《No title_君なら何とタイトルをつけるか》

小雨の降る暗闇だった。

「姉さん!行かないで…!」

「…」

ハルカは何も言わずに消えた。

「…僕を1人にしないで」 

小さなハイネは泣いていた。

須飛利斗 羽音、大財閥の家計に生まれた僕はどこでも完璧を求められていた。

それは別に嫌ではなかった。力がつけば將來この家を出ることが出來ると考えたからだ。

そんな僕は完璧、ではなかった。勉強や運能力、外見、信頼。そんなものは100點だった…けれど僕は完璧じゃないものが1つあった。

それは"し方"だった。されてばかりでし方を知らない僕は姉にだけは素直に家族としてすることが出來た。そんな姉は僕にとってはとても大切な存在だった。だからあの日の出來事は大きな喪失に繋がるものとなった。

「姉さん…大丈夫?」

「大丈夫よ」

「で、でもこんな縁談の話…」

「ハイネ、仕方がないのよ」

ハルカは悲しそう微笑みハイネの頭をでた。

両親が決めた縁談は姉を苦しめていた事をハイネは充分に理解していた。けれど、姉の気持ちを守ることが小さな僕には無理だった。

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案の定 姉は縁談の話を無理矢理破り、僕の住まいにを隠した。

「姉さん…」

「ごめんね、やっぱり怖くなって…逃げちゃった」

「…逃げてきても良かったよ」

「ありがとう。ハイネは優しいね」

ハルカは目にクマを出して無理して笑った。

唯一 僕のが試される姉を傷付けた奴等が嫌いだった。

姉はその後何も無かったかのように過ごしていたが本家の使いが姉の居場所を探し出そうと僕の屋敷にまで押しかけてきた。1回だけでは何回も…その度に僕は姉を屋敷の隠れ地下に隠れさせた。

僕も姉も本家には戻りたくなかった。姉は本家に対する恐怖心から僕の前から消えた。

時が過ぎ 僕は気付けば海上団の長となっていた。姉が消えた大きな心の傷は時間が経つにつれて薄れていっていた。

あの出來事を忘れる筈がないと思っていたが長としての忙しさに囚われている事が原因だろう。

長というのは辛いだった。簡単に部下からは反逆行為にあい、命を狙われ、組織を上手くまとめないといけない存在。まさに言われるままに、思われるままに頭を働かせる人形だった。

そんな人形でも楽しめる時間があった。

それは愉快な部下等と過ごす事だった。

グレイが連れて來たメコとアイ、政府が指名した僕の使い アイクとイグニス、新兵ながらも僕がボディーガードとして指名したヴェルザ、學園時代からの友人 エイダン殿とアルバ殿。

まさかアルバ殿と対戦することになるとは僕は思ってもいなかった。そして戦爭は引き分けとなった。

「…」

手首には手錠をかけられ男達は最高裁判所へ僕を連行した。

これで僕は終わり。と悟っていた。が、裁判から思わぬ事を言われた。

「海上団 団長ハイネ・スピリト 平和法12條違反により…無罪を言い渡す!」

周囲がざわついた。

「…裁判、どうしてですか?僕は…」

「普通なら貴方は有罪 。懲役30年です…が、多額の保釈金が出ております」

「僕は保釈金など用意していません」

「ウキ・アルバが保釈金5000萬を出しました…彼からの伝言を預かっています」

「我が友人スピリト殿、この度は申し訳ございませんでした。多くのが流れる結果になった…しかしこうする他なかったのです。許してください…俺はスピリト殿に恨みは一切ない。だがスピリト殿は俺を恨むんであろう…本當にすまない」

僕は裁判所の裏口からかに出された。

世間にはこの事を黙っておいてしいというアルバ殿の話で僕は行方不明だとニュースや新聞で伝わった。

長として役目もない、特にこれからの予定もなかった僕は屋敷に1度帰ると旅に出た。

神奈川の橫浜の宿泊亭に泊まり、晝は海を眺め 夜は中華街で飲みに行くを繰り返していた。不思議と飽きないこの生活は平凡だった。

「おい、兄ちゃん!俺と幽玄で飲まないかい?」

愉快な酔っ払いと僕は幽玄という中華街の人気料理店へった。

「いらっしゃっいませー!」

笑顔で接客するメコの姿を見て僕は目を見開いた。

「…」

「何名様でしょうか?」

「2名様でぇす」

酔っ払った男が肩を組んできて言った。

…メコは僕の事をハイネだと思っていないようだった。

それはそうだな…こんな笑わない僕はハイネとは別人だ。

「好きな席にお座り下さい」

メコは忙しそうに切磋琢磨働いていた。

僕はあの人等の事を1度も忘れた事はない。

愉快な部下…いや、今思い返せば友人だったと言える。

豬口を片手にホロ酔いながらも僕は思い出話を酔っ払いに語っていた。

「お兄さん!もうお店閉めちゃいますよ?ほら、起きてください」

メコはハイネの肩を揺らした。

「あぁ…すまない…」

僕は元気そうなメコを見て他の奴等もメコのように暮らしているといいが…と思った。

電話の著信音が鳴った。

「アイそれは本當…?」

アイとメコは連絡を取っているのか…。

「…そうかい。じゃぁヴェルザを明日満足させる料理作らないとな…うん。じゃ、さよなら」

「…!?…し、知り合いかい?」

「えぇ、そうですよ?」

ヴェルザ…姉とどこか重ねてしまう。

學園時代の方を幾ら抱いても僕のは伝わる事が無く、で満たされる事は1度も無かった。

けれど、君だけは違った。こんなは初めてだったんだ。一目見た瞬間乾いていたしだけ潤った…僕のは伝わらなくていい。不完全に満たされた僕はもう充分だった。

素直で忠実で、ちょっと変な所があるけれど…そんな抜けている所が姉と似ていた。

「…ご馳走様でした」

店を出た僕は翌朝また幽玄に來た。

ヴェルザに會うために…。あとグレイとイグニスの行方が分からない。だからごめんな…もうしだけ僕の事を見つけないでくれ。

顔を隠し、聲もしだけ上げた。

「…何を見ているんですか?」

あぁ…君を見ているんだ。

あとし…しだけこのままで。

もうしなんだよ…あと2人の無事を確認したら僕のは満たされる。

を言えば…このを溢れださせるために姉さん…貴方の幸せを見たい。

「僕は目が見えなくてね…ただ音を聴いているだけだよ」

ハイネはいつものように微笑んだ。

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