僕は、小鳥との會話を楽しみながら、微睡みの中に居た。その靜穏を壊す聲が聞こえてきた「リン。どこにいるの？隠れていないで出てきなさい。」「何？マヤ。何か有ったの？」「やっぱりここに居たのだね。リン。」「なんだよ？僕は忙しいのだよ」「何言っているの？どうせ、寢ていただけでしょ。」「村長が、リンの事を呼んでいたよ。”すぐに來なさい。”ってね」「いいよ。面倒だし、見つからなかったって言っておいてよ。」「ダメだよ。降りてこないのなら、木を蹴って落とすよ」「っば、馬鹿やめろよ。この子たちを驚かすなよ」「そんな事言っても、私にはリンみたいに、達の聲が聞こえないからわからないよ」「だから、違うって言っているだろう。あぁぁわかったよ。すぐに行くから、先に行っていて...。」「本當だね。待っているからね」

マヤは僕の妹、妹と言っても、本當の意味では妹ではない。僕が、3歳になった時に、父さんと母さんが冒険から帰ってきた時に抱えていたのがマヤ。それから僕達は兄妹になった。両親はマヤについては何も教えてくれない。ただ、”お前の妹だ”とだけ言ってくる。マヤが僕の事をどう思っているのかわからないが、一緒に過ごした10年で僕も本當の妹だとじるようになっている。兄の僕から見ても、マヤは可くなった。僕への態度は憎たらしいが...。夜中に両親が話しているのを聞いた事がある。両親には聞けていないが、マヤに関する事だとおもう。パシリカが終わったら話をしてくれるのだろうと思っては居る。（しょうがない。村長には世話になっているし行くか）村長は、両親が冒険に出てしまった時に、僕達の面倒を見てくれる數ない大人だった。両親は、この村の生まれではなく、遠くの島國の生まれで、探検家と言われている。的な事は解らないが、國の偉い人とかとも繋がりがあるような事を村長が話していた。村周辺の魔を定期的に駆除したりしているので、村からは必要とされてはいるが、変わり者だと言うレッテルを張られていて、村の中では浮いた存在になっている。今、両親はこの村周辺を収める貴族様の依頼で、新しく現れた窟の探索に向かっている。問題がなければ、後1ヶ月位で戻ってくることになっている。

小鳥たちに別れを告げて、枝から地面に降りた。マヤは律儀に待っていた。「マヤ。村長はなんて言っていたの？」「知らない。ただすごく難しい顔をしながら、”リンも呼んできてくれ”とだけ言っていたよ」

村長の家は村の端にある。それほど大きくはないが、治療院や客を泊める為に他の住民の家よりも大きく立派に作られている。「おじさん。何？僕、忙しいのだけど？」「リンか、早くここに座りなさい。」「どうした....」マヤを含めた村の子供が6人座っている。「全員が揃ったようだな」村長は話し始めた。僕達の村があるポルタ村は、トリーア王國に屬している。屬していると言っても、辺境の辺境でもう他所の國と言うじがしてしまう。領主さまの街までも數日の距離にある。

村長の話は事務的な話から一歩も出ていない所謂テンプレート話になっていた。僕達7人は、パシリカをける為に、王都があるニグラに行くことになる。ニグラから、ドムフライホーフに移してそこで真命を授かってジョブの慧眼をける事になる。みんな解っていた事なのでなんの問題もないはずだった村長が難しい顔をしている理由が解らない。僕やマヤが村を離れるのが寂しいとも考えられない。村長が沈黙のあとで言葉を続けた。「お前たちも知っていると思うが、領主さまのご子息も今年パシリカをける事になっている」あぁあのバカ息子も僕達と生まれ年が同じになるのだったな。「普段なら、領主様が護衛を雇って各村々を回って、ニグラに行く事になっているが、今年は『村々のパシリカをける子どもたちを一度領主の町まで集めてニグラに行く事にする』と言うお達しがきた。」「テルメン夫妻が居たら護衛として一緒に行ってもらえれば安全だったが・・・、お前たちはしでも安全の為に、商隊と一緒に行ってもらう事にした」「おじさん。質問。」「なんだ。リン」「領主の所に行くのはいいけど、その後はどうなるの？領主が護衛を雇ってくれているの？」「....」黙ってしまった。「おじさん。」煮え切らない態度に、し語気を強めてしまった。「今、他の村長とも相談しているのだが、ご領主が、ご子息もいる事だし十全な狀態にして送り出したいと思っている」「思っている？」「ご子息が、な。『俺がいるから護衛はいらない』って、言い出しているらしくて、な。」「はぁ？馬鹿なのか？」パシリカ後ならそれでも良いかもしれないけど、ジョブに目覚めていない狀態で魔に出會ってしまったらどうなるか子供でもわかる。領主もそんな事を簡単に許すとは思えない。ボルタの村から領主の町までは、比較的平坦な道が続いて、商隊も通る道が整備されている。魔は、森や泉や山岳地帯に生息していて、街道まで出てくる事は殆ど無い。しかし、領主の町からニグラまでは、街道沿いに進めばいいが途中にマラガ渓谷を通らなければならない。海まで出て船で大陸を回るか、魔の巣になっているイスラの大森林を橫切ってスナーク山を越えて行くしか無い。現実的な事を考えるのなら、マガラ渓谷を通るしかない。マガラ渓谷も深さが500メル以上はある。渓谷の幅が狹い場所に渡している橋を渡る事になるが、橋まで100メルは降りなければならなく、その間を隠す場所もなく魔の格好の的になってしまう。そのためにも、護衛にLv.15程度の戦士を複數雇う必要がある。パシリカの護衛には、ドムフライホーフに著いた時にマルクトから護衛に対する報酬も出る。最初に用意するものは、ドムフライホーフまでに必要になる食事代や必要経費だけになっている。パシリカが國に取って大事な行事であり、ジョブを授かった子どもたちが今度の國を背負う存在になってくれるように考えられている。

「なんでも、この前魔狩りに出掛けて、コボルトを仕留めた事が関係しているようだ」「コボルト？それだけで？おじさん。この村だけでも、獨自で護衛を雇って行く事は出來ないの？」「今、それを含めて話をしている。だが、ご領主のところに行くためには、3日後には村を出ないとならない。話をしている暇がない。」村長が集まるにしても往復で1日以上は必要になる。もう遅かったのかもしれない。何を言っても無駄になりそうだ。「おじさん。わかりました。明後日領主の所に向かい商隊と一緒に行けばいい？」「そうしてくれるか？他の者もそれでいいか？」一様に不安顔であるが、諦めのじで頷いている」「わかりました。村長命令なのですよね。僕はそれに従います。」それだけ言って部屋から出た。それを見て、マヤも立ち上がって、村長に一禮して、リンのあとを追った。「リン、リン、待ってよ。どうしたの？」リンは立ち止まって、振り返った。「マヤ。し多めに鏃を用意しておいてくれ、あと必要ないかもしれないけど、護用の短剣も用意して微量の毒を塗っておいてくれ。」「うん。解った。鏃は多めに用意するのはわかるけど、毒は魔には効かないよ？」「わかっているよ。魔以外には有効だからな。野生もいるだろうからな。」「それでも、微量だと意味ないよね？傷つけても腫れて痕が殘る位で致命傷にはならないよね？」「なるべくや魔を殺したくないからな。逃げてくれるのが一番だからな」「そうだね。わかった、リンと私の分だけでいいよね。」「短剣は、マヤの分だけ用意すれば大丈夫だよ。僕は短剣が苦手だからな」「解った。でも、私達だけじゃマラガ渓谷を超える事は出來ないよ」「それも解っている。だから、なんとしても護衛をつけてもらうか、護衛が付いている商隊に潛りこむしか無いだろう？」「そんなにうまくいくかな？」「最悪は、マヤと二人で逃げ出して他の奴らと一緒に行く事も考えているのだけどね。マラガ渓谷手前で待っていれば何組かは通るだろうからな」「....そうだね。」村長からの指示もあり、村での準備は問題なく終わった。村に立ち寄った商隊に合流して移を開始する事が出來た。商隊には、護衛も數人居て、街道で問題になるような事はなかった。商隊の中では、マヤが子供の相手や料理をして過ごしていた。「坊主。お前、テルメンの所の子供らしいな。」「そうみたいですね」「なんだ！？そりゃ。お前も両親みたいに、探検家になるのか？」「ならないですよ。そもそも、パシリカもまだですし、どんなジョブになるのかもわからないですからね」「そういやそうだな」そう言って豪快に笑った。護衛の人は、両親を知っていて、何度か魔退治を一緒に行った事があると言うことだった。その時の様子やすごいと褒めてくれていたが、両親の事なので余計にすごいとは思えないでいた。街道には、數ケル進んだ所に広く開けた場所があり、商隊はそこまで進んで休む事にしている。他にも商隊が居て、安全の確保が容易な事や、水・食料の融通もここで行われる。領主の城下町まで、予定通り3日で到達する事が出來た。

道中、魔やや野盜に襲われることなく進めたのが大きかった。