《バミューダ・トリガー》十九幕 決斷

頭上からの攻撃。それは、人単の質量、そして重力。それらをすべて有効に使って仕掛けられる、限りなく優勢な攻撃。

対人においては、よほどの怪力でも誇って無い限り、下手の學生などが押し返せるようなものではない。

まして、相手が大人であれば。

そして神河人には、そんなものを押し返す力など無かった。

バチッ

頭上から投げかけられた、電流の音。

気づいたときにはすでに、永井はすぐそばにまで接近していた。

「殘念だねぇ、人くん」

「っ!?」

(上から・・・!?)

とっさの判斷。背後を棚に預け、警戒していた方角は前方と左右。

しかし、そのどれとも異なった上からの攻撃に、人はどうしようもなく対応に遅れる。

俺の視界は限りなく狹まっていた。

青白く電を走らせたスタンガンが、ゆっくりと、確実に迫ってくる。

しかしかない。

首筋をめがけてつき出された腕。

永井は、その顔にありありと狂気を浮かべていた。

「おやすみ、すぐ皆と會えるさ」

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最後の足掻きとばかりに俺は橫に首を振る。しかし、遅い。

冷たくる電極が、人の首にれ―

「怠惰即ちアインワークっ!!」

聲がした。

と同時。目前に迫った永井の腕が、下方から振り上げられた腕によって、弾かれる。

辛うじてスタンガンを取り落とすことを防いだ永井が、驚異的な能力で後方へ飛び下がった。

「おい神河、言っておくがこれは貸しだ」

「し、秋仁・・・!」

そこに立っていたのは、紛れもなく秋仁であった。

突然現れた怪校の生徒、それもクラスメイトに、安堵と疑問が頭を過る。

なぜここに居るのかという疑問。

しかし俺は直ぐに、秋仁の能力を思い出した。

(攜帯間の移っ!)

「じゃあ、あの割れたスマホは・・・」

「チッ、やっぱそうかよ。買ったばっかなのに勘弁してくれよ」

聞きたくなかった事実を聞いた様子の秋仁は、苦い顔を作って舌打ちをする。

「だがまあ、電源がっていたのは幸運だったな」

そう言われて俺は、つい先程の己の行を思い出す。

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「ん?電源なら俺がれたんだが」

「ハッ・・・まぐれの種が花開いて大ラッキーってことか」

忙しいことに、今度は呆れた様子でため息をついて秋仁は僅かに目を細める。

「しかもポケットにれて持ち運んでいたとは・・・もはや強運のレベルに収まらねぇんじゃねぇか?」

「へっ、まあおでスタンガンも回避できた訳だしな」

「だからそれは強運じゃなくて俺のおだっつの」

互いに言い切って、俺と秋仁は僅かに広角をつり上げて悪い顔を作って笑い合う。

「邪魔をする形になるかもしれないが、もうちょっと危機を持った方がいい」

聲のする方向には、もはや冷徹そのものと化した表の永井が立っていた。

全く揺の無い相貌に、容赦はない。

そして、おもむろにスタンガンの持ち手の方を捻る。すると、彼の武に変化が起きた。持ち手が延し、両端に電極が現れる。

バチバチと、スパンが圧倒的に速くなった電スパークの音が連続する。

靜寂を宿す多目的エリアに、その連続音のみが不吉に響く。

「これは、俺が得にしている武・電撃エレクトールだ。無論、人間の捕獲などという生易しい目的には使わない。俺がこれを使うのは、対象を殺傷するときだ・・・・・・・・・・。」

言って永井は、変則的な回転をもってして予測の困難な棒を披する。

雙極の電が描く青白いの殘像は、しくも恐ろしい、死の

「チッ・・・生の學生にそんな反則技を使うのかよ」

「さっき思いきり俺の腕を打った加賀君が言えたことかい?」

「スタンガン振り回して襲いかかってきた先生の言えた事ですか」

間の抜けた、生意気な言葉のやり取りのうちにも、俺と秋仁と永井は出方を測り、相手を窺う。否、出方をどうこうと考えているのは、恐らく俺と秋仁だけだ。

永井の方はというと、今までこなしてきたであろう対人戦闘によって培われた経験値の果か、余裕の表だ。

―勿論、冷たい表かおであることに変わりはないが。

「神河、攜帯を貸せ」

小聲で、秋仁が俺に言った。

異次元空間の中、これ以上なくもどかしい気持ちを懸命に押さえて、怪校生たちはいた。

永井の用いたこの能力は質が悪く、外からぶち込まれたが最後、中から外へ出することは葉わないという、さながら監獄のようなそれであった。

「・・・それじゃあ永井あいつは監守ってとこだな」

何となく考え出した永井の立場を、なんとなく翔斗が口にする。

「ん?何か言った?」

「いや、何でもねえよ。ただ・・・心配なだけだ」

諒太の問いに、曖昧に取り繕った後の本心で答える。神河人は喧嘩や戦闘にむいていない。加賀秋仁もそれはたいして変わらない。何せ彼は、今日までインドアのゲーマーだったのだから。

戦うだけの力を持った己が參戦できないことが、本當に憾であり、苛立たしかった。

異次元空間の片隅(どこまで広がっているのかは不明なため、そう表すのが正當かは不明だが)に、二神姉妹はいた。怪校に転してからこれまで、なくとも植原京子の前ではよく言い爭い・・・時にはそれ以上の爭いを繰り広げて見せてきた。

その度に京子が止めにるという流れが、もはや日常と化していたほどにだ。

互いによく似た顔立ちの二人は、しかし雙極する存在であるかのように趣味趣向の違いがあった。

例をあげるとするならば、は長くばした髪を肩にかけているのに対して、暗はというと、ショートカットにした髪を特に纏めたり整えたりするわけでもなく無造作に遊ばせている。

髪の事で言い爭いに発展したことも何度かあった。

他にも、が甘黨で暗は辛黨。暗が育會系で、は文化系であるなど、要所要所で相反していた。

その二神姉妹に一つだけ共通しているのは、読書が好きということだ。ジャンルにおいても、二人ともものが好きということで一貫していた。

「暗くれってホント機転が利かないわよね。さっきのだってもうちょい暗が気を付けてたら捕まらずにすんで、必然的に私が揺しないで完璧な対応をすることができたはずなのに」

「よく言うわね、ようの場合は出てきたのが永井先生だとわかった時點で安心で後先考えずにすり寄っていくでしょバカだから」

「なに?私がバカって言ったの?信じられないんだけど!?」

「事実を言っただけだもーん」

「何よ!」

「何なのっ?」

「・・・はぁ」

つい先程もあった喧嘩。あまりの頻度と過剰なまでのエスカレートだ。

さすがの京子も、立て続けに起こる異変の影響もあってか、ただ嘆息するのみである。

「京子・・・」

その京子を見つめる兄、シスコンの諒太もまた、嘆息しつつ心配の目を向けていた。

この件が一段落したら・・・一段落させたら。きっとまた一緒にお菓子作りをして、第二百三十四回・映畫観賞會をしようね、と。そう思いながら。

「長くはもたないだろう・・・」

言葉を響かせ、永井の姿が虛空に消える。

つい數分前であれば、それは計り知れない不安と焦燥をじざるを得なかったであろう「能力」だ。

分からないことが多すぎた。

まずは本的に、なぜ永井が俺たちを襲ってきたうえ、怪校生を拘束などしているのか。

學生しか巻き込まれていないはずである《バミューダ》。それに巻き込まれた學生のみが得る可能をもつはずの能力を、なぜ永井が持っており、それを行使してくるのか。

、何が目的なのか。

だが既に、考える余地を捨てなくてはならない狀況になっている。

助けるべき、救うべき友だち

確固たる目的と、戦う理由があった。

「・・・さあ秋仁、永井をぶっ飛ばす時間だ」

「ああ。出てきたがお前の最後だ永井」

二人の年は、雙蛇の・「監守」擔當、永井幸四郎に立ち向かう。 

                     

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