《あなたの未來を許さない》第九夜:04【堂小夜子】
第九夜:04【堂小夜子】
どくん。
小夜子の意識が復活する。
糸の切れた繰り人形のように彼は床へ跪き、そして蹲った。
「うっ……うっ……うううー……ううーっ!」
荒れ狂うが溢れ出す。
聲を押し殺すこともできず、ただ、ただひたすらに、は涙を流し続けていた。
(私、馬鹿だ)
自らを犠牲にするだけなら、恵梨香の人格からすれば必然ともいえた。
だがあの恵梨香が、あの優しい恵梨香が。
他者をその手にかけてでも、良心も誇りも、今までの自分の生き方を、全て捨ててでも。
願ったのだ。
ただひとつ。たったひとつだけを。
恵梨香は小夜子が生き殘ることだけを、願ったのだ。
。
それは優しさではなく、であった。
小夜子が求めていたものとは、違う。
だが確かにそこには、があったのだ。
世の全てと換しても惜しくはないという、が。
長野恵梨香は、堂小夜子をしていたのだ。
そのことを理解した小夜子の目から、涙がなおも流れ落ちていく。
Advertisement
暖かくて、悲しくて、嬉しくて、悔しくて、切ないの雫。
心が全て溶け込んだかのようなそれは……強まる嗚咽と共に、床へ広がり続けていた。
◆
『起きてくれ、サヨコ』
その聲で小夜子は目覚めた。
どうやら子供のように、泣き疲れて眠ってしまったらしい。
「ん……」
顔を上げると、そこにはキョウカの姿。
『サヨコ=ミドウ』
妖ではなく、あの時に映像で見たの姿だ。
ただやはり実ではないらしく、アバターの時と同じような覚がそれからは伝わっていた。
『本日の午前二時、今試験優勝の瞬間をもって、君の監視は永久に解かれた。そしてユナイテッド・ステイツ・ノーザン政府の特例措置により、君にはこれ以降人権が適用され、國籍も與えられる』
淡々と伝えるキョウカ。
立映像ではあるが、やつれた顔の瞳はまだ虛ろだ。當然だが、立ち直れてはいないのだろう。
『あと六時間……今日の正午をもって、君は僕たちが滯在している南方の島へと転送される。それまでに辺整理を済ませ、準備を整えておいてしい』
小夜子はそれを、黙って聞き続けた。
『僕らのいる航時船……まあ、大型のタイムマシンさ。宇宙船みたいな奴……への転送後、教授との面談やテレビ局ディレクターとの打ち合わせが予定されている。休憩の後はこの試験と収録の終了を祝して、學生や番組関係者を集めたパーティーの開催だ。君もそれにゲストとして出席してもらうことが、決まった』
キョウカが、壁にかかった小夜子の制服を指差す。
『パーティーというが、服は制服でいい。むしろこの時代をじさせるために制服で來てしい、と頼まれている。だから靴も部屋まで運んでおいてくれ。その格好のまま、君を船へと転送する』
手がゆっくりと下りる。
『パーティーの後、翌日には撤収。僕たちは君を連れ、二十七世紀へと帰還だ。二十七世紀に著いた後は、君は一旦テレビ局の預かりになる。その後の予定を僕は知らない。彼らから、改めて知らされることになるだろう』
そこまで説明したキョウカは目を逸らし、を噛んだ。
『……最終戦の記録は、僕も見たよ』
小夜子が、微かに頷く。
『……すまない。こういう時、何て聲をかけたらいいのかまるで分からないんだ。人間を効率的に管理する【教育運用學】が笑わせるよな、ホント……本當……ごめんよサヨコ』
目を合わせることもできずに、肩を震わせながら呟くキョウカ。
二人の間を、長い靜寂が流れていく。
だがしばしの後に沈黙の支配を打ち破り、小夜子が問いかけたのだ。
「単刀直に言うわ。キョウカ、力を貸して」
それは意外な言葉であった。
驚いたキョウカが、振り返るように小夜子の顔を見る。
その瞳には、強い意志のが燈っていた。
「アンタにはけれ難い話だわ。そしてアンタが弱っているところに付け込んで、私はこの話をするの。最低よね? 斷って當然だと思う。だから私は、一人でもやる。でも……一度話を、聞いてくれる?」
小夜子からまっすぐ見つめられ、キョウカが頷く。
「ありがとう、キョウカ」
……そう小さく言った後、小夜子は計畫をキョウカへ語ったのだ。
そして全てを聞いた後にゆっくりと首が縦に振られ、同盟者は共犯者となった。
『そうか、サヨコ……いや。今の君は、【スカー】なんだな』
「ええそうよ。私は【スカー】」
赤く、黒く、粘りを持った熱い「何か」。小夜子の中の、もう一人の小夜子。
恵梨香を守るために小夜子が宿した、悲しくもおぞましき神。
殘酷で、冷酷で、獰猛で、そして想いにを焼いた怪【スカー】。
その【スカー】へ向け、キョウカが意を決したように口を開く。
『分かった、協力しよう【スカー】。ただし僕にも、條件がある』
「何かしら。あまりアンタにしてあげられそうなことって、私、無いけど」
『大したことじゃない。今の君なら、片手間でできることさ』
キョウカは一息ついて目を瞑った後……途切れた言葉を続け直した。
『一緒に僕のことも、殺してしいんだ』
- 連載中32 章
無職転生 - 蛇足編 -
『無職転生-異世界行ったら本気出す-』の番外編。 ビヘイリル王國での戦いに勝利したルーデウス・グレイラット。 彼はこの先なにを思い、なにを為すのか……。 ※本編を読んでいない方への配慮を考えて書いてはおりません。興味あるけど本編を読んでいない、という方は、本編を先に読むことを強くおすすめします。 本編はこちら:http://ncode.syosetu.com/n9669bk/
8 72 - 連載中106 章
【書籍化】追放された公爵令嬢、ヴィルヘルミーナが幸せになるまで。
「お前との婚約をここで破棄する! 平民の研究者が功績を上げて勲章を與えられたからな。お前をその褒美として嫁がせよう!」 王太子の婚約者であった公爵令嬢ヴィルヘルミーナは、夜會の席で婚約を破棄されて平民との結婚を命じられる。 王太子に嵌められ、実家である公爵家からも僅かな手切れ金だけ渡して追放され、顔も見たことのない平民の研究者の元へと嫁がされることとなった。 ーーこれがわたくしの旦那様、ダサい男ですわね。 身長は高いがガリガリに痩せた貓背で服のサイズも合わず、髪はもじゃもじゃの男。それが彼女の夫となるアレクシであった。 最初は互いを好ましく思っていなかった二人だが、ヴィルヘルミーナは彼の研究を支え、服裝を正すなかで惹かれ合うようになる。そして彼女を追放した実家や王太子を見返すまでに成り上がって幸せになっていく。 一方、彼女を追放した者たちは破滅していくのであった。 【書籍化】が決まりました。詳細はいずれ。 日間・週間総合ランキング1位 月間総合ランキング2位達成 皆様の応援に感謝いたします。
8 127 - 連載中13 章
ニゲナイデクダサイ
主人公の聖二が目にしたもの。 それは、待ち合わせしていたはずの友人…… ではなく、友人の形をした"何か"だった。 その日をきっかけに、聖二の平和な日常は崩壊する。
8 58 - 連載中42 章
極限まで進化した頂點者の異世界生活
主人公の黒羽海斗は他の人間とは違うものを持っていた。完全記憶能力、そして、絶対なる力・・・破壊と創造の力を・・・ これは人間が進化をした先にもつ頂點の能力だった・・・ 力を使い、大切な物を守り抜く。 これはそんな主人公の異世界生活の物語。 注意無雙はしません。 応援お願いします。 更新は進みしだい更新します。 不定期の更新だと思います。
8 174 - 連載中79 章
名無しの英雄
主人公アークと幼馴染のランはある日、町が盜賊によって滅ぼされてしまう。ランは盜賊に連れ去られるが、アークは無事に王國騎士団長に保護される。しかし… この作品は筆者の処女作です。生暖かい目で見てやって下さい(✿。◡ ◡。) *誤字、脫字がありましたら教えていただけると幸いです。 毎日0時に更新しています
8 87 - 連載中10 章
朝、流れ星を見たんだ
天涯孤獨の少年竜也と、病に身體を蝕まれている少年大翔。 大翔の最期を看取ってやりたい竜也だが、大翔の命の期限が迫った時、竜也は一ヶ月間イギリスに行くことになってしまう。 その一ヶ月間、大翔は病に耐え続けられるのか、それとも竜也のいない間にその目を永遠に閉じてしまうのか――――未來は誰にもわからない。
8 80