒れる所を目撃してしまった。綺麗に倒れた彼を見て足早に駆けつける。
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「だ、大丈夫ですか?!しっかりしてください!!」
必死に呼びかけるも反応が無い。息はしている為、とりあえずは大丈夫だろうとホッとし、近場の椅子に座らせた。本當は寢かせた方が良いのだけど、生憎この人を寢かせる程のスペースは無かった。
「コレでよし…と。後は目を覚ますのを待つだけだけど……」
改めて顔を見る。何処かで見た事がある顔だった。綺麗に整った目や口元、変に逆だった金髪…は、今は白髪になっている。まるで、今まさに指名手配犯の死神に似た風貌の彼。
「(もしかして…第七機関の天才研究員だった人、かな。敵対組織だったけど噂は聞いていたから、なんとなく分かる)」
そんな事を考え乍、まだ目覚める気配の無い彼をじっと見ていた。
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気づいたら第七機関に居た。同僚だったロット=カーマインにボケーっとするなよと言われる始末。一どの位上の空だったのだろう。
「まーたココノエ博士にドヤされるな……」
そう呟き、自分の研究室へと向かった。研究員の端くれだった俺は類希なる才能を発揮し、天才と稱され、研究員なのに個人の研究室を持っていた。そこで研究していたのはこの世の裏側にあるという"境界"と"蒼"についてだ。記憶を失って道端で倒れていた俺を拾い、桐生悠人という名前を俺に授けてくれたココノエ博士は"興味無い"と言い殘していった。逆に同僚のロット=カーマインは興味津々だった。今俺達が生きるこの世とは段違いの報量を持つ世界に、どんな願いでも葉える可能がある"蒼"。それらを暴くのは科學者として心が踴らない筈が無いとばかり思っていたのだが…
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「ま、考えてても仕方ねぇか。俺は俺、博士は博士だ」
そう考え、研究室へ向かう。その時だ、悪夢を見たのは。俺の研究室から出てきた同僚の姿が変貌を遂げ、俺に襲いかかって來た。おそらく俺の試験材料にったのだろう。俺が多大なる時間と材料を使い、限定的だが"蒼"を取り出して調べていたものに同僚がれた。その結果、彼のは化と化した。そしてそのまま暴れ出す。俺が幾ら呼びかけても無駄だった。そして、彼はそのまま異形の爪を俺に───
「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
んで飛び上がる。呼吸がれている。冷や汗はびっしょりとかいていた。どうやら夢だったらしい。ひとまず冷靜を取り戻し、隣を見ると小さくなってカタカタ震えている青い帽子をかぶった金髪のが居た。見た限りでは統制機構関係者だろう。然し、何故隣に居たのかは分からない。
「……すまん。大丈夫か?」
どんな理由であれ、俺が彼を驚かしたのは変わらない。周りもざわついていたから、俺が原因の元だろう。ただ、幾ら呼びかけても言葉を発しない彼を置いて何処かに行くのも気が引ける。ひとまず無理矢理立たせ、人気が無い場所に連れていく事にした。
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あれから一、二時間くらい経ったのだろう。目の前で座らせた彼は何か悪いものを見ているかのように魘されている。時々汗を拭ってやりながら目覚めるのを待った。
「(大丈夫、なのかな…ずっと魘されてるけど…)」
そう思っていた時だ。彼が目覚めたと思った矢先、つんざくような大聲でやめろとんだ。驚いた私は何かされるのかと勘違いをし、を丸めてカタカタ震えるしか無かった。
「……すまん。大丈夫か?」
震える私を見て心配したのか、慌てている彼。だけど、頷く事すら出來なかった。それ程までに怖かったのだ。目の前で大聲を出されるのは期以來だった。いつまでも震えている私を見かねたのか、彼は私を無理矢理立たせ、人気が無い場所に向けて私ごと歩きだした。どこまで行くのだろうと考え乍、私の意識は闇へと沈む……
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「さて、どうすっかな…」
このまま置き去りにしてもいい。でも介抱してくれたのは彼だ。恩を仇で返すような真似はしたくない。ひとまず休憩も兼ねて彼を座らせた後、隣に座った。その途端にさっき見た悪夢が蘇る。腹の底から込み上げる吐き気を必死で抑えつけ、自分の右眼にれた。
「俺がしでかした事はデカいって事か。全く、自分で自分が嫌になるな…」
そんな事を呟いたと同時に彼が目を覚ます。さっきまではどちらかが目をつぶっていた為、コレが初めての顔合わせという事になる。
「あれ、私…」
「よっ、目が覚めたか。よかったよかった」
「あ、貴方は…倒れてた…?」
「嗚呼、アンタが俺を介抱してくれたんだろ?おかげで助かった。あのままぶっ倒れたまんまかと思っていたからな」
「そんな、私はただ椅子に座らせただけです。介抱なんて、特に…」
「そんだけでも十分ってこった。地面にくっついたまんまよりは、な」
ひとまず恩人(に當たると思う。多分)である彼、ノエル=ヴァーミリオンに軽い自己紹介をした後、お禮も兼ねて飯を奢る事にした。このまま帰すのもなんとなく悪いと思ったからだ。ノエルは仕事中だと言っていたが、とっくに日は沈み、辺りは暗かった。こんな時間帯では流石の統制機構もその日の仕事を終わりにして休んでいるだろう。宿泊先まで送るという條件も付けて、さっき(多分晝間になる)のお禮をするべく近場の飲食店に立ち寄った。だが、俺はまだ知らない。彼、ノエルに出會ったこの時既に俺の運命がき出していた事を。
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「……No.15。まさか第十二素と一緒だとはな。奴は確か"不良品"としてこの俺が処分した筈だが…生きていたか。全く、しぶとい奴だ。徹底的に破壊したつもりだったんだがなぁ…?」
悠人とノエルを遠くから見ていた人。緑髪を帽子で隠し、黒いスーツを來た男。その目は閉じており、笑っているのかどうかは何度も見ないと分からない。だが、一瞬だけ見せた表を例えるなら、蛇だ。眼鋭く二人を見ていた男はただただ高笑いを繰り返していた。
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私が助けた男の人、桐生悠人と名乗っていた。その名を聞いた時、確信を持てた。この人は間違いなく第七機関の天才研究員だった。どういった経緯で咎追いになる道を選んだのかまでは教えてくれなかったけど、それを聞く事は出來なかった。多分、悠人さんにとって思い出したくない事なんだろうと思ったからだ。
「ありがとうございます、悠人さん」
「禮はいいよ。俺がノエルに無理矢理奢った、それだけだ。それと、さん付けじゃなくていい。見たところ、同年代だろ?」
「あ、はい。そうですね…」
ハルトと言いたい所だったが、言おうとする度に顔が熱を持ってしまう。幾ら同年代とはいえ、悠人は異だ。異と話す事がキサラギ先輩以外に無かった私はガチガチに張してしまう。
「……大丈夫、な訳無いか」
「はい…すみません」
やっぱり慣れない。彼を呼び捨てにするのは。それもその筈、寫真やテレビとかで見た事がある天才研究員の桐生悠人が目の前に居る。それだけでも十分張してしまう。私と歳は変わらないというが、どう見ても大人っぽかった。
「まぁいいか。慣れたら呼び捨てで呼んでくれ」
そう言うなり、自分の通信機のコードを紙に書いて私にくれた。用があるなら気軽に呼んでいいとの事。お禮を言ったら気にすんなと言われ、軽いのこなしで去っていった。
「桐生悠人、ハルト…」
彼の名前を脳裏に刻むように反復して言葉にする。でも、気になった事がある。彼の右手だ。厳重に巻かれた布切れからし見えたあの黒い手。初めて見るのに何故か知っている気がした。何故なのかずっと考えてはいたがすぐ脳の片隅に追いやる。今は英気を養い、明日に備えないと。そう考えた私は宿泊先にっていった。でも、この時既に私の運命の歯車が回り始めたのはまだ知る由もない。
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20✕✕年、12月31日。今年も最後の日になった。そして、桐生悠人とラグナ=ザ=ブラッドエッジは再び相見える。同じ力を持つ二人、拳をえるのか共に戦うのか。それはその時にならないと分からない。が、かの傍観者はづいていた。
「桐生悠人、彼はこの世界を変える鍵になり得る存在。それと、彼が悠人と力を合わせる時、桐生悠人は自分の本當の名を思い出す、ね。全く、こんな事、誰が予想出來たかしら?」
そこは、世界から隔離された場所。傍観者となった彼と使い魔達、そして彼達の世話をする執事のみが住む屋敷だけがある場所。そこは誰もが認識出來る場所では無かった。そう、例え世界を見守る神でさえも。そこはそういう場所だった。
「ねぇ……"マスターユニット・アマテラス"。貴は予想出來たかしら?彼、桐生悠人…いえ、──を。彼が持つ純度の高い蒼を」
傍観者たる彼が言ったのは桐生悠人の本當の名。だが、その名は彼自が起こした風により聞こえない。彼の本當の名を知るのはまだ先という事だろう。誰も居ない屋敷の庭。そこで傍観者は人知れず笑う。その笑いを聞いているのは誰も居なかった。
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場所は変わり、統制機構カグツチ支部。その地下では桐生悠人とラグナ=ザ=ブラッドエッジが再び相見えた。初対面な筈なのに何処かで會った気がする。そんな思いを抱いた二人。そこに現れたのは白い侍。お面を付けた侍は悠人とラグナを"黒き者"と呼び、背中に背負った長大な野太刀を抜く。仕方なく大剣を構える二人。20✕✕年も終わりに近づく中、戦いが始まった。悠人とラグナ、二人がこれから関わるであろう人達の運命を変える戦いが。そして悠人達の運命の歯車は噛み合い、回り出す。その先は絶か、はたまた希か。それが分かるのはまだ先である。
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いかがでしたか?
これを読んで、楽しんでいただけたのであれば嬉しいです。想、お待ちしております。では又次の章で…
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