《スターティング・ブルー〜蒼を宿す青年〜》十六章 ─ 當主再び ─
傷はそう簡単に癒える筈が無く、結局片腕が無い狀態でイカルガに戻った。こればかりは蒼でも治せそうにも無い。かといって義手代わりにしている剣はかない為に霧狀にして博士の元へ送った。
「どーすっかな…コレ」
「(どうするも何も、一旦博士の元に帰るのが最善かと)」
「(…だから急に出るなっての。あれ以來無言だった癖に)」
フィオの提案に乗りたかったが、此処から第七機関まで戻るとなったらそれこそ大変だろう。何せテルミが居るという事は此処からそう簡単に逃がす訳が無い。かといってあの力を使って強引に腕を治す訳にも行かない。萬事休すかと思ったその時、一つの通信がる。出てみた所、あの人だった。
『よっ、リツカちゃん。元気してた?』
「カグラさん?!」
『急にかけてすまん。ちと話がある』
「ま、まぁ…話くらいなら」
変な事はされないだろう。多分。そもそも俺男だし。片腕が無い狀態だが、折角いをけたのを無下に出來ず、向かう事に。ノエルは…今頃他の所に行っているだろう。たまには別行もいいかもしれない。
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「(フィオ、悪ぃが頼む)」
「(はいはい…仕方ないですね)」
正直俺で対応するのは面倒だし、丁度フィオという人格が居てよかったと思っている。まぁ、あの出來事が無かったら居ない存在だが…
俺からうのは久々な気がした。
いつもならこういう事は無い筈なんだが、リツカの事を見ていると昔の記憶が蘇ってくる。その謎が知りたいが為に呼び出したという事だ。
「(どっかで見た事あるんだよなぁ…)」
なんて事を思いつつ、外へと向かう。その時その時で対処すればいい話だろう。
「ムツキ大佐。何処へ?」
「野暮用。済ませたら戻る」
「分かりました」
自分の書であるヒビキにそう言い、自分が指定した場へ。徒歩で向かう際、やはり考えてしまう。普段は敬語で話すあの娘、戦闘になると途端に男口調に変わる。多重人格、なんだろう。だが、それがなんとなく引っかかる。昔、自分のすぐ近くに居た気がするが…
「(ま、考えてても仕方ないか)」
一旦払拭し、足取りを早くする。ちょっと迷ったかもしれない。
「ここで合ってます…よね?悠人」
「(馬鹿。俺は隣に居ねぇっての。なーに隣に居ますよって空気醸してるんだよ)」
「(あ、すみません。つい)」
「(ついってあのなぁ…)」
やはり何処か抜けてるのか。それはいいとして、兎に角カグラが指定した場に著いた。そこは…紛れもなくカフェだ。何考えてるんだよと心毒づき、店の前で待つ。
「(ちょっと寢そうなんですけど)」
「(寢りゃいいだろ別に…わざわざ聞くな)」
「(カグラの約束破る事になりますけど)」
「(前言撤回。寢るな)」
「はぁ…」
フィオに頑張ってもらわないと、俺が困る。ノエルの事も心配だが、それはなんとかなる。辿ろうと思えば何時でも出來るから心配要らない。だからこうして不本意ながら來ている訳だ。待つこと數分、本人がやってきた。遠目で見て分かるとは逆に凄いが。
「お待たせして悪いな」
「いえ、さっき來たばかりですから」
「そうか。ならよかった」
カグラの後に続いて店へる。どうやら奢りらしく、好きなのを選んでいいとのこと。流石當主様だなと心しつつ、適當なのを選んだ。
「……その腕、どうした?」
「嗚呼…獣に食い破られたんですよ、コレ。おかげさまで不便なんですよね」
「……肩の辺りまで食い破る獣、か。そんな奴、ここらに居たっけか…」
「気づいてないだけで結構居ますね。夜、だけになりますが」
本當はテルミのウロボロスに食い破られたが、今言っても信用を得る事は難しいだろう。適當に誤魔化す方がいい。
「それで、話とは?」
「嗚呼、リツカちゃんが誰かに似ている気がしてだな。確か…アヤメ=ムツキ、だったか。俺の一つか二つ年下の家族だったんだが…」
「ごふっ」
盛大に珈琲を吹き出す。そう言えばムツキ家はカグラの家だったか。その事をすっかり忘れていた俺は不意を突かれた。心配するカグラだが、そんなのはお構いなしに話を続けるよう促す。
「悪いな、急に家族の話をして。なんか思い出して仕方なかった」
「いえ、私も興味はありますから。家族なんて私には居ないですし」
「相當苛酷だったんだな…リツカちゃん」
「そうですね…」
なんて會話をしている時だ。直的にその場から離れるように促し、離れてみる。その直後、誰かが突っ込んで來た。俺とカグラが居た場所に。見慣れた貓耳。タオカカだった。酷く傷ついている。幸いにも命には別狀ないだけよかったと捉えるべきか。
「タオ?!どうした…?!」
「ニャースー……」
「カカ族か?なんだって急に…」
「……どうやら、本人が來たようですよ」
タオカカを吹っ飛ばした本人、それは等大の人形だった。だが、只の人形じゃないのは分かる。事象兵の一つ、と捉えていいだろう。例え腕の良いり師でもここまでの人形、しかも戦闘用のものは扱えない筈だからだ。
悠人と別行を取る形になった私。
腕の事は気にするなと言われた為、そこは気にしない事にした。
「さてと…何しようかな…」
悩みつつ表通りを歩いていると、偶然ラグナさんと出會った(カカ溫泉で會ってるから多分三回目)。近寄ってみると、うどんに卵と天ぷらを乗せたものを食べていた。一瞬目にっただけで味しそうと思ってしまう。覗き込んでる時にバレたらしく、ラグナが聲をかけて來た。
「……何してんだ?ノエル」
「偶然見かけたので、つい」
「悠人は…側に居ねぇのか。珍しいな」
「義手を作るとかどうとか…それと、カグラさんに呼ばれてたみたいで」
「カグラにか?彼奴も珍しい事するな。賞金首の俺を見逃したりしてよ」
「多分何かしらの考えがあると思いますよ?」
「くだらん事じゃねぇ事を祈るか…」
こうして話すのは久々だろうか。いつも悠人が側に居たから、彼が居るのが當たり前になっていたが、こういうのもある意味新鮮かもしれない。ラグナは何も変わってなく、いつも通りってじだったが、私は々と変わってしまった。でも、私は私。何者でも無い。
「そういや、あの力についてだが…」
そう言う所だったが、唐突に打ち切ったラグナ。何事かと思ったら急に寒くなり始める。何事かと思ったらその張本人が上から降って來た。金髪に師団長クラスが著る制服、水の鞘に収まった刀。紛れもなく、私のかつての上司であり憧れだった、ジン=キサラギ本人だ。
「ジン?!」
「キサラギ佐?!」
「ちっ、ゴミも居るか。僕は貴様に用は無い。失せろ」
「……」
威圧に気圧されるが、『魔銃・ベルヴェルグ』を手に持って構える。自然とラグナの前に立ちはだかった私を見たキサラギ佐は明らかに嫌悪を抱いている。
「……何の真似だ、貴様」
「ハルト風に言わせてもらいます。『折角再會したってのに無視するんじゃねぇよ、キサラギ佐殿?』」
「ハルト…彼奴か…っ!!」
「ラグナさんに用があるなら、私を倒してからにしてください!!」
「いいだろう。まず貴様から消してやる…」
私だって戦える。それをラグナに見せられるチャンスだ。口が悪くなったのは悠人のせいだから私は悪くない。それはだけは言っておこう…
(*´∇`)ノ ではでは~
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