《山育ちの冒険者 この都會(まち)が快適なので旅には出ません》23.ダークエルフの山城
『見えざる刃』の依頼をけて四日後。
ステルとラウリはアコーラ市北部の山中にいた。
二人は山の木々を上手に使って作られた隠れ家にを潛めていた。、
時刻は夜。明るさを抑えた魔導の明かりの中。狹い隠れ家の中で支部長が荷を開く。
彼はたった今、山のふもとまで戻って『見えざる刃』同士で報換をしてきてくれたところだ。
「ようやく勢がいたようだよ。討伐隊が到著した。五十人とはなかなか集まったものだな」
書類と一緒に食べを出す。補給も兼ねての行だった。
その間、ステルは山中でずっと偵察を行っていた。
一度、問題の砦を見た。前にオーク砦のような簡素なものと違い、しっかりした山城だ。
一人でどうこうするのは大変そうだ。
「五十人……。目立ちませんか?」
「目立つね。ダークエルフは見逃さないだろう」
「……ダークエルフはわかりませんが。オークもゴブリンも砦を防衛する方法なんて知らないと思います。打って出るでしょうね」
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「同意見だ。我々がくのは討伐隊が襲われた時だな」
その言葉にステルは頷く。討伐隊には悪いが囮になって貰おう。
「ダークエルフもそっちに出てきたらどうします?」
「安心したまえ。討伐隊にも『見えざる刃』が混ざっている。我々ほどではないが、腕利きだよ」
ならば安心だ。自分達と討伐隊で當たりを引いた方がダークエルフを倒せばいい。
「砦の方にきはありましたか?」
「ゴブリンを斥候に出しているようだ。……連中がくなら夜だな」
「暖かい時期で良かったですね。夜が楽ですから。砦の近くに隠れ場所を作っておきました」
「助かる。まったく、君に頼んで正解だったな」
攜帯食の袋を開けながら、ラウリが笑みを浮かべてそう言った。
きがあったのは、翌日の夜だった。
ダークエルフの山城が見える位置に作った隠れ家で、代で睡眠を取りながら二人は砦を監視した。
幸い、斧使い達のように敵に発見される事無く夜を明かすことができた。
ステルの作った隠れ場所の出來が良かったのか、二人の技能の賜か、それとも討伐隊を見て警戒がおろそかになっているのか。何が要因かわからないが、監視は順調だ。
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片眼鏡型の暗視の魔導で様子を見ていたステルが靜かに呟く。
「きましたね……」
暗闇の中、オークとゴブリンの群れが山城の門から次々と道をくだっていた。
その數は合計で百を超える。恐るべき軍勢だ。
「討伐隊の位置次第だが、早ければ明日の夜にはぶつかるな」
夜は魔の時間だ。連中はそのタイミングで戦端を開くだろう。
しかし、その軍勢の中に総大將たるダークエルフの姿は見えない。
「ダークエルフはいないようだな」
「ですね……」
どうやら、敵の総大將は城の中に殘ったとみていいだろう。
當たりはこちらのようだ。
問題はどの程度の戦力が殘っているかだが、同程度の戦力が殘っていることは無いというのが支部長の予想だった。
一応、滅ぼされた村から奪った食料ではそれほど多くの魔の腹を満たせないのが拠になっている。
「攻めるなら晝間ですね」
魔が夜なら人間は晝。
ステルの常識に乗っ取った発言に、支部長は頷く。
「日が昇ると同時に仕掛けるとしよう」
○○○
朝日が昇ったのを見計らい、ステル達は砦に接近した。
魔達の戦力が減っているのは確かなようで、見張りに隙が多く容易に城壁に近づけた。
とりあえず、周囲を確認しつつ、三メートルくらいの位置にある明かり取りの窓にステルが跳躍する。
中の安全を確認してから、ロープを使って支部長を引き上げた。
「驚くべき能力だな」
「我が家に伝わる魔法みたいなものらしいですよ」
目を見張る支部長にそう答えつつ、ステルはベルトに取り付けていた大きめの釘のようなものを手に取った。
投げ矢である。
弓の使いにくい室を想定して用意した武だ。ステルの力ならば必殺の武となりうる品である。
ステルは他にも薄くて丈夫な長い布を二枚持っている。これを要求した時、支部長は困していたが、ステルのんだを見つけてくれた。
布は魔力を通して使えば盾にも鞭にも刃にもなる。避ける空間の無い通路などで役立つだろう。
左手に布。右手に投げ矢を持ち、通路を油斷無く進むステル。
その後を警戒しながらラウリが続く。
當然ながら、今日の彼はしっかりと武裝している。
濃紺の皮製の服の下にチェインメイルを著込み、腰には長剣。よく見ると柄が魔導になっていて、服の下に繋がっている。なんでも溫度調整や防の魔法がかかっているらしい。
おかげでチェインメイルは軽めに作られていて、比較的きやすいそうだ。
そして、支部長の主武裝の槍である。
細で彼の背丈と同程度の長さの槍は立派な魔導だった。
土や石をる魔法を包し、山中にいるときも一瞬で大を掘るなどの力を見せてくれた。
石で出來ているこの山城ではかなり有利に戦えるだろう。
完全武裝の二人の冒険者は薄暗い城をゆっくりと進んでいく。
その後しばらく、見回りをしていたゴブリンをステルが投げ矢で仕留めたところまでは、順調に探索が進んだ。
順調なのはそこまでだった。
砦の主、ダークエルフは人間の接近にしっかり備えていたのである。
狹い通路を行くに次々とゴブリンに遭遇し、仕留めるうちに存在を察知され、あっという間に二人は追われる側になってしまった。
「これは相手を甘く見すぎてしまったかな」
「そうですね。油斷してました」
軽快に通路を走りながら、そんなことを話し合う。
向こうに階段が見える通路の橫から弓を持ったゴブリンが現れた。
ステルは落ちついて投げ矢を投擲。
正確かつ強力な一撃は、狙い違わずゴブリンの眉間を打ち貫く。
ゴブリンの死を橫目に階段を登り、次の階に到達。
広間になっているそこには四匹のゴブリンが弓を持って待ち構えていた。
「私にとってそれほど不利でない地形なのが幸いだな!」
びと共にラウリが槍を地面に突き立てる。
瞬時にゴブリン達の足下から石の槍が生み出され、全を貫いた。
弓を一もすることなく事切れたゴブリンを見て、ステルは嘆する。
「凄いですね、その魔導」
「特別製だよ。伊達に支部長はやっていないさ。しかし……」
足音と耳障りな聲が聞こえる。
今のでこの階層の魔達が集まってきたようだ。
「この數は厄介だな。大半は討伐隊に行ったと思うのだが」
その予想は正しいとステルも思っているが、想像以上に潤沢な戦力を備えていたようだ。
だからといって、まだ撤退を選ぶような局面では無い。
「オークが出てきてません。それとゴブリンのきに作為をじます」
「同だ。私達をどこかにっているな。一時撤退も悪くないのだが、私に一案ある」
「どんな案ですか?」
槍を掲げたラウリは近くの壁を槍で叩きながら得意げに言う。
「知っての通り、私のこの槍は石槍を生み出すだけが能ではなくてね。土や石壁にを開ける事もできる。そして、推測だがこの辺りの壁の向こうには部屋がある」
「……面白そうですね。やりましょう」
「流石だ、そう來なくてはな」
にやりと笑うラウリ。
槍で壁を打つと瞬時に人が一人通れそうなが開いた。
運の良い事に向こうは空き部屋だ。
大所帯な魔達だが、この城の規模の方が勝っていたらしい。
支部長の槍の能力。
これなら馬鹿正直に通路を進む必要なく、適度に休憩を取りながら暴れ回る事もできるだろう。
「數はないが、私達が暴れてるの察した『見えざる刃』の仲間も來るはずだ。それまで、せいぜい翻弄させて貰おう」
「早めにダークエルフを見つけたいですね」
魔相手の大立ち回りが本格的に始まろうとしていた。
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