《山育ちの冒険者 この都會(まち)が快適なので旅には出ません》18.施設の守護者

敵の數は四

數としてはなくないが、ステルにとって警備ゴーレムは脅威では無い。

しかし、魔導がひしめく部屋での戦闘で邪魔をされると面倒だ。

だからステルは警備ゴーレムを先に片づけることにした。

木剣を抜き、一足で距離を詰める。

ゴーレム達はステルのきに合わせて散開。

これまでに無いきの良さだ。白銀の騎士ゴーレムの存在のせいだろうか。

ステルは慌てずに、橫にいた警備ゴーレムにきを合わせ、木剣を振るう。

「一つ!」

魔力を通した木剣により、金屬のゴーレムはあっさりとから両斷された。

「よっと」

戦果を確認せずに即座に大きくジャンプ。天井付近まで跳躍し、木剣を持たない左手で天井を突く。

そのまま勢いのついた蹴りを、別の警備ゴーレムに向かって繰り出す。

きが速いとは言えないゴーレムは、ステルの攻撃を回避しきれず、そのまま蹴りで頭をえぐり飛ばされた。

「二つ!」

刃を出した騎士ゴーレムがこちらに向かってくるのが見えた。

ステルは慌てない。腰のベルトにつけていた投げ矢を投擲。

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狙いは騎士ゴーレムではなく、殘った警備ゴーレムだ。

軽く手を振っただけとは思えない速度で打ち出された投げ矢は、警備ゴーレムの頭部に突き刺さった。

頭部には周囲を把握するための部品がっているため、あからさまにきは遅くなる。

投擲の直後、騎士ゴーレムがステルの眼前に到達。

二本の腕を使った素早い連撃で襲いかかってきた。

「うわわっ」

予想外の激しい攻撃を、どうにか木剣でしのぐ。

魔導だらけの室で長剣相當の長さの木剣は不利だ。

防戦一方になり、じりじりと後退する。

すぐに背後に壁の気配をじた。

「ステル君! 大丈夫!?」

「平気です!」

狀況的には追い詰められているが、ステルの心に焦りは無かった。

ゴーレムの攻撃速度に面食らったが、もう慣れた。

木剣を床に捨て、ゴーレムの刃にきを合わせ、直接手刀を叩き込む。

母に貰った竜鱗の手袋は、ステルの魔力強化により強靱な金屬程度とが比較にならない強度を発揮する。

ゴーレムの刃が二本、瞬時に折れ飛んだ。

「はああ!」

一瞬、ゴーレムが止まった。

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その隙を逃さず、貫手の一撃をに叩き込む。

白銀の鎧をステルの黒い腕が貫き、に大が空いた。

しかし、騎士ゴーレムは停止しない。

「やっぱり、バラバラにしないと駄目かっ……」

正直、ゴーレム相手とはいえ楽しい行為では無いのだが、致し方ない。

その時、近くで破壊音がした。

リリカがきの鈍くなった警備ゴーレムにとどめを刺してくれたらしい。

「外から魔力をじるわ! 設備を停止しないとっ!」

「これを片づけてから僕がり口を押さえます!」

焦りを帯びたリリカの聲に応えた時だった。

突然、騎士ゴーレムの両肩の裝甲が開いた。

裝甲の向こうにあったのは、水晶のようなしい球だ。

明な水晶の中では、複雑な魔法陣が輝いていた。

一瞬、ステルはそれに見とれてしまった。

それがいけなかった。

ゴーレムの両肩から雷の網が発され、容赦なくステルの全を包み込む。

「うわあああ!」

「捕縛用の雷撃魔法っ! ステル君!」

捕縛用とは言え、出力が高い。リリカの脳裏に最悪の展開が想起される。

「…………あれ? 無事だ」

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ステルは無傷だった。

彼自、不思議な面持ちで自分の手などをみている。

騎士ゴーレムの放った魔法が、ステルの裝備によって防がれたのである。

ステルの全を覆う魔力と竜鱗の服の前に、警備用の捕縛魔法など何の意味も為さないのだ。

ステルは本能的にそれを理解した。

「これなら、恐くない!」

母に謝しながら、ステルは騎士ゴーレムに攻撃を再開。

今の魔法で貯蔵した魔力を大分失ったのかきが鈍い。

悪いと思いながらも、ステルは手刀で両肩を切斷した。

不利を悟ったのか、後ろに後ずさり、後退を始める騎士ゴーレム。

それを許すステルではない。素早く床の木剣を蹴り上げて手にすると、勢いそのまま騎士ゴーレムの首を切り飛ばした。

「ふぅ、危なかった……」

それがステルの率直な想だった。

普通に魔法を全けてしまった。防能がなければ、どうなっていたかわからない。

々と反省があったが、事態がそれを許さないことを思い出す。

「そうだ、り口を」

「その必要はないわよ」

聲の方を見ると、魔導の一部、機のような場所で何やら作業をするリリカの姿があった。

「この設備のゴーレム制の大元がここよ。もう大丈夫。セキュリティの概念がなかったみたいで良かったわ……」

言いながら、リリカが何度か機を叩くと、聞こえ始めてきた足音が止まる。

ステルが見に行くと、部屋のり口で警備ゴーレムが停止していた。

どうやら、もう戦わなくていいらしい。

○○○

施設の制権を得たステル達は、けない白銀のゴーレムの前に居た。

調べた結果、このゴーレムだけは別に制盤が用意されており、停止作業が別途必要だと判明したのである。

「このゴーレムは何の役目をしてたんですか?」

「本當はステル君が倒したのと同じように見回りをするはずだったの。多分、自分がけなくなったから予備機に仕事を任せてたんだと思う」

「仕事熱心なんですね……」

今だにステル達に向かって何かをしようとしている白銀のゴーレム。

最後の瞬間まで任務を忠実にこなそうとする姿がもの悲しい。

「ゴーレムなんて命令に従うだけのだから當然だって大抵の人は言うでしょうけど……」

「ちょっと可哀想ですよ」

寂しげに言ったステルに対して、頷くリリカ。

「ステル君みたいな考え方、嫌いじゃ無いわ」

そう言いながら、彼は白銀ゴーレムの制盤にれた。

「停止させるわ。この子の役目は、もうとっくに終わってる」

ステルは頷いた。

彼は、この建と共に、役目を終えるべき存在だ。

「長い間、お疲れ様でした」

「ゆっくりおやすみなさい」

リリカが制盤を作すると、白銀のゴーレムはうな垂れたような姿になって、停止した。

まるで、別れの挨拶のようだった。

○○○

そこからは簡単だった。

ステル達はゴーレムの停止した施設を素早く探索。目的の第二所長室をあっさり発見。

は良く整理されており、ベルフ教授に貰った鍵の使える箱もすぐに見つかった。

手に持って運べる大きさだったそれを持って、行きの苦労が噓のような速度で、教授の所に戻ることができた。

「というわけで、依頼の品を見つけてきました」

「施設の警備ゴーレムはだいたい破壊した上で停止させて來ました」

「…………」

二人の報告を聞いたベルフ教授は、眉間を押さえて難しい表をしていた。

「な、なにか問題でも?」

「……貴方達は駆け出し冒険者と學生です。警備のゴーレムが稼働狀態だったならば、一度戻ってきて報告してくるのが普通だと思うのですが。……施設を制圧ですか」

「あ………」

「う…………」

気まずい空気に黙り込む二人。

「ちょ、ちょっと頑張りすぎちゃいましたね。ステル君が」

「えぇ……リリカさんだって楽しそうに魔導使ってたのに……」

「はぁ…………………」

教授が大きなため息を一つついた。

沈黙が辛い。

先に耐えきれなくなったのは、ステルだった。

「ご、ごめんなさい。次からは気をつけます」

「すいません、つい舞い上がって調子に乗りました」

頭を下げた二人を見て、やれやれといった様子で教授は微笑する。

「……いえ、今回は無事だったの良しとしましょう。しかし、もし二人に何かあったら依頼を出した私だけでなく、協會にまで迷がかかるということを忘れないように。特に、リリカさんは學生なのですからね」

「……はう。すいません」

自分の方が立場が不味い事を指摘され、あからさまにリリカは消沈した。

それを橫目で見ながら、ベルフ教授はステル達が回収してきた箱を開いた。

そして中を確認して、満足気に頷く。

「うん。確かに目的のものですね。結果の方は申し分ありません」

そう言いながら、教授は書類の束を取り出し、流し読みを始めた。

好奇心を抑えきれないリリカは書類をチラチラと見て。

どうせ理解できないと判斷しているステルはまるで興味を示さない。

「ふふ、リリカさん、気になりますか?」

「ちょ、ちょっとだけ。あれだけ厳重に管理してたんですから、學的な興味が……」

「今となっては古い資料ばかりですよ。ただ、ちょっとばかり珍しい研究に関する記述があるだけです。わかりやすく言うと、今では法的に止されている研究の資料ですね」

「え、それって忌の……」

後ずさるリリカ。重要書類だとは思っていたが、それほどまでとは考えていなかった。

「リリカさん、好奇心は學究の徒として得がたい資質です。しかし、時にそれが大いなる危険へのり口となることを忘れてはいけません。……それでもなお、読みたいですか?」

「い、いえ、遠慮しておきます。でも、教授はいいんですか? 持ってるだけで罪に問われるケースもあるはずですけど」

書類をめくりながら、ベルフは気軽に答える。

「私はそれなりの立場にありますから。これを管理するという名目で所有できます。本來の使い道は別にありますが」

「へぇ、どんな使い道があるんですか?」

ステルの問いかけに、ベルフ教授は目を細め、実に楽しそうに答える。

「ええ、この研究に関わった人の大半は今や學會の重鎮ばかり。彼らと対立することがあれば、この書類は大きな武になるでしょう」

ステルの背後で音がした。教授の助手が恐怖に震えて何かを落とした音だ。まあ、たまにあることだ。あと何故かリリカも怯えていた。

「依頼の方はこれで完了です。二人とも、お疲れ様でした」

「い、いえ。貴重な経験をさせて頂きましたっ!」

ガクガクと首を縦に振ってリリカは頷いた。

「いつもありがとうございます」

事態を完全に飲み込めていないステルはいつも通りお禮を言った。

「ステル君。またお仕事、宜しくね」

「はい。ごひいきに」

そう言って、二人一緒に部屋を退出した。

これにて、依頼達である。

○○○

その日の夕刻。

ステルとリリカが去り、助手も退出した研究室で、ベルフ教授は一人資料を読んでいた。

その目は忌の研究を目にする者とは思えないくらい穏やかなものだ。

事実、ベルフの心はいつになく穏やかだった。

かつて、薬草科で疎まれていた頃、魔導科ゴーレム研究室は彼のもう一つの研究所だった。

森で薬草採取をしているに若手の研究者と仲良くなり、いつの間にか彼らと流が始まったのだ。

ステル達は知る事は無かったが、研究施設の向こうには大規模な畑の跡地があるはずだ。

開発中の土木用ゴーレムの実験ついでに、彼のための薬草園まで作ってくれた。

畑違いの研究者との躍る流。

書類にある記述や數値を見るだけで、かつての日々が脳裏に鮮やかによみがえる。

忙しく、賑やかで、何より楽しかった研究の日々。

たとえ今では忌にれる研究であっても、彼にとっては青春の結晶だ。

「あら……?」

資料をめくる手が止まる。

何の前れも無く、資料の間に一枚の寫真が挾まれていたからだ。

「…………」

古い寫真。現代のと比べれば白黒で、不鮮明で、しかも撮影者の腕が悪かったらしく、全的に出來が悪い。

しかし、教授はそれを見て、浮かべる笑みを深くした。

「……あの二人は、いい仕事をしてくれましたね」

寫真の中では、若い頃のベルフ教授と仲間達が、楽しそうに笑っていた。

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