《スターティング・ブルー〜蒼を宿す青年〜》五章 ─ 災厄復活 ─

「此処は……アイツの所じゃねぇか」

悠人の助力もあり、無事に地下奧深くに辿り著いた俺は、不意に薔薇の匂いを嗅いだ。不思議に思って、気づいたら此処に飛ばされていた。俺にとって馴染みたくない、それでいて一秒でも早く立ち去りたい場所。そして、そんな人の都合なんぞどこ吹く風で此処に呼ぶ奴は人生の中で一人しか知らない。

「あら、ラグナ。何しにここへ?」

「てめぇが呼んだんだろが、ウサギ」

俺がウサギと呼んだ人。コスプレかなんかと勘違いするくらいゴスロリでフリル多めな服をにまとい、ツインテールにまとめた金髪。髪をまとめている黒いリボンは兎の耳みたく天を向いている。ご丁寧に片方は軽く折れている。そして手に持つ傘は彼の使い魔が変化していて、周りを丸々と太った赤いコウモリが飛んでいる。

「あら、そうだったかしら?」

「チッ…いっつもそれだな。とりあえず帰せ。やる事はまだ終わってねぇ」

「せっかちは嫌われるわよ、駄犬」

「誰     が     犬     だ     ゴ     ラ     ァ     !!」

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「ほら、そうやってすぐ吠える。だから貴方は犬なのよ、犬」

「……へいへい、そーですか。腹立つな…」

ウサギ…レイチェル=アルカードは人を怒らせる天才だ。いっつも自分の都合で此処に呼んではすぐに人を煽る。まぁ、それにすぐノせられる俺も俺だが…

「…で、なんかあるから呼んだんだろ」

「えぇ、そうよ。彼、『桐生悠人』の正。知りたくはなくて?」

「…嗚呼。知りたくないと言ったら噓になる」

桐生悠人。面倒いからハルトと呼んでいた。俺が知っているのは元第七機関の天才研究員(うぜぇくらいそこを強調してた)で今はそこを抜け出しただという事だけ。それ以外は何も聞いていない。例えば、奴の生まれた地とかな。

「彼の素、教えてあげてもいいわよ?」

「どーせ教えねぇ癖になーにもったいぶってんだか……」

「まぁいいわ。そのまま聞きなさい。桐生悠人。彼は人間じゃないわ。人間そっくりに造られた人形。そうね……こう呼んだ方がいいかしら?"次元接用素No.15"、又の名をオミクロン=フィフティーン。それが桐生悠人の正よ」

「……はぁ?!悠人が、素だと…っ?!」

それを聞いた俺は立ち盡くす。聞かない方がよかったのかもしれないという後悔の念がを駆け巡る。俺はνニューを含めた素達を錬前に"壊してきた"。悠人が素なら、何れ壊さなければならない。あの悠人を、だ。

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信じられない、と言わんばかりに事実を否定しようとする。だが、ウサギが見せてきた映像を見た時に分かってしまった。俺が幾度となく戦ってきたニューと戦っているのは姿こそニューと酷似しているが、紛れも無く、桐生悠人本人だった。

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「無駄。無意味。」

「そこ。喰らえ。」

機械的な言葉と共に戦闘を繰り広げる二人。のあちこちからは吹き出し、武を振るう手の速度も落ちつつある。だが、ネジが外れた玩の如く、二人をかす"何か"が切れるまで二人は戦い続けるだろう。そんな中、『桐生悠人』は勝手にく自分の々考えていた。

「(何がどーなっている…?俺は、俺だろ?桐生悠人だろ?なのに、なんだよ…No.15とか、次元接用素だとか。そんなのは俺じゃないっ!!)」

あれこれ思考を巡らせるも、肝心のは"正不明の何か"に支配権を握られたままだ。まずを取り返さないと何も始まらない。例え天才と呼ばれる頭脳を持つ彼であってもこればかりはどうしようも無かった。そんな中、彼の視界が誰かの姿を捉えた。

「(あれは……)」

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青い帽子…は何処かに落としたのか、頭には乗っかっていなかった。代わりに見えたのは背中まで隠れる長い金髪。何時も羽織っていたを隠すマントはこれまた何処かにぎ捨てたらしく、彼のボディラインがはっきりと分かる。は……ぺったんだった。でも、それだけ見ればもう分かる。"前回"あの白い侍からして俺を庇ってくれた彼、ノエル=ヴァーミリオン本人だ。

「(ノエル…?!馬鹿、こっちに來るんじゃねぇ!!)」

必死に呼びかけるも、を乗っ取られた今では口を開く事すら出來ない。それでも俺は必死に呼びかける。この聲が屆くと信じて。

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最初に二人の戦う姿を見た時、怖いとじた。喜怒哀楽といった人のがまるでじなく、命令に従ってく兵のように機械的な戦い。凄く怖いけど、何処か悲しそうに見えた。

「……ハルトッ!!」

私は目一杯大きな聲で黒い方、おそらく桐生悠人だと思う方に向かって呼びかける。が枯れるまで何度も何度も。

「邪魔と見られる対象、認識。排除に移る」

白い兵が私に向かって突進してくる。けど、寸前できを止めた。否、"止められた"。止めたのは勿論黒い兵(にしか見えなかった)、悠人。私の聲が屆いた。ホッとし、その場に座り込んでしまう。そんな私を守るように立ちはだかった悠人。それだけでも凄く安心する。

「……ったく、無茶ばかりしてくれるよ、ノエル」

「ハルト…ごめんなさい」

「んにゃ、俺も禮を言わないとな。助かった。さんきゅ」

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ノエルの必死の呼びかけのおかげなのかどうか分からない。だが、『俺』という意思を押さえ込んでいた"何か"から、自分のの支配権を奪い返せた。今の俺は『私』や『次元接用素』だとかじゃない。桐生悠人だ。それは斷言出來る。

「対象、エラー。エラーは排除。」

「…っせぇんだよ!!」

眼前で剣を振り上げるの腹に渾のパンチをねじ込む。それだけで數メートルは吹き飛んだ。壁にぶち當たり、瓦礫が第二波としてを襲う。が、何事も無いように立ち上がる

「対象、蒼。蒼。違う、対象…不明、不明、不明」

何故だか分からないが、俺を見て困しているように見えた。途端、を黒い獣を模した衝撃波が襲う。遠くを見やると、あの赤いコートが目にる。間違いない、ラグナだ。

「よう、悠人。なんか変わったな?」

「……何処まで行ってたんだよ。おかげで大変だったっつーの」

「悪ぃ、空気の読めねぇ知り合いにとっ捕まってよ。だから、ここからは俺に任せろ」

「元からそのつもりだよ、全く…」

幾らパワーアップしても俺だと決定打を與える事が出來ない。それは分かっていた。だから、ラグナに任せる。この男なら必ず倒せる。そう確信していた。その後は……

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「ヒャーハハハァ!!こいつは驚いた!まさかてめぇがその力に目覚めるとはなぁ?!なぁ、アマテラスよ!これはてめぇも予測出來たのかぁ?」

又も傍観していた緑髪の男。覚醒した悠人を見て大いに興している。コレで駒は揃った、とでも言いたげに高笑いを続ける。その隣では仮面を付けた男と全をローブで隠し、顔も大きな帽子で隠している人。殘念ながら別は分からないが、特徴的な帽子で分かる人は分かるだろう。

「……テルミ。第十二素はどうするつもりだ?」

「あぁ?んなの決まってるだろ。No.15の傍に置いときゃ何れ覚醒するだろうよ。"眼"の力になぁ?そうすりゃ、俺様完全復活よ!その為には観測みて貰わなきゃ駄目だが…まぁ、なんとかなるだろ」

テルミと呼ばれた男。その男は獲を狙う蛇が如く、悠人とノエルを狙っていた。

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あの後、ラグナに戦闘を任せた俺は時々飛んで來る瓦礫がノエルに當たらないように守っていた。

「……ハルト」

「ん、どした?」

「私、貴方が戻ってきてくれて…凄くホッとしてるの」

「……そうか。それだけでも戻った事には謝しねぇとな」

突如使えるようになったこの力は暴走する危険もある。先の俺がそうだったように。だから、ひと段落ついたらこの力、制する必要があるだろう。おそらく、頼らざるを得ない時がくる。その時、ラグナのきが止まった。には巨大な剣が突き刺さっており、ラグナとあのい止めている。

「がっ…て、てめぇ…」

「さぁラグナ、一つになろ…?」

二人はそのまま、後ろにある"門"に落ちていく。一瞬だけ反応が遅れたが、救出するべく駆け寄った。すぐさま追うように飛び込む。そして、ラグナの片手をしっかりと握った。

「ハルト?!この馬鹿が!!」

「馬鹿って言われてもが勝手にいたんだよ!!」

「ど、どうでもいいから早く…してください…」

「わ、悪ぃノエル。上げてくれ…」

二人分の重を支えてくれたノエルには謝し、ラグナを救出する事に功した。あのは……今頃影も形も無いだろう。出來れば助けたかったが、隙あらばラグナを殺そうとする奴だ。この判斷は正しかった、そう思いたい。三人がひと段落している時だ、誰かの聲が辺りに響く。

「コレだ…この時を待っていたんだよ俺様はよぉ!!おいノエル=ヴァーミリオン!!桐生悠人!!俺を見ろぉ!!」

「え…?「馬鹿、奴を見るな…って、遅かったか…っ!」貴方、誰…?」

突如現れた緑髪の男。ノエルと俺がよく観測みてしまったから見えてしまう。男の後ろに霊で漂う"もう一人"の姿があった。それは段々重なり合い、一つになった。いや、"定著"させてしまった。狡猾な蛇を。この世に悪夢をもたらすであろう最悪な人を。

「キタキタキタキター!!俺様大ふっかぁつ!!いやー、謝してもしきれねぇよ、お二人さん?ヒャハハハ!!」

その男の名はテルミ。嘗て黒き獣を葬った六英雄の一人。だが、目の前の男はとても六英雄とは呼べなかった。例えるなら、歩く災厄。そう例える他無かった。

「テェルゥミィィィィィィィィ!!」

突如ラグナが吠える。大剣を手に取りテルミへ襲いかかるが、テルミはあっさり避けた。その後も何度も切りつけるラグナだったが、テルミは全て躱す。傍から見た限りだと、大人と子供の喧嘩だ。それだけ実力に差がある。

「おいおいなんだよ危ねぇじゃーん?」

「てめぇは、殺す!!」

「やってみろや。子犬ちゃーん?ヒャハハ!!」

「テルミィィィィィ!!」

テルミの安い挑発にまんまと乗せられたラグナ。頭にが上り、再び切りかかろうとした時だ。突然地面が揺れ、辺りが崩れる。

「チッ、もう時間切れかよ。早くね?」

「時間切れ…?まさか…っ!!」

「そう、そのまさかだよ悠人くぅーん?間もなく"アレ"が此処に、ドーンだ…!」

「ちぃっ!!」

俺はすぐさまノエルとラグナを抱えて天井を突き破る。二人を地面に降ろし、又上空へ飛ぶ。

「…やっぱりな。てめぇだったか、"タケミカヅチ"」

眼前に広がるは巨大なの塊。世界を焼き盡くすだった。そしてそのを放った漆黒の巨人。巨人の方は後回しにし、今はをなんとかしないとこの世界は焼き盡くされ、"又"ループしてしまう。

「…んの野郎がぁぁぁっ!!」

今まさに降ってくるを両手でけ止め、なんとか軌道を逸らそうと闘する。が、流石に無茶し過ぎたらしく、が焼けるように痛い。が、四の五の言ってられる狀況じゃない。

「俺は、死んだっていい…!今は、この世界を…守るべきだ…っ!!」

の力を加え、あの巨人が放ったと応戦する。痛みが酷くなり、視界が霞んでくる。もう死ぬのかと思ったその時だった。き通るようなの聲が耳にる。それと同時に黃の紋章が俺の中へっていった。傷が塞がり、焼けるような痛みが和らぐ。あの時聞こえた聲はこうだ。

『ツクヨミユニット。彼を護りなさい。彼に死なれたら困るのは私達だから』

誰かは分からない。だが、こんな俺に世界の命運を託してくれた。此処で負けて世界消滅、なんて事は許されない。だから、どんなに痛くても最後の最後まで頑張った。だが、俺にその後の記憶は無い…

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「全く…無茶するんだから。それは誰かさんと一緒ね?」

カグツチ上空で彼の雄姿を見たレイチェル。あの攻撃を防ぐどころか再び宇宙に向けて逸らした人、悠人はレイチェルの腕に抱きとめられていた。全に付けていたパーツはどれもボロボロで修復は不可能だろう。肝心の彼自は全に火傷を負っているものの、息はかろうじてある為、生きている。

「……生きなさいよ、悠人。死ぬのは許さないから」

レイチェルは、意識が無い悠人にそう呟いた。

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暫くして、カグツチの表通り。そこに居たのはノエルと未だ意識が戻らない悠人の二人。あの後レイチェルは悠人の柄をノエルに預け、「第七機関に行きなさい」と付け足して帰った。

「(大丈夫、だよね…ハルト)」

これ迄ノエルを助け続けた悠人がこんな所で命を落とす訳が無い。レイチェルも「息はあるから」と言っていた。だけど、意識が戻らない限りはお禮すら言えない。

「……行こう。第七機関に」

そう決意し、ノエルは悠人を連れてカグツチを出る。あの帽子はもう被っていなかった。

この時、初めて世界は未來に向かって進み始めた。こればかりはこの歪んだ世界を見守る神、マスターユニットでさえ予測出來なかっただろう。だが、忘れている事がある。コレはまだ始まりに過ぎないという事を──

という訳で第五章、終わりです。

こればかりは長く書かないとなって思ってましたので凄く長くなってしまいました。

さて、次は悠人が意識を取り戻す迄ノエル目線で進むかと思います。勿論ラグナ達も出るので。

では次の章でお會いしましょう…

(コレを読んだ想、お待ちしております)

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