《あなたの未來を許さない》第八夜:02【スカー】
第八夜:02【スカー】
ぎょっとして、思わず天井を見上げる小夜子。
『いきなり驚かせて、すまない【スカー】。僕は【ライトブレイド】だ。君にはどうしても挨拶をしておきたくて、この放送を流させてもらっている』
男の聲だ。それも、若い。
やはり今までのパターンから考えると、【ライトブレイド】は男子高校生なのだろう。
『まず、君に対し敬意を表させてもらいたい。極めて過酷な狀況にも関わらずここまで勝ち抜いてきたという事実に対し、僕は正直、驚嘆と尊敬の意をじ得ない。本心を言えば、會ってゆっくりと話をしたいくらいだ』
(放送室から……!?)
『僕は君と戦えることを栄に思う。とても、とても嬉しいんだ』
(こいつは何を言っているの? 心理攻撃のつもりなのかしら?)
『僕の言葉に噓が無いことを信じてもらうために、今から僕の能力を君に教えておこう。確認できるようにするから、良かったら表示しながら聞いてくれ』
何の導だ、と訝しがりつつも。小夜子は小聲で呟き、能力容を近くに表示させた。
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『えーと……【能力容開示】。能力名【ライトブレイド】。これは、力場でプラズマを包んだの剣を生み出す能力だ。もっと正確に言えば、の刃を生やす「柄」を生み出すことができる能力だな』
小夜子の右脇に表示された【ライトブレイド】の能力容。その主能力たる白文字部分が更新され、文字列を表示する。
それを読んだ小夜子が、驚きで小さくく。
・力場で包んだプラズマの刃を発生させる「柄」を生み出すことができる。
「え、本當に……!?」
『続いて制約も明かそう……【能力制約開示】。僕が「柄」を創り出せるのは、一回の対戦において一度限り。この剣を、何本も生み出すことは不可能なんだ』
追加される黃文字の列。
・「柄」を創り出せるのは、一対戦につき一度のみである。
(これも!?)
『以上。僕の能力は、非常にシンプルだ。全てを焼き切るの剣。それが一振り、あるだけだ。他の連中に比べれば、隨分と分かりやすいだろう?』
小夜子は【ライトブレイド】の意図を摑めず、戸う。
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『本來であれば、僕はこの「柄」をすぐにでも叩き壊して、徒手空拳の狀態から君に挑むべきなのだろう。だが、僕は君を格上だと認識している。はっきり言って、五分の狀態で君に太刀打ちできる自信はまるでない。だから僕がこの剣を振るうのは、ハンデだと思って許してしいんだ』
(こいつ……!?)
『では今から、君を探しに行くよ。じゃあ、會えるのを楽しみにしているからね』
ぽんぱんぴんぽ~ん。
放送の終わりを告げる音が、靜かな校舎に反響し……消えた。
◆
その後小夜子は図工室にも侵したが、包丁以上に殺傷力のありそうな兇は得られなかった。
(ノミやノコギリ、釘打ちの金槌程度じゃあ駄目ね……)
し期待していたバールも、準備室で短い小型のものが見つかっただけ。これでは、兇としてはなんとも頼りない。
(武が足りない)
理科室に行けば、アルコール燃料などが手にるだろうか?
いや最近はアルコールランプではなく、ガスが主流である。火炎瓶の材料は、手にるまい。毒ガスなどそもそも、複製空間では発生させることができない。
小夜子の鼓が、焦りで早まっていく。
【ライトブレイド】が自己申告した能力は、彼自が語ったように、今まで相手にした対戦者に比べればシンプルなものである。
「何でも焼き切る」という話が確かなら、近接攻撃力はかなり高いのだろう。
だが冗談のような殺傷力や防力を備えていた他の対戦者に比べれば、それはなんともひどく脆いにじられた。
【アクセレラータ】のような機力も、【モバイルアーマー】のような防力も、【ハウンドマスター】のような遠隔攻撃力もないのだ。
……剝き出しの生で敵の間近まで近付き、斬る。
そういうタイプの能力者も、おそらく他にはいただろう。だが化け揃いの対戦者の中で、それがここまで勝ち抜いてくるということが、どれだけ大変なことか。
小夜子は、をもってそれを理解していた。
(すごく、面倒臭い奴なんだわ)
そのシンプルさが逆に問題だ。
近接攻撃のみに特化し、防能は皆無。おまけに「柄」を一度無くせばそこで終わり、という大きな弱點までついている。
だがその代わり、再使用に必要な時間や使用條件が、一切無い。おそらくは、ずっと武を出しっぱなしにしておけるのだろう。
正直なところ、これが一番小夜子にとって厄介であった。
いっそ馬鹿みたいに強力な攻撃手段を持っていてくれたほうが、力に溺れつけ込む隙を見出だせるというものなのだ。
勿論【ハートブレイク】の改竄例もある。【ライトブレイド】の発言がブラフで、小夜子を誤導しようとしている可能も、十分に殘っていた。
だが、小夜子はそれに関しては疑っていない。
彼自も上手く説明することはできないが……【ライトブレイド】は噓をついていない。そんな気配がじられたのである。彼は三人娘の手駒ではなく、彼自として戦いに來ているのだ、と。
拠は全く無い。直、としか言いようがない。
だが背中にヒリヒリとくるこの覚を、小夜子は信じることにしたのだ。
(何にせよ奴を倒せるプランを、もっと考えないと)
ずぅぅぅん。
額に人差し指を當て考えるのに、衝撃と轟音が伝わった。
何かひどく重いものが、落下したような音である。それも、この校舎で。
「え……何の音」
しかし言いかけた途中で、小夜子は察した。
「【ライトブレイド】が、階段を切り落としているんだわ」
それは想像すれば馬鹿みたいな絵面で、稽ですらあった。だがその布石は確実に小夜子を追い詰め、選択を狹めていくだろう。
そして最終的には現在考えうる「最大の武」を、彼から奪うことにもなるのだ。
(まずい!)
小夜子は決斷を迫られた。
階段はA校舎に二つ、B校舎に二つ。連絡棟に階段は無く、あとは非常階段か。
もし仮に全部落とされ二階より上に上れなくなったとしても、まだ戦場にはグラウンドや育館が殘されている。十分に、戦闘領域はある。しかしそこに、現在彼が思いつく以上の武があるとは思えないのだ。
ごぅぅぅん。
そうして悩んでいる最中にも、新たな振と轟音が屆く。
【ライトブレイド】がコンクリートの階段を踴り場ごとに地道に切斷し、落としているのだろう。使える場所が減る毎に、彼が階段で接敵するリスクも高まってくる。
(どうする、どうするの、堂小夜子! 考えなさい!)
右を見て、左を見る。天井を見上げる。床を見下ろす。
こめかみを人差し指でコン、コン、コンと叩いて考え込んだ後。小夜子は覚悟を決めたように、深く息を吐く。
「やるしか、ないか」
その後すぐに、彼は立ち上がり……三度目の轟音に背を向けるようにして、四階建てのA校舎を目指すのであった。
- 連載中123 章
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