背後に現れた殺意の気配に、やはり実踐の経験をもつ人が率先してづく。

「秋仁、後ろだ！」

「っ！」

ヒュッ

「避けたか・・・」

秋仁が左足を軸にを反転させるのと、降り下ろされる電撃が空を切る音が同時。

當てを外した永井が、反撃の余地を持たせまいと眼を鋭く尖らせながら再び虛空へ潛り込む。

「倒すとは言ったが、神河、こんなのが続いたんじゃあ勝ちようがないぞ」

「それは全くもって同だ。でも・・・っ？！秋仁、跳べっ！」

「！」

―ブォンッ

先程より速度を増した一撃が橫毆りに、並んだ二人の足をはらいに來る。

僅かに反応が遅れたせいか、秋仁の靴底を電撃の打撃部が掠めた。

「チッ」

「ククッ、及第點にも及ばないが・・・」

手応えあり、とでも言いたげな、一種の満足をはらんだ一言を殘して、三度永井は異次元空間へとり込む。

無意識に、人は己の左手首にれる。

そこにあるのは、《バミューダ》に遭った生徒たち自らが、「能力」をもつ者と戦うための唯一の手段。

神河人の《トリガー》、ミサンガだ。

無論これは、人が《バミューダ》に巻き込んでしまった実の姉、恭香から貰ったものではない。なぜならそれは先日、明日香の家で戦闘をした際に一度切れているからだ。

今つけているそれは、切れてしまったミサンガを、襲撃者・千葉 逸を拘束した後に拾ったものだ。

元のミサンガに使われていた糸と見比べながらなるべく似たの糸を探し、切れたミサンガの殘骸と組み合わせて、紗奈が修復してくれた。

(修復後のミサンガこれでも、武消去の力を使えるのか？)

その正否は大きな問題である。生ので、電撃エレクトールを保持している上に棒に長けていると見える永井を相手取って戦闘をするのは、至難の技だ。

「おや？人君は考え事かい？」

「なっ？！」

背後。

既に電撃を振り上げきっている永井が、深く笑みを見せて言う。

降り下ろすと同時、秋仁が人を突き飛ばし、なんとか程から外す。

そして―

―ガァンッ

「ぐっ・・・」

前のめりになり両手をつき出した秋仁の、その無防備な背中に、電撃の打撃が直撃する。肺の空気を完全に出しきるほどの衝撃と、肩甲骨の辺りに走った鋭い痛みに、秋仁は顔をしかめてうずくまる。

足元に転がってく秋仁を見下ろして、永井が笑ってこちらを見據えた。

「人君はそこで見てるといいよ」

そう言って、今度は打撃部ではなく電撃部・・・を秋仁に突き付けた。明らかに、人間の気絶を目的としたスタンガンの電流・電圧を越えている、死を告げるかの如く響く電の音。

青白く軌跡を描くそれを、秋仁の頭を破砕すべく振り上げる。

―もう、手遅れは免なんだよ。

人が駆ける。

距離はたかだか數メートル。

紗奈が襲われたとき、明日香がを貫かれたとき、多目的エリアの皆をおいて先へ走ったとき。

己の怠慢や自己中心的な考えが招いた結果を思い起こす。

(俺のせいで、人が、秋仁が死んでいいわけねぇだろぉがっ！！)

しかし、遅い。

時間が止まったかのようにゆっくりと進む景のなか、己の足も聲も、遅く、遠く。

降り下ろされる電撃のみが異常に早く降り下ろされる。

そして―

かない秋仁の頭に、電撃が―

「怠惰ッ！即ちぃいッ！！！アインワーク」

剎那、秋仁の姿が永井の程を外れる。

攜帯間―

―通信機間の移。

秋仁自の持つ二つのスマホ以外の機、人のスマホ・・・・・・への転移。永井との戦闘が開始されたとき、秋仁自らが人の攜帯にれることで、移対象に追加したのだ。

人の側に秋仁が転がる。

降り下ろされた電撃は―

「永井、そいつは置き土産だ」

秋仁のスマホに直撃した。

通常では與えられ得ない衝撃と電圧に、耐えられるはずもないスマホは白煙をあげて散する。

そして―

(ぐっ・・・！)

降り下ろした電撃がコンクリートの床を毆ったのだ。當然、電撃が床を砕く事などはない。行き場を失ったエネルギーは、手へと跳ね返る。

思いきりよく降り下ろした張本人である永井の手に、反が來ないはずがない。

攜帯の散、白煙に、強烈な反。

攻撃を與える間もなくスルスルと空間を行き來していた永井の、きが止まる。

「神河ぁッ！行け！」

秋仁の聲に、先程までの迷いは消える。

今のミサンガに武消去の力が宿っているかは分からない。

―だが、やるしかない。

「うぉぁああっ！！」

左手のミサンガを瞬時に外して、右手の拳に絡める。

「くッ！」

瞬間、初めて恐れの表を見せた永井に構わず、電撃に拳を打ち込んだ。

そして、永井の得意とする殺傷武・電撃は、その存在を失う。

「ナイスだ神河！」

「そっちこそだぜ、秋仁」

「なに・・・くそっ！」

「っ、させるかっ！」

いよいよ相を変えて、虛空へ逃げ込むために空間を開く永井を、しかし、すぐ側まで薄した人が摑み倒す。

抵抗する永井を押さえ込もうと、を屈めて―

カラァンッ

音がした。

倒れ込んだ永井の側に落ちているのは―

「な、何でっ！」

「・・・！電撃！？」

「なんだか知らんが、形勢が変わりそう、だッ！！」

腹筋の力で上半を捻った永井が、電撃を手に取る。

乗り掛かろうとしていた人を突き飛ばし、餅をついたその元に、電撃を突き付けた。

―――――――――――――――――――――――――

「な、今のは・・・」

同時刻。

暗い地下室の一角で、コンピューターの畫面越しに、「永井」対「人・秋仁」の戦闘を見ていた男が息を飲む。

「迫間さん、大変です！これは・・・」

「そんなに慌てて、どうしたのかな？」

ゆっくりと、自らのデスクから顔をあげた迫間 喋悲さこま ちょうひが、立ちあがり、歩み寄る。そして、深く黒いを宿した相貌で畫面を覗き込み、次いで息をはく。

「・・・・・・ほう、そうか」

瞬間、喋悲の目にが指したのを、隣にいた男はしかし、畫面に見っていたがために気づくことができなかった。

「作戦を、変える必要があるな。この年・・・神河人は我々にとって、いや、この世界・・・・にとっての、二度とない奇跡を起こすピースなのかもしれない・・・必ず手にいれる」

「はっ、了解しました」

掛け合いの後、別働隊として散った「雙蛇の」の仲間に連絡をするため、男が退室する。

ただ一人、ゆっくりとデスクに向かい直した迫間は、どこか々しげな―懐かしげな顔を、隠すことなく浮かべる。

「人ならざるものに、打ち勝つために・・・これが最後の手段だ」

これは―

彼は我々の、この世界の希だ。

―――――――――――――――――――――――――

視界にらぬ至近距離。元に突き付けられた電撃が、青白いを纏う。相も変わらず死をもたらさんとする電撃音。

神河人は、危機のなかにいた。

「惜しかったね人くん、どうやら俺の勝ちのようだ。・・・秋仁くんもかないことだ。お前の「怠惰即ち」をもってしても、この距離の一撃からは人くんを守りきれないさ」

ドクンッ

「ぐ・・・」

突然に、電撃を突き付けた永井が苦渋の表を見せ、片手で頭を抱える。

「どうしたんだ・・・？」

「・・・何だ？」

俺と秋仁の聲がほぼ同時。

次いで、永井が橫目にこちらを見遣る。

手にしている電撃から閃が消え、追従して電撃音も消える。

「了解したよ・・・だが、チッ・・・そりゃあ一どういうこった？」

何者かと會話をしているように見えたが、容は全く聞き取れない。無線かなにかを用いているのかもしれなかった。

容を推測しようにも、そもそも、永井の正がはっきりとしていない。そして、怪校の存在も裏があると見える。

第一に、手掛かりにしても不十分な組織「雙蛇のデュアルスネイク」の概容、存在。永井に聞きたいことは山のように募っていたが・・・。

「俺はここで引く。お前たちには、近いうちにまた會うだろう・・・神河人」

「・・・なんだ」

「覚えてろ。お前はどうやら、この世界にとっての、唯一無二の希らしい」

「！？」

「神河が希？ 何を、言ってんだ」

永井は最後に冷たく微笑んだ後、秋仁の問いに答えることなく虛空に消えた。

「・・・そうだ！皆は！？」

「永井が消えたってことは、異次元空間が解除されるんじゃねぇのか？」

秋仁の言葉は現実となる。

數秒おいて、永井に放棄されたらしい異次元空間はその効力を失い、怪校の生徒たちを解放した。

―――――――――――――――――――――――――

「一時はどぉなるかと思いましたよ」

未だ棘の抜けない響きの聲は、怪校・高校生一年部の生徒、亜襲 蒼真のものだ。

俺と秋仁が永井との戦闘を繰り広げていた間は當然、異次元空間に閉じ込められていた彼らは狀況など把握し得なかったわけで。

解放直後に至っては翔斗から、「り、人お前、無事なのかよっ？！」などという心外な想を持たれた。

二人の大怪我などを考慮して解放後の手順を練っていたというのに、存外早く空間から解放された上に、秋仁が軽度の打撲を負った以外は二人とも特に負傷もしていなかったのだからさぞ拍子抜けだったのだろう。

正直、無事だったのだから結果オーライだろうと言いかけはしたが、俺たち二人を心配しての発言だったはず(恐らくは)なので、大人な俺と秋仁はぐっとこらえた。

「ああ、悪かったな。気になることは大いにあるが、まずはここを出よう」

「はぁ・・・まあ、そうですね」

「人くんも秋仁くんも、ほんとすごいよね。永井先生を、その、倒したってこと？」

言い終わって諒太は首をかしげる。

そう、俺たち二人が勝ったのであれば當然この場にあるはずの永井のがない。

「チッ・・・あいつは逃げた」

秋仁は忌々しげに舌打ちをする。

「永井は逃げる前に、よく分からないことを言ってたんたが・・・趣旨は全然わからなかった」

俺は補足をした。

「神河人」が「希」だ、と。

それだけは確かに口にした。

「そうなんだ・・・」

諒太も黙ってしまったので、その話はここでは終わりとなった。

驚くべきことに、時刻は既に翌朝の六時となっていた。

朝の日差し、と言うにはし強すぎるに、俺は目を細める。やりとげたはあまり無く、新たな疑問に対する不安が強かった。

しかし、強い日差しはその心さえも、やさしく包んでくれているように思えた。

――――――――――――――――――――――――

家につくなり、それはそれは心配していたという紗奈に抱きつかれ、永井との戦以上に俺の骨が悲鳴をあげたというのは―

―また別の話。