《エルフさんが通ります》エルフ式魔法戦闘訓練(地獄式)二日目

「さて、念願のゴブリンを狩ったので次のステップにいきますよ」

『ますよー』

「いきますよじゃないです! ここはどこですか!」

ゴブリンを倒した後にそのまま意識を失ったアレスだったが一日寢ると元気なようですね。さすが若い。

「ここはムトゥの森です。ちょうど中間くらいですかね」

「なんでそんなとこに!」

「エルフ式魔法戦闘訓練をするためだよ」

「ゴブリン倒したからいいじゃないですか!」

「ゴブリンで満足とか、甘すぎるわ! 私とパーティを組むんだからもっと上を目指してもらうわ」

「無茶苦茶だ!」

「とりあえずの目標はここから街への帰還ですが、合間に特訓をけてもらいますよ?」

周囲は鬱蒼と生い茂る草木ばかりだ。し歩くだけでも方向覚が狂うことだろう。もちろんコンパスなんて役に立たないだろう。

「わかりましたよ、じゃあ杖返してくださいよ!」

「あなた杖なくても魔法使ってたじゃない」

「確かに使えますけど杖は魔力伝導率を上げたり威力を上げたりするのに使うんですよ」

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「ふーん」

私はアレスに杖を渡すように目の前にかざし、

「風よ、回れ捻れ」

小さく呟くと私は槍投げのように構えます。

「ああ! 手がったぁぁぁ!」

そうぶとアレスの杖を思いっきり放り投げました。

「あぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎」

アレスの絶が響く中、杖は風屬が付與され回転。周辺の草を刈り取り、木を貫きあっという間に視界の外に消えていきました。

「ごめんね? 手がるとは思ってなかったんだ」

「噓だ! じゃぁ、なんであんなに構えてたんですか!」

「ぐだぐだ言わないでよ。男でしょ?」

「関係ないでしょ!」

なんて々しい。男なら素手で戦える! ってくらい気合がほしいものですね。

「さ、さっさと行きますよ」

「行くってどこにですか」

私はアレスの問いに答えずにスタスタと歩きます。さすがに置いてきぼりにされるのはまずいと気づいたのか慌ててついて來ます。

鬱蒼と生い茂る草木の中を歩きつづけること十分。私は時折立ち止まり、聴覚を集中さし、目的の場所を確認すると黙々と歩き続けます。

「リリカさん、どこに向かってるんですか?」

「もうしでつきます」

アレスが不満そうな顔をしますが私は無視。くーちゃんはというと退屈なのか私の頭の上で寢転びながら欠をしています。

やがて目的の場所が近づいて來たのか音が聞こえてきますした。

「近いですね」

「この音は!」

アレスにも聞こえたのか走りだし私を追い抜きます。

「水だぁ!」

木々の間を抜けると二十アメルはあるであろう滝が目にります。アレスには下の川しか目にっていないようですが。

水辺に近づき、跪き川に顔をつけながら貪るようにアレスは水を飲んでいた。

川を見るとそれなりの深さはあるようですし、この深さなら十分でしょう。

そんなアレスの後ろにそっと私は近づき、

「せいや」

縄を足に引っ掛け、後ろから思いっきり蹴りつけました。

「がぁ」

無様な聲を上げ、かつマヌケな顔をこちらに向けながらアレスは音を立てながら川にはまった。

とりあえず上がってこようとしているので履いているブーツで頭を踏みつけておく。

「がぼぉ! がばぼぉ! リリカザン!?」

いや、そんな驚いたような顔をされても……

もともとエルフ式魔法戦闘訓練をするって言ったはずなんですが……

「エルフ式の特訓ですよ? 次は瞑想の時間ですよ」

「ごれ、めいぞうじゃないべす!」

え、瞑想でしょ? エルフの里ではこれを瞑想というんだけど……

本來なら足に重しをつけて沈められるんだからまだ私は優しいほうだと思うんですけど。

「とりあえずその狀態でまずは三十分ね」

アレスの頭に載せていた足に力を込め水面に出ていた顔を沈める。

結構力をれてるはずなのに必死なのか頭が結構浮かんできますね!

やがて足にかかる力も弱まり足を上げても浮かんでくることも無くなったようですね。水面にはぶくぶくと気泡が浮かんでいるようなので生きてるようですし。

『こんなので強くなるの?』

「正確には霊をじやすくなるらしいってのが長老の言葉でしたね。エルフなどの種族は元から瞳に霊が見えるらしいんですが稀に見えないエルフもいるらしいのです。それともう一つ、この特訓には意味があります」

『意味?』

くーちゃんの質問には答えず、私は気泡の方に視線を向けます。

長老曰く霊は死ぬ間際に見ることが多いらしい。だから瞑想という修行を思いついたらしいですし。今思い返すとよくみんなよく生きてましたね。あ、一分経ちましたね。

手元の縄を手繰りながら後ろに下がると半死人のようなアレスが引き上げられました。

「がはぁっ……」

「どうです? なにかじました?」

「な、なにをがんじろど?」

息も絶え絶えといった様子ですが、ふむ、なにもじなかったようですね。どうやらまだ死にかけていないようですね。

「いいですか? アレス。あなたには普通では考えられないほどの恐怖心があります。ちょっとした荒療治です」

「ごれはだだのいじめでじょ」

「これは瞑想。霊をじやすくなるための特訓、もう一つはアレス、あなたのリミッターを外してるのよ」

「リミッター?」

お、息が整ってきたみたいですね。

「死にかけると契約できるかどうかは別として霊をじやすくなるんですよ。加えて何度も死にかけると頭の危機値をするところが麻痺するんです。そうすると恐怖をじにくくなります」

まぁ、完全に麻痺すると死にかける危険もわからなくなるのですが。

「……リリカさんもこの訓練を?」

「ハッハッハ、私は魔法使いじゃないんですよ? するわけないじゃないですか」

「え……」

「私、弓使いですし」

今日はよく驚いた顔をしますね。それはそれでおもしろいんですけど。

「はい、それじゃ、二回目行きましょうか」

『いこー』

くーちゃんの気な聲を聞きながら私は這いつくばるアレスを再び川に放り込みます。

「ぐはぁ! ちょ、まっで! たずけで」

じ取れたら助けますよ」

再び水面で暴れるアレスの頭を足で押さえつけながら私は優しく告げます。

私の勘ではそろそろじ取ると思うんですけどね。

再び、気泡だけが浮かんでくる川を見ながら私はそう考えるのであった。

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