《あなたの未來を許さない》第八日:01【堂小夜子】

第八日:01【堂小夜子】

「十一月一日 日曜日 午前十一時」

表示されたスマートフォンから、古いロボットアニメの曲が流れている。小夜子が設定した、アラームの音だ。

うつ伏せに寢ていた彼はもぞもぞとそれを解除し、

「もう、晝前か」

と、上を起こして大きくびをした。

畫面を見れば幾つかSNS通知が表示されていたため、アプリを起してみる。

《おはよう》

《お母さんと買い出掛けてくる》

《『アリ男』って映畫観るよ》

っていたのは數件のメッセージ。全て、恵梨香からのものだ。

《おはようございました。楽しんでらっしゃい》

返信し、立ち上がる。

(おばさんとの時間、いっぱい楽しんでね。えりちゃん)

そしてもう一度びをした彼は、晝に設定したキョウカとの面談に備え……晝食とシャワーを済ませるため、著替えを持って一階へと降りていく。

『昨晩の対戦記録を見せてもらったよ。何度も同じことを言っている気がするけど、本當、大したものだ』

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「一応、ありがとう」

肩を竦めながら、苦笑いする小夜子。

「今夜は【ライトブレイド】が相手ね」

『うん、まあ確定だろう。ヴァイオレットは相當頭にきているだろうからね。報復としてミリッツァに君を仕留めさせようとするに、違いない』

「アンタも、仕返しができたわね?」

『まだ【ライトブレイド】戦が殘っているさ。そこで負けたら、何の意味もない』

キョウカが、ちっちっちっ、と舌打ちしつつ人差し指を左右に振る。

「あら。私は負けないわよ?」

『ん? 僕だって、負けるなんて思ってないさ』

視線をえて、ふふふ、と笑い合う二人。

『で、次の戦いなんだが。今度は相手も、君のことを弱兵と侮りはしないだろう。むしろ強敵という認識で、対戦者にもそう説いているかもね。【ハートブレイク】ほど【ライトブレイド】が無茶な能力者だとは思えないが、舐めてかかってこない分、罠にはかけにくい、と認識しておいたほうがいい』

「そうね」

今まで敵を倒すことができたのは、相手が小夜子の能力を誤認しているか、甘くみていたのが大きいだろう。そういった油斷を突くことが葉わない分、次戦はもっと思い切った戦をとる必要があるかもしれない。

『じゃあとりあえず【ライトブレイド】の能力予測から始めてみるといい。今までの対戦履歴から、どんな名前の相手を打ち破ってきたかで能力の手がかりが摑める可能が……ん?』

キョウカの言葉が、止まる。

「どうしたの?」

『いや、おかしいんだ。三十分の面談時間に合わせてタイマーを設定しておいたんだけど、タイマーが、カウンターが減らないんだ。ずっと、當初の殘り時間を表示したままなんだよ』

「何それ、時計壊れたの? それともバグ?」

『分からない。こんなの、初めてだよ』

腕を組み、首を傾げるキョウカ。それに合わせて、小夜子も頭を傾ける。

そしてそのまま數十秒が過ぎ……ふっ、と二人の間に浮かび上がる畫面。

一覧名簿や対戦績ではない、何かの映像投影である。

「キョウカ、何かした?」

『いや、別に』

畫面に映っているのは白い部屋だ。壁も備え付けの家も、白く、らかそうな素材でできている不思議な部屋。

部屋の中央には椅子とベッドの中間の如き形狀をしたが備え付けてあり、そこには、長い金の髪をしたが橫たわっていた。

小柄で細い手足。からいって、白人種だとは思われる。頭部には上半分へすっぽりとヘルメットのようなが被さっていて、顔はよく見えない。

橫たわる彼の薄い部は緩やかに上下へいているため、生きてはいるようだ。しかしかないのは意識がないためだろうか。もしくは、眠っているのか。

『僕の部屋だ……』

わけが分からないという表で呟き、畫面を見つめるキョウカ。

「え!? これアンタなの!?」

『うん……』

「杏花なんて名前だから、もっと日本人っぽいかと思ってたわ」

『君たちの時代から六百年後だぞ? 二十七世紀に人種もへったくれもないよ。僕の家系は滅んだ日本がルーツだけど、日系のなんてもう何十分の一かもわからない程度さ』

「日本滅亡してんの!?」

『うん、前の前の世界大戦でね。々あって今はユナイテッド・ステイツ・ノーザンのファイスト州さ。でもそんなことより、どうしてこんな映像が流れてきたんだろう』

……ぷしゅ。

畫面の中で、部屋のドアが開く。

そこからってきたのは、四人の人影だ。が二に、男二である。

『ヴァイオレット!? それにアンジェリーク!? 何でテイラーにマッケインまで僕の部屋に!?』

驚愕の聲を上げるキョウカ。

タイミングを同じくしての片方、栗の長い髪をした人が畫面のほうに向きを変え、まるでキョウカと小夜子へ語りかけるかのように、口を開く。

『キョウカ=クリバヤシ。自分の分も弁えずにこの私に恥をかかせた報い、いえ、ご褒かしらね』

うふふ、といった風に嗤う。

『それを、貴方にあげに來たわ。有り難くけ取りなさい』

ヴァイオレットが親指で合図すると、畫面視點が、橫たわっているキョウカのほうへぐぐっ、と寄る。

クローズアップされたのは、キョウカの元だ。そこにハサミのようなをもった男の手がび、指がスウェットに似た服を摑む。

そして前を、つつつ、と切り裂いたのだ。自然、服の下からの痩せたが現れる。

『おい馬鹿やめろ! ヴァイオレット! やめろ!』

キョウカがぶ。

『あ、ちなみにそっちで何か言っても、私たちには聞こえないからね。でも畫面だけっていうのも可哀想だから、こっちのじる覚は、そっくりそのままあなたの意識にフィードバックするようにしておいてあげたわ』

『やめろおい! 何するんだ!』

半狂になってぶ妖アバター。

「キョウカ、早くに意識を戻して逃げなきゃ! 助けを呼ぶのよ!」

『違うんだサヨコ! 戻れないんだ! 戻れないんだよ!』

キョウカは悲痛な面持ちで、小夜子を見上げる。

『ファック! 何か細工されてる! クソッ、僕が、アバターに同調して無防備になる瞬間を待ってたんだこいつら!』

今度はキョウカの下半にまでびる、男たちの手。ゆっくりと、それもがされた。もうキョウカがにつけているのは、下著一枚だけとなる。

『やめろよ! おい! ヴァイオレット! アンジェリーク! テイラー! マッケイン! やめてくれ!』

『あ! そうだ。言い忘れてた』

び続けるキョウカを他所に、ヴァイオレットが再び嗤う。

『あなたの記念すべき卒業行事は、ちゃーんと撮影しておいてあげるから、心配しないでね。二十七世紀に戻ったら、全世界のみんなにも、こっそりと公開してあげましょう』

『ヴァイオレット!!』

『ああ大丈夫よ。勿論、私たちだって特定できないように細工しておくから。人気者になるのはキョウカ、貴方だけよ……良かったわね?』

『やめろおおおおおお!!』

そしてとうとう、最後の一枚にも指が掛けられたのだ。

畫面には、醜悪な景がずっと映し出されている。

『痛いよ、痛いよサヨコ。助けてよ、サヨコ』

キョウカは啜り泣きながら、悲痛な聲を上げ続けていた。

小夜子が彼をすくい上げ抱きしめようとするが、その手はキョウカのアバターをすり抜けるのみ。れることも葉わない。

「キョウカ……!」

『気持ち悪いよお、吐きそうだけど吐けないんだ』

「私がいるわ、ここにいるわ」

『痛いよ、すごく痛いんだ、お腹が、お腹が痛いんだサヨコ』

「見ちゃ駄目よ、目を閉じていなさい」

『助けてよ、助けてよサヨコ』

「……キョウカ」

キョウカをで覆い隠すように、這いつくばる。それが、小夜子にできる唯一の行であった。

畫面の中ではヴァイオレットが行為を囃し立て、愉快そうに嗤っている。その景が小夜子の中の赤黒い兇暴な「何か」を、再び熱く蠢かせていく。

……結局。

ヴァイオレットらによる「制裁」が終わるまでには、一時間以上を要し……その頃にはキョウカはもう、言わぬ人形のようになっていたのである。

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