《バミューダ・トリガー》裏・二十五幕 迎春會―恭香の願い―

「我が弟としては!、今日は!友人と!過ごしたかったりするじなのかなー!」

家ごとを揺さぶられるような覚に襲われ、俺は意識を覚醒させた。

「・・・何事だよ」

俺は今日、義姉である紗奈の、明らかに起こす気満々な大音量の獨り言(仮)で目を覚ました。

この言い回しからして気づいた方もいるかも知れないが、どうやら紗奈は何かにジェラシーを抱いている。

(俺が誰にこんな説明をしているのかは聞かないでしい。・・・というか、俺自分からない)

今日は特別な日である。

とは言っても、他の日と遜無い、いつも通り冷え込んだ、十二月の一日である。

いつも通り起きて、いつも通り顔を洗って、朝飯を食べに臺所へ向かう・・・そんな日だ。

では、何が特別か。

今日は十二月の三十一日。

そう・・・「大晦日」だ。

「・・・で、さっきは何だって?紗奈」

「別に他意はないよー?ただ、我が弟である人の大晦日の向は、如何なるものなのかと思って、聞いてみたくなったんだよー?」

一見、いつも通りのおっとりとした緩やか口調に戻ったようにも思える。

故に、俺以外の人間が接していたなら、會話の容も虛偽なきものだとじられたかもしれない。

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(だが!まだ一年も付き合ってないとはいえ、この家に來てから毎日さんざん絡んだ仲の俺ならわかる・・・紗奈の態度には他意がある!)

斷言できる。

こんなに威圧を放つ紗奈は珍しい。

実際、卓上に並べられた朝飯を前にした俺を、紗奈は凝視していた。

(探りをれてみるか・・・)

「・・・今日仕事は?」

「休みにしてもらったよー」

「大晦日だから、だよな?」

「そ☆う☆だ☆ね☆ー」

(あ、違うなコレ・・・確実に裏ありありだ!

ってかもうそっちの意思が表だ!そうに違いない!)

流れ的に、可能は低いが十分有り得る答えを導きだし、俺は問いに乗せる。

「もしかしての話ではあるが、俺と過ごしたいわけか?大晦日を」

驚いた表を見せ、首を傾けた紗奈。

(まさか図星・・・か?)

「えー?違うよー」

・・・違った。

「違うんかいぃ!じゃあ俺、超恥ずかしい人じゃねぇかっ!「俺と過ごしたいわけか?」なんて臺詞、彼にも言ったこと無いわ!・・・ってか彼が居たこともないけどな?!あぁ、ダメだ・・・どう展開しても俺にダメージがっ」

「冗談だよー、人の正解」

「え・・・」

俺の敗けであった。

勝ち負けの関係する事ではないことはわかっている。ただ、神的な面で完敗だった。

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「ということなんだけどねー、人、今日の予定としては、どんなじかなー?」

構わず話を進める、マイペースな緩やか系姉上が今はありがたかった。

「えっと、そうだな。・・・うん、特に予定は無かったよ」

「っ!ほんとっ?」

これまた珍しく、紗奈が語尾を延ばさずに反的な反応を見せる。

「ああ、ほんとだ。・・・まあ、夜になったら、近くの神社に皆で集まったりはしたいけどな」

後半はただの思い付きだが、実際そう思わないこともなかった。

むしろ、皆で新年を迎えるカウントダウンなんかをするのには、憧れるところもあった。

「なるほどねー、日付が変わる瞬間に皆に新年の挨拶もできるからねー」

「え?ああ。ま、それだけなら攜帯でもできるんだけどな」

意外と肯定的な態度の紗奈。

「じゃあさー、人」

「ん?」

「ハロウィーンの時みたいに、お友だちを家に呼びなよー」

「・・・おお!名案だな!」

紗奈の提案に、俺は乗ることにした。

心の傷にれることもあり、あまり大きな聲で言えるようなことではないが、怪校生の多くは、厄魔事件《バミューダ》によって親族を失っている。

そのため、俺のように養子になったりしていない生徒たちは、怪校の生徒寮で靜かに(ここは俺の偏見だが)新年を迎えることになる。

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それよりは、まだ一年未満であるとはいえ、共に學舎で過ごした皆と新年を迎える方が良い。なくとも俺はそうじた。

「っという事で!俺は今、ここにいる」

これ以上なくざっくりとここまでの経緯を話した俺は、諒太の家のリビング―

―その中央の、腰ほどの高さの白いテーブルを叩いた。

「へぇ、人君ナイスアイデアだね!」

「だろ?まあ、紗奈が元々の提案をしてくれたんだけどな」

即行で賛してくれた諒太に激だ。

「ねぇ、お兄ちゃん!」

心なしか心配そうな目で諒太に聲をかけるのは、諒太の妹であり怪校中學生二年部の、植原京子だ。

「ん?どうしたの京子?」

「今日は年に一度しか開催できない、第十二回迎春會をする予定でしょ?」

(今年で第十二回・・・ってことは、京子ちゃんが三歳の頃から開催してねぇか・・・?!)

頭をよぎった衝撃的な閃きを全力で無視することにした俺は、諒太の返答に注目することにした。

「それなら、人君の家で皆と開けば良いよ!二人よりも、皆と!どうかな?」

「お兄ちゃんと二人も良いけど・・・そうだよね!皆と一緒も良いよね!」

「そうそうその通り!それに、第一回怪校生親睦迎春會と銘打てば、僕らの新たな記念日イベントの誕生だよっ☆」

「ほんとだね!私、すっごくうれしいっ☆」

(・・・始まった)

植原兄妹のイチャイチャタイムだ。

コレが始まると小一時間は間違いなく話しっぱなしなので、そっとしておくことにする。

「じ、じゃあ、詳細は送っとくから!じゃあな!」

俺は、半ば兄妹から逃げるような形で植原家をあとにした。

一度勝手を摑めば、後は簡単なものだ。

俺は、ものの數時間の間に當てのある家のほとんどへ出向き、植原家よろしくバンバンとい文句を並び立てた。

ちなみに、古典知識から発展して得した現代文の知識(翔斗が居たら「逆だろ!」とツッコミしていたであろう)をフル活用し、迎春會を魅力的な印象に仕上げていった。

「翔斗は來る気満々で、諒太たちも來てくれるだろうな。明日香は天使だったし、他の子たちも良好・・・二年生の亜襲のやつは來ないじもするが・・・ま、備えあれば難とやらだよな」

夜ご飯については、紗奈が腕を振るう気ありありだったので、予想される參加人數を伝えるために、俺はスマホを取り出した。

プルルル プルルル

ガチャ

「どうしたのー?人」

電話の向こうから、いつも通り間延びした口調のの紗奈の聲がする。

「ああ、今日のことなんだけど、多分十人くらいは來るよ」

「おおー、シェフの腕がなるなぁー」

から察するに、実際シェフである紗奈は、料理用コンロ以外の何かにも火を付けたようであった。

ピンポーン

倉橋家のインターホンがなったのは、午後六時を回ったときであった。

「どなたかなー?」

「見てくるよ。料理の方は?」

「私を誰だと思ってるのかなー?」

俺の質問に紗奈はというと、なんとも自信ありげな表で、ニッと笑って親指をたて、ウィンクする。

「そりゃ、晝も夜も料理しまくりで、家のご飯はもちろんのこと、料亭から居酒屋からどっかのフレンチレストランまで、幅広く活躍する完璧なシェフだと思ってるよ」

「なら大丈夫だねー」

冗談でちょっと盛ったつもりが、普通に返されて若干ゾッとした。

気を取り直して、促された通り玄関に向かい、扉を開く。

ガチャッ

「よぉ人!來る途中で皆に逢ってよぉ!合流してきたからほとんど揃ったかも知れねぇぜ」

「おー!そりゃ、好都合だよ。料理が冷めたら、後から來る奴に申し訳ないからな・・・ってうぉっ?!」

俺の目の前に広がったのは、まさに驚くべき景であった。

玄関前にいたのは、俺がった十數人の倍―

二十人を超える集団であった。

「一・・・どういう・・・?」

「どうしたの人ー・・・!」

後ろから覗きに來た紗奈も、開いた口を塞げないでいる。

「ごめんね人君!実は―」

若干放心狀態の紗奈と俺に、諒太が説明を買って出た。

―――――――――――――――――――――――――

諒太の説明をまとめよう。

まず、ここに來る途中の植原兄妹と翔斗は、偶然にも怪校高校生二年部の一団と出會ったそうだ。

そこで、せっかくなら一緒に行こうという流れになり、「高校生二年部」の団様ご一行が完したそうだ。

一方その頃。

川を挾んで東側―霊峰町でいう東區では、元怪校生三年部で、現在は獨自の「組織」を設立しているという四人が、集まって新年を迎えることにしていたらしく。

買い出しのため、俺たちの住む西區に來たところで、丁度良いところにいた怪校二年部の団と鉢合わせたという。

「あ!先輩方じゃありませんか!」

「お前は・・・怪校の高校二年部にいたシスコン君か?」

「諒太、お前すごい角度で顔が広いよな・・・」

と、まあ、このように。

諒太が聲をかけると、リーダー的存在である龍王 蓮鎖りゅうおう れんさが応えたそうだ。

ちなみに翔斗のツッコミは、いちいちやってるときりがないタイプのものなのでスルーさせてもらう。

その後は―

「今日、友達の神河人の家で迎春の會を開くんですが、良かったらご一緒しませんか?」

「・・・なるほど、それでこの大勢か」

諒太の提案に、まんざら嫌でもなさげな様子で蓮鎖が頷いた。

さらに―

「百貨ももか先輩!ボクの友達の姉の料理は、天下一品だそうですよ。なんでも、霊峰町の全てのレストランで働いた経験があるそうで」

「にゃ?影近ちゃんじゃにゃい!元気してた?」

「それはボクの臺詞でもありますよ」

「それより!今、天下一品って言った?それは行かにゃきゃね!」

影近が謎の繋がりで池 百貨きくち ももかと挨拶をわしたりして―

こうして。

龍王蓮鎖と池百貨の二人に、警察署の地下の舊怪校襲撃の際には醫療擔當で配備されていた宮中 大黒みやなか だいこく。そして、極めて霊が突出し、能力もそれに由來するという皇霊 瑠璃おうれい るりを加えた四人が、一行に合流した。

最後に、この家のすぐ手前でたまたま・・・・怪校の他の學年の生徒たちとも合流し、今に至る。

―ざっくりとしてはいるが、こういうことらしい。

そのため、俺がコンタクトをとったことの無い高一が二人と、中三が四人、そして元高三が四人の、計十人が増えていたのであった。

「悪い・・・こういうことなんだが、紗奈、料理はさすがに足りなそうか?」

俺は、し申し訳なく思いながら、料理をかって出てくれた紗奈の方を向いて―

「我が弟であるにも関わらず、人はまだそんなことを聞くのかなー?」

余裕。

そう呼ぶに相応しい表を浮かべたまま、紗奈はニッコリと笑った。

その顔に、俺は安堵する。

そして、言った。

「よぉし!皆ようこそ!これより、迎春會を執り行いまぁす!!」

「「「おー!」」」

「よっ人君!」

「ありがとよ!太っ腹だな人!」

「急に押し掛けたのににゃんて寛大な!」

それぞれが雄びをあげ、俗に言う第一回倉橋家ドンチャン騒ぎが始まった。

恐ろしい速度でからになっていく皿。

しかし、それを上回る驚異的なスピードで新たな料理が紗奈の手によって運ばれてくる。

(こんなに料理して、ほんとに紗奈は大丈夫か・・・?)

と、一時は思った。

しかし、臺所で料理をする紗奈の橫顔は、普段見せるそれ以上に楽しげだった。

ちなみに、倉橋家はそこまで広くない。

そのため、當初予定していたリビングに加え、客間と、二回の俺と紗奈の部屋を解放してなんとか全員をもてなすことができた。

「うまいにゃあ」

人の姉ちゃんは本當に料理うまいよなぁ!」

人君が羨ましいや」

「お兄ちゃん!」

「分かってるよ、僕にとっては京子の料理がいちばんさ☆」

「私、うれしいっ☆」

「ねぇ京子ちゃん?ひかりが最後の鶏を食べたんだけど」

「騙されないで、京子ちゃん。犯人は闇やみの方よ!」

「お前ら二人は喧嘩すんなって。紗奈の力量、舐めんなよ?」

・・・と。

そうしている間に時は過ぎ。

人君、皆!新年まであとしだよ!」

諒太の聲に、食事を終えて思い思いに過ごしていた(・・・まあ、とはいってもうちにあるの範囲だが)皆が、靜かになる。

「おっ、ほんとだな諒太!おい人、十二時丁度に記念寫真とるぞ!」

「え?ああ、そうだな!よっしゃ皆、並んだ並んだ!」

「「オッケー」」

「ボクは端っこで良いよ」

「じゃあ、私はどうまるちゃんの隣ね!」

ノリの良い子陣も含め、皆が立ち位置を決める。

俺は、棚から取って置きのスーパーカメラ「一眼レフ」様を取り出した。

「俺はいいっすよ・・・」

「ダメだ來い」

そっと距離をとる蒼真を捕まえ、十秒にセットしたカメラの前にポジショニングする。

「カウントするよー」

紗奈の聲に、皆が聲を揃える。

(今年が終わる・・・)

「「「「三!」」」」

「「「「二!」」」」

「「「「一!」」」」

「新年あけまして、おめでとうっ!!」

―パシャッ

―――これは、在りし日の語―――

じゃ、人!願い事何にする?

俺は今、十分幸せだし、特に願うこともないかな

じゃあ、願い事は決まったね

え?・・・あっ、そうだな

《こんな時間ときが

これからも続いていきますように》

じゃあ私もお願いごとするね

そんな時間を生きる、人を―

《いつまでも、ずっと見守ってあげられますように》

    

ゴァッ!ドオオオオオォォン・・・

―――――――――――――――――――――――――

恭香の願いが、燈る

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