《名探偵の推理日記零〜哀のブラッドジュエル〜》第2章 暗がりの黒翼 3
7月23日午前6時、部下の最悪なモーニングコールで目を覚ました鳥羽は、苦蟲を噛み潰したような顔で、現場に向かうパトカーの後部座席に大を開いて座っていた。
隣には窮屈そうに部下が座っていたが、朝からイライラしていた鳥羽はそんな事お構いなしである。
モーニングコールの容はと言うと、都の高層マンションで殺人事件が発生したというものだった。
なんでも被害者は鋭利な刃で頸部をスッパリいかれたらしく、早朝に出勤しようとした高層マンションの住人によって発見されたらしい。
「あ、あれが現場のマンションです」
鳥羽のあからさまな態度に怯え、出來るだけ刺激しないように部下が窓から見える高層マンションを指さした。
「知ってる」
鳥羽は指差された方を見ずに、まるでおもちゃを買ってもらえずに拗ねている子供のようにそうらした。
パトカーが高層マンションのエントランス前で止まると、鳥羽と部下の刑事はそれぞれのドアから降りた。
「よし、行くぞ」
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鳥羽は仏頂面で部下を一瞥すると、1人でマンションへとっていった。
置いていかれた部下は小走りで鳥羽の後を追った。
エントランスはブラウンを基調とした壁に覆われており、その壁が淡いオレンジので照らされていて、スーツ姿の鳥羽達には不似合いなお灑落な空間が広がっていた。
正面のエレベーターホールまで行くと、鳥羽はホールボタンを押した。
いつもの鳥羽ならこんな隙間時間にも部下と他もない會話をするのだが、今朝からイライラしていた鳥羽は、エレベーターの扉が開くまでの間、ひたすら貧乏ゆすりをしていた。
扉が開き、カゴに乗り込むと鳥羽は作盤の前に立った。
「50階だったよな?」
「は、はい」
いつもとは違う張り詰めた空気の中、唐突に聲をかけられた部下は一瞬ビクッとをこませ返事をした。
その返事を聞いて鳥羽は 50のボタンを押した。押されたボタンがオレンジにると、カゴがゆっくりと上昇を始めた。
が浮くような浮遊と両耳に詰まるような覚をじながら、鳥羽はちらと腕時計の時刻を確認する。
時刻は午前6時3分。先程時刻を確認した時からさほど立ってはいないが、前述にあるように朝からイライラしていた鳥羽にとってこのエレベーターが50階に到著するまでがものすごく遅くじられた。
しばらく沈黙の時間が続くと、先程から続く浮遊をより一層じ、カゴのきが止まった。
扉が開くと、鳥羽の目に淡いに照らされた廊下と、その廊下の奧で集まって作業をしている鑑識が映った。
こちらが歩み寄ると、鑑識の人たちもこちらに気づいたらしく、その中の1人が駆け寄ってきた。
「警部、お疲れ様です」
「おう。で、どうだった?」
鳥羽は軽く手を挙げて鑑識に応えた。
「それが、現場には犯人に繋がる手がかりが何1つ殘っていない狀態でして……。捜査は難航しそうです___」
鑑識は鳥羽の顔を見て渋い顔をした。
「そうか、一応現場見せてもらってもいいか?」
「はい」
鑑識はそう言うと、し壁側に寄り鳥羽達のために道を開けた。
のそばまで行くと、鳥羽は仏に合掌してその場に蹲み込んだ。
「そういえば犯人の足跡とかも殘ってなかったのか?」
鳥羽は振り返って鑑識の顔を見上げた。
「確かに犯人のものと思われる足跡はあったんですが、かなり使い込まれたらしく、靴底がすり減っていてメーカーの特定が出來ていないんです」
鑑識が鳥羽の隣に蹲み込んだ。部下は相変わらず鳥羽に怯えた様子で、し離れたところから2人の背中を眺めていた。
「そうか、それじゃあ本當に何も手がかりが無いってことか……」
鳥羽はしばらく目を瞑ると
「あいつの家だ」
とだけ言って立ち上がり、踵を返した。その意味を察した部下は小走りでエレベーターホールまで行くと、ホールボタンを押した。
その場に殘された鑑識はポカンとした様子で、鳥羽の背中を見送った。
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