《複垢調査 飛騨亜禮》ねじまき姫
闇の中に黒い龍の機が浮かび上がる。
一つ首の龍の雙眼が赤くっている。
《YUKI no JYOU》同盟の<ボトムウォリアー>の隠部隊、<黒龍隊>である。
「夜桜、潛ご苦労だった。隊に復帰して後に続け」
隊長の月島が夜桜の長い潛作戦を労った。
夜桜は漆黒の<ボトムストライカー>で無言で佇たたずんでいた。
そこは《飛禮》同盟、今は連合軍の本拠地<スカイパレス>の城壁の背後の崖の上である。
防衛上の死角となっていて、ここから一気に突すれば城に容易に潛できた。
「―――了解」
しばらくして、小さな聲で答えた。
夜桜は元々、《YUKI no JYOU》同盟のスパイとして《飛禮》同盟に加していた。
それを知っていて、メガネ隊長はこの場所に夜桜を配置していた。
それは何故なのか、別に夜桜の寢返りを期待していた訳ではなかった。
「夜桜、お前………」
月島が背後を振り返った時には、すでに10機あまりの<黒龍隊>の機が、一刀の元に切られていた。
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夜桜の左手に、伝説の聖刀が鈍いを放っていた。
<天羽羽斬剣あまのはばきりのつるぎ>と呼ばれている闇の聖刀である。
隕鉄、つまり、地上へ墮ちた隕石に含まれる鉄を打って鍛え上げられたと言われている。
「なぜ、斬るのかと言いたそうですね。最初から俺は《飛禮》同盟の同盟員だったんですよ」
「二重スパイか」
月島は意外そうであったが、さほど驚きもしていないようだった。
「蛇の道は蛇というところですか?」
夜桜はにやりと笑った。
「そんなところだ」
月島も答える。
「では、殺し合いましょうか」
夜桜は抜け目なく、<黒龍隊>の殘存兵力をカウントしていた。
殘り20機。
鋭部隊だから十二聖刀もちでも骨が折れそうだった。
ハネケさんの方が大変だろうなと思いながら、夜桜は聖刀を構え直した。
†
ハネケの白銀のボトムストライカーは左手の破損以外にも満創痍だったが、何とか健在だった。
<天龍>部隊は殘り15機も殘っていたが、なかなか上出來と言えた。
「それにしても、敵の機のきが何だかおかしいわね」
それは長年、このゲームをプレイしてきたハネケだから気づけた違和だった。
<天龍>部隊のきが人間離れしているというか、まるでひとつの生きのように完璧な連攜を見せていた。
どうも視野を共有してるようなじがした。
それに、聖刀使いであるハネケがここまで苦戦するのは久々だった。
一瞬、白銀の翼で空中に靜止していたハネケの<ボトムストライカー>がはじけた。
長距離レーザーか何かで、背後から撃たれたようだ。
右手と右翼を持っていかれた。
破片が飛び散る。
<オリハルコン>も森の中に落下していった。
(ああ、これは落ちゃうな)
左翼と背中のブースター二基を吹かしてバランスを取ろうとしたが、キリキリと回りながらハネケの機は木々の間にり落ちていった。
追撃のミサイルが<天龍>部隊から放たれて、集中砲火を浴びる。
これはもうだめだと思ったが、何故か機には攻撃が當たっていなかった。
黒い<ニンジャハインド>がズタボロになったハネケの機を抱えて跳躍していた。
<ニンジャハインド>は周囲に溶け込むカメレオンのような《迷彩裝甲》をもち、隠機に特化した機である。
「大丈夫ですか? ハネケさん? 《飛鳥》同盟の風丸かぜまるです」
「ありがと。助かったわ」
「それに、<ねじまき姫>が來たので、もう大丈夫ですよ」
「げ! <ねじまき姫>ですって! あまり會いたくないわーーー」
「ハネケ、何、大破してるのよ! あんた! しゃーないわね。私のスペア機の<ボトムドール>に乗り換えなさい。あ、白い奴だよ」
通信ヘッドホンから、ガラの悪い聴きなれた聲が炸裂した。
ハネケの視界に、特徴的なシープホーンと呼ばれる頭部が見えた。
全ピンクの<ボトムドール>と呼ばれる機である。
<ボトムドール>は的な細の機で、機力に重點を置いていると言われているが、そもそも、その機を所有しているのが<ねじまき姫>だけなので、真相は謎に包まれていた。
「それと、影丸かげまるが<オリハルコン>回収したので、それも持っていってね!」
「<ねじまき姫>さん、それどういうこと?」
「立花城が空中に舞い上がっちゃったのよ。飛鳥隊長とメガネ君も一緒に空の上よ」
「げげ! うわー、それは大変ねえ」
「という訳で、ここは私と風丸かぜまるで何とかするわ」
もう一の黒い<ニンジャハインド>が、機輸送用の<ボトムキャリアー>と共に現れた。
彼が影丸かげまるのようだった。
<ボトムキャリアー>の荷臺には、三本の円筒形のコンテナが積まれていて、そのひとつの扉が左右に開いた。
中に見えるのは純白のスペア機の<ボトムドール>らしかった。
ハネケは素早くその機に搭乗して、<オリハルコン>を背中に付け直した鞘に納めた。
「では、ここは任せた! 武運を祈るわ、<ねじまき姫>!」
ハネケはそう言い放つと、ふと気になっていることを付け加えた。
「敵の連攜攻撃に気を付けて」
「わかってるわ。私を誰だと思っているの?」
予想通りの自信満々の返事が返ってきた。
「はいはい、天下の<ねじまき姫>様、大変、失禮しました」
ぺこりと頭を下げると、ハネケは純白の<ボトムドール>を駆って森の中に消えていった。
影丸かげまるの黒い<ニンジャハインド>も後ろに続く。
十二聖刀で唯一の<聖弓>使い、それが<ねじまき姫>であった。
そして、<ボトムドール>には飛行機能もある。
ハネケの純白の<ボトムドール>には、いつのまにか明の妖のような翅はねが生えていた。
しばらくして<天龍>部隊の攻撃範囲を抜けると、森の上空すれすれに浮上して一気に加速する。
影丸かげまるの黒い<ニンジャハインド>も障害を巧みに避けて森の中を異常なスピードで移してそれについていっていた。
「立花城が飛行コマンドを実行していたとわね」
ハネケは誰とはなしにつぶやいた。
<刀剣ロボットバトルパラダイス>のゲーム開始當初から本拠地飛行機能コマンドがあるというは、みんな知っていたが、気の遠くなるような膨大な資源が必要で、それを実行する同盟はほとんどなく、資金富な《メガロポリスの虎》同盟ぐらいだと思っていた。
とはいえ、運営會社がつくった≪YUKI no JYOU≫同盟がそのコマンドを実行するのはテスト的な意味でも不自然ではない。
ただ、飛行機能を有さない部隊が多い連合軍には不利ともいえる展開である。
《メガロポリスの虎》同盟辺りが兵を持ってることを祈りつつ、空中要塞と化した立花城へと急ぐハネケであった。
(あとがき)
この話も何とか2015年度中に終わりたいですが、ちょっと長引きそうなじです。
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