《バミューダ・トリガー》二十三幕 訓練場

「おい人!見ろよこれ!」

「ああ・・・見えてるよ・・・!」

「ヒュー!スッゴいねこれ!」

「聞いてた通り、ほんとに広くて、いろんな練習が揃ってる・・・」

訓練場に著いた俺たちは、翔斗を筆頭に嘆の聲をあげた。いや、これはもはやあげずには居られなかった、と言った方が正しいのかもしれない。

前に紹介した時は、報のけ売りがほとんどであったが、まさに百聞は一見にしかず。

一度目にしたとたんに、隨所に散りばめられた趣向に圧倒された。

まとまった場所に林立する、アパートの個室ほどの大きさの仮想模擬戦闘裝置バーチャルシミュレーター。

取り扱いを書き留めた掲示板によるとどうやら、映像に連して自にはいるダメージゲージがゼロになると実際の戦闘でいう敗戦を意味し、基本的な立ち回りから応用の問われるハイレベルな設定まで、対象者の趣向に合わせて細かく決めることができetc…

・・・まあ、すごいものに違いはない。

この裝置を始め、度や溫度、果ては植生までも設定してあらゆる環境下での戦闘に対応するための施設・多環境実裝室ケースリアライザ、これまで観測された全ての《トリガー》と《能力》がまとめてあり、対応や優位に立つための立ち回りを訓練できる能力対処実戦室コレスポンデンサなどの多種多様な施設がある。

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さらに部屋全が、単に多種の攻撃をしたり、怪校生同士で試合ができる広場・戦闘訓練場バトルエリアとなっている。

(・・・・・・壯観だ)

人!早速なんだがよ、俺、いろいろ試してみてぇんだよ」

翔斗の一言に、俺は気を取り戻した。

「試すってのは、ここのをか?」

「それもなんだが、俺の《風読かざよみ》の能力ちからで出來ることを試し盡くしてぇんだ」

「なるほど!翔斗くんは能力者相手に実戦もしてるし、いろいろ試したいっていうのも頷けるよ」

俺と同じくしてこの訓練場の凄さと施設の充実度に心したらしい諒太も賛のようだ。

「まあ、もっともだな」

そしてもちろん、俺も異論はない。

翔斗は、以前の怪校防衛戦ではなにもできずに無力化されてしまったため、もっと琢磨したいというのも納得だ。

「よし、つきあうぜ翔斗!で、最初は何を試したいんだ?」

「まずは、回避技をちょっとな!」

「回避?」

力のある翔斗の事だから、投げ技を食らってくれとか言い出すかと思い覚悟を決めかねて張していたため、正直意外だ。

「ああ、というのも俺の《風読》の、いっちばん適材適所な分野が回避なんだ」

「名前も《風読》っていうくらいだしね!で、何をどう試すつもり?」

「ちょっとお兄ちゃん、私もかまって!」

そこで諒太の後ろから割ってはいるのは、自分抜きで話を進められていたせいで気を悪くし、し頬を赤く染め、ふくれ面になった諒太の妹、京子だ。

俺たちと一緒に來てみたは良いものの、どうやら一番の目的は兄の諒太と一緒にいちゃつくことだったらしい。

「心配しなくても大丈夫だよ!僕が京子のことを忘れたことがあるかい?今日も帰ったら、第四十三回ホットケーキデコレーションの會をするって約束したろ?」

「違う!それは第四十四回だってば!」

「あ、あれっ?!そうか、ゴメンゴメン!勘違いしてた。四十三回目になるのは、明日のロールケーキデコレーションの會だったね!」

「お兄ちゃん!覚えててくれてうれしいっ☆」

「僕も、今日から楽しみだよっ☆特に楽しみなのは、あさって開催の第五十三回パウンドケーキデコレーションの會で・・・」

人・・・」

「ああ、多分あと三十分はこうだ・・・」

途中から話がそれた上、植原兄妹は例のごとく仲良しいちゃいちゃモードにってしまった。

だがまあ、諒太の疑問は俺も持っていた。

何をどうするか、もっと詳しくは、避けるための「攻撃」をどう用意するかが問題だ。

當然、回避の訓練をするなら、まず攻撃をける必要がある。

「とりあえず、俺がなにか手伝うか?」

「いや、さっき気づいたんだけどよ、あの使えねぇかな?」

そう言って翔斗が指差したのは、戦闘訓練場の一角にあるピッチングマシンのような機械だ。ただ気になるのは、本の橫に描かれた「killer」の文字と、「500m/s」の表記だ。

「・・・秒速五百メートルはさすがにヤバくないか?」

「・・・いや、俺ならやれる気がする!」

「お前が殺やられる気しかしねぇよ?!」

「いや!俺ならやれるっ!」

「・・・キラーって書いてあるんだぞ?」

「・・・ぇ?」

かくして、翔斗の《風読》強化プロジェクトが幕を開いた。

すべきことが決まれば、実行は早い方がいい。思い立った瞬間が実行のベストタイムだ、と・・・翔斗が言っていた気がする。

「ん?なんか幾つかボタンがあるな」

俺は、発ボタンを押すように頼まれたため、ピッチングマシン擬もどきの側によったところで、そのボタンの存在に気づいた。

「衝撃型、斬撃型、それに刺突型か・・・まだ他にもあるな・・・おい、翔斗!」

離れた位置で過激なストレッチ(矛盾)をしている翔斗に、聲を投げ掛ける。

「あん?どした?」

「なんか知らないけど、飛ばす質を決めれるっぽいぞ」

「そうか・・・前に代市 冬しろいち ふゆと戦って勝った時には、奴の技は切ることに特化してるっぽかったが、警察署防衛の時に來た、黒い羽の変な兄弟が使ってやがったのは銃だったんだよなぁ・・・」

悔しがる様子から、先の防衛戦が如何に不本意な結果であったのかが改めてうかがえる。

だからこそのこの訓練か、と、分かりきっていることを再確認し、俺は「銃弾型」のボタンを押した。

翔斗のみは、友を護ること。

簡単には手にれられないがあり

手にしているのに気づかないもある

何かを摑むために、他力本願を選択した時點で、その何かは自分から大きく距離をおく。

だから「雙蛇の」は、選択した。

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