《スターティング・ブルー〜蒼を宿す青年〜》九章 ─ 自らの罪 ─
イカルガ滯在二日目。俺は新聞に紛れていた手配書を見た途端、固まった。人相書きはデフォルメされているが、確実に特徴を捉えている。忘れもしないあの日の出來事がフラッシュバックしてくる。途端に吐き気をじ、すぐに吐いた。それほど、トラウマになっている。心配したノエルが顔を覗きに來た。
「大丈夫、なの…?ハルト…」
「……無理。もう無理」
真っ青な顔を見て、流石に驚いたんだろう。何か買って來るとだけ言い殘し、慌てて外へ出たノエル。その後に気づいた。今外に出たら不味い事を。だが、もう後の祭りだ。吐き気を堪え乍、彼の後を追った。
何を見たらあんなじになるんだろう。もしかして、偶然目にしたのかな…ハルトの、トラウマになったもの。じゃなかったらあんなにならない筈…
「心配だな…」
ぼそっと呟き、何がいいのか探す。彼の好とかは全て把握しているつもりだ。暫く歩いていたが、ふと異変に気づく。まだ日は上っているのに人がない。というより、減っているのが正しいかもしれない。
Advertisement
「おかしいな……?」
首を傾げつつ、辺りを見回す。その時だ、私が何かに捕らわれたのは。蠢く何かに捕らわれた私は抵抗する暇も無く意識を失った…
「……っ!!やられた…!!」
ついさっき見た黒い何か。人相書きにあった特徴そのままだったそれがノエルを取り込み、何処かへ連れ去るのを。吐き気が治まらないを怨み、怒りをぶつけるように壁を毆る。ヒビがったがそれどころじゃない。一刻も早く探さないとノエルの命が危うい。走って探していたら、見馴れた人に出會う。白髪に赤いコート、死神ラグナだ。
「……あ?誰だ?」
「俺だ、悠人だ」
「…………………………悠人ぉ?!」
髪型が違うだけであんなに笑う事は無いだろう。まぁ、仕方ないけど。あの時と々変わった俺を見たラグナがいつまでも笑う為、手刀を喰らわした。靜かになった所で本題を言う。
「…で、用件はなんだよ。ハルt…リツカ」
「ノエルが攫われた。探すのを手伝ってしい」
「何してんだ、お前」
Advertisement
「予想外だったんだよ。此処に奴が居たのは…おかげでグロッキーだ…」
「奴ってなんだよ、奴って」
「……アラクネ。當時の名はロット=カーマイン。俺の同僚だった男だ」
いつの間にか、意識を失っていた。
は…く。通信機は……壊れてた。これじゃあ、悠人に連絡出來ない。そもそも、目の前に居るのは指名手配犯のアラクネ…銃はあるから反撃出來る。今攻撃しても正當防衛な筈、多分。
「キヒヒッ 蒼 我のも 」
何を言っているのか全然分からない。攫ったから自分のものとでも言いたいのか。そんな都合の良い話は無いし、なりたくもない。
「(襲いかかったらフェンリルで蜂の巣に…)」
なんて事を考えてた時。待ってましたと言わんばかりに襲いかかって來た。咄嗟に銃を構え、撃とうとしたが、いつまで経っても來ない。良く見ると、薄いバリア狀のようなものが私を守るように展開していた。そして辺りに響く聞き慣れた聲。紛れもなく、彼だった。
「ったく…俺の彼を連れ去った罪。そので償え」
……あれ。今なんて言ったのかな、悠人。彼って言ったのかな。聞き間違い?なら仕方ないよね。うんうん。仕方ない…って、何カミングアウトしてるの?!
「(……最っ悪だ)」
口がった。ここは『無事か!!』とかノエルの安否を心配する臺詞を言う場面だったのに堂々と遠回しに彼氏宣言してどうするんだ。相手は拐した張本人(多分言葉は通じない)だし、それにラグナが居る時に。ラグナが『え、何。お前らそんな関係?後で教えろ』みたいな顔で俺を見てるし……
「……とりあえず、ノエルを頼む」
鬱憤を晴らすかのようにアラクネに突進していった
。あーもう、どうにでもなれ。過去は変えられない。だったら堂々としていればいいだけだ。
目が點になった。悠人がそんな事を言う奴なんて誰が想像しただろう。もっとこう…『俺は天才ですけど何か?』的なオーラを出していると思っていた。まぁ、実際は全然違うんだけど。兎に角悠人に頼まれた通りノエルを助けに向かう。距離はそれほど遠くない。アラクネとか言う奴は悠人に任せる。ノエルの側に寄り添ってやり、傷が無いか確かめた。無い事にホッとする。
「(しっかし、悠人とノエルは雙子かっつーくらいそっくりだよな。悠人は右眼が潰れているからすぐ分かるが、遠くから見たら分からないかもな…)」
なんて今更な事を考えつつ、悠人とアラクネの戦いを見やる。戦況は片眼が無い悠人が優勢、大剣じゃなく細剣レイピアを使っているからか、普段より素早い。當然だと思う。悠人が使っていた大剣は斬るというより『叩き壊す』という表現が似合う。昔存在した斬馬刀に近いものと考えればいい。當然、重さはそれなりにある。例え男でも片手で振り回すのは至難の業だ。
「……にしても。奴アラクネをどうする気なんだ?悠人は…」
そんな事を呟き、俺とノエルは呆然と眺めるしかなかった。
悠人があんなに怒っている。それと同時に悲しんでいるようにも見えた。何故そう見えたのかは謎だけど、を剝き出しにする悠人を見るのは多分二回目だ。初めて見たのは、カグツチの戦いの最中だと思う。
でも、なんでそこまでやるのかが気になる。多分私が攫われた事も原因の一つだと思う。だけど、それだけじゃない気がした。
「(後で聞いてみよう…多分、話したくない事なのかもしれないけど、ちゃんと)」
そうこうしているに、靜寂が訪れた。
なんとか終わった。
アラクネは今、流に対して絶大な捕縛能力を発揮するれ(組立式でかなりの大きさ)にれてある。傍から見たらホムンクルスに見えるだろう。
「……まずは、謝らないとな」
俺が興味本意で"蒼"を研究しなければ、こんな事にならなかった筈だ。今になって博士が口煩く言ってきた『お前に蒼はまだ早い』という言葉がのしかかってくる。確かにその通りだ。あの頃の俺は『天才研究員』と皆に言われ、有頂天になっていた。だから、こんな悲劇を招いた。最初は青く澄んだ右眼の瞳だったが彼アラクネの攻撃をけ、どす黒くなってしまった。そして今は瞼が固く降ろされている。因果報応、って奴なのだろう。自分に自惚れる奴はそれ相応の報いをけるって事かもしれない。
「……よし」
ひとしきり謝罪を述べた。目の前の彼がその言葉をちゃんと理解しているのかは分からないが、攻撃する素振りは見せなかった。目的は果たせた為、自由にしてやる。咎追いを辭めた俺が指名手配犯をどうしようが知ったことじゃない。
「……無事でよかった、ノエル。ラグナも、ありがとな」
「う、うん…」
「……嗚呼」
「よっし、今日は好きなもん食べよう。代金は心配しなくていいからな!!」
「「賛!」」
辛気臭い雰囲気を忘れようと、三人で夕食を摂った。だけど、俺の心には今でも棘が刺さったままだ。どんなに時が流れようとも、悲劇を招いた事はいつまでも本人の心に何らかの形で殘るものだ。だからこそ、俺はやり遂げなければならない。アラクネ…ロット=カーマインを必ず元の姿に戻し、又ふざけあえるように。あの日の景を第七機関に戻す。その為なら悪魔に魂を売り払ってもいいと考えていた。
その日の深夜。ノエルと悠人が泊まっている宿の前を通りかかる人影があった。髪は多ボサボサしているが男らしさがある。服裝はワイルドといっていいだろう。元の筋は見事に割れていて、背中でなびくのは上著(を改造したマントっぽい)。イカルガ支部で最高権力者、十二宗家"ムツキ家現當主"。カグラ=ムツキ本人だった。彼が何故この時間帯に外を歩いているのか、そしてノエルによって裝を強引にされ、逃げる為に窓に近寄った悠人を目にしたのも偶然にるのか。それは分からないが、この一瞬の邂逅で悠人の所に厄介事が転がり込む事になったのはまだ先の話。
「ちょっ……ノエル、待てって…?!」
「待たない…!」
「うそーん……」
そして、悠人の惚けた聲とび聲が同時に空へこだまする。三日目の朝を迎えようとしていた─
 
はい。九章でした。
過去と再會するのは嫌なものです。それに自分が関わっているなら尚更。私もそういう事があるので…
次はどうなるでしょう?ではまた((。´・ω・)。´_ _))ペコリ
(想、フォローやいいね!いつでもお待ちしております)
【コミカライズ&電子書籍化決定】大好きだったはずの婚約者に別れを告げたら、隠れていた才能が花開きました
***マイクロマガジン社様にて、コミカライズと電子書籍化が決定しました!応援してくださった皆様、本當にありがとうございます。*** シルヴィアには、幼い頃に家同士で定められた婚約者、ランダルがいた。美青年かつ、魔法學校でも優等生であるランダルに対して、シルヴィアは目立たない容姿をしている上に魔法の力も弱い。魔法學校でも、二人は不釣り合いだと陰口を叩かれていたけれど、劣等感を抱える彼女に対していつも優しいランダルのことが、シルヴィアは大好きだった。 けれど、シルヴィアはある日、ランダルが友人に話している言葉を耳にしてしまう。 「彼女とは、仕方なく婚約しているだけなんだ」 ランダルの言葉にショックを受けたシルヴィアは、その後、彼に婚約解消を申し入れる。 一度は婚約解消に同意したものの、なぜかシルヴィアへの執著を隠せずに縋ってくるランダル。さらに、ランダルと出掛けた夜會でシルヴィアを助けてくれた、稀代の光魔法の使い手であるアルバートも、シルヴィアに興味を持ったようで……? ハッピーエンドのラブストーリーです。 (タイトルは変更の可能性があります)
8 121神様になった少年の異世界冒険記
高校2年の藤鷹勇也(ふじたかゆうや)は夏休みが始まり學校から帰る途中で交通事故に合い死んでしまった。そこで、神と名乗る老人から神の力を貰い異世界を楽しむ物語
8 592度目の転移はクラスみんなで(凍結中)
主人公、黒崎仁は元勇者だった しかし今はいじめられっ子 そんなある日突然、教室に魔法陣が現れた そして黒崎仁はまたもや勇者になって世界を救うことになってしまった やっと移動してきました!
8 56ぼっちの俺が異世界転生したら女性ばかりでハーレム!?
高校生2年生の孤堂 一真(こどう かずま)は、學校では友達がいないぼっちだった。 一真も友達と遊んでいるよりもアニメを見ていた方が楽しいと思うオタクだった。 ある日、自転車で學校から帰っていると突然曲がり角から車が走ってきて死んでしまう。 女神によって転生された先は、男女比率が1対9の世界だったのだ!
8 89殺しの美學
容疑者はテロリスト?美女を襲う連続通り魔が殘した入手困難なナイフの謎!--- TAシリーズ第2弾。 平成24年七7月8日。橫浜の港でジョニー・アンダーソンと合流した愛澤春樹は、偶然立ち寄ったサービスエリアで通り魔事件に遭遇した。そんな彼らに電話がかかる。その電話に導かれ、喫茶店に呼び出された愛澤とジョニーは、ある人物から「橫浜の連続通り魔事件の容疑は自分達の仲間」と聞かされた。 愛澤とジョニーは同じテロ組織に所屬していて、今回容疑者になった板利輝と被害者となった女性には関係がある。このまま彼が逮捕されてしまえば、組織に捜査の手が及んでしまう。そう危懼した組織のボスは、板利の無実を証明するという建前で、組織のナンバースリーを決める代理戦爭を始めると言い出す。ウリエルとの推理対決を強制させられた愛澤春樹は、同じテロ組織のメンバーと共に連続通り魔事件の真相に挑む。 犯人はなぜ3件も通り魔事件を起こさなければならなかったのか? 3年前のショッピングモール無差別殺傷事件の真実が暴かれた時、新たな事件が発生する! 小説家になろうにて投稿した『隠蔽』のリメイク作品です。
8 133天使転生?~でも転生場所は魔界だったから、授けられた強靭な肉體と便利スキル『創成魔法』でシメて住み心地よくしてやります!~
その力を使って魔界を住み心地良くしようと畫策するも舞臺は真っ暗で外気溫450℃の超々灼熱の大地。 住み心地は食からと作物を作り出そうとするも高溫で燃え盡きてしまう。 それならと燃える木を作るが、収穫した実も燃えてました! 逆転の発想で大地を冷卻しようと雨を降らせるも、その結果、村の水沒を招いてしまうも、それを解決したそのひたむきさが認められ何と領主に擔ぎ上げられてしまう! その後村のために盡力し、晝の無いところに疑似太陽を作り、川を作り、生活基盤を整え、家を建て、銀行を建てて通貨制度を作り、魔道具を使った害獣対策や収穫方法を數々考案し、村は町へと徐々に発展、ついには大國にも國として認められることに!? 何でもできるから何度も失敗する。 成り行きで居ついてしまったケルベロス、レッドドラゴン、クラーケン、元・書物の自動人形らと共に送る失敗だらけの魔界ライフ。 様々な物を創り出しては実験実験また実験。果たして住み心地は改善できるのか? ──────────────────────────────────────── 誤字脫字に気付いたら遠慮なく指摘をお願いします。 また、物語の矛盾に気付いた時も教えていただけると嬉しいです。 この作品は以下の投稿サイトにも掲載しています。 『ノベルアップ+(https://novelup.plus/story/468116764)』 『小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n4480hc/)』 『アルファポリス(https://www.alphapolis.co.jp/novel/64078938/329538044)』
8 116