闇すら飲み込むような黒い眼と、赤黒いのような朱殷の瞳が靜かに火花を散らしている。

先に靜寂を破ったのは相手の方だった。

｢用貧乏の彼...レイス君でしたか？彼の才能を高値で買い取るというお客様が出たんです｣

冷たい笑顔から放たれたその言葉には、悲しいほど何のもじ取れなかった。

人間味をじさせないその聲に思わず鳥がたつ。

｢あいつも出世したなぁ。妬けるじゃねーの｣

が滲み出るほど拳を強く握り、殺さんばかりの睨みを利かせる。

するとそいつは軽くため息をついて続けた。

｢知っているでしょうが邪魔する者は殺しますよ？…しかし｣

今までの笑顔が陳腐なものに見えてくる程の笑顔でそいつは......いや、人の形をした何かは言った。

｢貴方だけは邪魔をしても生かして連れてこいと･･･ボスからの命令です｣

禍々しい殺気と共に放たれた言葉は、一瞬で俺の脳を恐怖に染め上げた。

(なんで…あそこにもう一度…俺が？)

凍る背筋、淺くなる呼吸、フラッシュバックする過去の記憶...。

骨の髄まで恐怖で染まり、今にもび出してしまいたくなる。

(落ち著け...大丈夫。殺気に當てられて混しただけだ…)

自分を覆い盡くす恐怖も殺気も、それら全てを吹き飛ばすように俺は咆哮をあげた。

｢お前らの都合なんて知ったこっちゃねーんだよ！！殺されようが攫われようが俺はアイツを守る！それが俺の才能の使い道だ！｣

俺の反論に奴は、驚きと歓喜を合わせたような顔をしていた。

そこに最早あの笑顔はない。

道化の仮面を外した奴の顔は、酷く醜い顔をしていた。

｢仲間を守るには私を倒さねばなりませんよ？あなたの力で私を倒せますか？どうするんです庭番？！｣

確かに俺の力じゃこいつには勝てないかもしれない。才能を使っても時間稼ぎはいつまでもつか分からない。

(とりあえず保険でもかけとくか...)

大きめのジャンプの後、空中で軽く一回転して口のてっぺんを思いっきり蹴る。

衝撃で付近の巖が崩れ落ち、口が完全に塞がれた。

これで戦闘に集中できる。

｢おや、迷いましたか？それぐらいの壁なら壊せますよ？私｣

クスクスとほくそ笑む奴に向かって、俺は虛勢の笑顔で話しかける。

｢なぁ、俺達のルールを教えてやろうか｣

近くに落ちていた剣を拾い上げ、姿勢を正して構える。

相手もどこから取り出したのか、鞭を手に持っていた。

｢’’ないなら作れ’’だ。倒す方法がないなら作ればいいんだよ阿呆がぁ！！｣

言い終わると同時、俺は相手の懐へと突っ込む。

今までじていた恐怖は不思議とじていなかった。