《バミューダ・トリガー》四十幕 不審者報
梅雨の近づきをじるような、暑く、かつ気の強い気・・・は、地下にある怪校には屆かないが。
今日も、新しく導されたカリキュラム「襲撃対策」の時間が始まった。
「気になることがあるんやけど・・・」
そう言ってゆっくりと手を挙げるのは、緑のパーカーを羽織った小柄な。
方眼紙を《トリガー》とし、を転送する能力を得た、鷲頭 零わしず れいだ。
「なんだ?零。気になることって」
教壇に立った俺は、聲のした方へと視線を送る。
そして、彼にしては珍しく、し億劫になりながら口を開く零に耳を傾けた。
「襲撃対策」の時間の話し合いには、基本的に先生は同伴せず、決められた監督や指示なしに進められる。
何故なら萬が一、以前怪校教師であった永井 幸四郎ながい こうしろうのように、敵組織から侵してきている、所謂スパイのような人がいた場合に、怪校生たちの持つ報や向が知られるような事態は避けたいからだ。
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怪校生の新高校生三年部となる生徒の意識も、零へと集められた。
「ちょっと、不審者・・・?みたいなんが、霊峰町の中をウロウロしよるみたいなんよね・・・」
(不審者・・・?)
「不審者!?零ちゃん、それって、どんな?」
食いぎみに詳細を追求したのは、零の二つ隣の骸木 儚むくろぎ はかなだ。
彼は生まれつき視力がほとんどなかった。
々と不便をしてきたことは言うまでもないが、現在は別の覚で視力を補うことに功している。
聴力だ。
彼は自らが発する音が反響し、再び聞こえるまでの時間や立を捉え、自の周囲の狀況を把握することに功している。
「音の反響による周囲の把握エコーロケーション」と呼ばれ、世界全を見ると意外と多くの人々が多かれなかれこの覚を使って生活しているという。
儚は、消極的というわけではないが、普段それほど自分の意見を推していくことはない。
そんな彼がこれ程までに話題に食いつくということは、何か心當たりでもあるのかもしれない。
「骸木さん、食いぎみやねぇ・・・?」
どうやら儚の食いつきは、零からしても意外にじられたらしい。
目を丸くして暫し儚を凝視しているのが妙に新鮮だ。
「あ、いや、実は、私も不審者みたいな人の事が気になってたから・・・」
「「「えっ?」」」
數人の聲が重なる。
驚きだ。
怪校生という人數の枠組みのなかで二人も不審者について話題をあげたということは、それなりの信憑をもつ。
(不審者、か・・・)
現時點で怪校生の持つ最大の目標は、能力者で構されているとおぼしき組織、「雙蛇のデュアルスネイク」の脅威から逃れることだと言っても過言ではない。
しでも多くの報がしい一方で、なかなかそうはいかないのも事実だった。
そんな中こうして、関係の有無はともかく、報として手にる話が出ることは前向きに捉えて良いだろう。
「零、儚、話してくれるか?お前らが気になってる不審者について」
「うん」
「もちろん」
二人同時に頷き。
先に話し始めたのは零だった。
―――――――――――――――――――――――――
ウチが異変をじたんは、二日前のこと。
夕方の六時頃、怪校の寮から出て、夕飯の買い出しに行ったときやった。
商店街に差し掛かるところに、バス停があるんは皆知っとるよね。
その辺りを歩きよったときに、ね。
突然じたのは、背筋の凍るような怖気おぞけやった。
何でかは分からんのやけど、妙な不快がして、それをここ二日で、たびたびじるようになったんよ。
じるのは決まって商店街周辺。
不確かな報で申し訳ないんやけど、それが今話せる全部。
でも、普通の人間とは違ってるような、そんな気がしたんよ。
―――――――――――――――――――――――――
「現時點では、こんなところやねぇ・・・」
零が、しばかり申し訳なさげにうつむいた。
「なるほど。伝えたいことは分かった・・・が、それはあまりにも報、っつーか、拠になる部分が弱くねぇか?」
秋仁しゅうじが、不満そうに首をかしげた。
確かに、報としてはないかもしれない。
(でも、ま、儚の話しも聞いてみないことには解らないか・・・)
「まあまあ、秋仁。儚の話しも聞いて、それから考えても遅くない」
「そうだね、報の整理や信憑なんかは、全部聞いてから決めればいいからね!」
「・・・それもそうか」
秋仁は目を伏せ、儚が頷く。
諒太りょうたの後押しもあり秋仁が納得してくれところで、次いで儚が口を開いた。
―――――――――――――――――――――――――
私は目が悪いから、明確にそれ・・を見てはいないんだけど・・・
私が変だと思った場所も、商店街の辺り。
私は長い間エコーロケーションを使って生活してるから、人のを視覚以外でじ取ることに秀でているんだけど、そのときじたのは―
―恥心と、何か後ろめたいことを抱えているようなだったわ。
格は、長百七十センチくらいでがっしりとしていたから、多分男の人だと思う。
回りの目を気にしてるみたいにおっかなびっくり歩いてたから、エコーロケーションで知したときに他の人より浮いていたの。
―――――――――――――――――――――――――
「私からは、これくらいかな・・・」
「すごいんやね、骸木さん・・・そこまでわかるやなんて。ウチは詮索とかせんかったけん、格やなんかはさっぱりやったんやけど」
儚が語り終えると、零は心した様子でそう言った。
「なるほどな。商店街周辺に現れる、何か後ろめたいことがあるようで、恥ずかしがってる、がっしりとした男。そんでもって、零みたいなに怖気をじさせるような不埒者・・・」
要點をまとめて、俺は思った。
「・・・不審者だな。調べる必要がありそうだ。なあ、諒太?」
「そうだね。僕も一人のの兄として、この霊峰町に不審者をうろつかせたくはないよ」
諒太も、俺と同意見らしい。
「わ、私も・・・そんなこと聞いたら怖く、なってきたかも・・・」
小さくなって聲をらしたのは、マイエンジェル・明日香あすかだ。
これまで黙っていたと思ったら、どうやら恐怖心を芽生えさせていたらしい。
(くっ・・・!おのれ不審者っ!俺の・・・じゃなくて、俺たちの明日香を怖がらせやがって!!明日香には笑顔こそが似合うってのに!!!)
完全に心に火がついた。
「よし!その案件、調査する必要があるなあっ!」
「おーい、神河かみかわー。背景にメラメラと燃え盛る炎が見えるぞー」
鈴が何やら言っている気がするが、関係ない。どちらにせよ、この件を見過ごすことはできないだろう。
「俺は賛だぜ。しでも怪しいなら、調べておくに限るだろ」
今日初めて口を開いた頼矢が、ここにきて俺の背中を押してくれた。
「人がそう言うなら、やるしかねぇな!」
「そうだね!」
「ボクも異議なし、だよ」
翔斗を始め、他の面々も肯定のようで何よりだ。
「よし!早速今日、商店街に行くぞ!」
―――――――――――――――――――――――――
時刻は四時。
放課になった怪校。
高校生新三年部の生徒たちは、まだの高い教室で、今日の調査の選抜メンバーを決め始めたのだった。
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