《複垢調査 飛騨亜禮》悪役令嬢

「マリアさん、また、規約違反通報メールが來てますよ」

メガネ君は午前中のいつもの儀式である報告した。

「今日は何なの? メガネ君の判斷で良きに計らってくれてもいいのよ」

いつものことだが、面倒な仕事はやらないぞ!という態度の坂本マリアであった。

IT企業<カレイドスコープ>の上司であった飛騨亜禮が失蹤してしまい、現在、巨大小説投稿サイト<作家でたまごごはん>の運営などをやることになってしまって、正直、面倒なことには関わりたくないのだ。

今日も無事、時が過ぎればそれに越したことはないという事なかれ主義だった。

やる気の全くない27歳である。

「それが事はかなり重大でして、これはマリアさんの判斷を仰ぐしかないかと思いまして」

メガネ君はいつになく深刻な顔をしている。

運営の仕事と小説のゴーストライティング二本を抱えた仕事のしすぎの26歳だった。

「もったいぶらずに、早く言いなさいよ」

その時、メガネ君の機にいつものミルクコーヒーが置かれた。

アルバイトの織田めぐみが軽く微笑む。

今日もかわいい20歳である。

しかも、彼れるミルクコーヒーはスタッフの中では『魔法のミルクコーヒー』と呼ばれ、市販のインスタントものを使ってるにも関わらず、彼がいれると絶品の味になるのだ。

ミルクとコーヒーの配合の黃金比率があるらしく、某名古屋の有名喫茶店で學んだらしいのだ。

「実は<悪役令嬢>は規」

「卻下よ! みなまでいうな!」

メガネ君は最後まで言うことができなかった。

坂本マリアの返事の反応速度が音速を超えていたからだ。

「今、脊髄反というより、首のあたりで反的に答えたでしょう」

メガネ君はあきれていた。

「<悪役令嬢>が規約違反? はぁ、そこに何の拠があるのよ」

いつになく戦闘的な態度の坂本マリアである。

「僕も全く拠などないと思いますが、いつもの『サブちゃんねるの規約違反スレ』のやつらの論理では<悪役令嬢>は元祖である『お嬢様は悪役令嬢』(作者:神楽坂舞子)の作者に著作権があり、他の作品はいわば『二次創作』に當たるのでは?ということらしいです。『お嬢様は悪役令嬢』以外の『悪役令嬢』模倣作品の全削除を求めて來ています」

メガネ君は無茶苦茶な論理展開だが、いつもながらいいとこ突いてくるメールに困気味である。

「うーーーーーー來たわね、屁理屈のウルトラC的論理展開! とにかく、『二次創作』に結び付ければ何とかなるという凄まじい執念をじるわ。そんなことしたら、<作家でたまごごはん>の作者の暴が起こるわよ!」

坂本マリアもちょっと困ってるようだった。

「神楽坂舞子こと、舞さんは今、失蹤してるし―――あ、メガネ君がゴーストしてるんだっけ。あーこれはまずいわ。どう対応しようかしら。そうだ、メガネ君はどうするつもりなの?」

いつものように仕事を投げっぱなしジャーマンにしようとする坂本マリアだった。

ちなみに、プロレスだじゃれです。

「僕ですか、そりゃ、二次創作解!と言うしかないですね」

用意していた答えを提案する。

「いいじゃない、いいじゃない、それ、グットアイデアじゃん! メガネ君、頼むわ」

といい終らないうちに、クルッと椅子を回転させてパソコンの方を向いてしまった。

何か真剣に打ち込んでいるようだった。

メガネ君がそっと後ろから覗いたら、『細川ガラシャは悪役令嬢』を更新中だった。

見なかったことにしよう。

ブックマーク40、ポイント234という微妙な評価な作品だったし。

まあ、100ポイント超えてるし、このサイトの底辺作家は卒業していて、上位20%にってるのだから立派なものである。

それはともかく、規約違反の通報メールはまだまだ來ていた。

メガネ君の苦闘は続く。

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