《バミューダ・トリガー》裏・二十幕 ハロウィーン後日談

今年のハロウィーンは、間違いなく俺の人生史上最も々あった。

人の姉ちゃんマジで料理うまいのな!」

カボチャのカップケーキを頬張りながら、翔斗が嘆する。

「それにはほんと同だよ。人くんのお姉さん、こんな味しい料理をあんな短時間で作っちゃうなんて!」

しく彩られた皿からグラタンを取りながら、諒太も同じくして紗奈を褒め稱える。

翔斗と諒太からの大絶賛をけ、別に自分が作ったものではないのに、それこそ自分のことのようにうれしい。

「だろ?しかも全部カボチャベースでこの味の多様よ!このご時世、シェフやってる紗奈は客人の好みがよく分かる、ってな!」

ここは俺の家。

俺と翔斗、そして諒太は、紗奈の作った料理を楽しみながらハロウィーンパーティーを楽しんでいた。

・・・この話の続きは後々するとして。

今日起こったビックな出來事を、対永井戦後の回想も含めてフィードバックしてみようではないか。

さあ、あの戦いを終えてからどうなった?

そして俺と、絶賛片想い中の俺の天使エンジェル明日 明日香ぬくい あすかとのの行方は如何に?

それではどうぞ、ごゆっくり。

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永井との戦闘を終えて、改めて気がかりなことがいくつかあった。一つは、何を差し置いてもまず、怪校高校生三年部の生徒の行方だ。

俺たちが把握していたのは、宮中 大黒の消息が不明となったことのみであった。

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しかし、決戦後も三年部の生徒は誰一人として姿を現さない。

地下の訓練場や多目的エリアで行を共にしていた、高校生一年部と中學生三年部の生徒に聞いてみたものの、手がかりはなかった。

永井の空間に閉じこめられる際、高校生三年部の生徒たちとは分斷されたか、あるいは三年部の生徒たちはその卓越した能力を駆使して永井の追跡を逃れて避難したか。

どちらにしても、姿を見せない事は心配な限りだが、それ以上の推測も可能も、俺たちには思い付かなかった。

そして、気がかりその二は警察署による「怪校」制度の廃止。

理由としては、警察に能力者がはびこっていた事実と、そのうち複數名の犯行による、生徒への負傷事件。

學生の能力者の保護を擔當していた人員のほとんどが「雙蛇の」と関係していたため、単純に安全の確保ができないからだ。

では、俺たち怪校生はどうなるのか、だが。

俺のように住む家がある生徒は、明日香をはじめ以外と多くいた。それ以外は、警察の用意した寮に住んでいたので、住む場所に問題はない。

次に學び舎だが。

じつは、能力者の保護を擔當していた人員のほとんどは敵組織に関わっていたのだが、ほんの數名は真に怪校の運営にのみ攜わっていた事がわかった。

その數名と警察の計らいにより、警察署には及ばないものの、それなりの規模と安全をもった建もとい新たな學び舎の建設が決まった。

しかし同時に、怪校生にとって避け難いある事項が決定された。

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それは、怪校生に対して明らかな害意を持っていた組織、永井 幸四郎ながい こうしろうも所屬していた「雙蛇のデュアルスネイク」と、同じくなからず生徒に害を與えた、鐵 里音くろがね りおん率いる「対能力者組織スキルバスター」の無力化を、彼らに勝ちうる能力ちからをもった學生、怪校生で行うというものだった。

なげやりだとじた。

怪校生の多くには家族がいないから。

反対する親がいないからといって。

俺たちに押し付けるのは間違っていると。

しかし、この事項に反対を表明する者こそいたものの、最終的に離を決める生徒はいなかった。

―避けられないと、わかっていたから。

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の夏休みは明けたが、新しい學び舎が建設されるまではさらに數ヶ月かかるようだった(ちなみに、俺は決してこの數ヶ月を遊んで過ごしたりはしない・・・予定だ)。

結局、普通の高校生のように育祭を楽しんだりはできないようだが、ある意味特殊な境遇の俺たちにとっては、それも致し方無いと割りきっている自分もいた。

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俺はしっかり自主的に、勉強に対して勤勉に勤めながら(ここ重要)時をすごして―

「ハッピーハロウィーンだねー、人」

今日は十月三十一日。

休日をしてやまない主義の俺でさえ飽きるほど長い連休の、およそ三ヶ月目だ。

ハロウィーン當日の俺の朝は、なんとも締まらない間の抜けた聲で始まった。

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そして、目を開けると寫し出される、義理の姉、紗奈の姿。

思考は一時停止した。

黒いハットに、これまた黒いローブ、エプロン、黒いスカート。

ローブを著ているのにエプロンやスカートまで履いているので、多様な布が大渋滯だ。

恐らく魔の格好を目指して頑張ったのであろうが、所々もの申したいところがあった。

まずは顔。

口が裂けて見えるメイクをしている。

どこで覚えたのかクオリティーこそ高いのだが、魔の口が裂けてなどいたら、それは恐らく、純粋に大怪我を負った魔だ。

と、ゾンビかなにかを混同しているのかもしれない。

そして背中。

何を隠そう、というかむしろなにも隠れてはいないし隠す気もないのだろうが・・・羽が生えている。

俺の記憶が正しければ、魔とは斷じて羽で飛ぶのではなく、ホウキで飛ぶはずだ。

どこかの夢の國の、緑の葉っぱの服を著た金髪の妖と混同しているようだった(もはやどう間違えればそうなるのかは不明)。

そして最後に小道

ホウキの代わりに料理用のおたまを持ったなんちゃって魔さんは、首から十字架を下げてクマの刺繍のはいったピンクのスリッパを履いていた。

(ああ、おたま持ってるからホウキ待てなくて、だから羽が生えてんのかな・・・)

などという論理的な思考が頭をよぎる。

俺は數秒(では數分)の沈黙を破り、もっとも適切な聲を紗奈に投げ掛けた。

「・・・・・ああ、紗奈か。おはよう」

「あれー、人何でそんなにノリ悪いの」

今朝のご飯はカボチャのパイと牛だったのだが、寢覚めで紗奈の格好にスパイシー過ぎる衝撃をけていたおで、パイの深い甘味をより一層楽しむことができた。

さて。

俺はひとつ、世の中に問いたいことがある。

それは他でもなく―

―世の高校二年生が、ハロウィーンを最も充実したものにするためには、一何をすればいいのだろうか、ということだ。

例えればそうだ。

仮裝して、夜の町を練り歩くのはどうだろうか。

一般的な大都會の若者に対する俺の偏見かもしれないが、あの辺りのパーリィなピーポーはハロウィーンをそうして過ごすのが通例なのではないだろうか。

だが、霊峰町でそれをするのは難しい。

紗奈の話では、そのような風習は準都會未満であるこの街には無いらしいからだ。

ハロウィーンやクリスマスの仮裝を一般の人々の目にさらす人たちは、それこそ限られた人たちだ。

例えばそう、デパートやコンビニの店員なんかが當てはまるだろう。

となるとやはり、友人たちと楽しくホームパーティーと灑落込むのがダントツなのではないだろうか。

丁度良いことに、今日は紗奈が休暇だ。

本人自ら、「フフーン、人、私ハロウィーン休暇とったよー」等と口にしていたので、まず間違いない。

ここは、仲の良い翔斗や諒太をって俺の家でパーティーをするのもいいかもしれない。

川に沿って道を行き、ひとまず翔斗の家に行くことにした。

―――――――――――――――――――――――――

そして今、俺は明日香の家の前にいる。

(なぜこうなったのかを話すつもりはないし、話したところで萬人に激しく引かれた後に変質者のレッテルをられて俺の人生が終わりを告げるだけなので教えない)

「俺は勘違いをしていたのかもしれない」

そう、俺は失念していた。

ハロウィーンだろうとクリスマスだろうと、果ては何気ない一日や休日であろうとも。

やはり、ずはぬけて幸福でに充ち、かつ楽しめる楽園のようなシチュエーション。

それは他でもない。

―好きな人と共に、時を過ごすことだ。

しかし俺は、なかなか明日香の家のインターホンを押せないでいる。

何故なら、俺が明日香とハロウィーンの夜を楽しく過ごす理由・・・もとい明日香に會いに來る理由を、明日香本人に説明できる気がしなかったからだ。

もしも俺のこの心の葛藤が誰かに屆いていたならば、恐らくその誰かはこうアドバイスをしてくださることだろう。

「あなたが好きだから會いに來たって、素直に言えばいいじゃん?」と。

しかしここで問題となるのは他でもなく、俺の心だ。

この報社會、実際に面と向かって人と話す機會がめっきり減っている。

そして反比例の要領で増えているのは、子と面と向かって話すことに抵抗をもった弱き心を司る、生粋の超絶シャイボーイたちだ。

何を隠そう、俺も余裕でそのの一人である。

「やっぱり明日香へのアタックはまたの機會にするか・・・」

ハロウィーン特別企畫である、「仄かで儚い俺の路の進展計畫」を諦め、今度こそ翔斗の家に行くために引き返そうとした、そのときだ。

「り、人くんっ?!えっと、今呼んだ?」

聞き覚えのある聲に、反的に振り返る。そこに佇み、俺に向かって笑顔と視線をレーザー線のごとく照していたのは、當の明日香であった。

「へぶんどぅすっっ!?」

「わわわわっ!?」

思わず俺が常人には発し得ない異國の言語のような奇聲をあげ、驚いた明日香が慌てふためく聲が次いで響く。

お使い帰りの明日香が驚きのあまり取り落として割ってしまった卵を弁償するために、俺が必死になって町を奔走したのは言うまでもない。

―――――――――――――――――――――――――

「ごめんね人くんっ、私抜けてるとこあるから・・・」

「いやいや、いいって全然!俺の方が世間一般的に見たらかなりの変人狀態だったし!」

あたふたと両手をかしながら謝る明日香に、俺は全くもっての正論を以て俺自の行を戒めにかかった。

「?人くんは変人なの?」

「その通り!俺は純度百パーセントにして生粋の変人・・・って違うよ!?」

普段は、割とクールで熱的な(矛盾はスルーしてほしい)俺だが、時たまにしい程の純真ハートと天然屬憾なく発揮する明日香に激しく切なくたじろいだ。

天然な意見に対して、弁解は大切な行程だ。

さすがに明日香本人にまで変人認定されたらもう引き返せなくなる。

「・・・これ味しいな」

俺は機に置かれる平らな皿に盛られた、明日香の母親の手作りであるというバタークッキーの香ばしさに表を緩めた。

「お母さん、料理は苦手だっていうんだけど、お菓子作りは得意なの」

「へぇ・・・」

話の容にではなく、嬉しそうな明日香の必殺技である天使の微笑みエンジェルスマイルに聲をらしてから、俺は取り繕うように次のクッキーに手をばす。

買い直しを終えた俺は、明日香の家にあげてもらっていた。

ちなみにこの時點で明日香の母親はくねくねしながら、噓丸分かりの忙しげな芝居をして「私ぃ、ちょっと用事があるからぁ、お二人でごぉゆっくりぃいー!」と言い放って家を飛び出している。

俺も明日香も高校二年生という青春真っ盛りな時期だ。

俺が明日香に何かしないかとか気にならないのだろうか。まあ、何をするわけでもないが。明日香の母親に対する俺の第一印象は「過保護よりの人」だったのだが、以外と放任主義なのかもしれない。

「それにしてもこのクッキー良くできてるよな・・・家で紗奈にも作って貰って、食べ比べてぇくらいだ」

「・・・え」

―瞬間、空気が凍った気がした。

明日香の顔がおかしい。

青ざめたような、それでいてなにかに対して憤りを抱いているような、そんな表をしている。

調が悪いのだろうか、それとも何かまずいことを言ってしまっただろうか。

心配になり、聲をかけようとして―

「り、人くんっ!」

俺の言葉は発するまでもなく、今度は顔を真っ赤にした明日香の言葉に遮られる。

「ど、どした??」

「わ、私、あんまりそういうことよくないと思うのっ!別に、ぜ、絶対ダメって訳じゃないし、私となら別に・・・と、とにかくっ!きっと、ま、まだ早いっていうかなんというかゴニョゴニョ・・・」

唐突に炸裂するマシンガントークに若干以上に気圧されつつ、會話の容を丁寧に理解しようとする。

しかし、解らなかった。

「え、えっと?何の話・・・かな?」

恐る恐る問う俺。

しかし明日香の口から返ってきたのは、想像を越えたものだった。

「だ、だ、だからっ!高校生ではまだ早いと思うのっ!だ、男の、ど、同棲・・は・・・!」

「ほえーーーーー」

一気に畳み掛けるようにぐいぐい詰め寄ってくる明日香。

あまりの突飛さに魂が抜けかけるのを、間一髪のところで押しこらえた。

(・・・なんということでしょう)

どうやら明日香は、盛大な勘違いをしているようである。

それも、その容は、恐らく俺に対する評価がゴリゴリ下がってしまうような、至極不埒な方向で。

「あの、明日香、さん?ちょっと勘違いしてるとおもうのだけれど?」

「へっ?」

「だからさ、つまり俺。義理の姉と暮らしてるんだってば。紗奈ってのは、姉だよ。前に話したことなかったっけ?」

途端、眼前に迫った明日香の顔が引きつる。

その表は、己の失念に対する呪詛の念であるようにも見え、許容量を越えた恥からくる、いわゆる「があったらなんとやら」の理念を稱えたものにも見えた。

「あっ、あ・・・あっ!そうそうっ!人くん、今日は天気も良いし絶好のハロウィーン日和だよねぇーっ!?何て言うかこう、カボチャも喜ぶ晴天的な?あは、あはははは!じゃあ私、ちょっと急用思い出したから部屋にいってくるねっ!!聲かけてきても気づかないかもだからヨロシク☆」

(無理があるだろぉおーーー)

有無を言わせぬ烈火の言い訳を並べた明日香は、間髪れずに席をたつ。

ドタドタと廊下を駆け、ドアを閉める音を立てた後にガチャリというこれ以上なく分かりやすい施錠の音を殘して、俺の視界から姿を消した。

そして。

ひきつった笑顔を張り付けたまま心折れた明日香は部屋にこもり、俺はただひとり、想い人の家のリビングでクッキーを食べる、怪しくも悲しい不審者となった。

口だけの用事から帰ってきた明日香の母親が、不思議そうに明日香の部屋を凝視していたのは言うまでもない。

―――――――――――――――――――――――――

と、まあ、こんな事があったわけだが。

俺のスパウィスィーなハロウィーンの晝は、無事に終息を遂げた(明日香と俺との関係がアレになったのは置いておくと、だが)。

そして今、俺は初めに予定していた通りに翔斗と諒太をい、家でホームパーティー(withハロウィーン)を開いている。

こんな平和なハロウィーンを、來年も、今度はみんなで一緒に迎えられたらな、と。

大人な俺は思慮深く考えていた。

人ー!今日はありがとなー!」

「紗奈さんも、ありがとうございました!」

時刻は午後八時。

「泊まって行けばいいよー」という紗奈の提案はさすがに斷った翔斗と諒太が、門前で手を振っている。

「いつも人がお世話になってるし、お互い様だよー。それに、前は迷かけちゃったしねー」

「気を付けて帰れよー!」

俺も手を振り、二人を見送る。

人も、姉ちゃんと風呂った後は湯冷めしねぇうちに服著ろよー!」

らねぇよっ?!」

「いつもは一緒にってるのにねー」

「勘違いされるからマジでやめてね!?」

「はっははは!じゃあなー」

人くん、頑張れっ」

無事に功をおさめたパーティーはお開き。

最後に軽口をわして、俺のハロウィーンは終わりを告げた。

その日の夜はとても寢付きが良かった。

ただひとつ余計だったのは、夜、本気で風呂にを試みてきた紗奈を撃退することになった事くらいであった。

かくして俺は、當初の目的へと舞い戻った。

さて。

あと約一ヶ月後には新設の怪校が開校(決して灑落ではない)する。

高校生三年部の行方は未だわかっていないが、俺たちは己のを護ることを考えるべきだと、警察からも言われている。

自分で言うのもなんだが、恐らくは俺が最も危険な位置にいるのだろう。

皆を傷つけずに。

願わくば誰も傷つけずにー

敵の組織をすべて無力化する。

解らないことだらけの今言えることは、俺自の、この決意だけだ。

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