《バミューダ・トリガー》十四幕 蒼真の訪問

こんなにも落ち著かない晝下がりは初めてかもしれない。

なにせ事実、予告狀の通りであれば今夜八時には対能力者組織から襲撃がかけられるのだ。

今まて俺たちの能力の名前つけにつきあってくれていた擔任の永井先生は、今夜に向けての會議と職務のため警察署に戻ってしまった。

それからも、俺たちはいろいろと策を講じてみたのだが、一日とは短いものだ。授業の際はゆっくりと流れる時間も、今は飛ぶように過ぎていき、遂に午後の六時を迎えた。

俺のクラスには、俺を含めて七人の能力者がいる。だがその七人全員の能力が、今夜起きると思われる「戦闘」において活躍出來るか否かはは分からない。

(確証をもって戦力と斷言できるのは、影近の斬撃出能力と翔斗の風読かざよみぐらいか・・・)

強いて言えば諒太(と言うより植原兄妹)のレーザーも使えなくは無いだろうが、あの兄妹は互いが傷つく可能のある戦闘には參加したがらないように思えた。

つい先程までは自らの能力に名前をつけたりして和やかに時を過ごしていた俺のクラスメイトも皆、さすがに張を隠しきれずに表を固くしている。

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そして俺も。

俺は、今までに起こった二度の襲撃においてはとんだ役立たずであった。

その不甲斐なさ故に初めの襲撃では義理の姉である紗奈に大怪我を負わせた。

つい先日の明日家への襲撃でも、明日香の母親を危険な目に合わせた上に、あろうことか明日香のに刃を突き立てられる事も防ぐことができなかったなかった(実際には、刺された後の明日香は彼の能力であると思われる力のおかげでピンピンしていたが)。

そして―

今日の決戦では、これまでを越える力を持った能力者が現れる事も充分あり得る。

敵の人數も分からない。

力の差も分からない。

そんな得の知れない脅威への恐怖が、俺の足をすくませ、手を震えさせていた。

「おい人!お前まさか、びびってんじゃねぇだろーな!?」

不意に聲をかけられて顔を上げると、先程まで張した面持ちをして自席に座っていた翔斗が、いつの間にか側まで來ていた。

翔斗は、怪校の高校生二年部で唯一、単獨で襲撃者のの一人を打ち負かした生徒だ。しかし同時に、翔斗は俺たちの中で一番恐怖し、張していても仕方のない生徒のはずだ。

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敵に襲われ、を引き裂かんとして幾度となく放たれる斬撃をける恐怖と絶を―

―そのをもって知っているから。

「別にびびってねぇよ・・・ただ、どうすれば怪校側の被害を最小にとどめて俺たちが無雙出來るか考えてただけだ」

「噓つけ、そんな前向きな顔してねぇんだよ。相手の戦力への疑問とか、俺の気持ちの心配とか、ネガテイブな事ばっか考えてたんだろ?」

切り返す翔斗は、しばかりあきれた様子で言及する。

「―え、?」

俺はそんなことまで見かされてしまうほどを顔に出していたのだろうか。

「へぇー!翔斗くんすごいね、私なんか全っ然気づかなかったわよ。いつもの顔だなぁっとは思ったけど」

そう言ったのは鈴だ。

他の面々も、翔斗が俺の思考を読んだことに心、あるいは驚いているようである。

やはり俺が顔に出してしまっていたわけではないらしい。

(・・・あれ?)

以前にもこんなことがあった気がした。

―そうだ。しばらく前、怪校の生徒のうちの大半のもとに《トリガー》が戻ってきたとき。

あのときも、翔斗は俺の考えていることをさらっとじ取っていた。あのときは曖昧に話していたが、今回はどうだろうか。ついさっきの翔斗の言葉は、あまりに的確に・・・・・・・・・、俺の思考を把握しているように思えた。

これではまるで―

「翔斗、お前のそれは、もしかして風読かざよみの効果なんじゃないのか?」

風読。

空気を通して相手のきをよんだり、あるいは自らのきを高度化する、攻防雙方に有能な力にして、翔斗の能力だ。

その能力を持ちながら、さらに相手の思考も読めるとなれば、それは恐らく學年最高クラスの戦力となる。

「それ・・ってのは、俺が人の考えを読んだことか?」

「ああ、そうだ」

「意識はしてなかったんだがなぁ・・・」

そう言いながらもけろりとしている辺り、意識をしていないという一言は紛れもない本心のようだ。

ガラァッ

突然、教室の扉がスライドされる音が響く。

高校生二年部の全員からの視線をけて教室にってきたのは、高校生一年部の生徒、確か名前は・・・亜襲 蒼真あかさね そうまだ。

蒼真はってきて早々、近場にあった儚の椅子に腰かけて、鋭い目をこちらに向け、眉ひとつかさずに口を開いた。

「確認したい事がある」

ひとつ下の學年であるというのに、なんと失禮な立ち振舞いだろうか。

「・・・・・・?」

その場にいた二年部の生徒は、俺を含めて皆困気味だ。

それもそのはず、何しろ突如現れた彼のことを、誰一人として知らないのだ。

俺も転校してきた當初、ひとつ下の學年の生徒は三人しかいないということを聞いていたため、興味本位で何となく名簿を見て顔と名前を知っていただけだ。

ましてや怪校の生徒たちは、完全に學年を分けられて生活しているため、普段は顔を合わせることもない。

一応、學年間の流を目的とした合同の行事も計畫されてはいるらしいのだが、まだ何の話も聞かされていない。

そのため、全校生徒が二十二人とない怪校の生徒であっても、全員と面識があるというわけではないのだ。

「黙ったってことは、聞いても良いってことだな。っと、先ずは自己紹介をするのが禮儀か?正直聞いても誰も得はしねぇと思うが・・・・怪校、高校生一年部の亜襲 蒼真だ」

以外にも禮儀と言う言葉を口にして名乗ったことに、先程の第一印象を改める。

「亜襲くんっていうんだね。それで、確認したいことって?」

俺と同じく誤解を撤回したらしい鈴が先を促す。蒼真は、真剣な表をつくる。

「・・・このクラスで能力を覚醒したのは、十人中何人だ?」

誰が答えるでもなかったので、俺が答えることにした。

「七人だ。三人はまだ覚醒していない」

考えるほど難しい問いでもなかったため、正直拍子抜けである。そんなことを聞いて、一どうしようと言うのか。

「そうか、助かった。十分だ」

そう言うと、蒼真は淺く禮をして教室の扉へ向き直った。そのまま立ち去ろうとした蒼真に、鈴が呟いた・・・とは言い難いくらいの(というか、わざと聞こえるような)聲量で聲をやった。

「もうあったら可げもあるのにね」

蒼真は、しだけきを止め橫目でこちらを見遣る。

「・・・失禮しました」

ひと言。

しだけ丁寧に、それこそ取り繕ったようなぎこちなさで。

蒼真はそれだけ言うと、高校生二年部の教室をあとにした。

―――――――――――――――――――――――――

時計の針が七時五十分を指す。

作戦は結局、曖昧になってしまっているが、はじめの手順だけは変わらない。

それは、近隣の被害を防ぐことだ。

そのために警察署―もとい特別治安部セーフティーズは、怪校と同じく地下に建設されている訓練場での応戦を提案した。

決戦まで、殘り五分。

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