《あなたの未來を許さない》第三日:05【堂小夜子】

第三日:05【堂小夜子】

キョウカの姿が消えた後……小夜子は改めて床拭きと、自分の小水で濡れたジャージの洗濯を行っていた。

洗濯機を回しつつ買っておいた弁當を溫め夕食を取り、その間にも恵梨香とのSNSでのやり取りは続けておく。

(明日にはもう、會えないかも)

そう考えると、恵梨香との繋がりをしでももっておきたいという求にかられるのだ。

本當なら適當に理由をつけて直接顔を見に行きたいところだが、會えばそれだけで泣き出してしまいそうである。斷腸の思いで、それは止めておいた。

(えりちゃんに、面倒はかけたくない)

そんな様子を見せれば、恵梨香は必ず心配してくれるだろう。しかし、相談できることでもない。

死ぬのが小夜子だけならまだいいが、相談したことで恵梨香にまで未來人の手がびる危険は許されない。そんなことを、しでも小夜子は認めるわけにはいかなかった。

洗濯の取り込みや風呂を済ませて部屋に戻れば、時刻はもう二十時を回っていた。

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ベッドに腰かけると、充電にかけていたスマートフォンからぴろりん、との著信音。恵梨香からのメッセージである。

《今日は早めに寢るね。おやすみーさっちゃん。また明日》

《お大事にー》

個人的にはもうしやり取りを重ねたかったが、今日の恵梨香は調が優れない。早めに休ませてあげるべきだろう。

(だから、これでいい)

もしもう會えなくなっても、これでいい。

「……うん」

一人頷き、ベッドへぽすん、と倒れこむ小夜子。それから寢返りをうち、を橫に向けた。

ふと、學習機の脇に置かれた箱が視界にる。【OMEGA DRIVE Ⅱ】と書かれた、かなり古いゲーム機の箱だ。

……オメガドライブ2。SAGA社が昔発売した、往年の名作ゲーム機。

元々は小夜子の父の持ちで、置の隅で埃をかぶっていたそれを、の彼が発掘してきたものである。

當時としても既に骨董品の部類にるそのゲーム機で、い小夜子と恵梨香はよく一緒に遊んだものだ。

ハダカデバネズミがすごいスピードで走り回るゲームだとか、マッチョな男がに変して戦うゲームだとか、漫畫原作の四人同時対戦格闘ゲームだとか、々な武裝に切り替えられる銃を使って戦うアクションゲームだとか。

二人の、懐かしい記憶である。

恵梨香は小學三年生で父を事故で亡くし、小夜子は小學二年生で母親が失蹤している。

長野家の母親は出版関係の職に就いており元々忙しく、恵梨香の年の離れた姉は既に遠方の大學へ通っており、家には恵梨香しかいないことが多かった。一方、堂家の父親は妻の失蹤後は娘から距離を置くようになったため、こちらは家にいること自が稀。

結果として互いの家にり浸る時間が多くなり……稚園の頃から元々仲の良かった二人は、まさに親友と呼べる関係を築き上げていったのだ。

中學校に上がる頃には恵梨香の母親も余裕のある部署に移っており、家にいられる時間も増えてきていた。そこに対する小夜子の遠慮もあって、昔ほどは時間を共有できなくなる。

高校生になってからは恵梨香の生徒會仕事や塾のこともあるため、一緒に過ごすのは朝の通學時間「至福の十五分」か、休日たまに遊ぶ程度に留まっていた。

小學生の頃はよく二人で夕食を食べたり、風呂にったり、一緒に寢たりしたものだ。そのことを思い出す度、小夜子は「どうして當時に寫真で保存しておかなかったのか」と悔いて止まない。

(もし今の気持ちと知識をもって當時にタイムリープできたなら、お風呂や一緒に寢ている時に、あんなことやそんなことをしておけたのになあ)

などと極めて不埒なことすら考える。

(まあでも小三の時に、遊び半分で初キスを奪っておいたのは正解だった)

普通なら子供の、しかも同とのキスなどノーカウントもいいところだ。

だが當時の小夜子は本能的に舌まで絡めて、ディープで濃厚なそれをかましておいたのである。そのため完全に無効試合であるとは言い難いのではないか……というのが小夜子サイドの主張であった。

勿論、公言などしない。

(當時の私グッジョブ! 吹田先輩がもし今後えりちゃんとキスをしようとも、初めての相手は先輩ではないッ! この小夜子だッー! ーッ)

くくく、と一人ほくそ笑む小夜子。

だが、じきに笑みは消えた。すぐに訪れるであろう、自分の境遇に思いを巡らせたからである。

(もし私が今夜で姿を消したら、えりちゃんは悲しんでくれるだろうか)

対戦に敗れた者の亡骸は、そのまま複製空間に放置されるという。つまり小夜子は失蹤という名目で、恵梨香の前から姿を消すことになるのだろう。

(多分、あの子は悲しんでくれる。泣いてくれる)

あの子は優しいから。とても、とっても優しい子だから。

(でも、私は「未來に繋がらない」人間。私の死が彼の人生に、影響をおよぼすわけじゃない)

それは寂しい。でも、それでいいのだとも思う。

そもそも自分のような人間が、今まで彼の傍にいられただけでもに余る幸福なのだ。

小夜子は、そう弁えていた。

だから、それでいい。

ちょっとだけ泣いてくれて、いつか忘れて、元気に生きてくれれば、それでいい。

皆に好かれて、夢を摑んで、結婚をして、子供を産んで。幸せに生きてくれればいい。

(だから……)

明かりのついたままの部屋に、の寢息だけが聞こえていた。

午前二時の対戦開始まで起きていようとした小夜子であったが、涙を拭うこともなく睡魔に屈してしまったのだ。

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