《バミューダ・トリガー》二十二幕 可能の進化

「里音さま、報告があります」

「里音さま、言伝がある」

廃れた建

二人の青年が立つこの場所は、元はこの辺りには珍しかった発電所であったという。

苔や蔦のまとわりついた外観、ひびのはいった床に壁。

建っているだけで、地域への貢獻度はほどもないように思える発電所跡地。

この建が取り壊されずに殘っている理由は二つある。

ひとつは、単に文化的に価値があるから。

その外裝は確かに、コンクリートよりもレンガの使用量が多く、特徴的だ。また、暖かみを放つ裝にも當時の職人たちの魂が宿っていた。

もうひとつは、年に一度、霊峰町マラソン大會のスタート地點にしてあるから。

さすがに敷地は、建の老朽化などによる倒壊の危険があるためれないようにしてあるのだが、正面の広場と道路がコースの一部となっていた。

「ええ、教えてごらんなさい」

二つの聲に、返る聲はひとつ。

廃墟に似合わない黒い革製のソファーに腰掛け、足を組んだ

格は青年たちよりも小柄で、それでいて大人の魅をはらんだ聲

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しかし容姿は若々しく、セミロングの茶髪にパーカーのフードをかぶり、その下にYシャツを著るという獨特のファッションセンス。

僅かにつり上がった相貌は、二人の青年が言葉を紡ぐのを楽しげに待っている。

―鐵 里音くろがね りおん。

「対能力者組織スキルバスター」の司令塔にして、過去に怪校の高校生二年部の生徒を襲った二度の事件の指示を出した帳本人だ。

だがその二度にわたる襲撃は、怪校生の魅せた《トリガー》に宿る記憶の回復によって阻まれた。

怪校に通う二十二名の生徒(現在は、高校生三年部を除く十八名)は、厄魔事件《バミューダ》に巻き込まれたことにより、何らかの能力を得たものと思われている。

現在は怪校生徒のうちほとんどがその能力を発、すなわち、《バミューダ》に遭う直前の記憶を取り戻している。

「はっ、里音さま。・・・神河人含め、怪校にて教育をけていた中高等の生徒は、僕たちに敵対する勢力ではありません」

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「時々これちかの言葉に付け足すなら、本當に俺達の因縁と直接的に関係しているのは、「雙蛇のデュアルスネイク」と呼ばれる組織だと思われます」

「そう・・・では、今日まで私の指示で襲撃していたのは・・・」

常に冷靜で、それでいて寛大な態度を守っている里音は、柄にもなく表を曇らせる。

「・・・はい、俺達と同じく、まれぬ厄魔事件《バミューダ》の被害者たちです」

「・・・っ」

いっそ包み隠さず打ち明けられた真実に里音が息を飲む音を、貞命さだめと時々これちかは聞いた。

「把握したわ。・・・取り返しのつかないことをしてしまったね・・・警察署が怪しいと突き止めた時點で、私も気が先走っていたのかもしれないね」

「いえ、僕と貞命兄さんも・・・ね」

「ああ、俺と時々も、気が立っていたのは確かだ。里音さま、どうか気負いはしないようお願いします」

時々と貞命の言葉に、俯うつむかせた顔をあげ、里音は軽く微笑んだ。

「ありがとさん、でも、落とし前はつけなくちゃあいけないね。・・・二人ともご苦労様、今日はもう休むといいわ。あまり夜更かしはしなさんなよ」

「了解した」

「了解しました」

二人の青年が黒に包まれ虛空に消える。

繭のように形された黒が、大量のコウモリか昆蟲のように散らばっていく。その全てが散った後には、すっかりなにも、誰も殘されてはいなかった。

「覚悟しな「雙蛇の」・・・鐵家と仲間の怨念、必ず晴らしてみせるよ・・・」

「なー、人。思ったんだけどよ、訓練場とか使ってみたくねぇか?あそこ、自由に使えんだろ?」

まだ眠気の殘る朝の登校。

たまたま出會って一緒に歩いていた翔斗がふと、そう言った。

何やらかなり興した様子だ。

新設怪校が開校してから、三日が経った。

しかし、言われてみれば、俺たちはまだ怪校の施設を半分ほどしか験できていない。

とくに訓練場は、以前警察署にあったものよりも広く、様々なが取り揃えてあると、新設怪校の設計に関わった警察職員から聞かされていた。

「良いんじゃねぇか?俺も使ってみたいと思ってたんだよ・・・まあ、敵の武消せるだけの俺が訓練もなにも無いかもしれないけどな」

そう、俺が獲得した能力は、相手の武の消滅。しかしその能力すら、先の永井 幸四郎との戦いでは不完全な発しかできなかった。

―時間にして五秒ほど。

永井の得「電撃」は、五秒ほど消えた後にあっさりと戻ってきた。

結局、永井の撤退によって一時はまぬがれたものの、次もこう上手くいくとは思えない。

(まともに戦う手段ももってたほうが、安心できるよな・・・)

「あ!なんか良いこと考えてない?」

爽やかな風と共に現れた(なくとも俺にはそう見えた)のは、重度のシスコンであることを除けば容姿端麗スポーツ萬能の超ド級男子、植原 諒太だ。

「僕も使ってみたかったんだよね~あの施設!放課後にでも一緒に行こうよ」

「あの、私も行きたいです・・・」

諒太の後ろからひょっこり顔を出すのは、件の諒太がしてやまない、二つ下の妹 京子だ。

普段は同學年をまとめたりしている彼も、さすがに面識がさほど多くもない俺たちにはバッチリ低姿勢だ。

「良いと思うぜ?な、人」

「ああ。諒太と京子ちゃんは、二人でひとつみたいなもんだろうし」

「ちょっと人くん!その言い方は・・・」

(あ、さすがに二人でひとつは言いすぎたか・・・?一人ずつじゃ半人前だって言ったようなもんだし・・・)

「的をてるねっ!!」

「的をてますぅっ!」

(心なしか喜んでるぅーーー)

もはや同い年の子同士のようなノリでテンションを上げる植原兄妹は、そのまま怪校までいちゃついていた。

人!大変だ・・・」

六限目の古典の授業(水曜は特別時間割りで、六限が済んだら放課となる)を終えたとたん、隣に座る翔斗がひきつった顔を向けてきた。

「・・・一どうしたんだよ」

「古典の文法が・・・解らない・・・っ」

どうやら古典の授業を終えての想を真摯に表明したかっただけらしい。

「そんなのいつでも教えてやるって。でも、今日はそれどころじゃない、だろ?」

「ん?ああ!そうだったな、訓練場、早速いくか?」

「いや、諒太が京子ちゃんを連れてきてからで良いだろ」

そう、今日は植原兄妹も一緒にいく予定だ。諒太が京子を迎えに行ってからでも時間は十分にある。

「二人ならもう訓練場に行ったぞ?」

「今授業終わったのに?!」

俺は、植原兄妹の行力と相っぷりに心しつつ、驚く俺を見て楽しんでいた翔斗と共に訓練場へと向かった。

(そういえば―)

俺の脳裏に、しばらく前の景がよぎった。

翔斗が初めて能力を使った日。

黒くっていた翔斗のネックレス。

もし與えられた能力をフル使用するときに《トリガー》がるのだと仮定するならば―

―俺を含めた翔斗以外の皆は、まだ能力を十分に発揮できていないのかもしれない。

怪校生たちの可能が、進化する。

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