《その數分で僕は生きれます~大切なを代償に何でも手にる異世界でめに勝つ~》自己犠牲6
 神奈が全ての答え合わせをしてくれた。皮なものだ。助けたくてした事が將太の実踐に対する答え合わせになってたのだから。
 將太が実踐したかった事、それは、この世に無いものを召喚出來るのか。記憶や等の面も代償のにるのか、だ。
 神奈のスタンガンは確実にこの世のものでは無い。詰まり、神奈が元々持っていたか、召喚したかの二通りになる。
 前者はまず無いだろう。よって、召喚した事になる。そして、神奈のに異常や異変、無くなったものは無かった。詰まり、記憶やを代償にした事が分かった。
 殘酷な話である。この世界はどこまでも彼に、彼に、そして何より神奈に殘酷であった。
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 年は地面を踏み締めて數歩前に出た。年を包んでいたは靜かに天に帰って行く。
 それでも尚、皆は自己犠牲の年の元に走り出す。近付く赤い眼と、銀髪の達に向かって、年は右手を前に出し、噛み締める様に呪文を口にする。
 彼の本當の戦いが始まる。
 「視界共有!」
 
 その瞬間、彼の左目の前方に半徑二センチ程度の幾何學模様の魔法陣が出現する。
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 それと同時に、前方にいたヘルハウンド達の目にも同じが出現する。その數は數百にもなっていた。
 「アアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ! 」
 「將太っ!!!」
 様々なヘルハウンド達の視界が僕の脳に、直接なだれ込んできて、吐き気と頭痛が脳を支配した。
 耐えるように、地面にを開けてしまう程、踏み込んだ。
 「うっ! ……っ!」
 數百の視界を一斉に脳で背後に回す。すると、幾何學模様の著いたヘルハウンド達は乗っ取られたように、憑かれた様に後ろに振り返る。
 後は簡単だ。ヘルハウンドは知能が低い。本能で行する。戦場に目の前に敵がいれば、もう分かるだろう。
 共喰いが始まった。
 だが、それは全の十分の一にも満たない。
  まだだと、何度も、何度も脳で復唱する。
 次は左、次は右、次は前方。脳が張り裂けそうだった。それもそうだろう。何百の視界を一人の脳が支えれる筈が無い、耐えれていたのは一重に『力』のおだった。
 「アアアアアアアアアッッッ! まだだ!」
 「將太、もうやめて! 嫌だ! 嫌だよ……」
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 その時、背後から神奈を攫う人影が現れた。同じ學校の人間だろう。誰かは分からない。それだけ脳が限界に近いと言う事だろう。
 「神奈さん! ここは危ないです! 逃げましょう」
 「嫌だ! まだ將太がっ! 下ろして! 下ろしてよぉぉぉ! 將太ぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 「神奈さんごめんなさい! 睦さんの命令なので……」
 二人はいつの間にか豆粒の様に小さくなる。それでもまだ、神奈の聲は屆いていた。願うような、悲しい聲は……僕にとってそれは暖かいものだった。
 ────ありがとう、神奈、ありがとう。謝の気持ちが溢れだして止まらない。
 けれど、謝したところで、彼の戦いは終わらない。まだまだ何百、何千といるのだから。
 時間は有限、黒いマントを纏った赤いはジリジリと近づいていた。
 「視界共有!」
 「うっ…………! がっ! 」
 なだれ込んでくる視界に脳が揺れた。地震だろうか。違った。自分が揺れていた。
 「まだだぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 それから何十と、それを繰り返す。それに伴い共喰いの連鎖は拡大する。年は、もう、既に機械と化していた。視界は目を瞑ったかのように、真っ黒だった。既に、限界は訪れていた。それを、煽るように、ただ、ただ、赤く揺れる炎が近づいてくる。
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 「…………ん」
 その時、暖かくてき通る様な見覚えのある。聞きなれた聲がした。
 ──ああ……さち……
 でも、さち僕はまだ、そっちには行けないんだ。まだ、まだ守れてないのだから。大切な人がいるのだから。
 再び、足を地に埋める。前には依然と変わらないヘルハウンド達の姿があった。彼らに向かい、大きく息を吸う。
 「視界共有!!!」
 吐くのと同時に大きく口にする。
 脳にが思いが流れ込んで來る様だった。殺意や恐怖が。
 「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
 
 ヘルハウンド達の視界を後方に向ける。
 
 だが、それが最後だった。限界の限界だった。膝から崩れ落ち、次は顔を地面に埋めた。
 最後に見た景は、地獄と言うに相応しいがあった。ヘルハウンドがヘルハウンドを喰らい。落ちたに塩を塗り、それでも、まだ終わらない。
 「…………さんっ!」
 また、先程と同じ、さちの聲がした。
 ──ごめん、さち……
 さちの聲はどんどん近付いてくる。
 「將太さんっ!」
 たが、その聲はさちのでは無かった。それは自己犠牲の、ココの聲だった。
 その優しく、き通る様な、さちによく似た聲が耳元に來るまでに時間は、そうはかからなかった。
 「私、將太さんに會えてよかった」 
 ──なんだよ……それ……諦めてる様な言い方じゃないか……
「將太さん、ありがとうございます……私を助けてくれて……」
 彼の聲は泣いていた。恐怖と優しさで顔を濡らして泣いていた。見なくても分かった。
 ──違う……まだ……まだ助けて無い……
 「こんなに傷付いて……駄目じゃ無いですか……休んでなきゃ……」
 ──こんな傷、すぐ治す。すぐ治るんだ
 「もう大丈夫ですよ……」
 ──駄目だ、駄目だこれじゃ、前と同じじゃないか
 彼の悟った様な、諦めた様な聲をもう聞きたくは無かった。
 「次は私が傷付く番です……」
生きる事を諦めるなよ、どいつもこいつも弱過ぎる、自分勝手で、自由気ままに、自分が傷つくのが怖くて、自己保護をして────でも、でも、まだ、諦めちゃ駄目なんだ。
立てよ
立てよ
立てよ
立てよ
立てよ
立てよ!
 「貴方は生きてください……」
 そう言って彼が微笑んだのが分かった。暖かいが僕を包んだ。多分、僕を彼は覆っているんだろう。
もう一度
もう一度
もう一度
もう一度
もう一度。
 「嫌だぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあ!!!」
 かない足を、腕を、目を引き裂いて、立ち上がる。失うぐらいなら、壊れるくらいなら、立つぐらい造作もないだろう。
 「貴方がいない世界なんて! 生きる価値なんて無いんだ!!!」
 彼は僕を包み込む様に立っていた。その橫をすり抜ける。
 彼は驚愕の泥を投げつけられた様な顔で僕を見る。
 「將太さんっ!」
 「生きる事を諦めるなよ!!!」
 脳なんて飛び散っても構わない。
 が引き裂かれても構わない。
 
 何の為にここに來たのだ。
 全てを賭けよう。
 僕は貴方に全てを賭ける。
 足を埋めて、手をばし、顔を上げる。
 
 ぶように唱える。僕の武を、僕の力を。
 「視界共有!!!!!」
 その時の幾何學模様は先のとは比べにならなかった。
 半徑一メートルはあるかと言うほど大きなものだった。それと同時に、辺りの赤い眼は一面、青に包まれる。
 それはまるで季節外れの、縁起もクソも無い、人類史上初の幻想的なイルミネーションだった。
 「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッ!!!! 」
 ヘルハウンドの首を捻る。
 「行けぇぇぇぇぇえぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!」
 地獄がまた、広がった。辺り一面には、鉄の臭いと真っ黒な死が広がり出す。
 僕の作り出した、その慘狀を噛み締めて、僕は眠りについた。
 「將太さんっ! 將太さんっ! 將太さんっ!」
 誰かが呼んでいる。多分ココさんだろう。僕は目覚める事が出來るかな……守れたのかな……あぁ、いや、まだやる事があった……でも、これは目覚めてからにしよう。
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 頭には地面にしてはやけにらかく、暖かいものがあった。目を開けると、空が徐々に明るさを取り戻しつつあり、朝焼けに當たったココさんの白くて整った顔が幻想的に映し出されていた。
 ──あぁ……膝枕か……
 彼は僕が目覚めたのに気付き、目に涙を溜めた。
 「將太さん……おはようございます……」
 「おはようございます……」
 おはようございますと言う場所にしては、以前と変わらない場所で、小高い丘の上。そこには生臭く、辺り一面には三千を超える黒い死が見渡せ、全然気持ちのいい朝とは普通なら言えないのだろうが、僕は違った。
 気持ちいいとは別だが、満足を得ていた。これだけの死を作り出しておいて守った人間は、ココさん一人なのだが。それでも、それでも僕は────救われた気持ちになった。
 「僕は……貴方を傷つけましたか……?」
 「はい……貴方も傷つきました……ですが、それ以上に私も傷付きました……」
 彼の目から溜まっていた雫が、頬を伝って僕の額目掛けて、ぽつぽつ落ちてきた。
 「僕は……貴方を救えましたか……?」
 「はい……貴方も救われました……それ以上に私は貴方に救われました……」
 「貴方は……私の勇者です……」
 彼は頬に涙の代わりに、笑みを溜めた。
 そのらかくて、包み込むような優しい笑顔はどこまでも、どこまでも、さちに似ていた。
 「私は貴方にをしました」
 「僕も貴方にをしたかも知れません」
 「でも、私は數日後には殺されます。殺されなかったとしてもおぞましい姿になって村人を襲うでしょう」
 彼は涙を浮かべて、僕に決意と覚悟を固めた顔を向けて言った。
 「知っています」
 報屋の言っていた事は正しかった様だ。
 彼は驚きを隠せない表を見せたがすぐにいつも通りの落ち著いた顔に戻る。
 「なら私を殺してください。殺されるなら貴方がいい……」
 言うと思っていた。彼は何処までも頑固で弱い人間だから。答えなら決まっている。
 「僕は貴方を………」
 ずっとずっと、彼に言うセリフを考えていた。だけど『好き』と同じように他のセリフが見つからなかった。本當の自分の思いを伝えるのに、これ以上の言葉はない。
 「僕は貴方を……救います」
 彼は笑った。彼も分かっていたのだろう。僕がそう言う事に。
 自己犠牲の年は似ている。
 僕と彼は似ている。
 「無理です……どんな事をしてもなってしまうのですから……」
 「いいえ、出來ます……」
 「いいえ、やらせません……もう、貴方に傷付いてしくない……」
 「僕は貴方のいない世界の方が傷付きます……」
 
 「貴方は本當に自分勝手の頑固者です……」
 彼は相変わらず、涙を僕の額に落としながら笑った。
 「僕は自分勝手の頑固者です……」
 それにつられて僕も頬に皺を刻む。
 「一つお願いがあります……僕はきっと、記憶を無くしてしまいます……だから、ここに僕が記した本があります。それを起きた時、僕に渡してください……」
 報屋に貰った本をココさんに預けた。報屋が渡したのはこの為だったのかもしれないと思った。今になっては分からないのだが。
 「私をまた好きになってれますか……?」
 
 「えぇ……きっと……きっと……」
 彼は涙の溜まった僕の額に口を當てた。
 「約束ですよ……?」
 「はい……約束です」
 実質、別れの前だと言うのにどちらも笑顔を崩さなかった。
 年は右手を上にあげて唱える。彼を救う為に、自分の為に、さちの為に。
 「我が『記憶』を捧げる。神よ『悪魔の呪いの解けた彼』を與え給え」
 その瞬間、自己犠牲の年、を白いが覆った。初めのが始まりの合図なら、これは終わりを告げる鐘と言ったところだろう。
 そのは暖かく、まるで太の日に包まれているかのような、お母さんに抱きしめられてるような。
 ──ねぇ……神様……僕は彼を救えたのかな……
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 いつの間にか何も見えなくなっていた。そこは真っ白だった。そこでは、僕の周りを記憶の欠片が橫を過ぎていく。なんの迷いも、躊躇も無く、通り過ぎ、消えていく。
 ──僕にはこんなにも楽しい事、苦しい事があったのだ。
 初めて気づいた。
 苦しい事も、楽しい事も、全てが全て僕を生かしていたんだ。僕の一部だったんだ。この事さえ、きっと僕は忘れてしまう。
 ──あぁ……忘れたくないな……
 「お兄ちゃん……」
 前方から聲がした。その聲は間違うことの無い、紛うことなき、さちのだった。僕は驚きで顔を濡らした。
 「お兄ちゃん……私の為に高校行かせてくれようとしてたよね……」
 さちは悲しそうな顔でこちらを覗いてくる。
 「うん……そうしようとしてたね……」
 そうだ。さちが生きてれば高校に行く筈だったのだ。
 「お兄ちゃん……遊園地行く約束してたよね……」
 「うん……行きたかったな……」
 
 さちとの遊園地は、きっと楽しいだろう。
 「お兄ちゃん……いつも私を庇ってくれていたよね……」
 「うん……そんな事……あれれ、おかしいな……あったかな?」
 どうしたのだろうか。僕は何を言おうとしていたのだろうか。
 「お兄ちゃん……私の事……好き?」
 
 「そんなの決まって…………君は……誰…………?」
 彼は涙を落とした。何か忘れてはいけないを忘れている気がする。誰だろう、彼は、僕は、何を忘れている。
 「私を……また思い出してね……?」
 分からなかった。だけどここで言わなければならない事は知っていた。本能が、約束の様な、儀式の様な、契約の様な、そんなもの。
 「思い出す! 絶対に思い出す! だから、だから待ってて!」
 僕は、何かに吸い込まれる様に彼から通り過ぎていく。
 
 彼に手をばすが屆かない、彼は遙か遠くに行ってしまう。
 記憶じゃない、本能が告げていた。
 彼を忘れては駄目なのだと。
 『君を絶対に思い出す』そう誓って、僕はまた目を瞑った。
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 高い丘の上、自己犠牲のは目を開かない年をまるで、お姫様を持つ様に運んでいた。
 
 日は登り朝焼けが彼らを照らした。
 それは、ピエタ像そのものであった。彼が救ったのはたった一人だし、崇拝される事も無い、その後、彼らが報われるかどうかさえ分からない。だが、その景は、ただ、ただ、しかった。
 その景を見ていた。能天気な報屋も、よく笑う神も、気まぐれな魔も、頑固な王も、全てが真剣な眼差しで彼らを見ていた。
 
 これから何が起こるか分からない。
 この世界は彼らに殘酷で悲慘だ。
 だからといって彼、彼等は諦めないだろう。ずっとずっと抗い続けるだろう。彼等は生きる事を諦めないだろう。
 これは自己犠牲の年の語。
 大切なと引き換えに何でも手にる殘酷で悲慘な世界の語。
 年がした自己犠牲の未來は。
 年が代償にした未來は。
 
 「私は貴方に……救われましたよ……」
 
 これは自己犠牲の年の語。
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