《山育ちの冒険者 この都會(まち)が快適なので旅には出ません》39.リリカとクリスともうひとり その5

「リリカさん、大丈夫ですか?」

「ん。平気よ。流石に疲れたってだけ」

「しばらくここで休んで行くと良いだろう。全く、クリス先輩はやりすぎだ」

冒険者協會の一室。治療や急速のための部屋にステル達はいた。

リリカの消耗が思ったよりも激しかったので、ベッドに寢かせて様子を見ているところである。

ちなみにクリスはまだ著替え中でここにはいない。

「クリスさんもステル君も全然疲れてないのね。凄いわ……」

「僕は元狩人ですから。三日くらい山の中で獲を追いかけたりするんで」

「そのうち、ステル君の山での生活を詳しく聞きたいものだ」

「わたしも」

 

何気ない返答に興味津々といった様子で二人が言ってきた。

 

「そんなに凄いことはしていないですよ……」

 

ステルとしては山の生活は退屈で特別話すようなことはないので、どうしたものかとし困る。

とりあえず、リリカが回復したら家まで送っていこうか。

ステルがそんなことを考えた時だった、

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「リリカ! 無事ですの!」

 

何の前れもなくユリアナが部屋に飛び込んできた。

部屋にってリリカを見つけた彼はじっくり観察した上で、 

「とりあえず怪我はなさそうですわね」

と言った。

「友達なんだからもうし心配してくれてもいいじゃない」

「疲れてるだけに見えますけれど?」

部屋にって來たときの慌てぶりはどこへやら、大したことないでしょうといった反応である。

「で、なんでユリアナがここに來てるのよ?」 

 

こういう扱いに慣れているのだろう、友人の態度に特に文句を付けることなくリリカは聞いた。

「あなた、裝備を取りに一度自宅に寄ったでしょう。心配した使用人から連絡がありましたわ」

「なるほどね。ユリアナ、展示會の準備はいいの?」

「私がし抜けたくらいで滯るような催しではありませんわよ」

それもそうか、とリリカは小さく笑った。

どうやら、し元気になったようだ。それを見たステルは安心する。

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「それで、剣姫との勝負はどうでしたの?」

「勝てなかったよ」

「そういうことではなくて……」

ユリアナが言葉を続ける前に、今度は著替えを済ませたクリスが気に室してきた。

「いやー、いい汗かいたわー。あら、お客様? リリカちゃんのお友達かしら?」

「そんなところですわ。ユリアナと申します」

ユリアナは簡潔な挨拶と共にぺこりとお辭儀をした。

クリスは気軽に「よろしくねー」と返した後、リリカの前に立ち、問いかける。

 

「どう、リリカちゃん。何か心境に変化とかあったかしら」

「強いなぁって思いました。えと、率直に言って、クリスさん的にわたしはどうだったでしょうか?」

 

クリスは口に指を當ててし考えた後、

 

「そうねぇ。リリカちゃんは能力的に不足ってことは全然ないかな。ただ、そうね、すごい真面目なじがしたかな?」

「真面目? 何か問題があるんですか?」

リリカの戸いを含んだ問いにクリスは眉を寄せてしうなってから答えた。

「えっとね、冒険者ってのは自分勝手な奴の方が続くのよね。自分の好きなように生きたい、それなら命がけの仕事でも構わないみたいな、ちょっとおかしいのが多い。私みたいなのとか。ね、支部長さん?」

「む……いえ、たしかに先輩はちょっとおかしいですが。ここにいるステル君などは真面目な若者です」

「お前あとで覚えてろよ……」

クリスは自分で言い出したくせに怒りをにじませながら吐き捨てた後、

「ステルくんはどう思う?」

とステルに言ってきた。

急にそんなことを言われても正直困る。冒険者向きの格なんて考えたこともない。

「えっと、僕はまだ冒険者になって一年もたってないんですが……」

「じゃあさ、私が君を割と平和な國の親衛隊辺りに紹介してあげるって言ったらどうする? 給料いいし、將來も安泰。上手く立ち回れば昔の貴族みたいな生活ができちゃうかもよ?」

 

隨分的な話が來た。それを踏まえてし考えてみる。

その條件だと自分はどのような選択をするだろうか。

結論をすぐに出た。 

「お斷りします。僕は好きでこの街で街冒険者をやっていますから。街を出る時も、自分で決めます」

 

その答えに、クリスはにっこり笑った。

 

「ほらね。冒険者ってのはこういうものよ。往々にして自分の満足が最優先なのが多い」

「もしかして、わたしは冒険者には向いてないって話ですか?」

不安混じりのリリカの聲に、クリスは頭を振る。

「そこまではわからない。でも貴方、親元から離れていつでも冒険者になれる環境にいるのにそうしてないじゃない。學生でも街冒険で小銭稼ぎする子はたまにいるでしょ?」

「…………」

「まあ、昨日今日會ったばかりの私があんまり言うことじゃないわねぇ。ま、リリカちゃんは自分がどうして冒険者になりたいと思ってるのか、ちゃんと考えた方がいいかもね」

「はい……」

軽い口調の剣姫とは対照的にリリカは重々しい様子で頷いた。

「クリス先輩、疲れている若者にそれ以上の説教はやめてください」

「あ、ごめん。でも、うん、そうね。そんなところ。思ったよりも楽しめたから、つい柄にもないこと言っちゃったわ。ごめんね、結局説教になっちゃった。リリカちゃん、何か気になることがあったら、遠慮無く言ってね」

 

素直に謝ると、クリスはそのまま部屋の外に向かっていった。

 

「クリス先輩、どちらに?」

「運したから帰ってシャワー浴びて寢る。今日は休日でしょ? 好きにするわ」

 

そう言い殘して剣姫は足取りも軽く部屋から去っていった。

 

「……相変わらず自由な人だ」

 

橫で見ていたユリアナが呆れた様子で言う。

 

「なるほど。あれが剣姫。リリカの憧れの人ですか。上位冒険者は変わり者が多いといいますが……」

「クリス先輩は話が通じるだけ、まだマシな部類だよ」

 

疲れた様子でため息を一つついてラウリがいう。

 

「リリカさん、本當に大丈夫ですか? えと、そんなに悪い勝負じゃなかったと思いますけれど」

「ありがとう。やっぱりクリスさんは強かった。いい経験ができたわ」

 

ステルの心配とは裏腹に、思ったよりも明るい調子でリリカの返事が返ってきた。

言葉通り良い経験になってくれているのを祈るばかりだ。

 

「ユリアナ、わざわざ來てくれてありがとう。家まで荷を持って帰りたいんだけど」

「外にうちの馬車がありますわ。ご一緒しましょう」

「流石。じゃ、帰って休むわ。すごく疲れた」

そんなわけでリリカも帰宅することになった。

力なく立ち上がった彼をユリアナが橫に支えつつ退出していく。

二人に対しラウリが言葉をかける。

「ゆっくり休みなさい。展示會の準備もあるのだろう」

「ラウリさん、敷地を使わせて頂きありがとうございました」

「いや、我々も良いものを見ることが出來たよ」

 

そんなやりとりのあと、リリカはステルをちらりと見ると、

 

「ステル君、またね」

短くそう言った。

「はい。展示會の會場でまた」

リリカ達が帰った後、ラウリがぽつりとつぶやいた。

 

「リリカ君に心境の変化はあったのだろうか?」

「わかりません……。思ったよりも元気そうに見えますけど」

 

こればかりは、本人にしか分からないことだ。

○○○

 

「それで、憧れの剣姫クリスティンと出會い、手合わせまでした想はどうですの? リリカにとって何か得るものはありましたの?」

馬車の中で二人きりになって、ユリアナはようやくその問いかけを口にできた。

今日の出來事はリリカ・スワチカにとってとても大切な事柄だ。気にならないと言えば噓になる。

それでもあの場では我慢した、萬が一想像以上にリリカの心がいていた場合、観客が多すぎるからだ。

これは二人きりでなければ聞けないことなのだ。

「……ちょっと、わからなくなった」

「はい?」

返ってきたのは、いいとも悪いとも解釈できない、そんな言葉だった。

リリカは続ける。まるで自分をどうにか客観視しようとするかのように 。

「自分がわからなくなった。クリスさんに負けて、『覚悟が足りない』って説教までされたのに、わたし、何もじなかった。悔しくなって、その場で冒険者として登録してやろうって気もおきなかった」

「そうですの……」

 

ユリアナにはクリスの説教の意味がしだけ理解できた。

前から彼が一歩踏み出さないことを不思議に思っていたのだ。冒険者への憧れは噓偽りなく、すぐに踏み出せるのにそうしない。親に遠慮しているのだろうと勝手に推測していたが。

會っていきなり一番痛いところ突かれるとは。 

「でも、今日のこれで冒険者が嫌いになったわけでもないのでしょう?」

 

そう問うと、友人は首肯した。

 

「わたしは冒険者が好き。父様と母様のしたような冒険に憧れてる。でも、わたしは心の底から冒険者になりたいって思っているのかな」

それは回答を期待しない空虛な問いかけだった。

ユリアナは何も言えなかった。

こういう時は、安易な言葉で勵ますべきではない。

「なんであれ、わたくしは貴方の出した結論を尊重しますわ」

友人として、そういうのが一杯だった。

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