《あなたの未來を許さない》第四日:03【堂小夜子】
第四日:03【堂小夜子】
「じゃあこれから私たちは協力関係ね。よろしく、キョウカ」
手を差し出す小夜子。キョウカが「すっ」と彼の手まで飛び上がり、指先を抱えるように両掌で摑む。
アバターでれることは葉わない。
サイズが違い過ぎるため、手を重ねることもできない。
そして何より、両者の間には地球四分の一周もの距離があった。
だが確かに二人は、握手をわしたのである。
小夜子は、キョウカが憎い。恵梨香を否定する、恵梨香の生を否定する、恵梨香の未來を否定する未來人どもを憎悪している。
だがどれだけ怨嗟の炎を燃やしたところで、それでは恵梨香を救えないのだ。
それ故に必要なのだ。この握手は。
避けられぬのだ、この同盟は。
だから本気で、手を結ぶ。
彼ら未來人が自分をこの境遇に追いやった事実など、最早どうでも良い。
恵梨香を救うためならば、小夜子にとってそんなことは些細な問題ですらなかった。
◆
『で、まずサヨコに言わなければいけないんだが』
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「何?」
『君の狀況からすればいい線いってる考えではあるが、塩素ガスや硫化水素はアウトだ。使えない』
「どうしてなの」
『條約で止されているからさ』
怪訝な顔をする小夜子に、キョウカは説明を続けていく。
『二十七世紀では幾度もの大戦への反省から、ABCD兵の使用は國際條約で止されている。だから當然僕らも使ってはならないし、ましてやテレビの番組でその使用を認めるわけには、とてもいかないのさ』
「ABCD兵?」
學習機の椅子に座っていた小夜子は、機上のノートパソコンへ視線を移す。畫面に表示されている検索エンジンに、「ABCD兵」というキーワードをタイプ。すぐに畫面は切り替わり、
次の検索結果を表示しています:ABC兵
元の検索キーワード:ABCD兵
という文字列を映し出した。
「Aはアトミックウェポン、核兵。Bはバイオロジカルウェポン、生兵。Cはケミカルウェポン、化學兵……か。Dって何? 検索で出てこないけど」
『Dはディメンションウェポン。次元兵だね。空間斷裂弾とか時空転送弾頭とかそういうの』
「へえ」
時間を移したり複製空間を作ったり、あまつさえその空間に転送したり連れ戻したりもしているのだ。軍事利用されていても、何ら不思議はないだろう。
同時に未來世界との力の差を改めて確認させられ、小夜子は気が滅る思いであった。
「……地球はかいばくだんは、何に分類されるのかしらね」
『何だい? それは』
「ジョークよ。気にしないで」
そうかいと軽くけ流して、キョウカは説明を続ける。
『で、話を戻すけどさ。小夜子が想定していた塩素ガスも硫化水素も化學兵に分類されるから、複製空間では生できないようになっているんだ』
「チッ! 調べていた時間を無駄にしたわね……てか、そんな制限ができるの?」
『既に存在する空間に手を加えるのは難しいが、一から世界を構する場合にその空間の理法則を設定するのは結構簡単なんだ。そもそも、対戦者があんな能力を使えるように作っているくらいだしね。現実世界ではいくら僕の時代だって、あんなマジックは不可能さ』
対戦者自にあのような超自然的能力が授けられているのではない。専用に作られた空間でのみ行使が許されている、ということなのだろう。
「つまり他の連中は能力の実地練習も習も対戦時しかできない、ということか。それなら能力を活用した作戦やら戦やらが洗練されてくるのは、もっと先ね」
『ほう、そういう発想で來るか。面白い』
キョウカが嘆の聲を上げる。
「それに戦闘中に試行錯誤しなきゃならないなら、能力を使うことへ意識が向かうだろうし。対戦相手への考察にしても、能力容ばかりが気になるはずよ」
片側だけ歪む、小夜子の。
「ヘンテコ能力バトルへ夢中になっている間に、私が普通に殺してやるわ」
◆
「で。毒ガスが駄目なら、他に使えそうな攻撃手段があればいいけど。キョウカ、何か心當たりはない?」
腕を組んで考え込みながら発した小夜子の問いに対し、キョウカは首を橫に振って応えた。
『殘念だけど、教えてあげられない。僕ら監督者が戦闘面でのアドバイスをすることはじられているんだ。もしそれを行うと、その時點で船のメインフレームから通信をブロックされ、當日の面談が打ち切られてしまう』
「へえ、そっち側に制限が加えられているとはね」
『これはあくまで【教育運用學】の試験だからね。いかに君たちを機付けて戦わせるか、が課題であって、僕ら自の戦闘理論が試されているわけじゃない。人間をかす勉強の試験なのに、軍事的な知識で結果が左右されたらおかしいだろう? だから、こんな面倒な制限が加えられているのさ』
そう、そうね。と苦々しげに相槌を打つ小夜子。多は當てにしていたのだ。落膽はする。
『それに、もし僕たちから戦闘面でのアドバイスをけられたとしても、あまり中には期待できないと思う』
「ま、兵隊さんでも何でもないものね」
『そういうこと。僕の時代では兵士や警といった戦闘を擔當する個は、ほとんど人工知能が擔っている。そりゃあ人間と機械の力量差を考えれば當然だよね。君らの時代でも、既にその傾向はあったとは思うけど』
小夜子の脳裏に、ニュース映像で見た記憶が再生される。のっぺりとした顔をした飛行機が、ミサイルを撃っている姿だ。あれを突き詰めたものが、未來の戦爭だということか。
『つまり、理的な闘爭からは僕たち二十七世紀人はすごく縁遠いんだ。とても人殺しの技や戦なんて、レクチャーできないのさ。だからこそ君らの戦いが、刺激的なショウとしてり立つとテレビ局は考えたんだろうけど』
人が剣や銃を手にしなくなった未來でも、結局殘酷さや醜悪さは変わらなかったらしい。
「本當、人間ってクソね」
小夜子は、短く低くそう呟いた。
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