《私は、海軍最強航空隊のパイロットだった》第一章 ③タイムリミット

昭和17年2月18日   橫須賀第一飛行場

    初訓練から4日が経つが武本一飛曹の技量は全くと言っていいほど向上しなかった。

    いくら素人といえどもしは向上してもいいものだが、彼の場合は本當に訓練したのかと疑いたくなるほどだったのだ。

    最初は渋々訓練に付き合っていた他の搭乗員もからも文句が出てくる始末であり。

    そのため今日からは今までの中隊訓練ではなく小隊での訓練となった。

  「今日は南側の訓練空域を使います。容としては昨日と同じ編隊飛行訓練です。今日は小隊なのでしはやりやすいと思います」

    小隊長の赤羽から指示をける武本の顔は決して明るくはない。

    隣で聞いている笹原も心配そうだ。

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   しかし赤羽は付け足した。

 「武本一飛曹。そんな顔で飛んでも技量は上達しませんよ」

 「はっ、すみません」

   武本は無理に微笑した。

   

 「それでは二人とも搭乗してください」

   

    武本と笹原は機に向け駆け出した出した。

     

  「やっぱり、外すべきだね」

    飛行場にある監視塔で「瑞鶴」戦闘機隊長  中川  華奈  大尉  は中隊長の長谷川にそう言った。

   

  「大尉はそう思いますか?」

  「うん。だってあれじゃあね」

    二人が話しているのはもちろん武本一飛曹のことである。

  「ですが、次の出撃までまだ時間はあります」

  「本當にそう思う?」

    長谷川にとって痛い一言だった。

    本日正式に発表された英國艦隊打破作戦、インド洋機作戦のため五航戦は二週間後の出撃が予定されていた。

  「今のあの子では飛ぶのがやっとの狀態。とても実戦にはだせない」

  「しかし、訓練を始めてまだ5日。希はあると思います」

  「では聞くけど、これまでの5日間であの子はどれだけ長したの?」

  「それは・・・」

    長谷川は言葉を詰まらせた。

  

  「あなたも分かっているでしょ?武本一飛曹は飛行機乗りとしての才能がないの。だから私は、彼のためにも飛行科からはずすべきだと思う」

    確かに正論であった。

    このまま武本を出しても真っ先に撃墜されるのがオチだ。

    ならばその前に彼を外した方が、我々「瑞鶴」飛行隊として、そして何より彼のためにもなる。

  「出撃は二週間後でしたよね」

  「そうだよ」

  「ではせめて、それまで待っていただけませんか?」

  

    中川は不機嫌な顔をしたが、やがて答えた。

   「出撃前までです。それまでにものにして」

   「はっ!ありがとうございます!」

 

   「さてと、どうしたことやら」

   

     中川には二週間以にどうにかすると言ってしまったが、長谷川にはどうすればいいかなど全く考えがなかった。

   「阪口佐にでも聞くか」

    飛行隊長である阪口はしズレているところもあるが飛行科では一番経験がある。

    そう思い阪口を探すがなかなか見つからない。

    

   「阪口佐はいらっしゃるでしょうか?」

   「佐なら今訓練中ですよ」

    艦攻隊の隊長も兼ねている阪口は訓練中であった。

   

   「もし佐が戻られたら長谷川が來たと伝えくれ」

    本當はすぐにでも相談したかったが本人がいないなら仕方がない。

    本部棟の當直に伝言を殘し、長谷川は格納庫へと向かう。

    巖國飛行場の格納庫はそれなりに広く、

  「中尉、発機チェック完了しました」

    長谷川の機  零式艦上戦闘機二一型  E-Ⅱ-110は朝からエンジン整備を行なっていた。

    

  「ありがとう。最近どうも調子が出なかったんだよ」

  「ネジ一本までキレイにしておきましたから、心配いりやしませんよ」

    自信満々で答える整備士  江川  隆  二等兵曹に長谷川も安心した。

    江川は長谷川が著任した時からずっと擔當していた。

    そのため江川も長谷川の機のことに関しては誰よりも理解している。

    

  「命を預ける機だからね。君たちのおかげで、あと10年は死なんだろ」

  「いやいや、中尉は兵役満期まであと4年じゃないですかぁ」

  「おっと。そうだったな」

    と、ここで江川が思い出したように呟いた。

 

  「そういえば、中尉の所の新米さんは大丈夫なんで?あの様子じゃ実戦參加は・・・」

  「そうなんだよ。どうにかして二週間でモノにしないといかんのだ」

  「二週間て、とても無理でさあ!なくともあと1ヶ月はかかるんじゃ」

  「だから困っているんだ。早く佐から助言を・・・」

  「俺に、何か用か?」

    突然、後ろから聲がした。

    振り返ると飛行隊長の阪口がニコニコしながら立っていた。

  「佐!いらっしゃったんですか」

  「當直から聞いてな。まあ、だいたい想像はつく。武本のことだろ」

  「はい、二週間後の出撃に何とか間に合わせたいんです。どうしたらいいかと」

  「ん〜」

    さすがの飛行隊長も困ったようだ。

 

  「よし長谷川、明日からしばらくあいつを預からせてくれないか?」

  「迷でなければ構いませんが、どうするんです?」

  「心配するな!俺に任せておけ。必ずあいつを一人前にしてみせる!」

  「・・・はぁ」

    正直な気持ち、長谷川は安心半分心配半分であった。

昭和17年2月19日    橫須賀第一飛行場

    本日も天気は快晴、だが武本はまるでスコールにでも襲われたかのように重々しかった。

  

  「遙ちゃん、訓練始まるよ?早く行かないと」

  「あぅ〜」

  「そんな顔したって上手くはなりませんよ」

  「は、はい・・・」

    武本は重い足取りでズルズルと歩き始めた。

  「ところで小隊長。今日もまた編隊飛行ですか?」

  「その予定だったけど。今日からは別の人に指導してもらいます」

  「別の人?」

     二人ともピンとこなかったが、とにかく走路へと向かう。

  「あれは」

    普段訓練予定の機走路の脇に寄せてあるのだが、三人の機の前に誰かが平然と立っている」

  「飛行隊長!」

  「飛行隊長じゃありませんか!」

  「おう、よろしく頼むぞ」

    そこにいたのはもちろん飛行隊長  阪口である。

  「今日から武本の面倒を見ることになったんだ。俺が教えるからにはもう安心だ」

  「でも、いいんですか?私みたいなダメ搭乗員のために」

  「なぁに、鍛え甲斐があっていいってもんだ。それに、中隊長からもたのまれちまってな」

  「長谷川中尉が?」

  「隨分心配しててな。二週間でまともなヤツにしてほしいとさ」

  「そんなに心配を」

  「ああ、だから中尉のためにも、俺が指導する。気引き締めてな!」

  「は、はい!」

    そして、この日から阪口による猛特訓が始まった。

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