《名探偵の推理日記零〜哀のブラッドジュエル〜》第5章 生贄の檻 4

「たった今からこのホテルはカグツチ様の支配下に置かれた。この男のようになりたくなければ大人しく俺たちの言うことを聞け」

倒れ込んだホテルの従業員を木刀で指してこちらを睨むと、戦闘服を著た男はこちらのテーブルを一瞥した。

「何をするつもりだ!!」

普段の溫厚な聲には不似合いな、ドスの効いた聲で勉は男達を威嚇した。

「黙れ」

男達は質問には答えず、勉を睨みつけた。

「まずお前達にはここから消えてもらう。全員階段とエレベーターで1階へ向かえ!!」

今度は警棒を持った男が低い聲で會場の空気を震わせた。

隣に座っていた亜は涙目で圭介の腕にしがみつき、顔を俯けていた。

圭介は焦りながらも1つ疑問を抱いた。

なぜ奴らはこんなにも大勢の人質を一気に解放してしまうのか?

これだけ大勢いれば、警察へ何か要求するたびに徐々に解放していく方が奴らにとって有利にことを進められるというのに。

しかし奴らはここにいる全員を解放すると言った。いや、もしかしたら何か裏があるのかもしれない。

そんなことを考えていると、先程とは別のカーキの戦闘服を著た顔の男が、こちらに歩み寄り銃を向けた。

「お前達はここに殘れ。それからそっちのお前達もな」

そう言って顔の男は隣のテーブルに座っていた三井らにも同様に銃を向けた。

圭介はなんとなく合點がいった。

おそらく人質が多すぎて、思わぬ反撃を食らうことを恐れたのだろう。

それにここには赤澤財閥のトップである赤澤勉がいる。

これだけ力がある人間を人質にとられれば、警察も慎重になり、強行突破と言った力技を使うことを躊躇うと考えたのだろう。

「助けは來ない。すでに警備室は同胞が制圧済みだ」

顔の男は険しい剣幕で睨みつける勉に銃を向けると、自らの顔に負けず劣らずの聲でそう言い放った。

「そんなことをしてもすぐに機隊が部隊を編して乗り込んでくるのがオチだぞ」

さすが警視庁の鬼警部の鳥羽、落ち著き払った聲で男に忠告した。

「その心配はないよ」

「ど、どういうことだ!?」

明らかに怯え切った様子で冷や汗をたらす城ノ口が男に問う。

余程の自信があったのだろう。男はニヤリと不適な笑みを浮かべると、城ノ口の質問に答えた。

「この階の至る所に弾が設置されてるんだ。しでも妙なきがあれば人質諸共あの世行きってわけさ。まぁ、俺たちはカグツチ様の子。この世での役目を終えれば今度は神となり、再びこの世に幸福の世界を作るのだ」

「ふん、下らん。カグツチ様だの幸福の世界だの訳のわからんこと抜かしやがって。そんなの俺達には関係ない。さっさと俺達を解放しろ!!」

三井が腕を組み、まるで挑発するように男に怒鳴った。

「カ、カグツチ様を馬鹿にしやがったな!!」

顔を真っ赤にした男はポケットから赤いリモコンのようなものを取り出し、それを天に掲げた。

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