《スターティング・ブルー〜蒼を宿す青年〜》二十一章 ─ 一途の希

悠人が、消えた。

正確に言えば、あのと融合してしまった。テルミが言っていたが、あのこそ《アヤメ=ムツキ》らしい。だけど、今ラグナさんと死闘を繰り広げているはアラマサと呼ばれていた。それに、災厄の剣とも。それだけ聞けば悠人はアラマサとして覚醒してしまい、その存在をこの世界から消したという事だ。

「悠、人……」

涙が溢れてくる。あれだけ私に優しくしてくれて、守ってくれて、側に居てくれた悠人が今、消えた。

それは認めたくない。認めたら…私が壊れてしまう。でも、現実は非だ。

「こんな世界…要らない。消えろ…!!」

そう呟いた時だ。ベルヴェルグが赤と青のを吹き出し、壊れようとしている。それと同時に、私の中の何かも壊れようと悲鳴を上げていた。碧い瞳が蒼く染まり、姿も変わる。あのニューと同じ姿に。ベルヴェルグは、音も立てずに役目を終えたように消滅する。もう、私を縛るものは何も無い。

「んなっ…?!」

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「アラマサに続き、《紙殺しの剣クサナギ》も覚醒しやがったか。丁度いい、アラマサのサポートに回れ」

「くっ…」

アラマサの元へ向かう私。もはや私の意識はそこに無い。ラグナさんの事を手にかけるのだろう。でも、そこに居るのは私であって私じゃない。本來の姿、《μミュー=12トゥエルブ》に変わっていた。

「おいノエル!!聞こえてんなら返事しやがれ!!」

「無駄無駄、今のノエルには何も聞こえちゃいねぇ。只の人形だ。悠人もな?」

「てんめぇ…!!」

ラグナさんが怒りを顕にしている。

でも、私には何も出來ない。μミューとなった今の私には何も。

──気づいたら、俺とノエルは何も無い場所に居た。

ラグナもテルミも居ない。ましてやイカルガですら無い。一此処は何処なのだろうか。

「悠人、此処って…」

「……嗚呼。俺とノエル、"二人共此処に居た"記憶がある筈だ。何故かは知らんが…」

「…うん。私にもある」

「なんなんだろうな、コレ…」

謎が深まるばかりだ。あの時、俺は何を見た?テルミの奴はどうなった?世界は…どうなった?考えても霧がかかったように見えない。

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「…戻らなくていいのかな、私達」

「何処に…って、イカルガにか?」

「うん。このまま此処に居ると、何か大切なものを失う気がして…」

「と、言われてもな…」

戻れるなら、戻りたい。だが、方法が分からない。

──かれこれ二、三時間くらい闘ったか。

アラマサとクサナギは止まる気配が無く、見事な連攜を見せる。そのスタイルは、紛れもなく悠人とノエルを彷彿とさせる。あの二人が組んだ時ほど強いものは無かったからだ。

「てめぇじゃこいつ等は止めらんねぇよ、ラグナ=ザ=ブラッドエッジ」

「うるせぇ!!俺が諦めたら誰が止めんだよ!!おい悠人!!お前言ってたよな?最後の最後まで人として戦うって!!こんなわけわからん奴にされてよ、お前はそれでいいのか?!ノエル!!お前もだ!!悠人が苦しんでるっつーのに、助けるどころか一緒になって地獄に落ちてどーすんだ!!助けるんじゃねぇのかよ?!」

必死に聲を荒げ、言いたい事をどんどん言う。

屆くと信じ、何度も何度も。だが、やっぱり無駄な足掻きだったらしい。アラマサの放った剣が俺の心臓を捉え、深々と突き刺さる。口から反吐を吐き、うつ伏せに倒れ込んだ。が言うことをきかない。そんな俺をアラマサは蔑んだ目付きで見おろしている。

「もう終わりかよ。つまんねぇなぁおい?もーちょい粘れっつーの。まぁいい。お前ら、目的を果たしてこい」

「「了解。」」

アラマサとクサナギが窯へ向かおうとしている。

だが、俺はけない。致命傷だ。もうじきこの命は盡きる。そう思い、意識を手放そうとした時だ。

「ラグナ…ラグナ…」

「(…あ?誰だ、俺を呼ぶのは……?)」

「おい、何してる。さっさと行くぞ、"第十三素"」

「ねぇ…起きてったら…ラグナ…」

「(ニュー、か…?なんでだ…)」

敵だったニューが、俺を助けようとしている。

覚的に分かった。だが、何故そうするのかが分からない。俺はもうけない筈なのに。

「ちっ、使えねぇ…調整が甘かったか」

「(何してやがる…離れろ。ニュー…)」

「許さない。テルミ…貴方は私が…っ!!」

「あ?人形の分際で逆らうのか?だったら纏めてあの世に送ってやるよ!!」

何故かは分からない。だが、ニューが俺を守ろうとしているのは分かる。負けられないと手放そうとした意識を核に、半ば強引に蒼の魔道書ブレイブルーを起させ、立ち上がった時だ。ニューはテルミが放ったウロボロスに貫かれ、丁度俺の目の前に倒れ込む。

「……馬鹿野郎が。俺なんか守ってもしゃあねぇだろ」

そう呟き、意識は闇に沈む。それと同時に蒼の魔道書も稼働を停止した。

思い出した事がある。

あの時俺はアヤメ=ムツキを見た。今までは俺がオリジナルかと思っていたが、そうではないと知ったと同時に絶し、自分の存在価値が無いと考えてしまった。その後の記憶は無いが、おそらく俺はそのアヤメと一つになり、事実上死んだという事になる。

ノエルが此処に居るのは、多分俺が消えたという現実に耐えれなくなったからだと思われる。あの時変貌を遂げたノエルを見た限り、俺が何かしらの影響を與えてる事になる。

「つまり、俺は絶し、奴と一つになり…"俺"は事実上死んだという事か…」

「私は…悠人が消えた世界なんて消えればいいって願った…だから此処に居るんだと思うの」

「助けるどころか一緒に此処に來てどーすんだ…」

「あはは…」

萬事休すだ。向こうに戻れる保証も無い。

かといって何もしない訳にもいかない。でも、その方法すら分からない。だが、俺には確信たるものがあった。

「……多分、俺が消えたのが原因だ」

「悠人が?」

「嗚呼。俺がアラマサになり、消えたせいでノエルも巻き込んだ。逆に考えると、俺が再び向こうに居るという事実を作ればいい」

「……でも、どうやって?」

「その為の力があるだろ?今まさに使う時という事だよ」

「あ…《眼の力》?」

「そゆこと。互いに互いを認識し、イカルガに居るという事実を作れば戻れる筈だ」

拠など無い。

だが、これにかけるしか方法が無い。此処には、俺達以外誰も、居ないのだから。

「……!!」

「あ?何が起きてやがる…?」

アラマサのきが止まる。それと同じようにクサナギもだ。ニューがやったのかと考え、致命傷を負ったを無理矢理立たせる。今しか無い。

「第666拘束機関解放、次元干渉虛數方陣展開……」

自分を中心に広がる紋章。

それは統制機構全に広がっていき、何もかもを抑制し始めた。テルミの奴はどこ吹く風な表で佇んでいるが。

「無駄だっつーの。それより自分のを心配しろや」

「イデア機関接続…!!」

「……何?」

「見せてやる…これが蒼の力だ!!蒼の魔道書ブレイブルー、起!!」

今までと段違いの出力を出す蒼。さっき消滅間際のニューから託された《イデア機関》が強制的に上位互換の存在に上書きしたせいだ。敵側に居たニューが何故それを持っていたのかは分からないが、おそらくあの貓又博士が関わっている。

「歯ぁ食いしばれ…この毒蛇野郎がぁぁぁ!!」

の一撃、《カーネージシザー》を叩き込む。テルミはそれをモロに喰らい、黒い柱のモニュメントに叩きつけられた。

眼が焼けるように熱い。

強引に認識の位置をずらすのは骨が折れる作業だった。だが、今戻らなくてどうする。アラマサとなった

俺(正確には俺を取り込んだ)はあのまま世界を破壊するだろう。ニューでさえ尋常じゃない力を持っていた。それを俺と同じにするのは駄目かもしれない。

何せ俺のめられているのは蒼の力に眼の力、フィオが持っていた力と…能力の寶庫と言っていい。そこにムラクモユニットも加わるとなると、まさに化だろう。一刻も早く戻る必要がある。

「後しだ…踏ん張れノエル…」

そう呟いた時だ。まるで瞬間移でもしたのかと思うくらい、二人の姿は消える。そして……

「終いだ…テルミ」

「終わるのはてめぇだよ、ラグナ=ザ=ブラッドエッジ」

二人共満創痍の狀態で向かい合う。

そこに一陣の風が吹き、テルミだけが吹っ飛ぶ。吹っ飛ばした張本人は…アラマサとクサナギだった。

「……?!」

「はぁ……はぁ……戻れた?よかった…」

「好き勝手やってくれたよ…ったく…」

あの異様な雰囲気は無く、悠人とノエルの喋り方で愚癡を吐く二人。もしかしたらと思ったその時、吹っ飛ばされたテルミがわけわからんような顔つきでムラクモユニットを纏った二人を見ていた。

「あの狀態からどうやって戻りやがった?!」

「んなの企業だっつーの。あぁ疲れた……」

「やられたら、やり返す。ですよね?」

「舐めた真似しやがったな、てめぇら…!!」

キレたテルミが碧の魔道書ブレイブルーを起させようとする。その隙をついてノーモーションで剣を投げ、額に命中させた。一筋のが流れるが、構わずテルミは起させた…筈だった。その兆しは一向に見えず、困を隠せないでいる。

「なんで起しねぇ?!俺様が造っただ、抜かりはねぇ…!!」

「嗚呼、お前の碧…封じてやった。面倒だしな、それ」

「は…封印だと?!」

「そういう事です。悠人に本來のを返したのが間違いでしたね?」

「……まさかっ?!」

今まで勝ち誇った顔をしていたテルミの顔が初めて焦りの表を浮かべる。あらゆる可能を可能にする力、その斷片である碧の魔道書ですら封じる力。それを最初っから宿していたのがアヤメ=ムツキ本人だったのだ。

「形勢逆転って訳だ、テルミ」

「認めねぇ…俺様は認めねぇ!!」

「俺とノエルの運命を弄んだ事……後悔して散れ」

右手首を軽く倒す。それが合図となり、多數展開された方陣から剣が出、とめどなく襲いかかる剣を最初は防いでいたテルミだが、段々と追いつかなくなり、ついに防戦一方となった。

「嗚呼、ついでに言っておく。俺は《災厄》なんかじゃねぇ。世界を守る《守護者》だ」

その言葉を最後にし、渾の一撃を叩き込む。

それからすぐにテルミはかなくなった。致命傷じゃないからかろうじて生きてるだろうが、傷が癒えるまで數年くらいはかかる筈だ。無力化に功し、一連の騒は収束に向かってる…筈だった。

では次でお會い出來れば嬉しいです((。´・ω・)。´_ _))ペコリ

(想等お待ちしております)

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