《山育ちの冒険者 この都會(まち)が快適なので旅には出ません》29.アコーラ市南部へ

ステルは頑張った。

的に言うとアーティカ農場の森の中で四日ほど生活した。

村の中にいれば都會には及ばなくても文明的な生活をできる。

それはとても素晴らしい事だ。

しかし、リリカの手紙に書かれていた珍しい魔導とやらが最優先だと判斷したのだ。

ステルはアーティカに斷りをいれた上で、森に篭って害獣を狩って狩って狩りまくった。

それでも、四日もかかってしまった。魔によって人里近くに出てきた獣が思ったより多かったのだ。予定では二日で終わらせるつもりだったというのに。

仕事を終えたステルはアーティカに許可を貰った上で、急いでアコーラ市に戻った。

どのくらい急いだかと言うと、馬車を使わずに自分の足で走った程である。 

かなり疲れたが、通常よりも早く街に戻ったステルはしっかりと休息を取った上で、リリカに連絡をとった。もちろん、その間に支度を整えるのも忘れない。

大切な出來事のある時は、相応の準備が必要なのだ。

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リリカからの返事は早く、アコーラ市に帰って二日後には施設の見學予定が決まった。

約束の日の朝、いつもの格好をしたステルはリリカに指定された場所に向かうべく、家主のいない下宿の扉を開く。

天気は快晴。今日は暑くなりそうだ。

「まあ、暑いくらいがいいかもしれないな」

そんな呟きを殘して、敷地の外に向かう。

向かう先はアコーラ市の南部。海に面した一帯で、待ち合わせは、その中でも特に宿泊やレジャーで人々が訪れる場所になっている。

◯◯◯

アコーラ市の南部は大きな灣になっている。

膨大な人口と産業を抱える大都市であるため、その大半が港であり、常に多くの船舶が行き來している。

ステルが向かったのはそんな南部の海沿いの端にある、綺麗な砂浜が保存された観エリアだった。

この観エリア、はっきりいってお金持ち向けの場所である。

しく整理された街並み、手れの行き屆いた樹木、そして一目で高級だとわかる宿泊施設の數々。

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リリカに集合場所として指定されたのは「ホテル・エイケスタ」という広い敷地を持つ高級ホテルだった。

道路に面した道のびた先には城のような建があり、その向こうにはお金持ちの休暇用の各種施設があるとのことだ。

都會に慣れてきたとはいえ田舎者のステルが気後れするのに十分すぎる場所だった。

「ど、どうしよう……」

 あまりの場違いに立ちすくんでしまっていると、橫から聞き覚えのある聲がした。

「ステル君、どうかしたの? 集合場所、ここで合ってるわよ?」

聲の方を見れば、學院の制服を著た金髪のリリカ・スワチカがいた。

「あ、リリカさん。思った以上に立派な建で驚いて……」

いつもの調子の知り合いを見て、ステルはあからさまにほっとした顔になる。

「ああ、たしかにね。ちょっと慣れてない人だとりにくい雰囲気よね。じゃ、わたしと一緒に行きましょう」

「よろしくおねがいします」

そんなわけで、ステルはのこのことリリカに先導されてホテルの敷地へとった。

流石はお嬢様、実に慣れた様子だった。

リリカが建るなり、丁寧な腰の人がやって來て、そのまま、ロビーの一畫に設けられた喫茶フロアに案してくれた。

そこで待っていたのは學院の制服をに纏った黒髪に翡翠の瞳を持つだった。

綺麗な人だ、とステルは素直に思った。

「お待たせ。外でステル君を見つけたから連れてきたわよー」

リリカの気軽な挨拶をけると、は飲んでいた紅茶のカップを置き、立ち上がって優雅に一禮。

「はじめまして。ユリアナ・レフティネンと申します。リリカの友人ですわ。本日はお招きに応じて頂き嬉しく思います。ステルさんのお話を聞いて、是非ともお會いしたくなりましたの」

そう言って穏やかに微笑むユリアナ。

対してステルは張を含んで答える。

「ス、ステルです。本日は貴重な機會にお招き頂き。ありがとうございます」

そして、ぎこちなく禮をした。

ステルにしては珍しい作に、橫のリリカが怪訝な顔をする。

「珍しいわね。ステル君が張するなんて」

「そうなんですの?」

「えっと、なんというか、お嬢様というかそういう人と挨拶すると思うと張して……」

分と言うか、自分と違う世界で生きる人と會っていると思うとついそうなってしまうのだ。

それを聞いて意外そうな顔をしたのはユリアナである。

「あら? そこのリリカだって十分お嬢様ですのよ?」

「む。そんなことは……まあ、あるわね。てか、ステル君、わたしと會った時と大分反応違うわね」

「……それは、多分、リリカさんは會った時、鎧を著て飛んでいたから……」

リリカ・スワチカと初めて會った時、彼は魔導鎧を著て研究泥棒を追いかけ回していた。

本人の格もあるだろうが、最初の印象もあって秀才でお嬢様ということを知っても気後れはなかったのだろう。

「……それはリリカが悪いですわね」

「うん。わたしも今反省したわ……」

「な、なんかすいません」

誰も悪くないのに、微妙な空気になった。

それを素早く察したユリアナが気を取り直したように言う。

「なにはともあれ、私はステルさんにお會いできて嬉しいですわ。聞いた以上に可らしい方ですし、話によるととてもお強いそうですし」

「か、可らしいですか……」

「失禮しました。気にされているのでしたわね。お詫びも含めて、ステルさんの好きな魔導を十分堪能して頂けるようにいたしますわ」

ユリアナがそう言うと、リリカが実に楽しそうに。

「うん。ステル君なら喜ぶと思うわ。じゃ、さっそく案でいいかしら? それともお茶でも飲んでく?」

「僕はどちらでも……」

「後ほど、しっかりとお茶の時間を用意しておりますの。ステルさんさえよければ、お先に見學をどうぞ」

ステルとしてもむところだ。珍しい魔導なら早く見たい。この場にリリカもいるならしっかり説明もしてくれるだろう。

「はい、宜しくお願いします」

そんなわけで、先に案をしてもらうことになった。

◯◯◯

「ホテル・エイケスタ」は一流ホテルだ。

有名なドワーフが設計し建築を指揮。敷地にはプールに展示場といった施設を備え、更にはエルフが管理する庭まであって、それ自が単で観名所になっているほどである。

そんな滅多に來れない場所で、ステルの現在地は地下だった。

宿泊施設の地下にある広大な空間。そこは各種資材の搬だけでなく、空調設備をはじめとする各種施設を可させるための大型魔導の設置場所でもある。

リリカ達の連絡してきたものはこの地下にあるそうだ。

魔導る技師達が忙しそうに働く職場を橫目に三人は廊下を歩く。

そもそも、この地下自が非常に珍しい。

當然、そんな場所に連れてこられたステルは興狀態である。

「おぉお! リリカさん、あれはなんでしょうか?」

「あれはホテルの空調設備用の魔導よ。あの部屋に対して設備が小さいのは最近新型にれ替えたからね」

「あ、あちらは、前に學院の古い校舎で見たのと似てる気がします」

「よくわかったわね。魔力を収集する魔導よ。近くに魔集石を製する施設もあったと思うんだけど……」

「それはし離れた場所ですわね。このホテルでは、施設の小さな魔導に使うための魔集石も自作しているのですわ。申し訳ありませんが、今回は見學の許可を貰っておりませんの」

「あ、ちょっとした好奇心なのでお気になさらず。えっと、これだけでも十分珍しいものを見せてもらっていると思うんですけれど」

 まだなにかあるんですか? とステルは目で問いかけた。

「もちろん、お見せしたいのはこの先ですわ」

そう言って案されたのは一際大きな扉の向こうにある部屋だった。

ユリアナが扉についていた呼び鈴を鳴らし、出てきた職員と言葉をかわすと、すぐにれて貰えた。

「さあ、ご覧あれ」

そこにあったのは古い大型魔導だった。

ステルにも一目でわかるほど古い。

三人ほどの従業員が設備を點検するその部屋で、最初に目につくのは部屋の壁一面を占める金屬製の円盤達だ。

ゆっくりと回転する大きな円盤の周囲で、それよりも小さな円盤が數十個回転している。

それ以外に目につくのはいくつかの制盤、何らかの數値を指し示す計類。

そして、天井へとびていく大量のパイプだ。

円盤の表面には、魔法陣が書き込まれていた。

大小の円盤は全てが別の速度で回転し、時折表面に魔力のを散らしている。

幻想的で、重厚で、古めかしい施設だった。

「これって、すごく古い魔導ですよね?」

「ええ、こちらは當ホテルで最も古い魔導になりますわ。主に水の循環に使っているんですの」

「今じゃ施設が広くなったおかげで、これ一つじゃまかないきれなくなって、プールとか庭の散水用が主な用途なんだけれどね」

このホテル、増改築を繰り返してるからとリリカが付け加えた。

「へぇ、とても貴重なものなんですか?」

「そうね。これを分解した後、あの円盤が博館に展示されるくらいには貴重よ」

「管理が雑な時代に作られたおかげでれないところが多くて、解計畫が難航していますけれどね」

二人が苦笑しながらそんなことを話す。

「これ、解しちゃうんですか?」

「當時は凄かったんだけれど、今となっては効率悪いし、整備も大変だしってことでね。そういう方向で話が進んでるの。街中のこいつの資料がありそうなところをあたったりもしたわ」

「流石リリカさん。魔導について詳しいですね」

心しながらいうと、ユリアナが得意気に答えた。

「何を隠そう、この施設の解が私とリリカの研究テーマなのですわ。もちろん、専門家にも協力してもらってますけれどね」

「ユリアナにこれを見せられた時、『何とかなるんじゃない』って答えちゃったのが運の盡きよ」

なにか苦い思い出でもあるのだろうか。リリカがしみじみとした様子で言った。

対してステルは大いにするのみである。

「凄いなぁ。大型魔導の解なんて、僕には手っ取り早く壊すくらいしか思いつきません」

「お気になさらず。リリカも最初は近いことを言っていましたわ」

「ちょっ、やめてよ! わたしはもうちょっと穏當だったわよ!」

「穏當? 『魔力止めてぶっ壊せばいいんじゃない?』という発言が? 歴史的な価値もある魔導に?」

「ぐっ……。と、とにかく、ステル君。せっかくだから見學ついでに々聞いてね。わたし、そこそこ詳しいから」

顔を赤くしながら話題を変えたリリカ。

なんとなく、二人の好ましい友人関係を垣間見たステルは、楽しく質問をして、その場を楽しむのだった。

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