《バミューダ・トリガー》十幕 明日香リヴァイバル
「人君、これなぁに?ミサンガ?」
そう言いながら、第二の襲撃者千葉ちば 逸すぐるが右手を掲げる。
「くっ、お前っ!それを返せ!!」
俺の周りで起きた《バミューダ》に巻き込んでしまった実の姉恭香きょうかの、形見であるそのミサンガを、逸に摑まれていることが腹立たしい。
「そんな怖い顔、しないでくださいよぉ!大丈夫ですよ!こんなゴミ、ちゃんと切り刻んで捨ててあげますから!!」
そう言って逸はミサンガを放り、そのまま手に顕現した刃で切り裂こうと、右手を振り抜く。だが―
そこにあるはずの、黒くる死の刃は、空を切ることさえ出來なかった。
すなわち、跡形もなく・・・・・消滅していた・・・・・・。
「あらら?」
拍子抜けしたような聲をあげ、逸はバランスを崩す。
そして、人もまた、その隙を逃すほど鈍くは無かった。
「お・・・ラァッ!」
一歩、二歩と逸に迫り、右手を軸にして逸の左足を蹴り払う。
「ぐっ」
バランスが崩れていたところに追い討ちを食らった逸は、廊下に後頭部を打ち付けた。
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うめいてはいるが、頭を押さえながらも立ち上がろうとしているのを見る限り、まだ引き下がってくれそうもない。
俺は逸が立ち上がるまでの間に、先ほど放られたミサンガを拾った。
再び記憶が呼び覚まされる―
―――――――――――――――――――
私は―
人が死ぬまでは生きて
見守ってたいかなー
子供扱いすんなよ
4歳も離れてたらしちゃうでしょー
子供扱いぐらい
・・・・・
人
ん?
ずっと見守ってるから
うん、勝手にどうぞ
人は反抗期だ!
違うね!
――――――――――――――――――
先程まではなかった記憶、空白の中に溶けていた記憶。
恭香の言葉、溫かい記憶。
かつて俺に、希をくれた記憶。
翔斗しょうとは、親父みたいに強くなりたいと願った。
俺は、この時間がこれからも続いていきますように、と願った。
単純に、翔斗が強くなりたいと願ったことが、翔斗の能力に反映されていたのならば―
(俺も、そうなのだろうか?)
だとすれば、俺が発現したのは、一どういう能力なのだろうか。
(何があったか、思い出すんだ・・・)
逸の攻撃により切られたミサンガが俺の《トリガー》であり、逸はそのミサンガを摑んだ。
その後、逸の能力と思われる黒い刃が、消滅した。
武にのみ反応したということは―
(武の無力化か?)
そこまで考えたところで、逸の攻撃が再開する。だが、頭の打ち所が悪かったのか、足はふらついており、死刃いばいの命中能も落ちている。これならばかわしていけるかもしれない。
だが決して無視できない、明日香親子のことが心配だ。明日香がいたように見えてからも刻々とが過ぎている。
何らかの奇跡が働いて彼が息を吹き返したのだとしても、の出がある。
急いで処置をしなくては、このままでは今度こそ、本當に死んでしまう。
(攻撃をかわしつつ、隙をついてもう一度床に打ち付けてやれば、勝機はあるっ!)
しかし、そんな考えは甘かった。
「くそぉっ!!神河 人かみかわ りんと!もうやめだ、こんなチマチマ攻撃なんかしていられるかっ!」
そう言うと、刃の形に形作られたエネルギーが、その形を失う。
そしてグローブに再び宿った黒いエネルギーに、俺は見覚えがあった。
(代市 冬しろいち ふゆの、衝撃波っ!!)
「消え失せろ!神河 人ォ!!」
雄びとともに膨れ上がるエネルギーは、目視にしておよそ、冬の倍以上。
(あいつと違って、形が見えるだけマシだがな・・・!)
冬の一撃でさえ、家屋の壁を砕く代であったというのに、その倍となると一撃で家が吹き飛ぶ可能もある。
そうなれば、俺はもちろんの事、まだ息のある明日香や、その母親も生きてはいられないだろう。
無論、かわすことなど出來ない。
増幅されたエネルギーを止めるには、賭けをするしかなかった。
まだ効果が不確定な、能力の行使。
逸の左手の武は消えていなかったことから、先ほどまでの考察が正しければ、ミサンガから一定範囲の武を消滅させることが出來るはず。
(1ヶ所に集束されたなら、あるいは!)
生死を分ける賭けに出る。
俺は逸の手に向かい、ミサンガを放った。そして、ミサンガが黒いエネルギーに吸い込まれていった瞬間―
恐ろしく増幅していたエネルギーは、噓のように消えた。
「なっ、なんだと?!・・・ちぃっ!!」
揺する逸。だが、立ち直りが先ほどより早い。すぐさま、右手に黒い刃を形し、再び俺に向かって放とうと構えた、そのとき―
逸の頭上から、明日香自宅のリビングにあった椅子が、勢いよく降り下ろされた。
「がっふ、、、」
予想だにしない一撃に、逸は白目を剝いて崩れ落ちる。脳天を直撃した椅子は、逸とともに床に転がった。
「な、にが・・・?!」
俺は狀況が理解できないでいる。なにせ、この家にいたのは逸を含めて4名、うち二人は倒れ、殘る二人で戦闘を行っていたのだ。
また、逸は玄関をバックにして廊下に立っていたため、誰かがってきたら気づけた筈だ。
(一、誰が・・・?)
次の瞬間、その答えを知ることになったが、それは到底理解し難いものであった。
息を荒くしながら、リビング側の扉から出てきたのは、逸によってを貫かれ、つい先ほど俺の手の中で一度息絶えたはずの―
明日香であった。
「えっ・・・と、人君、私、何で、?」
口を大きく開いたまま直する俺。
そんな俺に明日 明日香ぬくい あすかは
俺が発するべきセリフを、放った。
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