《スターティング・ブルー〜蒼を宿す青年〜》十章 ─ 當主からの頼み事 ─
それから暫く経った頃、無事赤鬼と接出來た。同じ機関所屬だったというのに向こうは忘れていた事にがっかりし、改めて教えた。その帰り道、ノエルがまたもや洋服店に。嫌な予をじ、ダッシュで逃げた。その時だ、人にぶつかってしまったのは。
「あ、すみませ…っ?!」
「…ん?どした、かわい子ちゃん」
「…………………………………………………………は?」
まさか出會い頭に口説かれる日が來るとは。しかも、此処イカルガで知らない人は居ないであろう人に。まぁ、裝させられた自分も悪いが、どうやら別を間違えているらしい。右眼には眼帯をしている(そもそも開かない)為、右の視界が死角になっている。そんな時に走るからこうなってしまったという事を今まさにやってしまったと後悔が後から來る。
「……俺の好みピッタリ。どう?これからお茶でも」
「アースミマセンソウイウノマニアッテマス」
「まさかの片言?!」
がっくりと項垂れる男。そもそも俺はじゃないという事を教えてあげたい所だが、この人のライフをオーバーキルしかねない為やめておく。だから表面では""を演じる。丁度偽名が使えるし、好都合。そんな事を考えていた時だ、後ろからノエルがやってきた。
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「リツカ~…って、カグラさん?」
「…ん?その聲、ノエルちゃんか?」
「あ、はい。ご無沙汰してます」
「本當、久しぶりだわ。今何してる?」
「まぁ、々と…」
どうやら知り合いだったらしい。こっそり逃げよう、そう考えて抜き足差し足でその場を離れる。どうもこの"カグラ"という男は苦手だ。あくまで第一印象だが。
「…で、さっき『リツカ』って呼んでたけど、もしかしてこの娘?」
かなり離れた筈だったのにいつの間にか捕まえられていた。やっぱりそう簡単に逃げられないか。観念し、改めて自分から自己紹介をした。
「……リツカ=ミチザネです。宜しくお願いします」
「カグラ=ムツキだ。見たところ、ノエルちゃんと知り合いっぽいが、そこん所はどうなのよ」
「知り合いというか、昔からの友達ですよ。カグラさん」
「おぉ、そうか」
見た目が見た目だ。此処で『現在進行形で付き合ってます』とか言っても信用しないに決まってる。ならこう言っておいて損は無い筈だ。ノエルは落ち込んでいるかもしれんが、俺に裝させたのが間違いだと思い知った事だろう。まぁ、俺のには『もう一人』居るんだが、それはおいおい。
「(ったく…こんな時に限ってもう一人、えーと…フィオが出ていれば楽だったんだけど)」
因みにそのもう一人の正確な名前は長ったらしい為、俺が今此処で名付けた。その時だ、頭の中に聲が響いたのは。
「(フィオ、ですか)」
「(急に出てくるなよ。今は人が居る…って、え?何、普通に喋れるの??)」
「(學習しました)」
「(早ぇよ?!前はあんな機械的だったじゃん?!しかも俺の乗っ取って暴れやがって…おかげでボロボロだ)」
「(おかしいですね。貴方の、あのテルミに完なきまでに破壊されていたのにこうやって生きているじゃないですか。なら、それなりに頑丈って事です)」
「(…ん?ちょっと待て、今テルミっつったか?)」
「(はい。それがなにか?)」
何もこんな時に衝撃の事実を知らせなくてもいいだろうに。どうもフィオは空気が読めないらしい。まぁ、話してくれるだけマシと捉えた方がいいだろう。今までだんまりだったからなぁ、コイツ。
「…おーい、リツカちゃん?」
「……すみません、ぼーっとしてました」
「何、俺の魅力に見れてたって奴?」
「ソレハナイ」
きっぱり言ったら意味不明な言葉を言いつつひとりでに吹っ飛んだカグラ。隙あらばアピールする姿勢、見習いたくもない。
それから暫く話した後、カグラから頼み事をされた。簡単な容だったが、俺はどうもける気にはならなかった。ひとまず行くだけ行きますとだけ伝え、その場を後にした。その理由は早く著替えたいだけだ。何せ今著ている服は、ノエルが著ている服とほぼ同じ。背中が涼しくて落ち著かない。著替えてる間、ノエルが不思議そうに聞いてきた。おそらくあの事だろう。
「…どうするの?」
「さっき言った通りだ。策もあるしな」
いつも著ている服(今回は白いコートを羽織った)に著替え、髪も後ろでまとめる。長いままだと不便過ぎた。そこは、ノエルが羨ましく思う。そして、策とはフィオの事だ。必要に応じて代する約束を取り付け、新しい武を作る必要が出てきた。何しろ大剣じゃないと嫌だという。用の剣は博士の元にあるし、今は細剣レイピアだけだ。
「カグラさん、黒騎士って呼ばれる人だけど……」
「噂くらいは聞いてる。だけど、やるしかない」
頼み事。それはカグラが俺と手合わせしたいという事だった。修羅場をくぐり抜けて來たというのはバレバレだったようだ。まぁ、片眼が潰れている(そう見えるだけ)はそうそう居ない。顔はの命らしい。まぁ、男なんで関係ない。
「まぁ、なんとかなるって。多分」
苦笑した後、必要なものを集める為に宿を出た。資金の方はまだ大丈夫。
リツカ=ミチザネ、ここらじゃ聞かない名だ。
ノエルちゃんの友達とか言ってたが、怪しい。まぁ、あの綺麗な髪に澄んだ瞳はなんとなく唆られるが…
「しっかし、見た目からして強そうだな…あの娘」 
筋は無いように見えるが、式で隠しているパターンもなくはない。俺の戦が通用するかどうかは彼の戦闘能力次第になるが、かなりの場數を踏んだように見える。
「俺が勝ったらどうするか…」
なんて事を考えつつ、闘技場コロシアムへ向かう。そこが指定の場だ。
「よっし、出來た。名付けて…刄龍剣ドラゴブレイブ!」
「(…そのネーミングセンス、どうにかなりませんか?悠人)」
「(うっせ。別にいいだろ?他人に教える訳じゃないし)」
「(それもそうですね)」
てなわけで、フィオに馬鹿にされつつも即席とはいえ大剣が完した。後はカグラが指定した場に向かえばいいだけだ。なんとなく心配な為、ノエルを思いっきり抱きしめてからにした。手合わせだから手加減する可能もあるが、相手は黒騎士カグラだ。本気で來るに違いない。
「…いきなり駄目だよ、悠人……」
「散々裝させた癖に。仕返しだ仕返し」
「もう…」
照れるノエルを連れ、フィオに念話でOKと伝えた。今回は彼に任せるつもりだ。俺は"蒼の力を持った"に過ぎないし、フィオの助力があったからこそあの力を使えた。開発中に突然言われ、唖然とする他無い。やはりフィオは空気が読めない。
さて、今回はここまで。
次は長くなると思います。ではまた((。´・ω・)。´_ _))ペコリ
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