《バミューダ・トリガー》続・十二幕 アビリティ・ラッシュ

トントン拍子、とはよく言ったものである。まさに今、高校生二年部の生徒はトントン拍子に覚醒を遂げていた。

諒太の妹である京子を含めると、開始から僅か十數分で、三人の生徒が能力を覚醒した。

そしてこれに続くように、また一人覚醒へと進んだ。

方眼紙を《トリガー》とする、鷲頭 零だ。

「うちは、遭難した兄さんが生きてると信じてたんよ。ほんやから、多分願っとったんは―」

《何処かで助けを待つ兄さんのもとに、何か助けになるものを送りたい》

「方眼紙が《トリガー》なんやし、どんな能力かは何となく予想できるんよね」

そう言って零は方眼紙を広げ、ポケットからシャーペンを取り出した。

人さん、いくよ」

「ん?」

そう言って零は、シャーペンを使って何やら方眼紙に印をつけた。

次の瞬間、彼が手に持っていたシャーペンが消えたかと思うと、俺の手の上に出現した。

「おお!」

「うっそ!零ちゃんも出來たの?!」

俺の驚きの聲に続けて、鈴の若干悔しそうな聲が響く。

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「影近さんが言いよった通り、考えて思い出すんと違って、自分の過去を振り返ってみたほうがいいんやないかな」

零は、し頬を赤らめ嬉しそうに話した。

「なるほどっ・・・!」

そこでさらに、能力という単語に人一倍興していたゲームオタク系男子・加賀 秋仁が聲をあげた。

「鷲頭のおで、俺も思い出した。多分間違ってない」

いつになくテンションが高いのを隠すかように、冷靜な口調で秋仁は言った。

《ゲームの攻略中だし遠出はしたくねぇな》

そう言って秋仁は二つの攜帯を構えた。

(な、何だその願いはっ?!)

呆れる俺であったが、秋仁から片方の攜帯を投げられたため、正気に戻る。

「おっとと・・・」

危うく落とすところであった。

しかしすぐに異変に気づく。

攜帯を摑んだ次の瞬間、三メートルほど先から攜帯を投げて寄越したはずの秋仁が、目の前にいたのだ。

「俺の能力はどうやら、俺自の移みたいだな。でも零のようにどこでも自由にって訳じゃねぇみたいだ。二機の攜帯間の移、ってとこか」

家でゲームに熱中するあまりに願った、家から出たくない、遠出をしたくないという願い。

そんな子供のような願いは、自の瞬間移能力という形で秋仁に返ってきた。

(移したくないという願いから生まれた、移の能力か・・・)

條件があるとはいえ、かなり有能な能力に思えた。

秋仁の能力が覚醒した直後、訓練場に擔任の永井先生がってきた。

「おい皆、済まないがこの練習場が使えるのはここまでだ・・・ってうぉう!?」

割れた壁と焼き削られた床に唖然とする先生。

靜まり返る訓練場。

どうやら、帰る前に説教されるのを覚悟しなくてはならなそうであった。

とはいえ、初日にして五人もの生徒が覚醒したという事実は、今まで何も知らなかった俺たちにとっては大躍進であった。

さらにここで、驚愕の報が永井先生の口から告げられた。

それは、高校生二年部を除く生徒全員・・・・・・・・・・・・・が、今日一日で覚醒した・・・・・・・・・、というものであった。

能力を覚醒することに功した生徒は、襲撃者に対抗するを手にいれたということだ。

(次襲撃があれば、誰も傷付けさせずに捕まえてやるからな・・・!)

俺は初日の手応えと共に、そんな思いをもって帰宅した。

人じゃないかー、おかえりー」

キッチンで手際よく料理をしていたのであろう紗奈が振り返る。

「ああ、ただいま」

「でー、能力検定はどーだったー?」

間延びした聲で問われると何ともがなく聞こえるが、これでいて紗奈は俺の事を結構気にかけてくれているらしい。

「それがな、かなりたくさんのやつが覚醒したんだよ」

「ほえー!すごいじゃーん」

「もう皆、大丈夫だ。もう誰も傷つかせない。怪校の皆も、紗奈も」

「あらぁー?うれしいねぇー。前は私、ぼっこぼこだったもんねー」

「それを言われるとなんも言えねぇよ」

「ジョークだってばー!じょーく!」

「刺さるんだよ!俺の純心に!」

紗奈と話すと、疲れるようで、どこか安心させられる。

俺は改めて、もう二度と、誰にも傷つけさせまいと心に誓った。

その夜。

それは一本の電話から始まった。

チャラララン チャラララン

時刻はすでに十一時を回っていた。

浴等を済ませ、いざ寢ろうとしていたとき、枕元の攜帯が鳴った。

(・・・ん?翔斗か。こんな時間に何だ?)

ピッ

人か?!聞いてくれ、急事態だ!」

「っ!どうした?何があった!」

翔斗の聲は迫していた。

そして、翔斗は告げる。

「予告だ!今までに無かった、犯行聲明が出された!襲う場所と、日時!そして、差出人の名前!」

「はぁっ!?」

信じられなかった。

(奴らの目的は能力者の殺害のはず・・・)

不意に襲って來るからこそ驚異であったというのに、犯行聲明が出されたというのならば今までよりも容易に対処できるはずだ。

「そんなもの、いつ屆いたんだ?!」

「実は今日、冬や逸みてぇなグローブをつけたやつを見かけて追ってたんだ。だが、幾つか角を曲がったところで見失っちまってな。代わりに黒いカードが落ちてて、そこに犯行聲明が書いてあったんだ」

(なるほど、どうやら本らしいな・・・)

だが、確かめたいことがひとつあった。

「翔斗、その報は・・・?」

「ああ、信じられるかは分からねぇ」

翔斗は予想した通りに返してきた。

そう、この聲明を信じることで、敵の掌で踴らされる可能があった。

「信じられない上に、の可能もあるってことか」

「だが、聞いてくれ。この聲明が本當なら、放っとけねぇんだ・・・!」

翔斗は聲を潛めた。

「・・・どういうことだよ?」

つられて俺も聲を潛める。

「犯行聲明によると、明日の夜八時に警察署を襲うつもりらしい!差出人の名前は―」

一旦言葉を切り、翔斗はその名を口にした。

「対能力者組織スキルバスター 統括者・鐵 里音くろがね りおん」

「!」

対能力者組織の響きが不穏に響く。

「多分今までの能力者は二人とも、こいつが仕向けてたんだ!」

明日の夜まで24時間。

警察署を狙うということは、目的は恐らく「怪校」の壊滅。

(夜を指定してきたのは、相手側が有利になれるからだろうか?)

もう、聲明を疑ってはいられない

明日中に怪校の生徒に伝えなくてはならない

そしてなんとしても

食い止めねばならない

「怪校」の勢力と

「対能力者組織」による

魔能力戦バミューダバトルが始まる

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