《山育ちの冒険者 この都會(まち)が快適なので旅には出ません》42.魔法結社のアジト その1

ラウリに渡された資料によると、魔法結社『探求の翼』のアジトは、比較的人口のないアコーラ市の北側にあるとのことだった。 人通りがなく、かといって完全に途絶えない程度の郊外にある屋敷が彼らの拠點だ。

冒険者協會の立てた作戦は簡単なものだった。

これまでの観察によると日中は人の出りが多はあるが、夕方以降はほぼ無いことがわかっている。特別な変化がなければ夕方になり次第、監視からの合図が待っての突。それだけだ

作戦の目的は殲滅では無く捕獲だ。

ステルはいつもの裝備とは別にボーラを用意した。ロープの先に重りをつけた狩猟用の武で、振り回して投げると相手を捕縛することが出來る。使い方次第ではそのまま毆りつけても良い。なかなか便利な武である。

だと出番はないかもしれないが、外に出るような局面では役立つだろう。

そんな風に裝備を整え、休息を十分にとった翌日。

ステルの姿はアコーラ市北部にあった。

「ステル君、狀況に変化はあるかい?」

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「いえ、午後になってから変わったことはありません。一人、買いにいって戻って來ました」

「そうか。それは何よりだ」

とある宿屋の二階の窓から結社のアジトを覗き見しながら、ステルとラウリはそんなやりとりをしていた。

作戦は順調だ。ステル達をはじめ、冒険者協會の面々は周辺にこっそりと隠れている。

時刻はもうすぐ夕方。作戦実行の時は近い。

ラウリはたった今、仲間と換をして戻ってきたところである。

「そちらはどうでしたか?」

「予定通り突する」

「気づかれないものですね」

「慎重に行したからね」

結社のアジトは十人近い冒険者が監視している。隠れる場所や移する時間帯など、それなりに工夫はしてはいたが、何分急な仕事だ。

気づかれないかと心配していたのだが、案外どうにかなったらしい。

「さて、相手は魔法使いとなるわけだが。ステル君、裝備はいつも通りかね?」

「一応、捕縛用にボーラを持って來ました」

「ふむ。君なら間違いなく使いこなせるだろうね。念のため言っておくが、極力殺しはなしだが、自分のが危険になったら迷ってはいけないよ」

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迷わず殺せ。その強い言葉にステルは自信を持って頷いて返す。

と違ってできるかぎり人は殺めたくない。そのためにぬかりはないのだ。

「大丈夫です。アーティカさんに魔法使い対策を聞いてきましたから」

「ほう。それは興味深い。私にも教えてくれないか?」

ラウリの目が好奇心で一杯になった。アーティカはかなりの腕前の魔法使いだ。彼の伝授する魔法使い対策となれば當然の反応だろう。

「はい。『魔法を使う前に倒す。見つけ次第倒す。だいたいを鍛えてないから楽勝よっ』と言っていました」

「……そうか。合理的だな……」

「はい……」

なんとなく、二人して遠い目になった。

「まあいい。予定通り、私の槍を使って建の橫から突する。周囲に配置している面々は主に外で監視。基本的に私とステル君は一階を、二階は別働隊が擔當する。見取り図はあるが、中はどうなっているかわからない。行き當たりばったりだな」

「魔法を使った奇襲に注意ですね」

ふと、リリカなら魔力を探知できるので頼りになったろうかと思う。

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しかし、いない人をあてにしても仕方が無いとすぐに思い直した。

それに、彼にはもっと別の仕事がある、そちらのほうが重要だ。

そんなことを考えるステルをよそに、ラウリが見取り図を取り出した。

今回のためにどこからか調達した屋敷の地図である。なんでも、昔は金持ちの別邸だったらしく、手できたらしい。

「古い屋敷だ。地下に隠し部屋が一つあるそうだ。そこから外に出できる。勿論、その出口は抑えてある」

「他にも逃げ道を作られていてもおかしくないですね」

「できる限り速やかにことを運ぶしかないね」

ラウリの槍は土や石を自在にる魔導だ。おかげで壁などあってないようなもの、奇襲用には申し分ない。

最初の勢いのまま一気に制圧できれば良いのだけれど。

魔法使いは魔導使いの達人でもある。想定外の抵抗に十分注意しなければならない。

日の傾きはじめた空を見ながら、ステルは気を引き締める。

○○○

しして、夕暮れ時になると、その時はきた。

「來た、合図だ」

窓の向こう、目標の屋敷に近い建から魔導がこちらに飛んできた。

作戦開始の合図だ。

「行きましょう」

すでに準備はできている。

ステルとラウリは共に獲を持って裏口から宿屋の外へ向かう。

そして、人通りのない道を選びつつ、こっそりと屋敷の塀に接近。

予定通りなら仲間が今も自分達をしっかり見ているはずだ。

ラウリが布の巻かれていた槍を取り出して言う。

「いくぞ」

一瞬で戦士の顔になった冒険者協會支部長は、手に持った槍を塀に叩き付けた。

直後、魔法のと共に軽い音がして塀に大が空く。

人間一人が余裕で通れるそのに、ステルは迷わず飛び込んだ。

塀の向こうは手れのされていない、殺風景な庭だ。目の前に建。今のところ、誰かが出てくる気配はない。

このまま屋敷の壁にを開けて突するべきだ。

「怪しい気配はありません」

「よし、次だっ」

ステルの報告に素早く反応してやって來たラウリが、建に接近して再び魔導槍の力を行使。

屋敷の壁にがあいた。

の空いた先にあったのは広間だった。

しっかりと人がいた。

數は四人。服裝は普通。手に杖や魔導の類いはない。

素早く観察したステルはすぐに行にうつる。

「な、なんだ貴様ら!」

「くそっ、冒険者かなにかだな!」

奇襲に気づいていなかったのはともかく、相手もなかなかの反応だ。

しかし、先手をとったステル達の圧倒的な優位をどうこうできるものではない。

まず、手近の魔導に向かっていった一人に、投げ矢を投擲。

「うがっ」

腕を抑えてきが止まる。それを確認したステルは素早く別の一人に駆け寄り、素手で攻撃。

「こふっ」

短く息を吐いて、相手は気絶した。

この間に、ラウリが槍の石突きの一撃で他の一人を無力化した。流石に手慣れている。ステルから見ても見事なものだった。

ラウリさんは頼りになるなぁ。

そんなことを考えながら、ステルは懐から何か取り出そうとしていた別の一人に接近し、拳を叩き込む。

「ごっ」

こちらも一撃で済んだ。相手が防につけていないのが幸いした。

「流石はステル君だな。きの切れが違う」

投げ矢をけた最初の一人をたたき伏せながらラウリが言った。

「ラウリさんの魔導のおかげですよ」

魔法使いが行に出る前に倒す。アーティカの言葉を実現できたのは奇襲によるものが大きい。

「さて、この屋敷に四人だけということはあるまい。他の者はどこにいる?」

意識が殘っている、手に投げ矢を生やした一人のぐらを摑み、ラウリが問いかけた。

「い、言うと思うか……」

「……そうだな。さて、前から痛みで無理矢理口を割らせる技を試して見たかったのだが」

その言葉に、魔法使いは一瞬だけ恐怖のを浮かべてから、真顔になった。

どうやら、覚悟を決めてしまったことを把握したラウリはすぐに方針を変える。

「どうやら、技の試験をしている時間はなさそうだ。これも気絶させて素早く行くとしよう」

「わかりました」

異議はなかった。こういう人から痛みで報を引き出すのは時間がかかりそうだ。

とりあえず、魔法使い達は手持ちのロープや室を使ってで手足を縛って転がしておいた。

後は協會の別の人間がやってくれるはずだ。

手早く作業を終わらせたステル達は、屋敷を駆ける。

廊下を走りだしてすぐに、上の方から発音が聞こえた。屋敷全が震えるような、かなり大きな発だ。

「他の者もはじめたようだな。急ごう」

「僕らは地下ですね」

「ああ、逃げるとしたらあそこからだ」

二人とも音に特別驚いた様子は無く、淡々としたものだ。

通路を行きながら、ラウリが唐突に槍で壁にを開けた。

「この方が早い。奇襲にもなるしね」

「やっぱり魔導って便利です。おかげでどんどん進めますよ」

「私はステル君の能力がうらやましいよ」

そんな話をしながら、二人はの向こうの部屋へとった。

屋敷の見取り図は頭にっている。

問題は、した部屋に結社のメンバーがいるかどうかだ。

ステル達は実力にものを言わせて、一気に隠された地下室を目指す。

たまに魔法使いが待ち構えている部屋があるが、二人は容赦なく叩き伏せていく。

冒険者として上位の実力を持つ二人が、そこらの壁にを開けて奇襲してくるのである。

やられた側はたまったものではない。

今も通路から出てきた魔法使いが、杖を振り上げた瞬間に投げ矢で腕と膝を打ち抜かれたところだ。

「見事だ。ステル君がいれば安全だな」

ラウリが嘆と共に呟くと、同じ場所から時間差で新手が現れた。

手の中には小さな杖の魔導。すでに発寸前だ。

「ラウリさん、下がって!」

ステルが前に出るのと、りの矢が発されたのはほぼ同時だった。

「おおおっ!」

ステルは竜鱗の手袋を自の魔力で強化して、拳の一撃で迎撃。

の矢は何の殺傷能力を発揮できずに々になる。

「なんだとっ! 馬鹿な!」

冗談のような景に驚く魔法使い。

その隙を逃さず、ステルは接近して、一撃れて気絶させる。

「ふぅ……。流石に安全とは言えませんね」

「いや、十分だと思うが」

しかし、これが発する火球の魔法だったりしたら危なかったのも確かだ。

當たり前だがどれだけ警戒しても、絶対に安全とは言えない。

ステルが改めて気を引き締めた時、再び上階から発音が響いた。今回もまた、屋敷全が振する大発だ。

「大分派手にやっていますね」

「我々の側にあんな派手好きはいないはずだ。さては連中、この屋敷を放棄するつもりだな」

「偉い人は逃げるでしょうか?」

ステルの問いに、ラウリは槍を構えながら頷く。

「間違い無くね。地下の出路は使われる可能が高い。急ぐとしよう」

そう言って、ラウリは何度目かの壁への開けを行った。

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