《バミューダ・トリガー》三十六幕 魔手の戦場

「鈴、それは・・・能力、か?」

わざわざ確認するまでもなかったが、こういう時に口をついて出る言葉など大抵はそんなものだ。

目前。鈴のからびる無數の糸は、散したアスフアルトや金屬片を繋ぎ合わせ、鈴自を守る盾としての役目をもたらした。

「私にも分からない、ってのもヘンな話よね・・・きっとそう。これが、私の能力」

―――――――――――――――――――――――――

鈴の記憶の中。

初めて知った、祖母のが心に浮かぶ。

小さな命を大切にする、心。

小鳥のさえずりに耳を傾け

草花の香りに目を下げ

大切な孫の笑顔に、心からの微笑みを向ける

それは

長い歴史のなかで人類が築き上げてきた「」が、帰著すべき場所にたどり著いた姿。

人が手にした高等な能力をもって他の生きを殺し、躙する悪辣さではなく、磨きあげられたをもって他の生きを尊び、する優しさ。

そう

鈴の祖母は、他の誰よりも―

―命にされていた。

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「・・・だからって孫の私にこんな能力ちからを與えるなんて、神様って結構親切で世話焼きなのかもね」

「一人で解決されると俺が理解に至る余地がなくて困るんだがな」

戯言を口にする人をよそに、鈴は「気にするな」とでも言いたげに鼻を鳴らす。

鈴はほんのしの間、何かに想いを巡らせている様子であった。

しかし、今は違う。

何に背中を押されたのか、力強く、自信に溢れた顔をしている。

「キヒィ・・・面白イ能力ちからだネ。ただの子供かト思っテ、油斷したヨ・・・」

聲に引かれるように鈴と人が振り向くと、早くも腕の治癒を完了させたらしいエイプリルが、憎悪を含んだ笑みを見せていた。

先刻よりさらに上。

「生の高校生」に対しての戦意ではなく、「能力をもった怪校生」に対するそれをあらわにしていることは容易にじられる。

「いろいろと幸運が重なって、どうやら私も、ようやくだけど能力ちからを覚醒できたみたい・・・」

鈴が、人に向けてとも、エイプリルに向けてともとれる一言を口にした。

「・・・神河」

「・・・なんだ?」

「これって私、ひよっとして神河より戦力になるんじゃない?」

「黙ってろ。今俺も、その疑いようのない事実に気づいて焦ってるところなんだ」

なんとけないことだろうか。

今、この騒に突っ込んできた張本人であり、力的に子を護るべき男子である俺は、明らかに戦力的に鈴に劣っている。

に付け、能力により防面を発的に強めた鈴。

対して俺は、武は平凡、能力の方も現狀では、敵の武の消去のみ。

つまるところ、素手で襲ってくるエイプリルには何の影響も與えない。

「・・・鈴」

「・・・なによ」

「俺が囮になるってのはどうだ?」

「急に自分のことを餌扱いし始めるあたり、神的ダメージが気がかりなんだけど?」

悲観的な発言と共にしぼんでゆく人の自信を、鈴は冗談をもって何とか繋ぎ止める。

僅かながらし落ち著きを取り戻した人は、ここであることを思い出した。

「なあ、鈴。やっぱり俺が囮になる」

聲量を押さえた作戦の提示に、鈴は案の定、顔をしかめる。

「だから、そんな命投げ出すような作戦、簡単には認められないの。わかるわよね?」

「いや、大丈夫だ。俺の命は保証されてる。他でもなく、あのエイプリルっていうにな」

強めの口調での指摘に、俺は確固たる自信をもって斷言する。

そう、エイプリルは言っていた。

神河人の、特に脳を傷つけられないと。

それはすなわち、容赦なく吹き飛ばされたり、力加減無しの即死技を喰らったりはしなくて済むということだ。

「・・・確証はあるんでしょうね?」

「無かったら別の作戦考えてるだろ」

「はあ、わかった。・・・言っとくけど、私が習ってるのは護だから、アイツをブッ飛ばして勝利、なんてことはできないわよ?」

「問題ない。取り押さえさえすれば、あいつのトリガーを奪って能力を封じられる」

そう、そうなればエイプリルは同年代のに他ならない。決して能力が低いわけではない人なら、恐らく拘束できるはずだ。

「お話ハ終わっタのかナッ!」

ダンッ!

「「っ・・・!」」

弾くような発生の後、腳力強化を済ませていたらしいエイプリルが、人間の限界を越えた速度で突進してきた。

足を踏み出す度に、踏みつけられたアスファルトがひび割れ、弾ける。その異様を見て、しかし鈴はじない。

先程と同じ方法で、エイプリルの攻撃をけるつもりだ。

「來なさいっ!」

鈴がぶ。

途端に、鈴のから純白の糸がび、周囲に散した瓦礫を引き寄せた。

つい先程エイプリルの一撃をけた障壁はそのままに、更に二枚の障壁が、鈴の左右を守るように構築される。

「二度目も同じ守りかたとハ、シ甘いんじゃ無いかナッ!!」

エイプリルがそう言ったと同時、強化の能力を宿した青の髪留めと、赤い手を顕現させる能力を宿した赤の髪留めが同時に輝きを放つ。

「っ!?」

瞬間、俺は背筋の凍るような覚に神経を研ぎ澄ませた。

「祟りの慘手たたりめのざんしゅゥ!!!」

「くっ・・・」

鈴が歯噛みしながら強固な障壁を展開する。

巨大な壁が形作られ、前方からの攻撃ならば一切を弾きそうなほどの堅牢さが見てとれた。

しかし、だ。

鈴の背後。

またしても、鈴にとって死角となる方向から腕がびる。

その手は、先程までの真紅とは異なり、どす黒い紫のなかに赤い鮮が脈しているかのような不気味なものであった。

そして、目を引くのはその大きさ。

樹木の幹ほどの太さの腕が、鈴の矮軀わいくを引き裂かんと迫っていた。

「うおおぉっ!」

俺は迷うことなく、鈴と異能の手の間にり込んだ。

――――――――――――――――――――――――

二つの足跡が、警察署に迫る。

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