《あなたの未來を許さない》第八夜:01【スカー】
第八夜:01【スカー】
どくん。
鼓と共に、小夜子の意識が蘇る。
「晝間か」
視界は明るい。そして現在位置は、建の中のようであった。
長く続いた廊下。右手には窓、窓、窓。そして左手には、引き戸、壁、また引き戸、という合に構された大きめの部屋が幾つも並んでいる。
既視。というよりも小夜子には、すぐにここが何の建かが理解できた。いやおそらく誰でも、分かることだろう。
「學校だわ、ここ」
勿論小夜子が通う學校ではない。だが校舎というものは大抵、似たような雰囲気を持つものである。
そして、引き戸の窓から見える教室の掲示を見るに……ここはおそらく、小學校であるのだと思われた。
(これが今回の、戦場)
鉄筋コンクリート造りの學校など、余程特殊な環境でもなければ大構造の想像がつく。
その分舞臺の把握にかける時間はなくて済むが……ただこれは、相手にも同様にいえることであった。雙方の初がスムーズになるのは、小夜子にとってはあまり歓迎できることでもない。
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『空間複製完了。領域固定完了。対戦者の転送完了』
いつものアナウンスが開始される。
『Aサイド! 能力名【ライトブレエエイド】! 監督者【ミリッツァ=カラックス】!』
「やはり來たわね」
キョウカを待している三人娘の、最後の一人。その彼が擁する対戦者、【ライトブレイド】。対戦績は、五勝〇敗一引き分け。
『Bサイド! 能力名【スゥゥカアアッ】! 監督者【キョウカ=クリバヤシ】!』
表示された戦績は、五勝〇敗二引き分け。
『対戦領域はグラウンドを含む小學校全です。今回からは時間が無制限になりますので、相手の死亡をもって対戦は終了となります。時間中は監督者の助言は得られません。それでは、対戦を開始します。ご武運を!』
(ついに時間が無制限になったのか)
こちらの戦いも、恵梨香の戦いも……引き分けは無い、ということなのだ。
ぽーん。
いつ聞いても不愉快な、通算八度目の開始音。
「必ず勝つわ」
そう。後一度だけ、この音を聞くために。
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◆
窓から外を眺めてみる。案の定、それだけで校舎の構造は概ねが摑めた。
この學校の校舎は大きく分けて二つ。便宜上ABとつけ、今小夜子がいる四階建てがA校舎、そして向こう側に見える三階建てがB校舎とする。
向かい合って並ぶ二つの校舎は、B校舎と同じく三階建てでできた連絡棟で繋げられており、A校舎だけが一階分背が高い形になっていた。
真上から見た場合、漢字の「工」の字と例えるのが最も分かりやすいであろうか。
小夜子がいるのはA校舎四階。その端であった。
(大抵こういうのって片方の校舎は普通教室がほとんどで、もう片方に家庭科室だの音楽室だの、特別教室が作られている場合が多いのよね)
階數や細部こそ違えど、小夜子と恵梨香が通っていた小學校や中學校は似たような構造、構になっていた。ここもやはりそうであるなら……今彼が立つ校舎は普通教室が主である様子なので、特別教室は向かいの校舎に集中しているのだろう。
(とにかく、急いで武を調達しないと)
足音を立てぬよう、靴はいで手に持つ。武を調達する前に接敵してしまえば、その時點で小夜子は窮地に立たされるからだ。
普通教室は全て無視し、階段へ向かう。
父親の世代では工作用の小刀を各自の機で保管していたり、裁セットの裁ちバサミも尖端が尖っていたりして、ふざけて怪我をする児もいたと聞く。
最近は子供の怪我や校での傷害事件に神経質になっているせいもあり、普通教室で武らしい武を手するのは難しいと考えられた。小夜子とて、小刀で鉛筆を削った経験など無い。
駆け降りて一階に著いた小夜子は左右を見回し、職員室がこのA校舎にはないことを確認すると、B校舎へ向かう。
連絡棟の一階は下駄箱。そこを走り抜け、先へ進む小夜子。
B校舎一階に進した彼が右手に視線を移すと、「職員室」のプレート。周囲を伺いつつ小走りに向かい、音を殺しながら侵する。
目當ての場所はすぐに見つかった。それは教頭席と思われる機近くの、キーボックス。
小夜子の探しは特殊教室の鍵なのである。特に、家庭科室と家庭科準備室。他にも図工室や理科室、それら準備室の鍵をポケットに次々と詰め込んでいく。
(先生の機なら、カッターくらいはありそうよね)
そう思い教頭席から離れ、一般の教員席に向かう小夜子。最寄りの機を、手早くする。
「きたない」
あまり整理整頓が得意な教員ではないらしい。
ボールペン、コンパス、定規、ハサミ、カッターナイフといった文房に加え、ポケットティッシュや弁當で余ったと思われる未開封の割り箸、おそらくは去年の冬かられっぱなしであろう使い捨てカイロまでもが雑に詰め込まれていた。
(私も人のことを言えた義理じゃないけど……先生なんだから、しっかりしなさいよ)
カッターなどをポケットにれつつ、呆れたように彼は肩を落とす。
◆
左右を窺いながらそろりそろり、と職員室を出。は特別教室へ向け移を開始する。
時折足を止めて耳を澄まし、【ライトブレイド】の足音が聞こえないかどうか注意を払うことも怠らない。
幸い図工室はB校舎一階。職員室とは反対側の端にあり、家庭科室はその手前に位置していた。近い。
正直なところ、小學校の図工室で武にできるものがあるか、分からない。そのためまず、家庭科室で確実に包丁を手にれることを小夜子は選ぶのだった。
がちゃり。
ポケットから取り出した鍵で、ゆっくりと開ける。
「包丁包丁……」
中にり捜索を行うと、包丁はすぐに見つかった。準備室保管庫の中に、まとめて収納してあったからだ。鍵は職員室から持ってきたもので、あっさりと開いた。
何本か候補を機の上に並べ、その中でも特に尖端が鋭利な一振りを選び、手に持つ。
(とりあえず、これで最低限の武は手にれた)
「次は図工室をしにいくか」と呟く小夜子の耳に、突然屆くものがあった。
ぴんぽんぱんぽ~ん。
どことなく耳慣れたリズム。異常な世界に似つかわぬ、軽快な音。
校放送の、開始音である。
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