《骸街SS》10話 出房

覚えている。に濡れ、鈍く輝く刃のを。

知っている。全てが黒い絵で塗りつぶされて見える世界を。

空気をも劈く悲鳴が俺の心を引き裂き、それでもまだどうにかなるという理屈が再び心を繋ぎ止める。それを繰り返していくうちに、どうにかならなくなってしまう。

分かっているんだ、無駄だという事は。

それでも俺は、今日も刃を染め続ける。

骸街SS

◆◆◆

〜これまでの骸街SS〜

"反政府組織S"の一員である孤白は、とある任務中に同じく若年層の構員何人かと共にMIA作戦行中行方不明となる。孤白が目を覚ますと、そこは反政府組織"孤街兎団"の部だった。水増しとして戦爭への參加を彼等に強要される達。しかし、その狀況下でも孤白は鋭く眼をらせ、何かを企む様子だ。果たして、孤白は無事生還し、"S"の元へと戻る事はできるのだろうか……?

「今話から、話の合間にしばしばキャラクターのイラストと設定を軽く載せていこうと思います。」(by 垂直二等分線)

◆◆◆

「死ね、反政府組織ゴミ共。」

開戦の火蓋は切られ、國軍支部基地の敷地に大勢の人間達が雪崩れ込む。

「…………な……!?」

しかし、意気揚々と敷地に侵した孤街兎団は、待ち構えていた軍隊の全貌を確認した瞬間に揺を隠せなくなる。

「…………奴等……やってくれたな……!」

団員の1人が恨みを込めてそう呟く。

軍隊を形する軍人達が構えていたのは、四角に組まれた木材に「人」が括り付けられたモノ……即ち"の盾"であったのだ。

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◆◆◆

隅川孤白すみかわこはく

長:165cm

重:57kg

・生年月日:2140年 10/31

・年齢:15歳

別:男

型:B型

・外見的特徴:生まれつき髪が白い、瞳が大きい……等

・所屬:反政府組織S・四級構

・好きな:沢庵、コーヒー、SFアニメ、中田瞳

・嫌いな:政府、國軍、馬鹿な人間、ホラー映畫

・得意な事:株式投資、人間観察、他人を騙す事、TRPGでマンチプレイ

・苦手な事:日差し、有酸素運、正面対決

・詳細:自の戸籍と最の人・中田瞳を自から奪った政府及び國軍に復讐を誓う年。國軍から逃亡中に反政府組織S首領・大原拓男に目をつけられ、Sに加する。中學生の時點でほぼ完全な一人暮らしをしつつ學校に通っていた等、経歴に謎が多い。

◆◆◆

「笑えるな、あの反政府組織バカ共ときたら"盾"だけで攻撃を躊躇う。まあ、當然か。奴等の捕虜も含まれているしな。」

支部基地の基地長室にて基地長・沢村宗治さわむらそうじは笑いながらグラスに注がれたワインを口へと運ぶ。

それを見ている直屬の部下は、彼の趣味の悪さや呑気さに対して呆れと嘲笑をえて溜息を吐く。

「しかし……この戦爭に勝てれば兄を見返せるというものだ。良いチャンスがころころとこう現れるとなると、後先の命運が心配だよ。」

沢村は若干酔っているのか、誰に向ける訳でも無くそう言う。

「んで、こっちの指揮は我々が執るから君達は街の封鎖でもやっていておくれよ。」

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沢村は扉の外に立っていた人に対してそう言う。すると、その人は返事をする事も無く去っていった。

「はぁ……これだから院出は……ここは俺の基地なんだから俺の言う事位聞いてくれても良いだろうに。これではまるで軍師である俺が馬鹿の様ではないか。」

沢村は扉の外の気配が消えたと分かると、突然語を変え、そう呟く。

その通りですよ、そう言いたくなる部下だがまででぐっと堪え、何とか言葉を飲み込む。

部下の自への嘲笑へと気付く訳も無く宗治はワイングラスを持ったまま椅子を立ち、指揮へと向かう。

「はてさて、俺等はどうしたものか。」

そこそこ集している20人程度の人混みの中、俺は目の前の30人近い敵部隊を見つめながらそう呟く。

「チッ……くそが!汚い手を使いやがって!」

「煙幕弾持ってるか!?とにかく捕虜を救出するぞ!」

「やめろ!國軍の軍用ヘルメットには赤外線ゴーグルが付いている、視界が奪われるのはこちらだけだ!」

部隊の前衛は"の壁"を掲げ、お優しい腐った孤街兎団に対してはほぼ鉄壁の守りを固めている。

「……まぁ、壁に関しては僕等にはあんま関係ないけど……。」

隣に居る松江がそう呟く。そうとも、俺としてもライフルで"壁"を蜂の巣にすれば良いのでは無いかと思う。が、しかし、お優しい俺等のホスト達がそれを許可するとは思えない。まあ、理屈なら後から何とでも言えるが、俺1人が突撃したのでは俺が死ぬ。

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予想通り孤街兎団陣営は進行を停止している様だ。

俺は支給された突撃銃アサルトライフルの安全裝置を外し、目前に向けて構えようとした瞬間だった。

『反政府組織の皆さん、こんにちは。日本國軍準將・沢村宗治の代理を務める井崎燦篤いさきさんとくです。』

突然、街中に立つ防災行政無線が謎の放送を始める。

『皆さんには大切な人は居ますか?勿論居ますよね。その人の為に貴方達は戦っているのですから。』

気持ち悪い言い回しだ、何かの宗教の勧か何かにしか聞こえん。

『しかし、私達とてそれは同じ事。これ以上私達の大切な・を奪おうとするのならば、こちらも貴方達の大切な人を奪わなければなりません。』

さっさと奪えばいいだろう鈍間め。

『そうですね、何を奪いましょうか?そうだ、皆さん耳を澄ませてください。』

直後、井崎と名乗る男が発言を止めたと同時に、激しく鳴り響く電鋸の稼働音と共にこちらの耳を劈く様な悲鳴が、町中の至る所にある防災行政無線から、しの時差を生じて流される。

その音聲を聞いていた仲間達の多くは戦意喪失狀態に陥っていた。

こちらの揺と士気の低下でも狙っているのか。確かに本隊には効果は抜群だろうが、生憎俺達部外者には無意味なんだよな。

「よし、発砲準備。」

俺は松江部下に向けてそう合図する。

次の瞬間、銃聲が俺のすぐ隣から鳴り響く。その直後に俺も突撃銃を構え、発砲する。

幾つかの銃弾が"盾"を貫通して兵士のへと猛烈なアタックを決める。

"盾"に絶大な信頼を寄せていたのか兵士達の裝備は末なで、存在などしない防弾チョッキがライフル弾をけ止める訳も無く、兵士達はから赤いを迸らせて地と抱擁する。

たった今、この様にここの軍人達は予想外の事態に弱い事が判明した。そうであればさっさと殲滅するのみだ。

「おい、貴様等何をしている!?」

意外も糞も無く、驚きの聲は味方ごしゅじん陣営から上がった。

しかし、俺にはそれを気にする余裕などある訳も無く、"盾"が剝がされて丸となった軍人を殺する。

直後、何かの合図があったのか軍人部隊が撤退して行くのが見える。ここでの俺のこの行は奴等からしたら予想外だったのだろう。

「何をしている、今のに攻め込むべきでは無いか?」

俺が怒鳴りかけてきた構員に向けてそう言う。

「質問しているのはこちらだ、何をしたのだ貴様は!」

しかし、相手はかなりご立腹の様子だ。周りを見回すと、他の構員も驚きと怒りのの籠もった眼を俺に向け、"救援者"までもが呆気に取られたり俺を白い目で見ていたりとまるで國軍に興味を持たない。

「今更捕虜を助けるのも難しい、報がこれ以上れる可能があるならしでも洩源を減らすのが懸命だろう。」

「黙れ!許可も得ずに勝手な行をとるな、自の立場を理解しろ!」

俺が質問に答えると、構員はなぜか黙る様に言ってきた。先程と言っている事が違うぞ。

「……とにかく、今は絶好の追撃のチャンスだ、これを逃すのか?」

俺がそう返すと、構員は一瞬考えた様な顔をしてこうぶ。

「総員退避!」

この組織の人間は脳みそが腐っているのだろうか。國軍もそれを分かっていて撤退したのかもしれないが。

特攻隊はまだここに到著すらしていない、獨歌の心配をする必要は無いだろう。しかし、俺達はこんな組織の元に居て命が足りるのだろうか。

1時間後

「一何の様だ?」

……と、口では言いつつなぜ俺が呼び出されたのかは大目星がつく。

「惚けるな、貴様が作戦中に行った捕虜の殺害についだ!」

1人の構員が俺に向けてそう怒鳴り散らかす。

俺は先程の問題行のせいで孤街兎団の上層部に呼び出された。部屋には伊龍と複數の構員が居る。

「……様子見の戦爭とは言え、國軍は容赦などしない。いや、あれでも容赦しているつもりなのかもしれない。そこであの判斷は賢明だと思うが。」

別の構員がそう言う。

「助ける手段はあった筈だ。」

「こちらに被害が出てもか?」

員同士で意見が割れている様だ。全く、リーダー伊龍に全部任せれば俺の処分などすぐに決定すると言うのに。

「……まあ良い、こいつの処分については後々考える。こいつの指示に従っただけと言う事で共犯の奴はとりあえず無罪とするか。」

し間を置いて伊龍がそう言う。

「何を言いますかリーダー、それでは他の"救援者"共も調子に乗ってしまいます。共犯の奴と共に見せしめとして処刑しましょう!」

しかし、構員が伊龍へそう言う。

「余り気は乗らないが、見せしめとして殺すのなら有意義だ。俺も賛同する。」

「これ以上余計な事をされても困るからな。」

他の構員も次々と俺の処刑をみ始める。

「……そうだな、やっぱり処刑しよう。」

最終的には伊龍もそう言う。これで俺と松江の処刑は決定しただろう。

「……ごぁ……!?」

だったら逃げ切るまでだ。

突然の俺の攻撃に反応できなかったからか、構員の首を重をかけて折る事は容易かった。

「……チッ、やはりか。」

直後、別の構員が短機関銃サブマシンガンを腰から抜く。

「"救援者"の暴が起こった!繰り返す、"救援者"の暴が起こった!共犯が潛んでいるかもしれない、建の"救援者"を全員廃棄しろ!」

一方もう1人の構員は何やら騒な指示をこの拠點全へと伝達してる様だった。

指示の伝達が終わったと共に、間近で銃聲が連続して響く。

俺はしゃがんだ狀態でを橫に転がし、咄嗟のところで短機関銃の弾丸を避ける。しかし避け切った瞬間、背後に気配をじる。

直後、俺の視界は真っ赤に染まった。鋭い痛覚が襲い來るのはそのし後だった。

意識が暗転する寸前、一瞬だけだが俺は背後に潛む気配の姿を目で捉えていた。

それはこの組織のリーダー伊龍翔兎。手に持つ武は……

「……日本刀……だと……カハッ……」

目の前が真っ暗になった。心なしか俺は、その覚をとても懐かしくじた。

どこか薄暗い路地裏で、そんな場所に不釣り合いにも大勢で、しかも序列をさずに歩く集団が居る。

「隨分と肝の據わった奴等だなぁ、旦那。」

「ああ、……ツケは払ってもらう。」

頭リーダーと思しき男を先頭に集団は路地裏を抜け、途端に網へと差し込む日に目を細める。

「ここの奴等組織も野郎共國軍支部も今は弱っている、攻めるなら今だ。」

「……全く、私達は何をさせられているんだか。」

真っ暗な階段を駆け上がりながら、人影はそう溢す。

「殘念だなぁ、意外と居心地は良かったんだけど……っと、見張りとは面倒臭いな。」

先行していた別の人は目の前に立ちはだかる構員の存在を確認するや否や足を止める。

「……1人か、殺ろう。」

直後、見張りは臺詞を発する事も無く倒れ、階段を転げ落ちて行った。

それからすぐに、人影達は階段の先にある扉の元へと辿り著いた。

先行の者が扉に手を掛け、ドアノブを回そうとする。しかし、金屬音が鳴るだけでドアノブは一向に回せない。

「はいそうですよね!鍵くらい掛けますよね!」

「落ち著いて。この位、頑張れば蹴破れる。」

やけにテンションの高い先行者を落ち著かせ、別の人影達が同時にドアに蹴りをれる。すると、案の定大きな音を立ててドアが歪む。

「……思ったより頑丈じゃないな。これなら問題無い。」

再度ドアが蹴られる。

すると、衝撃に耐え兼ねたのかドアは変形し、それを囲っていた外枠との間に隙間を生む。

冷たい床のに気付き、俺は目を覚ます。

……長いこと寢ていた、ここはどこだろうか。

「馬鹿野郎、いつまでも寢てんじゃねぇよ。」

突然耳元でそんな聲が聞こえる。しかし、それはとても聴き覚えのある聲だったので俺は然程驚かなかった。

「……驚いたな、わざわざ助けに來たのか。」

俺は掠れた聲でそう言う。

「ああ、そうだ。存分に謝するが良い。」

冗談じりの返答を返しつつ、顔も分からない上司は立ち上がり、その場を離れて行った。

「……全く、糞野郎が。」

俺は一言呟き、再び眠りに落ちる。

【11話へ続く】

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