《スターティング・ブルー〜蒼を宿す青年〜》十八章 ─ 剣 ─

かれこれ一時間くらい経っただろうか。

流石に力が底をついてきて、足元がふらつく。だが、立たないと殺られる。倒れまいと必死に気力を振り絞って立つ。

「──愚かな。蒼の力を扱えるだけの人形が我にかなうとでも思ったか」

「…嗚呼、確かに俺は人形だよ。テルミの野郎に不良品って言われた人形だ。だけどな、こうして生きてる以上、俺は俺だ。何者でも無い、俺は桐生悠人だ!!」

「笑止」

斬られる。そう思い、ハートネイズを盾代わりにしたが、來ない。よく見たらラグナが俺の代わりにハクメンの斬撃を防いでいた。

「ラグナ…?!」

「奴をぶっ飛ばしてこい。悠人。お前を大切にしてくれる奴が居るんだ、こんな所で死ぬんじゃねぇよ」

「…嗚呼」

激勵をけ、ハクメンに向けて走り出す。斬撃が飛んで來るが、ハートネイズで防ぐ。ノエルはラグナに任せ、兎に角一発毆る為だけに加速を繰り返す。

「人形人形うっせえんだよ。ちゃんと名前で呼べ、このお面野郎がぁ!!」

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藍の魔道書ブレイブルーで形作った右腕で顔面を毆る。それだけじゃない。ドライブ能力も同時に使い、奴の全を蝕んでいく。『ソウルイーター』とは又違う能力…『ゴッドブラッド』だ。下手したらこっちもやられかねないが、しのごの言ってる場所じゃない。

「なんだ…この力は…?!」

「散々馬鹿にしやがった罰だ…」

左腕で腹の中心を捉えて毆り飛ばす。流石にこれだけじゃ死なないだろうと踏んだからこそ全力で放った。反で吹っ飛ばされた俺は無傷だが、ハクメンの方は無事じゃないと思ったが…予想は大いに外れる。さも平気そうに立ち上がったハクメンは、野太刀を上段に構えた。

「……マジかよ」

「──終いだ。悠人」

そして、俺は斬られた──

悠人が、斬られた。

が舞い、崩れ落ちるように倒れる悠人。その時、私の中にあった何かが抜けた。まるで半を失ったかのように。

「……馬鹿。馬鹿」

「ノエル…?」

「悠人の馬鹿ぁぁ!!」

んだ。訳も分からず、怒りの矛先を六英雄のハクメンに向けて。走り出した時に気づいた。悠人は"わざと"負けたんだと。でも、怒りのは止まる事を知らずにどんどん湧き上がってくる。怒りは力に変わり、姿が変わっていく。裝甲を纏い、銃の代わりに剣を得にした姿に。

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「…むっ?」

「…ノエル、か?」

「……」

何も考えていない。あるのは敵の殲滅のみ。あの時と同じだ。スイッチが切り替わったと思えばいいかもしれない。

「(しまっ…暴走させたか?!)」

ブラッドミストで作った幻影をハクメンに斬らせ、影で藍の魔道書の完全発準備に取り掛かっていた。だが、コレは誤算だった。まさかノエルが、暴走するとは。リスクは無いとはいえ、ノエルにとって俺は支えだ。目の前で死んだ(実際は死んでないが)ら、そりゃショックもける。だが、それが引金トリガーになるとは。

「不味い…!!」

中斷し、ノエルを連れてこの場から離する。ラグナに後は任せよう。今は変わってしまったノエルを元に戻さないと、下手したら戻って來なくなる。

「逃がしたか」

「余所見すんなお面野郎。そんなに気になるのかよ」

「…黒き者。決著をつけよう」

「けっ、いつまでも追われるのは嫌だからよ。ここらでケリ付けるか」

互いに構え、剣がぶつかる。火花が散り、地形が変化していく。それほど二人の力が強いという事だ。

「(あれ…私?)」

悠人がを流して倒れた所を見た所から記憶が無い。

もしかしたら、又暴走したのかと思った。悠人に何かしらの事があった時に必ずといっていい程記憶が飛ぶ。その時は暴走している事が多い。

「(はぁ…又やっちゃった…)」

だが、今回は一味違うらしい。何せ青と白が基本の服裝ではなく、裝甲を纏った姿に変貌していた。まるで、あの時のと悠人みたいに…

「……人の事言えねぇか、俺も」

「(あ、悠人)」

「暫く離れた方がいいかもな…今の俺じゃ、逆に負擔になってるだろ…?」

「(そんな事、無いよ…?)」

自分の想いを伝えたくても、今の狀態ではそれすら葉わない。せめて話す事だけでもしたかったけど、が乗っ取られている今では不可能だった。

「まさかそんな形で覚醒するとはな」

「だが、まだ不完全だろ。悠人奴を目の前で失う事になれば、第十二素の覚醒は完全なものとなる。そうなれば…《滅日》も最終段階に行くだろうよ」

「それもそうか。なら、私自ら行くとしよう」

「おいおい。窯の解放はどーすんだよ?それが無けりゃ計畫は破綻しかねぇぞ?」

「それについては問題ない。既に準備は完了している」

「…流石、と言えばいいか?"レリウス=クローバー"」

「……ふっ。それよりも、第十三素…冥王の剣イザナミノツルギの調整はどうだ?」

「それについては心配要らねぇよ。自力でけるくらいまでに力は回復してる。流石、ラグナと"ライフリンク"で繋がってるだけはあるわな」

「…そうだな」

緑髪の男テルミにレリウスと呼ばれた男は不敵な笑みを浮かべ、その場を後にした。殘されたテルミは帽子を被り、ハザマに変わってから自らの目的を果たす為にとある場所へ向かう。

……流石にを流し過ぎた。

視界は霞みつつあり、腕や腳の覚も既に無い。

それでも必死に耐えながら、上の階を目指す。避難出來た後は……ノエルの元から去ろうと考えている。

ノエルが俺の事を好きだというのは知っている。だが、俺には人を好きになる資格が無い。ハクメンの奴に言われた通り、俺は人形だ。本來ならフィオ(仮)がこのを使っていた筈なのに、どういう訳か俺…桐生悠人、いや…アヤメ=ムツキという人格が出來た。

奇跡なんだろう。だが、役目を果たすには俺だと役不足という事だ。だから…俺という人格を消す。そう考えた時、頭の中に聲が響く。その正は、フィオと名付けた人格だ。

「(本當にそれでいいんですか、悠人)」

「(……正直悩みっぱなしだよ。辛いから現実逃避してるだけかもな)」

「(テルミに借りを返すのでは?その忌々しい力を使って)」

「(確かにな。この力が無けりゃ、只の咎追いとして一生を終えられたかもしれない。ノエルに悲しい思いもさせる事もなかった筈だ)」

「(…私は反対です。貴方とを共有してるから分かる事ですが、貴方と一緒に居る人全員、いい顔をしてます。それを、一個人の判斷で全て無に帰すんですか?)」

「(それだよ。それがあるから、迷ってんだ)」

「(なら、私の力を全て渡します。腕も治りますし、蒼の力も完全に制出來ますよ)」

「(……それだとフィオが消えるじゃねぇか。それじゃ意味ねぇんだよ。俺にとっちゃ、フィオも大切なんだよ)」

「(私はいいんです。οオミクロンとして、No.15として生きるしかなかった私に、人の気持ちを教えてくれたのは悠人達です。それだけでも満足なんですよ)」

フィオが持っている力が改めてを駆け巡る。無い腕がその力に呼応するかのようにしづつ形作られていき、髪も金から白、薄い水に変わっていった。

それと同時に、フィオが居るという覚が徐々に消えていく。だが、引き止めはしない。これは、フィオ自がこうしたいと決めた事だからだ。

「(……馬鹿野郎が)」

「(…謝します、悠人。ノエルさんを頼みますよ)」

「(元からそのつもりだっつーの…)」

その言葉を最後に、フィオの力は完全に俺と融合した。

そして、フィオの存在が消えた事にもなる。

だが、俺は涙を流さない。この力を託してくれたフィオに示しがつかない。だったら、最後の最後まで足掻く。人形じゃない、"人として"。

「悠、人…」

「……嗚呼。道中呟いていた事は忘れてくれ。ちと弱気になってただけだ」

「…うん」

とっくに元に戻り、休ませていたノエルの頭をでてやり、自分も落ち著いた所で、自分の呪われた運命に決著を付ける為、統制機構支部へと向かう。ほぼカンだが、そこに奴が居る気がしたからだ。

フィオが消えた今、頼れるのは己の力と経験。ノエルは相変わらず守らねばならない(もしかしたら、狙っているのは俺じゃなくてノエルかもしれないから)為、多…かなり無茶をする必要がある。

「……やるか」

そう呟き、歩を進める。

この時の悠人とノエルは知らない。

二人は既に剣として覚醒しつつあるという事を。

そして、それが原因で互いを倒さないと生きられない事になるというのを。

(。・ω・)ノドモ

今回は會話文多めでした。

さて次は、急展開を迎えるかと思います。

では((。´・ω・)。´_ _))ペコリ

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