《山育ちの冒険者 この都會(まち)が快適なので旅には出ません》34.剣姫

冒険者協會第十三支部の地下には厳重な鍵付きの倉庫がある。主に強力な魔導や冒険者の見つけた貴重な品を一時保管する場所として利用されている。

「いやー、やっぱりラウリ君は優秀ね。ほんと、助かったわ」

「クリス先輩がいるなら大丈夫かと思いましたが、念のため出ていって正解だったようですね」

「大正解よ。あいつら相手にするの結構面倒だしね。凄い子が來てびっくりしたけど」

「いえ、僕はそんなに凄いとは。取り逃がしましたし」

ステル達は魔剣と共にそこにいた。

魔導の明かりが照らす中、重厚な鍵で封じられた頑丈そうな箱が部屋の中心に置かれている。

あの後、輸送は何事も無く終わり、この場の三人以外の護衛は一時解散となっている。

「お二人は知り合いだったんですね」

ラウリの様子から察してはいたが、二人は非常に親しいようだった。

年長のラウリが先輩と呼んでいるのがし不思議なじではあるが、ステルの見たことのない反応が新鮮でもある。

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「彼は私の冒険者時代の先輩にあたる人だ。年齢は私の方が上だが、冒険者になったのはクリス先輩の方が大分先でね」

「こう見えて十二歳の時から冒険者やってるからね。あ、実年齢は聞かないでね。ラウリ君と違って三十歳はまだ先だけど」

「やめてください……。私も好きで三十になるわけじゃないんです」

どうやら三十歳というのは何か辛いものがあるらしい。ラウリは本気で嫌そうな顔をしていた。

「ま、三級以上の冒険者なんて數がないからね、結構顔見知りが多いのよ。ところでステル君、君は何級? その歳であれだけ弓を使えるんだから、五級以上よね?」

ここに來るまでの道中、クリスは相手に気づかれずに次々と正確にかけたステルのことを絶賛していた。

あまりにも褒めらたのでステルとしてはし気恥ずかしいくらいだ。

「ステル君は九級です。この春に冒険者になったばかりなので」

「きゅうきゅう!? おかしくない? 冒険者協會おかしくない? だって、実戦慣れした魔法使いとの集団戦の中、完全にを隠して次々と的確に矢を當てたのよ?」

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「なんというか、その、ステル君は進んで街冒険者をやっているのです。それで等級が上がらないんですよ」

ラウリの言葉を聞いて、ステルの目の前に接近するクリス。

流石は有名冒険者。音も無く、一瞬で距離を詰めてくるので恐い。

「街冒険者? そうなの?」

「山奧から出て來たばかりなんで、都會の生活が楽しいんです」

正直にそう言った。噓では無い。

「ふーん…………ま、いいわ。確かにアコーラ市は都會だものね」

じっとステルを見た後、そう言って納得してくれた。

明らかにほっとした様子のラウリが目にる。どうも彼から見てもクリスはやりにくい相手らしい。

「そだ。捕まえた結社の連中、どんなのだった?」

「詳しく調べたわけではありませんが。幹部と思われるものが一人。首魁はいませんでした」

「ステル君、弓を使ってる時、偉そうにしてる金髪の男はいなかった? 背は私と同じくらい」

直前とはうってかわって真剣な表で問われた。どうもこのクリスという人はの起伏が激しいようで、ついていけない。

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「いえ、全員ローブをしっかり著ていましたから。クリスさんくらいの格の方は何人かいました」

「じゃあ、あいつがいたかはわからないか……」

「先輩は連中と因縁があるそうですね」

「そうよ。あいつら『探求の翼』はずっとこの魔剣を狙ってる。で、私はこの魔剣の発見者で、ずっとこれを守ってる。正直疲れたわ。アコーラ市にけ渡しが完了すれば、ようやく肩の荷が下りる」

「その前に、『探求の翼』との関係を清算しておきたいのでは?」

「わかってるじゃない。期待してるわよ、支部長さん」

どうやら『探求の翼』とクリスの因縁は深いらしく。クリスは首領のカッツという男を何度も追い詰めているが、そのたびに逃げられているとのことだった。

クリスとしては魔剣の保管先であるこのアコーラ市で決著を付けたいところである。

「善処します。報はもう集めはじめていますが、地下にも潛る魔法結社が相手となると……」

「自信ないのね。アコーラ市は人も多いからね。……でも、仕方ないとは言わないわよ」

「もちろんです。この剣を守り切らねばならないのは冒険者協會も同じ。だからステル君もここにいるのです」

「なるほど。九級冒険者が君の虎の子ってことか」

意味ありげな視線で二人がこちらを見てきた。

どうやら、いつの間にか自分は切り札扱いされていたらしい。

なんというか、これはもう実質『見えざる刃』の仕事なんじゃないかとステルは思う。後で報酬について相談べきではないだろうか。

「僕は普通に依頼をけただけのつもりだったんですけど」

「殘念だったわね。超希な魔剣の護衛なんて、普通の依頼じゃないのよ」

「そういうことだ。この人の相手分も報酬は用意するから、宜しく頼むよ、ステル君」

「……む。人を厄介者みたいに言う」

申し訳なさそうに言ったラウリを非難するクリス。

しかし、支部長の態度は素っ気ないものだった。

「そうじゃないとでも?」

「…………もうし先輩を敬うように」

「敬意は払っています」

「なるほど。お二人は仲良しなんですね」

慣れた様子のやりとりに、ステルはそう結論を出した。

「違う。それは違うぞステル君」

「そうよ。違うわ」

納得したステルを即座に二人が否定した。

「仲良しではないんですね……」

大人の世界は難しいな、とステルが思ったところで、見知った顔が室にやってきた。

付にして最近はラウリの腹心と言われるつつある、アンナである。

「失禮します。展示會の運営の方が、お屆けということでいらっしゃっています」

「通してくれ。話は聞いている」

ラウリの返答を聞いてアンナが戻って行ってしばらく。

ステルの見知った顔がやってきた。

「こんにちは。展示會運営から仰せつかって來ました。リリカ・スワチカと申します」

學生服に、荷を背負ったは、挨拶の後ににっこりとステルに笑いかけた。

「リ、リリカさん……」

「言わなかったっけ? わたしも展示會のスタッフよ? よろしくね」

「あらあら、お知り合いかしら?」

「ええ、々と世話になっています」

「リリカ・スワチカ。王立學院魔導科で優秀な績を収めるお嬢さんです。今回の展示會では學業の一環で関わっております。學生でいるのが勿ないくらいの人材ですよ」

「いやー、褒めすぎですよ。ラウリ支部長」

何やらリリカとラウリが妙に親しげだった。二人が知り合うようなことがあったろうか。

「あの、お二人は知り合いなんですか?」

「アーティカさんのお屋敷にお邪魔した時にね」

「ステル君の家に行った時に會ったわ」

どうやら知らない間に邂逅を果たしていたらしい。いつの間に。気づかなかった。

「若手の確保に余念がないわねぇ。で、學生さんが何しに來たの」

「あ、はいっ。こちらです!」

リリカは背中の包みを取り出すと、素早く解いた。

高そうな布に包まれた中にあったものは、鞘だった。

それもただの鞘ではない。魔導の鞘だ。

金屬製で四角い外見の鞘は、各所に魔導らしい機構が組み込まれていた。

クリスが鞘をけ取るとリリカが口を開く。

「市の有名工房と學院の研究所で共同開発したものです」

「へぇ、じゃあ、凄い力があるってこと? 魔剣の力を解放するとか」

「……すいません。それは展示會の後の研究次第です。鞘の機能は警備用です。発信機能というもので、別の魔導から現在位置を知できるようになっています」

どうやら展示用に特別にこしらえた鞘のようだ。

これなら萬が一盜まれても見つけられる。

「すごい。それなら無くなっても見つかりますね」

文明の進歩にしつつステルは言う。

対して、リリカはちょっと申し訳なさそうな笑顔になる。

「まだ開発中の技で、範囲がそんなに広くないのが難點なのよ。建築用ゴーレムに命令する魔法の応用なんだけれど、距離をばすのが難しくて……」

「わかる範囲はどのくらい?」

「一キロ以ならかなり正確に。三キロ離れると方角が何とかわかるくらいです……」

「盜まれて一晩たったら駄目ね」

「それでも、無いよりはマシですよ。それに、この剣には鞘がない」

「展示の時は抜きでしょうに。まあ、鞘は必要よね……」

そういって、クリスは無造作に魔剣の収まる箱を開け始めた。

「普通にっていいんですか?」

「私はいいのよ。発見者だから」

ガチャガチャと音を立てながら、封を解放していくクリス。

ラウリを見ると諦めたように首を振った。

「はい。これが數多の人々を魅了している魔剣よ」

現れた魔剣は意匠のない柄を持ったシンプルな長剣だった。

目を引くのはその刀だ。

「これ、き通ってますけれど・・・・・・」

魔剣の刃はうっすらと白く、き通っていた。

まるで水晶のような刀。よく見ると、その中で青白いが走っている。

「面白いでしょ。調べたところ、この明なのは謎の素材なのよね。わかっているのは莫大な魔力をめていることだけ」

「世界中の研究者がほしがる研究材料だよ」

「凄い。古代の魔法使いって、これでどんなことをやろうとしてたんでしょう」

「それはわからないわ。この剣の用途も含めてね」

そう言うと、クリスは魔剣を鞘に収めた。

剣が収まると、鞘が一瞬だけ発する。

「おおっ」

かっこいい、と鞘の機構に心するステルだが、同時にそこであることに気づいた。

隣にいるリリカが、ずっとクリスを見つめていることに。

視線に気づいたのか、クリスが問う。

「どうかした? 學生さん」

「リリカです。あの、あの……クリスさん、尊敬してます。一番大好きな冒険者です。ずっと! 會えて嬉しいです!」

顔を上気させながら、ずいずいと迫りながらリリカが言った。

一方のクリスは、いきなりのテンションに引き気味だ。

「……お、おう。なるほど、よくわかったわ」

「有名冒険者は大変ですね。できれば優しく接してくれると私も嬉しいです」

橫で楽しそうにラウリがいうと、クリスが恨みがましい目をした。

「……そうね。私みたいのを慕ってくれるなんて、とても嬉しいわ。學生さん……リリカちゃんで良いかしら? よろしくね」

そう言った差し出された手をリリカは嬉しそうに握る。

「はい! この街で困ったことがあれば言ってください!」

弾けるような笑顔でそう言うリリカは、年相応のらしく見えた。

ステルにとっては初めて見る姿だ。実に珍しい。

「ステル君、なによその目は」

「どうしたの、ステル君も握手しておく?」

二人がそれぞれの反応を返す。

「いえ、僕は遠慮しておきます」

「あら殘念。……そうだ」

握手をやめてと、クリスは何かを思いついたようだった。

微妙に意地の悪い笑みを浮かべて、ラウリに話しかける。

「ラウリ君。ここに魔剣が置かれたってことは、私も休暇をしは貰えるのよね? それとも展示會が終わるまで拘束するような鬼後輩なのかな?」

「……最大限配慮できるよう。人員は手配済みです」

苦蟲をかみつぶすような顔だった。事前にそちらの準備もしていたが、できればここにいてしかったんだろうなぁと、ステルは察した。

「よし。ラウリ君が私の休暇を手配したら、二人にはアコーラ市を案して貰っていいかな? 久しぶりだから々と見たいのよねー」

実に楽しそうにクリスはそう言い放った。

「えぇ。でも僕、街に詳しいわけじゃ……」

「はいっ! 喜んで! ……ステル君も一緒に行くわよ。上位冒険者と仲良くなるチャンスじゃない。仕事みたいなもんよ」

微妙な反応を返したステルにリリカがちょっと恐い口調で言ってきた。

「……そうですね。僕もご一緒させてください」

言っていることも一理あると思ったので、承諾することにした。

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