《久遠》第7話 

ドラキュラ伝説、師、ナチスドイツの人実験。歴史の影には常に異形の存在が絡んでいたときく。

そしてそれは現代の日本においても例外ではない。

約10年前に日本を襲った未曾有の大災害、地震、津波、火山の噴火。あらゆる自然災害が巻き起こり犠牲者は何萬という域にまで達した災害。あの原因にも異形の存在が絡んでいた。

災害と見せかけて実は戦爭だったそれはハンター達の世界では《百鬼夜行》と呼ばれている。異界から溢れ出た數多の死霊や怪たちに一度日本は躙されたのだ。しかし、そこから滅鬼師の活躍があって今の日本は平和を取り戻した。それでもいまだに人々は魔や滅鬼師という存在を知らないものがほとんどである。全ては異界の存在を知った市民によるパニックを防ぐための滅鬼師達による計らいだ。

「復興不可能なんて言われてたけど……數年で立ち直ったんだから凄いわよねえ」

バンピールは昔話をしながら手元の刀に細工をしている。

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ここは雷名高等學校のある街から數キロと離れていない兜山、その山中にある窟である。

中は冷えこみ、水のしたたる音が聞こえる。

バンピールはいかにもという場所を寢床としていた。

明かりはない。り口からのも奧までは屆かない。

今は直江が自分自のために懐中電燈を數カ所設置して足場を照らしている。でないと、つまづくのだ。なんかりやすいし。

「バンピールって何歳なんだよ」

「ちょっと。レディに年齢をきくなんて失禮ね」

「……いや、男だろ」

オカマの吸鬼はし角張った巖を作業機代わりに刀をいじっている。

その刀とは四ノ宮の刀〈我寫髑髏〉であった。

直江が彼から借りて來たものである。もちろんすぐには渡してくれなかった。

四ノ宮家は、今は廃れたそうだが平安時代には獨自の剣を用いて魔を狩っていた一族の末裔である。〈我寫髑髏〉はそんな一族の寶刀らしいのだが「大丈夫。ちょっと研究してみたいだけだから。え、仲間だったら貸してくれるよね?寶刀だけど、の大きい人なら貸してくれるよね?」と言うと、「も、もちろんさあ!」と快く渡してくれた。プライドのために敵に渡るとはやっすい寶刀である。

バンピールはいったい何をしているのか、刀の刀に手を當ててもう一方の手は見えない何かを作しているかのように指をゆらゆらとかしていた。

「10年前の百鬼夜行で、死霊がこの國を躙した暁には……本當なら私は四國一帯を治める王の地位が約束されていた……」

「……だからじゃねえじゃん」

「うるさいわね!とにかく偉くなれるはずだったのよ!けれどこんなものがあるせいで……」

バンピールが我寫髑髏を忌々しく睨む。

封魔。異形の存在を屠る力のある道は全てそう呼ばれている。

もちろんこの我寫髑髏もそのの一つだ。

刀に込められた念のようなものが例え不死の存在であろうと滅する。その込められた念を今バンピールは減らしている最中らしい。もしこれで自分が切られても大丈夫なように。

彼が刀を持ち上げてに當てる。刀の輝きに目をくらませた。

「……まだ強いかしら」

指をパチンとならす。

すると闇の中から何か巨大なものがゆっくりと彼に歩み寄った。

そのおぞましい姿は何度見てもがよだつ。

2メートルはゆうに超える大きなはみっしりと筋で覆われ、さらにその上から錆びたの鎧兜をにつけている。バンピールの使役する怪だ。彼はそれを海外俳優から名前を取ってシュワちゃんと呼んでいる。

我寫髑髏を近づけるとシュワちゃんが人には出せないような聲で低く唸る。刀を恐れているのだろう。

「まだ抑えないとね……」と作業に再びとりかかるバンピール。

「あんまりいじりすぎないでくれよ。あからさまだと僕が細工したって疑われる」

「わかってるわよ。何か上から言われてるみたいで腹が立つわ。しは私に従屬してるってこと意識したらどうなのよ」

そう言って不機嫌な態度をとるが、フランクに接しろと直江に命令したのは彼自である。

「そんなことより。直江、わかってるわよね。あんたの仕事」

「もちろん」とうなづく。

直江の仕事。それはこの街にプロの滅鬼師を來させないようにすることだ。

滅鬼師やその見習いが所屬する組織は月に一度《本局》と呼ばれる滅鬼師を管理する場所にその活をメールなどで報告しなければならない義務がある。直江がその報告を一任されていた。

四ノ宮は「そんなこと天才の僕がする必要なんてないのさ」とか言い、吾郎にいたってはアホすぎてパソコンが使えないからだ。

話を戻すがその報告において、もし狩りにおいて手に負えないと判斷した場合、応援をその地區に呼ぶことができるのだが、それを彼が阻止している。

吾郎や四ノ宮は早くプロを呼べと言っているが、直江は「プロはみんな忙しくて來れない」と適當に噓をついて誤化している。本當は「問題なし」とひたすら同じことを國に報告しているのだが。

さらにバンピールにも一人から摂取するの量を抑えてもらっている。

前は生きるか死ぬかの瀬戸際までを吸い、時に命を奪うこともあった。しかし死が増えれば國への報告でいくら噓をついていても不審に思った腕利きのハンターが來てしまう。

「絶対にこの街につれてくるんじゃないわよ。特に……麻上一族はね」

そう言ってバンピールはギリリと恨みをこめて歯を噛み締めた。

彼がする話の中でよく出て來るのがこの麻上という名前だ。

教本には書いていないのだが、バンピール曰く「百鬼夜行の際にこいつらがいなければ間違いなく西日本は取れた」らしい。

「大丈夫。そいつらは僕が來させない」

「そう自信満々に言うあたりが逆に怖いのよ」

いや、絶対に來させない。

プロのハンターが來れば間違いなく戦闘は激化する。そうなれば吸鬼特捜隊のメンバーを傷つけなければならなくなってしまうかもしれない。でもそうはしたくない。

直江の頭に浮かぶのはいつものように寢息をたてる祭ちゃんの姿。

どうか彼だけは……自分の好きな相手くらいは………。

鬼になりたい。けれど好きな子も守りたい。自分は甘すぎるんじゃないか、と直江は時折思うのだった。

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