《エルフさんが通ります》思考はに
シャリシャリと言う音を鳴らしながら私は整備されていない街道を歩く。
「このリンゴ酸っぱい」
口にしているリンゴをしかめっ面で睨みつける。
街を出る時に安かったからリンゴを大量に買い、魔法のカバンマジックバックに放り込んだのだがそのリンゴが酸っぱいことこの上ない。人間の里ではリンゴは酸っぱいものなんだろうか?
「とりあえずリンゴの酸っぱさで貨の価値はわかったし、よしとしましょう」
人間の世界での貨の価値は金貨一に対し銀貨十、銅貨千という価値基準になるらしい。
つまり、大概の買いは銅貨で済ますことができるわけである。
エルフの里では主に々換が主流だったし、貨を持っていたのはおそらくたまにくる商人との渉を行っていた長老だけだったろうしね。
そう考えると私の売ってきた薬がいかに高額であるかと言うのもわかると言うものだ。
教えてくれたリンゴ売りのおばちゃんさまさまである。
「街に著いたらまずは銀貨を銅貨に変えないと」
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私の手持ちの貨はほぼ薬の売買で手にれた銀貨である。つまり細かい買いが全くできない。おかげで銀貨一枚分のリンゴ(一個銅貨一枚のため百個)を買う羽目になったしね。魔法のカバンマジックバックがなかったら腐るね。確実に。
「しかし、見事になにもないところね」
周囲を見渡すも特になにも見當たらない。観するようなところじゃないにしても見ていても退屈な草むらがただただ広がるだけの風景である。
変わったと言えばあんな遠くにすごい煙というか砂埃が上がってるくらいだし……
「砂埃?」
自分で言ってて疑問に思ったので魔法のカバンマジックバックに手をれ中を漁り、『遠見のメガネ』と呼ばれる魔法道マジックアイテム(エルフの里から出る時に失敬した)を取り出し裝著。すると遠くのが近くに見えるという訶不思議!
『遠見のメガネ』を通して砂埃のほうを見るとどうやら騎士風の人が何かに襲われているようだ。
「魔に襲われているなら魔をこの目で見るチャンス!」
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『ちゃんすちゃんす』
私についてきた霊も楽しそうに復唱しながらふわふわと私の周りを回る。
この世界には魔がいるらしい。
らしいというのはエルフの里では見たことがないからだ。
『エルフの里は大樹と霊の加護でまもられておるのじゃ by長老』
噓かどうかはわからないけどそのせいで魔を見たことがない私はどうしようもないくらい興していた。
「よし、見に行こう!」
『いこー』
そう決めると私と霊は一気に駆ける。それだけで周りの風景が変わっていく。私、魔法は弱いのしか使えないし、能力もさほど高くないんですよね〜 走るのだけは得意なんですが。
しばらく走り続けると馬車が二臺見えてきた。いや、正確にはまともにけそうな馬車は一臺だけですか。一臺ひっくり返ってるし。
ふ、わかってます。リリカは空気の読めるです。まずは様子を見ましょう。
『くうきーよむー?』
「絶の中に希をたらすのがヒーローの鉄則とお父さんは言ってました」
多分馬車が襲われてるのでしょう。
もしかしたら襲われ終わった後かもしれませんが。
『ひといっぱーい』
「それはよかった」
まだ死んでないみたいですね。霊さんがいろいろ報を教えてくれて助かります。
確かに私が見ている限りも盜賊風の男達と鎧を著た恐らくは騎士と思われる人たちが馬車を守るように戦っています。
なんだ、魔じゃないのか。ぬか喜びさせないでほしいですね。
しかし、問題は……
「どちらを助けるかですね」
『せいぎのみかたはー?』
「霊さん、正義とはであるべきなんです」
主に自分に対してですが。
さてどうしますか。
騎士団にはあまりいいイメージがありませんし、かと言って野盜に手を貸すのもシャクです。
『ひとりじめー?』
「……霊さん、貴方天才ですね」
なるほど、確かに霊さんの言う通り獨り占めというのも悪くはない気がしますね。
固定概念に囚われない霊さん、素敵です。
決めるや否や私は魔法のカバンマジックバックから矢筒を取り出しそこから一本の矢を取り出すと背負っていた弓を構え、矢を番つがえる。弦を引き、ギリギリと音が鳴ったところで手を離し、矢を放った。
距離にして百アメル(一アメル=一メートル)。エルフの里特弓なら造作もなく當てれる距離です。なにより私の唯一の得意なですし。
『わしの若い頃は二千アメル先からでも狙えたが今は目がのう by長老』
これは噓くさいですがどうやら腕と弓が揃えば六百アメルまでは當てれるそうです。私の最長距離は五百アメルですが。
手元から離れた矢は真っ直ぐに飛び、野盜の額に突き刺さり、糸が切れたかのようにその場に崩れ落ちました。
「命中」
『めいちゅー』
私は再び矢筒から矢を取り出し、番つがえ、弦を絞り、新たな目標に向かい矢を放ちます。
狙うは見方が突如死んだことに呆然と立ち盡くす野盜。
今度は額ではなく目に突き刺さりました。まぁ、即死ですかね。
さてお次はと、浮き足立った野盜を掃討すべくき出した騎士に向け弓を構えます。流石に弓で鎧を貫通できるとは思ってませんし。だから唯一私が有効的に使ってる魔法を使います。
「風よ、回り捻れよ」
『りょーかいー』
小さくそして言葉に魔力を乗せ呟くことで霊さんが力を貸してくれます。力のある魔法使いならばこんなことしなくても魔法が使えるらしいですが(現にエルフの里ではそれが普通)私には無理なのでできることをするとしましょう。
私の言葉で霊さんが風魔法を使い、矢に風屬を付與。準備は整いました。
「必殺、風矢ウインドアロー」
『じみー』
なんとなく霊さんに暴言を吐かれた気がしますが私は風矢ウインドアローを放ちます。先程放った矢とは違い矢は高速で回転し、空気を削るような音を響かせながら騎士の元に當たり、貫通。フェイスガードからをこぼしながら地に倒れました。
「敵に弓兵がいる! 各自、姿を探しながら隠れろ」
気を利かせた霊さんがあちらの騎士の聲を聞こえるようにしてくれます。あとでリンゴをあげましょう。
『あまいのきぼう』
「次の街に期待しましょう」
立て続けに弓を放ちながら霊さんに答えます。大の弓矢は騎士や野盜の、首筋、額という鎧で防していても片っ端から風矢ウィンドアローで貫通さしていきます。
「む」
明らかに一人だけ裝備が違う人がいたので狙いを急所から足に変え抜きます。騎士は無様に転がりながら悲鳴をあげてるようです。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
今までのように即死ではないので初めて大きな悲鳴が上がります。一人だけあえて足を狙いきを取れないようにしときました。
『はずれ? はずれ?』
「いえ、狙い通りです」
あらかた片付けたとは思いますがまだ生き殘りがいては面倒です。
私は弓を構え特に魔法を使うことなく普通に弓を転がってる騎士のむき出しになっている手の甲(多分転がった時に手甲ガントレットはとれたのでしょう)に向けてます。
「あがぁぁぁぁ!」
「……霊さん、もう聲拾わなくていいです。気が滅ります」
『りょーかい』
いや、善意でやってくださるのはわかるんですけどね。気が滅ります。人の悲鳴とか聞きたいじゃないですし。特に男の人の野太い聲なんてねぇ?
しかし、ああやって助けやすい位置でわざわざ転がして死なない程度に矢を刺してるのに誰も助けに出てこないですね。あの騎士を餌に他の騎士をおびき出そうとしたんだけど。あの騎士様にそんなに人がないのかそれともすでに全滅しているのか。
「まあ、行けばわかりますか」
『いく? いく?』
私が弓を背負い歩き出した後ろを楽しげに霊が揺れながら著いてきます。
こうやって近づいているのにきがないところを見ると全滅しているんでしょう。
「さて、何がってるか楽しみですね」
『わくわく』
まだ無事な馬車の前までやってくるとすでに騎士は息絶えているようです。死因は出多量でしょう。
ひどいことをする人もいるものですね。
『エルフ、エルフ』
「あ、そうでしたね」
霊さんとくだらないやりとりをしながらもわくわくしながら馬車の扉を開き、中を覗き込むと、中には白目を剝いて泡を吹いて転がっている殘念な男が目にります。
私は目を背け、音がならないようにソッと扉を閉めます。
『ざいほう? ざいほう?』
「いえ、霊さん。いらないものでした」
ウキウキしていた霊さんには申し訳ないですが、あれは使えません。
せっかく何かの戦利品が手にるかと思ったのですが、人では……
「そう言えば人間は同族をこき使う習慣があるというのをお父さんから聞きましたね」
確か、ど……ドエムです。彼をドエムとして売りましょう。一瞬だけしか見てませんがなかなか仕立ての良い服のようでしたし高く売れるでしょう。
「完璧ですね」
『かんぺきかんぺき』
とりあえず男が起きるまでは周囲の戦利品を集めるとしましょう。
『鉄は売れる。鎧ならより高く売れるんじゃ by長老』
「鎧はがすのが面倒ですね。武だけにしましょう」
拾い上げた武を魔法のカバン《マジックバック》にれると明らかに魔法のカバン《マジックバック》より大きな剣を飲み込んでいきます。仕組みが気になるところです。
「なんだ、なんで馬車が止まってるんだ?」
聞き覚えのない聲に振り向くとそこには先程まで白目を剝いていた殘念男が立っていました。
キョロキョロと周辺を見回している男はやはり私の睨んだ通りかなりいい服を著ているようです。これは期待のドエムですね。
男は私をジロジロと上から下まで見ると
「む、年。ここでなにがあったか知らないか?」
こちらに向かい歩いてきながらそんなことをぬかしました。
正直カチンとしました。何処を見て男と判斷したんでしょうね。この男。
「……あの、年とは誰のことでしょう?」
『だれ? だれ?』
この男、次の返答次第では……
「うん? 年と言えば君しかいな……」
「乙パンチ!」
予想通りの返答に私が振るった拳は男の腹を捕らえ、空高くに舞い上がらしたのだった。
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