《蒼空の守護》第17章(思)

 一機の輸送機が最南島から蒼都に向けて北上していた。朝焼けが輸送機をオレンジに照らしている。

 不意に、輸送機が左右に大きく揺れた。気流にったらしい。航行に支障はなかったが、ノノウは壁に思いきり頭をぶつけた。

 「イタタ…。」

 最悪の目覚ましである。ノノウはぼんやりと、この狀況になった理由を思い出した。

 「煌宮様が、私を同伴したいと?」

 「そうだ。會談は明日夕方だ。今から王都に向かわないと間に合わない。」

 「私なんかが出るべき場所ではないです。宮様の宿老となんか、渡り合えませんよ。」

 「今テアの周りには人がいない。私がけない以上、他に誰もいないのだ。もちろんアブエロも行かせる。こっち(最南島)は私が何とかする。」

 「しかし私は」

 「王族恐怖癥なのは知っている。それを承知で頼んでいるのだ。」

 メルは椅子から降りると、床に膝をついた。

 「なりません!私ごときに、そのような…!」

 ノノウは慌ててメルのを引き起こそうとした。しかし、非力なノノウの力では、メルはびくともしない。

 「承知するまでは、かんぞ。」

 新しいパワハラだ、とノノウは思った。しかし、メルをこれ以上この態勢にさせる訳にはいかない。肯く以外の選択肢は殘されていなかった。

 輸送機がイルストル空軍基地に著いたのは、晝頃のことだった。アブエロとノノウが輸送機から降りると、既にテアが出迎えに來ていた。王族が王國民を出迎えることは、極めて異例のことである。ノノウはまるで幽霊のように、アブエロの背後に隠れた。

 「煌宮様、お久しゅうございます。」

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 「記念式典以來かしら、変わらないわね。」

 「なんの、この一ヶ月で変わり果てました。南海事件より心安まる日がありません。」

 「メルに信頼されると大変ね。じいと、それから…」

 テアは素早いきで、背後にいたノノウを抱き上げた。

 「はじめまして、名參謀さん。」

 小のように震え、魚のように口をパクパクさせる姿からは、とてもメルに認められた人には見えなかった。

 王宮に向けて、數臺の黒い車が向かっていく。『王族恐怖癥』を克服させるために、テアはノノウを自分の隣に乗せた。カチコチに固まるノノウに、テアは気軽に話しかける。

 「要は、この世に王族なんていないと思えばいいのよ。」

 「そんなこと思えません…。非現実的な事を空想するのは苦手で…。」

 「これならどうかしら、こんなこともあるかと思って、持ってきたのよ。」

 テアはこの國で一番人気なゆるキャラのお面を被った。

 「こ~んに~ちわ~!あおたんだよ~!」

 聲がそっくりなのは、聲優がテアだからである。渾の演技も、ノノウの張を解すには至らなかった。

 (手強いわね…。)

 しかし、ここで負けるわけにはいかない。テア相手に張していては、宮の前でノノウの思考が止まってしまう。それは王宮側にとって、致命的なことだった。

 「以前メルにも使ったけどね…。貴にも使わせてもらうわ。」

 プレゼントで買ってきたビキニを頑なに著なかったメルだが、テアの必殺技の前にはなすがなかった。

 「テアちゃん、って言いなさい。さもないと…」

 「ギャーッ!」

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 テア渾のくすぐり攻撃がノノウを襲った。逃れようにも、ここは車の中である。運転手をアブエロにしたのはこのためだったのか、とノノウは気付いた。

 「やめて下さい!お願いです!お願いしますッ!」

 「私はメルほど優しくないわよ!さぁ、テアちゃんと呼びなさい!」

 絶が車に響き渡る。アブエロは去年の夏を思い出して微笑した。

 「で、結果は?」

 「かなり強い子ね。芯はメル以上かも知れないわ。でも、『テアちゃま』まではいった。」

 『ちゃん』と『様』が混ざったのだろう。しは克服したのだろうか。そうであってしいとメルは願った。

 「會談まであと3時間ね。皇后陛下、準備はよろしいですか?」

 「からかわないでよ。」

 軽く笑って流したが、このことはテアの心に引っかかっていた。白帝が殺された以上、次の帝王は弟であり、テアの夫でもある二宮で間違いない。直宮派のトップになった人が皇后になるのは、史上初めてのことである。數々の危ない場面に遭遇してきたが、これほどまでにプレッシャーをじたことはなかった。

 「今までで一番怖がってるかもしれない…。でも負けない。」

 メルが命をかけてこの國を守っている。自分も出來る限りのことをやると、テアは決意していた。

 イーレ(華宮)が王宮にやってきたのは會談二時間前のことだった。僅かな供回りで來ると思っていたが、護衛と稱して多くの車を引き連れてきた。まるで王宮が黒い高級車に包囲されているかのようだった。

 「テアさん、お待たせしました。」

 「10日ぶりね。あの時くらいの護送でよかったのに。」

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 前回イーレと王宮で會った時、テアは統宮に追われていた。執事が運転する車でかにここを抜け出したものである。

 「父上の命令です。ここまでしなくてもいいと思いますけれど。」

 イーレが軽くため息をつく。王宮と宮家の力差を見せつけているのだろう。既に戦いは始まっているのだ。

 「ノノウちゃんはイーレちゃんと同じ車に乗って。私はスボンギさん、じいと打ち合わせがあるから。」

 「えっ?」

 助けを求めるノノウの視線をアブエロは無視した。

 「參りましょう。」

 黒い車が次々と発進していく。不気味な発進音が王宮にこだましていた。

 (テアは私より大変だぞ。)

 ノノウは、メルの言っていた意味がようやく分かった気がした。これも、王族恐怖癥を克服させるための配慮なのだろうが、ノノウの張はますます高まるばかりだった。

 気まずい沈黙が流れる。しでも雰囲気を変えようとイーレの顔を見ると、イーレはクスリと笑った。

 「ノノウさん、張していますね。」

 「はい…。」

 自分より4つも年下のイーレの前でこの狀態では、宮の前では何も出來ないだろう。ノノウは心の中で頭を抱えた。

 「私もドラマの撮影前は、いつも張してしまいます。テアさんみたいに堂々としていたいですけど、簡単にはいかないですよね。」

 「華宮様は、どのようにして張を解しておられますか?」

 藁にもすがる思いで、ノノウは尋ねた。

 「そうですね…。まず、自分が一番落ち著く場所を思い浮かべますね。私の場合は、花園です。」

 「花園?」

 「えぇ、宮家(ウチ)の中庭に、溫室の花園があるんです。良かったら、會談の前に一緒に行きませんか?」

 重要な會談なのに、寄り道しても大丈夫なのだろうか。とはいえ、王族からのいを斷る訳にもいかない。

 「煌宮様に聞いてみますね。」

 メッセージを送ってから10秒後、あおたんと『OK』のスタンプがノノウの元に屆いた。

 「わぁ…」

 花園を見たノノウは、思わず言葉を失った。天井からは赤とピンクの花々、道沿いに広がるとりどりの花畑、どれも個が強い花なのに見事な彩の調和を保っていた。

 「どの花も思いれがあります。テアさんから頂いた花、最東島に旅行に行った際に買った花、今は亡きおばあ様が下さった花…」

 「あっ、この花は…」

ノノウの故郷、蒼北島に自生する花だった。雑草に紛れてしまうほど小さな花だが、紫の綺麗な花を咲かせる。

 「それは姉上がくれたものです。最近は、姉上も花や種を送って下さるのです。」

 イーレは、思い出すかのように上を見上げた。

 「姉上が仰っていました。大きな花も見事で良いが、私はその影に咲く小さな一の花を見つけるのが好きだ、と。」

 それは自分のことではないだろうか、とノノウは思った。將兵學校で埋もれていた自分を見つけてくれた守宮様。彼と出會ってから様々な出來事に遭い、何度も挫けそうになりながらも、いつも彼に助けられてきた。

 (今度は私が…)

 花の香りに導かれるようにして、ノノウの張が解けていく。

 「華宮様、私、心が軽くなった気がします。」

 イーレは何も言わずに、にっこりと微笑んだ。

 ノノウの決意に満ちた表を見て、テアはし安堵した。

 (これなら、戦えるかもしれない。)

 宮の宿老達は手強い者ばかりだろう。しかし、ノノウは誰も経験したことのない戦爭の最前線で戦ってきた。直宮派の有力な宿老達が殆ど処斷されてしまった今、テアはノノウの長力に賭ける他なかったのである。

 「行くわよ!」

 テアもまた次期皇后として、直宮の長としての決意を固めていた。宮と煌宮、政局は新たな局面を迎えようとしていた。

 「テア殿、お待ちしておりました。こうして會うのは『見送りの儀』以來になりますかな。」

 今まで見てきたどの王族よりも貫祿がある、というのがノノウが宮に抱いた初だった。宿老達も錚々たるメンバーで、ノノウが將兵學校時代に読んだ本の著者までいる。

 「はい、その時は思いやりに溢れた弔意の品々を頂きました。改めて、禮申し上げます。」

 「お気になさるな。王宮も痛ましい事件が続きます。先代の蒼侯・賢宮様に続き、陛下もお助けすることが出來ず、自分の不甲斐なさを悔やんでおります。」

 陛下を拐した真犯人が何を言うか、とは言えなかった。下手なことを言えば、新たな戦爭が起こるかもしれない狀況である。

 「いえ、逆賊糾宮を討伐して下さったこと、王宮は大変謝しています。この一ヶ月で沢山のが流れました。1日も早く平和を取り戻すことが、王宮の務めです。」

 「素晴らしき心掛けですな。微力ながらこの宮、お力になりますぞ。」

 「宮様、」

 口をはさんだのはスボンギである。

 「次期蒼侯は現時點で立候補者がおりませんが、誰が適任とお考えでしょうか?」

 「今私が名前を挙げれば王宮への政干渉となろう。この場で話す訳にはいかん。むしろ、このままいけば憲法上、帝王陛下が指名することになる。そなたは故・帝陛下にも々助言していたと聞いているが、今回はどう考えているかな?」

 確かに、いざとなれば次期帝王が宮を指名すれば良い。しかし宮の同意なく指名すれば、王宮と宮の間に大きな禍を殘すことになるだろう。

 「蒼侯になれるのは上級文だけです。既に直宮派の上級文は全て処斷されており、統宮様に追隨した者達も悉く捕まるか蒼都から逃亡しました。もはや、蒼侯になれる資格をもつのは、一人しかおりません。しかし、その一人も選挙には消極的な姿勢を示しており、適任者がいない狀況です。」

 敢えて名前を伏せたが、誰のことなのかは部屋にいる全員が分かっている。宿老は何食わぬ顔で話し出した。

 「次期蒼侯には混した政局と経済の立て直し、戦爭の方針決定という大きな難題が降りかかる。相當な旨味が無ければ、やりたい者はいないでしょうな。」

 「今は國難じゃ。王族王國民を問わず、一人一人が國家のために盡くす時ではないか?」

 アブエロの聲を聞いて、宮の顔が僅かに曇った。

 「『國難』にならぬよう、最南鎮守府を支えるのがお前の役割ではないのか?」

 「はい…。」

 宮を怒らせれば會談は決裂する。アブエロは押し黙るしかなかった。

 「旨味がない訳ではありません。」

 「お前がノノウか。話には聞いている。事実上の総參謀らしいな。」

 ノノウの報は最南鎮守府以外では殆ど知られていない。この辺りの報を拾っているあたり、流石宮だとテアは思った。

 「これです。」

 ノノウは明な瓶にったを見せた。し黒ずんだ灰を、機にそっと置く。

 「これは黒の國の戦闘機で使用されている燃料です。これを使えば、ミューナの航続距離は9倍になります。」

 「何っ!」

 宿老達がを乗り出す。ノノウはサッと瓶をポケットにしまった。

 「最南鎮守府は既にこの燃料の分を特定し、産出地も発見しています。守宮様は、次期為政者にこの報を渡し、一刻も早く生産してもらいたいと仰っています。もちろんミューナだけではありません。我が國の自車、飛行機、船舶、電力供給は飛躍的に進歩するでしょう。蒼侯令で産出地の所有権を抑えてしまえば、莫大な利益を手にする事が出來ます。」

 「…ブラフではあるまいな。」

 「噓であれば、如何様な刑でもおけしましょう。」

 宮とノノウの視線がぶつかる。ノノウは表を変えずに宮を見つめ続けた。しばらくの沈黙の後、宮がフッと笑った。

 「スボンギは知らなかったかも知れんが、実は私も蒼侯選挙に立候補する資格を持っている。複數のマスコミが私がやりたがっていないと伝えたが、それは本當だ。しかし、理由は全く別にある。」

 「暗殺疑のせいではない、と。」

 宮は頷いた。

 「希宮イルストル公を初代とする蒼侯制度が始まって以來、蒼侯はいずれも帝王の義父か弟という王家と近い関係にあった。私は王族ではあるが、王家との縁はかなり遠い。古來より、そのような者が宰相なると必ず王家との爭いが起きる。それは私のむところではない。」

 「そのようなことにはさせませんわ!私が−」

 宮はテアの言葉を手で制すると、宿老の一人に目配せした。

 「かつて、この國では皇后と中宮が鼎立(ていりつ)する『一帝二后制』というものがありました。そして、現憲法では王族に限り、複數の妻が認められています。」

 「一帝二后制だと!」

 スボンギが聲を荒げた。

 「1000年前、それも數代の帝王にだけあった特例ではないか!そのようなものが現代で通用するものか!」

 「しかし『先例』として確かにあります。」

 場を沈黙が覆う。しばらくして、テアが口を開いた。

 「つまり、宮様の娘を二宮様の中宮にしたい、と。」

 宮の代わりに宿老が頷く。テアは努めて明るい聲を出した。

 「良いではありませんか、王宮が賑やかになります。」

 「なんと…!」

 言葉を失うスボンギの隣で、ノノウは冷靜に尋ねた。

 「宮様、中宮には誰を考えておられますか?」

 「テア殿が好きに選んでくれれば良い。我が娘は十數人いるが、未婚の者なら誰でも良いですぞ。」

 年齢と王宮との距離を考えると華宮様だろうか…。そう考えるノノウの隣で、テアは即答した。

 「守宮殿なら同意します。他には考えられません。守宮殿が中宮になれば、蒼侯選挙に立候補して頂けますか?」

 ノノウは耳を疑った。それでは宮の思通りではないか。

 「守宮ですな、分かりました。ただし立候補はしません。帝王陛下が指名下さればおけしましょう。マスコミに消極的と報道された以上、私にも建前があります。」

 「分かりました。」

 宮が軽く手を叩くと、使用人が王族公式の誓紙を持ってきた。宮は誓紙に素早くペンを走らせると、テアに手渡した。

 「これで間違いありませんな。」

 テアは誓紙にサッと目を通した。帝王陛下が宮を蒼侯に指名した場合、宮はこれをれること、宮が蒼侯になれば、最南鎮守府は新燃料のデータを速やかに宮に渡すこと、王宮は守宮を中宮とすることを認めること…。

 「確かに、お約束致しますわ。」

 「細かい部分は我が宿老達とスボンギで詰める事にしましょう。では、」

 宮が手を差し出す。両派の幹部が見守る中、テアは握手をわした。

 帰りの車で、テアはノノウを隣に乗せた。

 「ノノウちゃん、よくやったわね!燃料の話は驚いたわ!」

 新燃料の話は、統宮とメルが対立したために発見から今まで宮廷に伝えられておらず、ずっと最南鎮守府のトップシークレットになっていた。突然現れたジョーカーは、會談の行方を決定づける一手になったのである。

 「ありがとうございます。」

 謝の言葉を述べながらも、ノノウの顔は不満げだった。

 「…メルを中宮に指名したこと、怒ってるでしょう。」

 ノノウの顔がサーッと青ざめた。王族恐怖癥を克服したのは一時的だったのだろうか。だとしたら、奇跡的だとテアは思った。

 「わわわ私が、煌宮様に怒るはずないじゃありませんか。」

 「顔に書いてあるわ。優だから、分かるのよ。」

 「…確かに、間違った判斷だと思いました。」

 消えるような聲でノノウが呟く。

 「でしょうね。言った瞬間、ノノウちゃん凄く怒っていたもの。」

 「だから、怒ってはいません!」

 「噓だったら、如何様な刑でもける?」

 「…怒っていない事を信じてくれない煌宮様に怒っています。」

 奇妙な言い回しにテアは笑った。やはり、ノノウはこの1日で大きく長したらしい。

 「ノノウちゃんなら誰って言った?」

 「華宮様ですね。煌宮様とも親しいですし、彼ならこの重責も耐えられるでしょう。」

 「あなたがイーレちゃんなら、中宮をやりたい?」

 思わぬ問いに、ノノウは言葉が詰まった。そのような視點で考えた事がなかったからである。

 「はい、とは言えないようね。政治的な正解と、人間的な正解は違うことがある。良く覚えておきなさい。最も無理を言えるのは、最も信じられる人間よ。私にとってそれが誰か、言わなくても分かるでしょう?」

 王家の名代を擔ってきた彼の言葉には重みがあった。

 「それに、私も怒っているのよ。ノノウちゃんの言葉に。」

 「えぇ!?」

 「前に言ったわよね、『私のネームバリューに対抗出來るのは守宮様だけだ』って。」

 「確かに言いましたが…」

 「対抗?笑わせるわ。メルに伝えておきなさい、『テアとは戦わない』って言っていたけど、『勝てない』の間違いでしょ、ってね。」

 冗談めかして言っているが、ノノウは靜かな闘志をじていた。二人は最も信頼できると同時に、最大のライバルでもあるのだった。

「私が中宮だと…!?」

 メルも驚きは、スマホからでも十分に伝わってきた。

 「煌宮様が仰っていました。『最も無理を言えるのは、最も信じられる人間』だと。」

 「…因果なものだな。」

 大きく息を吐く音が聞こえ、メルはいつもの口調に戻った。

 「テアを無理やり二宮様の妃にしたのは兄上と私だ。兄上は結局、結婚する事なく亡くなった。私だけが好きな誰かと結ばれるなんて、蟲が良いとは思わないか?」

 達観しているな、とノノウは思った。もしかしたら、テアはここまで読んでいたのかもしれない。

 「いずれにせよ、よくやった。その程度の譲歩ですんだのなら、功と言えるだろう。」

 「ありがとうございます。最南島(そちら)はどうですか?」

 「スィラがな…」

 メルの言葉が珍しく濁った。スィラは、最南島の防衛の要である南一空(最南第一航空隊)の隊長である。

 「スィラが、フォギの計畫した翠北港への攻撃計畫を実行すると言い出した。」

 「まさか…。」

 翠北港は、黒の國に躙されている翠の國の最北端にある港である。防衛隊として配備された南一空の隊長であるスィラが攻撃を認めるはずがないと、メルとノノウは考えていた。

 「スィラ様は冒険的な人ではないと思っていましたが…。」

 「フォギが、イスカさんの王族命令書を持って來たらしい。」

 「空宮様の!?」

 イスカは、スィラが尊敬する元上司である。王族命令書は元々絶対的な効力があるが、イスカの命令となれば、どんな條件でもスィラは呑むだろう。

 「空宮様ほどの人が、あの計畫を易々と認めるはずがありません。フォギ様は一どんな手を使ったのでしょう…。」

 「分からん、イスカさんは、フォギと面識はないと思っていたが…。」

 イスカの命令書とあれば、メルも拒否する訳にはいかない。敵地侵攻か領土防衛か。王都では未だに激しい議論が続いているが、最南鎮守府は敵基地攻撃へと舵を切ろうとしていた。

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