《名探偵の推理日記零〜哀のブラッドジュエル〜》第5章 生贄の檻 1

「はぁ」

イワは木刀をタオルで拭きながらため息をついた。

得意の日本刀を持ってこなかったのは、カグツチ様からの命令である。

カグツチ様曰く、生贄はホテルの一室に手錠をかけた狀態で放っておけば、カグツチ様自ら生贄を処刑するらしい。

もちろん生贄を部屋に放る時以外は、扉には鍵をかけ、絶対に中を見ないようにしなくてはならないと言う命令もけた。

つまり、イワ達は生贄達には傷一つつけることも許されないのだ。

イワは木刀の乾拭きを終えると、バッグから小さなボトルを取り出し、その中をタオルに垂らした。

が染み込んだタオルで再度木刀を拭くと、木刀は見違えるほど艶めき出した。

「へぇ、意外と綺麗になるじゃん」

橫で見ていたネクが嘆する。

一方イワはそんな言葉に耳を傾けず、さっさと手れ道をしまい、木刀も腰につけた鞘に収めてしまった。

「でもカグツチ様はなんで殺傷能力の高い武の持ち込みを止したのかな?」

無視されてもなお、ネクはイワに話しかける。

「生贄はカグツチ様自ら処刑されるのだ。俺達はそれに加勢するのでなく、あくまで処刑の準備をするまで。それ以上のことは考えてはならない」

イワが冷たく低い聲で答えた。

そうは言うもののイワもこの命令にはし戸っていた。

自分が得意とする日本刀が使えなくなってしまったし、仲間達も最大の武であるピストルを奪われてしまった。

代わりに渡されたのは警棒と弾の込められていないピストルだけである。

自分は木刀があればそれなりに闘うことが出來るが、他の人間はどうだろうか。

ツツは空手が出來るが、その他3人は何も出來ない。

本當にこれで作戦を遂行できるのか疑問ではあったが、ここまで來てしまった以上引き下がることはできなかった。

「ねぇ、何考え込んでるの?」

神妙な面持ちで一點を見つめるイワを心配してネクが、顔を覗き込む。

「なんでもない」

イワはまた冷たく言い放つと、今度は立ち上がり洗面所へと向かった。

「変なの」

殘されたネクはイワの背中を見送ると、イワに聞こえないような小さな聲で囁いた。

洗面所の鏡に自分を寫すと、イワは洗面臺に両手をつき、鏡に顔を近づけた。

酷い顔だ。

1ヶ月前、例の作戦をカグツチ様から聞いた時から張でろくに寢ることが出來なかった。

イワは蛇口を捻り、両手一杯に水を溜めると、それを自分の顔に思い切りかけた。

狀態だった脳が落ち著きを取り戻し、イワはまた大きくため息をらした。

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