《名探偵の推理日記零〜哀のブラッドジュエル〜》第3章 恐怖の"カグツチ" 6

「はぁ……」

カグツチはフォトフレームに小さく収まったを見て大きなため息をついた。

思えばあれから10 余年。

カグツチは隨分と老けてしまったが、こちらに向かい笑みを浮かべる被寫は、相変わらず麥わら帽子を被り、元気に両手を広げていた。

「もうすぐお前の仇をとれるからな。そしたら俺もそっちに逝くから……」

そう語りかけると、カグツチは機の上に置かれたマグカップを手に取り、中に注がれた黒いを一気に飲み干した。

窓の外には広大な青い海が、頂上から降り始めた太にギラギラと照らされていた。

カグツチはこの海に深い思いれがあった。

遠くに響く波の音。

海底に不規則に並ぶゴツゴツとした巖のクラスター。

海流にまれる海藻たち。

周囲に群がる銀の魚は、それらを華麗に避けながら強い海流をともせず悠然と泳いでいた。

その時だった。

あの箱を見つけたのは……。

その箱は長年海水に浸かっていたせいか、ほぼ朽ち果てており、海底の巖たちに同化する様にひっそりとその場に鎮座していた。

「やっと見つけた……」

レギュレーターを咥えているため、何かのうめき聲のように聞こえた聲は、気泡となり互いに重なり合いながら、揺れく紺碧の空へと消えていった。

直後微量の気泡と共にブザー音がカグツチの耳に飛び込んできた。

ボンベの空気殘量があと僅かなのを知らせる警告音だ。

カグツチは焦ることなく、箱を目の前にして浮上すると、海面に顔を出しレギュレータを口から外した。

今となっては後悔しかない。

あの時目の前の箱に手をばしていたら……。

あの日からカグツチは毎晩悪夢にうなされ続けていた。

首を絞め続けられる夢。

包丁で滅多刺しにされる夢。

で毆られる夢。

大海に沈められる夢。

どの夢にも共通するのは、カグツチのよく知るに殺されるということだった。

は悲しそうな表でカグツチを殺すと、決まって自らも命を絶ってしまうのだ。

カグツチは怖かった。

自分のせいで無念の死を遂げてしまったそのが。

それでもカグツチは彼のことをしていたのだ。

にとって自分は唯一無二の存在なのだから。

またカグツチにとっても彼は唯一無二の存在であった。

「すまなかった。してるよ」

カグツチはそう囁くとカーテンを閉め、ベッドに力なく座り込んだ。

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