《その數分で僕は生きれます~大切なを代償に何でも手にる異世界でめに勝つ~》トラウマ2

 さちがめにあった理由は後に、さちの友達だった人から聞いた。それは実にさちらしく、実に勇敢で、健気で、優しい理由だった。

 黒澤夏子 十二歳 小學六年生 

 彼はクラスの子の一部にめられたのだと言う。めを何処から區分するかにもよるが、周囲の人間が見てもそれはめだ、と言える域までには達していたらしい。

 それをさちは止めにったのだ。実の妹ながら勇敢だと思う。小六にして、この世の中に、この様な行を出來る人間がどれくらいいるだろうか。

 それからと言うもの、ターゲットはさちに変わった。けれども、さちは愚癡一つすら零さず、そのいじめに耐え続けた。

 助けてもらった黒澤夏子ちゃんは、ターゲットが変わったと言う安堵が大きく、まためられると言う恐怖で助けにれない事をさちに必死に謝ったと言う。

 「ごめんなさい……ごめんなさい……私怖くて……」

 黒澤夏子の可い顔に、細い髪が何本か濡れた頰にからみついていて、微かなり気が彼のまわりにオーラのように漂っていた。

 彼はさちから、怒りも、憎しみさえもけ止めるつもりだった。しかし、さちはそんな、水一滴すら持ち合わせてなかった。

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 「うんん、大丈夫だよ? 私は大丈夫だから……その代わり私の事を一日一分でも考えてくれる?」

 「な、なにそれ?」

 「私ね……今、自分の為に何かしてくれる人がいる事がとっても幸せなの……だからお願い?」

 そう言ったらしい。

 黒澤夏子ちゃんはそれを承諾したがそれは守る事が出來なかった。いや、実際は守っていたが、それを目に見える形に殘す事が出來なかった。

 理由は簡単、彩香と夢が中心となって、夏子ちゃん限らず、見て見ぬ振りをしていた人間を巻き込み、巻き込み、巻き込んで、それはいつの間にか竜巻の様に大きくなり、さちを傷付けた。

 乗り気の奴など殆ど居なかったが、それでも怖かったのだ。一人でも良心が勝ち、助けようとする者が居れば結果は変わっていただろう。

 だが、一人も、たった一人も居なかったのだ。

 結果的に、さちは見る見るに痩ていき、目の下には青黒く彩ったクマが出來ていて、僕はさちの様子が異常だと言うのはすぐ分かった。

 「さち…………本當に大丈夫か?」

 「うん、安心して全然大丈夫。むしろ前よりめは無くなったよ……お兄ちゃんのお

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 そう言って彼は、強ばった笑いを口元に浮かべる。

 「さち…………」

 さちに手を摑もうとばそうとした。しようとしただけだった。戸ってしまったのだ。迷ってしまった。自分が関わればさちはもっと傷付くのでは無いかと。

 「私、コンビニでジュース買ってくるねっ!」

 そう言って、彼は長年使われて元は白だった鼠に変した靴を履いて外に飛び出した。

 その時の引き止めればよかったんだ。あと時、手を摑めていればきっと、きっと、きっと────それから、さちは二度と家に帰って來ることは無かった。

僕が再びさちに會ったのは、病院のベッドの上だった。あの後、二時間ほど後に病院から電話があった。

 『黒田さちさんが轢き逃げに合いました』と。

 急いで駆けつけると、白で統一された部屋には、老人と共に不釣り合いなの姿があった。

醫師からは『助骨が折れておりこのままでは肺にる可能がある』と言われた。『今すぐ手しないと命が危ない。もったとしても十日くらいだろう』とも。

 僕はさちの寢ている白いベッドの傍に腰を下ろし、事を説明した。

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 「さち……大丈夫だよ、手すれば助かるから……また一緒に暮らそう?」

 

 「うん……お兄ちゃん、ごめんね……心配かけて」

 「気にするな……僕はお兄ちゃんだよ? 妹なんて兄に迷かけてなんぼでしょ!」

 そう言って大きくを張ると、さちはそれを見て、くすくすと弱々しい笑みを頬に溜める。

 「お兄ちゃん……ありがとう」

 「なんだか……照れるね」

 ずっと、ずっと、笑いあった。そうしてさちが寢付いた後、さちの服などをまとめる為に一旦家に帰ることにした。

 家には既に父と母がいた。

 父と母はさちの今後を考える為に、先に帰っていたのだ。大人の事とか言うのもあるんだろう。貧困家庭である為、妹の保険料等払えるはずもなく、手費用等々、手をするとなるとかなり金がいるらしいから致し方がない。

 そんな事を考えたいたら思いがけない言葉が父の口から聞こえた。

 「さちは諦めるしかねーな」

 「お父さん!それは何でも……」

 「しょーがなーだろ! そんな金は家にわねーし」

 

 「で、でも……」

 「幸いさちより將太の方が頭がいいしな。將來的にはあいつの方が価値がある。さちは今回は仕方がない、手は無しだ」

 僕は父に毆りかかっていた。信じていた。父と言えども我が子は何としても助けてくれる様なは優しい人間だと。

 「なっなんだよおめーは! 俺に逆らうのか!」

 僕の拳は見事に父の頬を命中し、父の頬は酒を飲んだかのように赤く染める。だがしかし、僕は中學生だ。中學生の拳などたかが知れていた。

 父は左足を軸に右足をしならせ勢いよく僕の橫腹に蹴りをれてきた。

 左手で何とか腹にるのは抑えたものの、は大きく橫に吹き飛ばされ機に勢いよくぶつかった後、白い壁にもたれかかる。

 「なんでだよっ! 何で見捨てるんだよっ! おめーは父親だろーがっ!」

 「うるせーんだよ!」

 父は何度も、何度も、僕を蹴りつけたが、僕はスピードボールの様に何度も何度も父に毆りかかっていた。

 

 僕はその日から毎晩、毎晩、蹴られ、毆られ続けた。一方的に毆られ続けただけでは勿論無い。何度も、何度も、説得を試みた──だが父の意思はかった。

 故に、僕はアルバイトをする事に決めたのだ。助ける為には手段は選ばない。このを売っても助けてやる。先生からの許可など関係無い。高校生と偽り、家から徒歩三十分の所のコンビニで働き始めた。

 それと同じ様に毎日、毎日、さちのお見舞いにも行った。

 「安心しろ……さち絶対、大丈夫だからな…………そ、そうだ! バイト始めたからさ、その金で遊園地でも行こう!」

 「お兄ちゃん本當にごめんね……ごめんね……」

 そう言ってさちは可い顔をくしゃくしゃにして大雨を降らした。

 ──あぁ、悟らせてしまった

 が熱くなって目に水滴が溜まって、よくさちが見えない──僕からも大粒の雨が降った。きっと酷い顔だったろう。

 僕のアルバイト代を全てさちの手費用にれたとしても、二ヶ月はかかる──間に合う筈がなかった。

 いつまでも、いつまでも、泣いていた。こうなる前に、こうなってしまう前に、僕はなにか出來たのでは無いかと、僕は無力さを、醜さを、卑劣さを嘆く。

 この世界は実に殘酷だ。悲慘だ。醜悪だ。

 大雨は止むことを知らず、このまま行けば、溺死してしまうのではないだろうか、と言うほど雨が降る。

________________

 その後、さちは面接拒否をした。

 「通してください! 離してくだいっ! 離せよっ! 離せっ! 離せぇぇぇぇえ」

 病院のスタッフ達が僕を必死に押さえつける。

 「駄目です! 無理なんです……お気持ちはお察しします……」

 「僕の気持ちなんか分かるものか! ふざけるなっ! 離せよっ! 最後かもしれないんだ! お願い……だよ……」

 目頭が熱くなる。涙がポロポロ落ちて、その場で膝が崩れた。

 「何でだよ……さち……ぁぁ」

 分かっていた。悲しんでしくなかったのだろう。とことん優しい人間だ。自慢の妹だった。

________________

 「お兄ちゃん……ごめんね……ごめんね……」

 ドア越しからも將太の聲はさちに屆いていた。

 さちはまた雨を降らす。今年は雨がよく降ると私はつくづく思う。

 「大丈夫ですか? さちさん」

 そう言って、白い扉をしだけ開け、うようにってきたのは白く清楚なナース服の。この人はいつも、いつも、私の話し相手になって下さる牧田蕾 (まきた つぼみ) さんだ。

 「はい、大丈夫です。いつもありがとうございます」

 

 「いいお兄さんをお持ちですね……」

 

 「はい、聞いてくださいますか?」

 「はい、本當に貴方はお兄ちゃんが好きですね。ふふっ。貴方がお兄さんの話をしだすと止まりませんからね」

 そう言って、彼は優しい笑みを浮かべた。

 「ダメですか……?」

 「いいえ、もう慣れちゃいました」

 「ありがとうございます」

 蕾さんの笑顔に釣られて私もはふふっと優しい笑みを浮かべた。

 「兄は頑張り屋なんですよ! もうテストなんかでは小學生の頃から満點で!」

 「それは凄いですね」

 「なのに私なんかの為に中卒で働いて私だけは高校行かせようとしてたんですよ……とんだお人好しです……」

 

 「優しいお兄さんをお持ちですね」

 「お兄ちゃんはいつも私を庇ってくれるんです……この前、お父さんのお世話だって……」

 「さちちゃんが大好きなんだね」

 「この前……直ったら遊園地行っこって……わだしの為なんかで……わだしの……」

 目からは、しとしと、しとしと、さっき止んだはずの雨がまた溢れだしてきた。

 「あれれ、何ででしょうね……楽しい話をしてる筈なのに……」

 「優しい涙ですね。その涙は人の事を考えて泣く優しい涙です……」

 「優しいなんて……嬉しいな…………お兄ちゃんもそう思ってぐれでるかな……」

 優しい小粒の雨はやがて大雨になってく布団を濡らす。

 きっと私の顔はくちゃくちゃで見れたものでは無いだろう。

 「思ってますとも」

 「まだ……まだ……お兄ぢゃんと……いっじょに遊べるかな……」

 「遊べますとも」

 「お兄ぢゃんとまだ、いっじょに……いっじょに……學校いげるかなぁ……」

 「行けますとも」

 「まだ、お兄ぢゃん……私といっじょに笑っでくれるかなぁ……」

 「笑ってくれますとも」

 「死にたぐないなぁ……まだ……まだ……お兄ぢゃんの……お嫁ざんだって……結婚式だって……見でないのに……」

 「泣きましょう……今は私はずっとずっとここにいます。だから今は、今は思う存分、泣きましょう」

 蕾さんの目からも小粒の雨が降った。本當に優しい方だ。

 それからずっと、ずっと、泣いた。蕾さんはずっと、ずっと、私の側に居てくれた。 

 何時間かかったか分からない。蕾さんは泣き止んでから、したっても傍に居てくれた。泣き止んで十分がたった頃だろう。

 「蕾さん。これを兄に……」

 そう言って小さなピンクの封筒を蕾さんに預けた。

 「いいんですか……?」

 「はい……もう分かっていたことですから……」

 蕾さんの目からはまた雨が降る──今年の梅雨はよく雨が降る。

 さちはまた笑みを零す。

 その笑顔は窓から差す日の明かりがさちの顔を照らし幻想的だった。

 その笑顔は多分世界で一番しいものだっと言われても、皆が認めるだろう。

________________

 その數日後、さちは死んだ。

 さちは死んでしまった。

 醫師からは安らかな死際だった言われた。

 ふざけるな、安らかな訳がないじゃないか……この世でやりたい事もあったろう。結婚だってキスだって人だってしかったろう。

 きっと、死ぬ時も泣いただろう。辛かったろう。ずっと、ずっと、一人で────。

 「將太さんですか?」

 

 一人のナースが僕に話しかけてきた。どうせこの人もめようとするのだろう。黙っていてくれよ。

 「さちさんから預かりものです」

 

 その手にはピンクの封筒にハートシールがってある一つの手紙が握られていた。

 

 「ありがとうございます……」

 「さちさんは本當に貴方が大好きでしたよ。彼は最後まで貴方の事ばかり語ってました。貴方はいい妹を持ちましたね」

 そう言って彼は一粒の涙をこぼす。醫療系に著く人たちは死になれている者達ばかりだと思っていたがこの人は違ったらしい。さちは、もしかしたら、もしかすると、一人じゃなかったのかもしれない。彼を見てそう思った。

 僕は彼から手紙を預かり封筒をハートのシール丁寧に剝いで開けた。

『拝啓、黒田將太様

これを読んでいるということは私はもうこの世にいないということでしょう。なのでここに大好きなお兄ちゃんに最後の言葉を殘しておこうと思います。

まずはお兄ちゃんごめんなさい。

面會を拒否なんてして、でもね、これ以上一緒にいるとお兄ちゃんの悲しい顔をずっと見ると思うと、心が痛くて、痛くて、仕方なかったの。ごめんね

私はとてもじゃないですがいい人生を送ったとは言えません。

ですが、貴方のような兄を持ったことは心の底から誇っています。

でも、そんなお兄ちゃんに最後のお説教です。

お兄ちゃん、私の為に中卒で仕事して私を大學行かせようとしてたでしょ?

お兄ちゃんはいつもそう、人の事ばっかりで自分の事は後回し、駄目だよ?

でも、そんな優しいお兄ちゃんが大好きです。

 お兄ちゃん、お父さんの世話した後はいつも夜遅くまで勉強してたでしょ?

 頑張るのは良いけど無理のし過ぎは駄目だよ?

でも、そんな頑張り屋なお兄ちゃんが大好きです。

もっと、もっと、お兄ちゃんと遊びたかったよ。

お兄ちゃんの結婚式だってお嫁さんだって見たかった。

もっと、もっと、生きてお兄ちゃんと笑っていたかったです。

でも、きっとお別れしちゃいます。

だから、これだけは知っていて?

私はお兄ちゃんの事が大好きで大好きで大好きです

貴方は私を失って、きっと泣いてくれるでしょう。苦しんでくれるでしょう。ですが、私の為にも出來れば私の様な人がいたら助けてあげてください。そして、幸せになってください。

そして強く生きてください。

最後にもう一度。

お兄ちゃん大好き

    

      お兄ちゃんが大好きで、大好きで、大好きなさちより 』

その手紙には、書く途中に泣いたであろう涙跡や、字はヨレヨレで小學六年生の字とは思えなかった。

 「なんだよ……なんだよこれ……字がヨレヨレで見えたもんじゃないよ……もっと字を練習しような……」

 目からはぽつぽつと雨が降っていた。

 「ありがとう。ありがとう。ありがとう。僕も……さちがいて心から幸せだった。また會おうな……」

 ずっとずっと泣いていた。今月は泣いてばかりだ。だが、今月ぐらい神様も許してくれるだろう。今日は泣きたい気分なんだ。

 「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ」

________________

 

 時は夏、清々しいほどの青空の下、目の前には小さな滝と悠々と佇む木々。

 僕は木のお墓の前で座っていた。

『拝啓、大好きな大好きなさちへ

貴方は元気ですか? 私は元気です。なので心配しないで大丈夫です。

私はさちに言われた通り人を助けられているかな?

僕はさちに言われた通り強くなれているかな?

僕はさちに言われた通り幸せになれているかな?

僕はさちがいないと全然分かりません。

でも、さちが居なくなってもさちがいた時の風景や匂い、音やは全て僕の記憶の中に、ずっと、ずっと、あります。

これからも褪せたりしないでしょう。

だって、私はさちが大好きで、大好きで、仕方が無いんです。

さちは今の僕を見て心配してくれるかも知れませんね。ダメだよって注意してくれるかも知れませんね。

さちがいないと何が正解なのか不正解なのか全然分かりません。

でも、僕は今日も貴方を追い続けるよ。不正解だとしても、さちが嫌がっても、僕は君に憧れているんだよ。

だから、さちもし僕がそっちに行ったら叱っておくれ、いつものように駄目だよ? ってさ、そして駄目なお兄ちゃんを抱き締めておくれ

きっとそれだけで僕は救われるんだよ。

きっとそれだけの為に生きてるんだと思う。

もう一度言います。

僕は今、大好きで、大好きで、大好きで、大好きで、大好きなさちを追いかけています。

それが不正解だとしても追いかけます。私は貴方を忘れません。

どんな事があっても思い出します。

大好きな、大好きな、大好きな、大好きなさち、そっちで待っていてください。

僕は強く生きています。

                さちが大好きな兄より』

 空は雲一つ見當たらない清々しいほどの青。

 そんな空に飛行機が絵を描いた。

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